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『UN:Me』(アンミー)は恐怖ではなく“不安”を感じさせる工夫が満載。魂が抱えるトラウマに応じて見える世界が変化し、魂を消すごとに増す背徳感。新たな体験を作り出す苦悩に迫る【インタビュー】

『UN:Me』(アンミー)は恐怖ではなく“不安”を感じさせる工夫が満載。魂が抱えるトラウマに応じて見える世界が変化し、魂を消すごとに増す背徳感。新たな体験を作り出す苦悩に迫る【インタビュー】
 2025年12月12日に集英社ゲームズが発表した『UN:Me』(アンミー)。本作は『ライブ・ア・ライブ』や『カリギュラ2』を手掛けてきたヒストリアが開発し、集英社ゲームズが2026年の販売を予定しているアクションアドベンチャーゲームだ。人間が感じる“不安”をテーマとしており、さまざまな恐怖感・不安感が味わえるようなタイトルとなるという。

 現在はゲームの概要とスクリーンショット、PVが公開されており、少女を操作したアクションパートと少女と会話をする対話パートがあることや、少女が4つの魂を体に宿していること、その魂はゲームを進めるうえでひとつずつ消去していくことなどが明らかとなっている。
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 それ以外のことは謎に包まれており、いったいどんなゲームなのかはまだ明らかにされていない。

 そこで、ファミ通.comでは本作を手掛けるクリエイター3名へのインタビューを掲載。本作のアイデアの発端にはじまり、動画や画像からでは読み解けない未公開情報をお届けする。

 「このゲームには絶対に何かある」と注目しているホラーゲームファン、ミステリーファンもいるかと思うが、記事を読めば本作への注目度がさらにアップすること間違いなし。ぜひ最後まで読んで、本作への期待感を高めてほしい。
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河合泰一かわいやすかず

集英社ゲームズ 河合チーム シニアプロデューサー 前職バンダイナムコエンターテインメント時代からこれまで、IPゲームを中心にワールドワイドで数多くのタイトルのプロデュースを手掛ける。『UN:Me』では総合プロデューサーを務める。

佐々木 瞬ささきしゅん

株式会社ヒストリアの代表取締役 代表作は『Faaast Penguin』(プロデューサー)、『ライブ・ア・ライブ』(ディレクター)、『Caligula2』(開発ディレクター)など。 本作では企画・ディレクターとしてゲーム開発を取り仕切る。

山中拓也やまなかたくや

ゲームやアニメの企画、脚本、プロデュースなどで活動中のクリエイター。 代表作はアニメ化も果たした『Caligula -カリギュラ-』シリーズや、YouTube登録者65万人の視聴者参加型音楽プロジェクト『MILGRAM-ミルグラム-』。 2025年にはTVアニメ「うたごえはミルフィーユ」の原作・脚本も務める。本作では企画・シナリオ制作に携わる。

不安をテーマにしたゲームは本当に作れるのか? 挑戦尽くしのプロジェクト

――“不安”がひとつのテーマとなっている本作ですが、まだ詳細なゲーム内容については伏せられた状態となっています。いったいどんなゲームになるのでしょうか。

河合
 ジャンルとしてはアドベンチャーゲームとなります。テイストはホラーがいちばん近しいかと思いますが、ホラーゲームかと言われるとちょっと違います。自分を攻撃してくるクリーチャーは出てきませんし、いわゆる“怖い”体験をジャンプスケアに頼っているというわけでもありません。目指しているのは“明るい空間を進んでいくけれど、そこにいるだけで不安な気持ちになってくる”という体験です。じわじわと違和感が侵食し、そこで生まれる不安を味わっていただきたいと思っています。

――解放感、達成感が求められるゲームで不安を表現するのはけっこう難しいと思うのですが、これをテーマとして取り扱おうと思った経緯をお聞かせください。

山中
 おっしゃる通り、不安というテーマでゲームを成立させるのは難しく、定石への挑戦になりました。不安は本来ならばあまり味わいたくない感情ですが、ゲームという体験型メディアの中で表現することで、いままでにない感情を与えられると思いました。

 『
カリギュラ』では、ほかではあまり味わえない感情を味わえるゲームにしたいというテーマがあってシナリオを書いたのですが、背徳感みたいなちょっとアンモラルな感覚を楽しめるゲームとして、ある程度成功できたと思っています。

 本作でも、ほかでは体験できない感情を味わえるゲームを目指して鋭意開発中なので、楽しみにしていてください。
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――恐怖感もそうですが、現実ではまず味わいたくないけど、エンターテインメントとして味わうのは大好きという人は多いですよね。

山中
 そうですね。その中でも、不安という感覚に焦点を当ててゲームを作るというあまり前例のないものだったので、発表までたどりつけてよかったなと思います。

佐々木
 現実では、どんな人でも不安や苦悩を持ちつつも、いろいろと折り合いをつけて生きています。山中さんは、以前プロジェクトをごいっしょしたときから、人の苦悩や日常における不安を、現実感を持って描くのがとても上手い方だと思っていました。そんな山中さんと、不安をテーマに本作を作ることが出来てとてもうれしいです。

――不安体験を実現するために、開発としてはどんなことに気を配っていますか?

佐々木
 不安体験を実現するため、もっとも大きな要素として魂が勝手に切り換わるというシステムを用意しています。一般的なアクションアドベンチャーでは、さまざまな能力を切り換えて使いこなし、攻略していく楽しさがありますよね? しかし本作では、プレイヤーの意図を無視して勝手に魂が切り換わります。魂ごとに出来ることが異なるのですが、いつ魂が切り換わるかわからない不安を抱えながらプレイを進めることとなります。

――じわじわとした不安を与えるという要素をゲームに組み込む際に、苦労した点はありましたでしょうか。

佐々木
 何に不安を覚えるかは人によって大きく異なるので、どういった演出で見せていくかが難しかったです。ゲームのおもしろさは、プレイヤーの感情をどう波立たせるかが大事だと思っています。わかりやすいものだと、ホラーゲームでよく用いられるジャンプスケアという手法がありますね。あれは“びっくり”することで作られた感情の大きな波を、おもしろさにつなげているわけです。

 しかし不安という感情はじわじわと広がり大きく強くなっていくものなので、感情を瞬間的に動かすのが難しいんです。それに何を不安に思うかは本当に人によって異なるので、どのような演出を作れば不安を感じてもらえるのか、そしてそれをゲームというインタラクティブなコンテンツでどう表現すればいいのかは、非常に悩みました。
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――たしかに、大きな不安というのは、蓄積によって生まれるものがほとんどですよね。

佐々木
 “恐怖”ではなく“不安”を表現するために、フィールドを明るくするという工夫を施しています。

――そういえば、PVでも暗いシーンはほとんどありませんでしたね。

佐々木
 暗い場所を意図的に作り出してしまうと「怖い場所だ」という恐怖感が先に出てしまい、不安が隠れてしまうんです。それだと我々が表現したいものとは方向性が異なってしまうので、基本的には明るい場所を歩いていき、プレイヤーの心の中で不安がうまく醸成できるようにしています。
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――明るいけど、不気味というか不安感を感じるような作りになっているんですね。

山中
 また、本作にはプレイヤーにダメージを与えてくるような危険なクリーチャーは登場しません。PVではナースが迫りくるシーンが確認できますが、あくまで普遍的で現実的なモチーフを中心に構成しています。
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――“不安”をテーマにしたゲームは市場にもほとんどないので、集英社ゲームズさんに企画をプレゼンするのは、難しくなかったですか?

河合
 じつは、最初にいただいた企画書はいまとはぜんぜん違う内容だったんですよ。

佐々木
 そうですね。まったくの別物でした。

河合
 しかし、ここまでにお話しした「プレイヤーに不安を体感してもらう」というテーマは非常におもしろいものだと感じていました。これまでのゲームではあまりなかったことをやろうとしているし、完成すれば新しい体験になることが見えていたので、すごく惹かれる企画書でしたね。

――企画書、プレゼンの段階から魅力ある内容だったのですね。

佐々木
 私たちは幸いにも、これまで多くのゲームを開発する機会をいただき、さまざまなタイトルに携わってまいりました。なので「たぶんある程度なら、どんなジャンルのゲームも作れるだろう」という自信を持っています。だからこそ、挑戦がしたくなったんです。“がんばればできる”という範疇を超え、「本当に作れるのか、できるかわからない」と思えるような新しいチャレンジをしたくなり、その熱意を汲み取ってもらえたのだと思います。そこもまた、ありがたいことですね。

『UN:Me』はゲームを進めるほどに弱くなる?

――魂を消していくゲームシステムだと見ましたが、具体的な内容をお聞かせいただけますか?

河合
 主人公の少女は4つの魂を体に宿しており、プレイヤーはステージをクリアーするたびに自分で選んだ魂をひとつずつ消していくことになります。ゲームって、ふだんはステージをクリアーするごとに能力が増えていったりしますが、本作では逆にそれが減っていきます。
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――できることが少なくなるのでしょうか。

河合
 そうなります。少女がゲーム中で出来ることは魂にそれぞれ紐づいているので、ゲームが進むごとにできることが減り、キャラクターとしては弱体化していくとも言えます。ここもまた、プレイヤーに不安を与える要素ですね。

佐々木
 後半に行くにつれて、仲間が減っていくような心細さがあるので、そういった不安を感じていただきたいです。

――そういえば、『UN:Me』には体力(HP)みたいなパラメータはあるのでしょうか?

佐々木
 HPという概念はありませんが、表層の魂が大きなショックを受けるとその魂は仮死のような状態になり、仮死になると自動でほかの魂へと切り換わります。もしすべての魂が仮死状態になってしまうとゲームオーバーです。

――魂ごとに体力があるということなので、魂はいわゆる“残機”のような役割もあると思います。ステージをクリアーするごとに魂が減るとなると、残機も減るので、どんどん難しくなってしまいそうです。

佐々木
 難しくなります。ゲームデザインとして「攻略していくうちにキャラクターが弱くなっていくというシステムは、そもそもおもしろいのか?」という懸念もあり、ここも本作を成立させるにあたっての悩みどころでした。

 ゲーム開発は通常、RPGを作ろう、アクションを作ろうとジャンルからスタートすることが多いと思います。そしてジャンルが決まれば、それぞれのジャンルが持つセオリーや特徴、知見を活かして肉付けをしていけます。しかし本作は“不安を味わう”という点からスタートしているので、流用できるセオリーや知見がなく、どうすればゲームとして成立させられるのかは手探りにならざるを得ませんでした。

 非常に困難な道でしたが、開発初期から試行錯誤をし、やっと表現したいものを表現しつつ、ゲームとしておもしろいと言えるものができました。

――ネタバレになってしまうかもしれませんが、この魂が本物の魂といったような答えはあるのでしょうか?

河合
 どの魂も自分が本物だと主張しているので、“どれが本物なのか”という謎はプレイヤーが判断していくことになります。

――PVでは、少女と対話しているようなシーンもありました。

河合
 ある程度ゲームを進めていくと、キャラクターの各魂と対話することになります。それぞれの魂に質問を投げかけて対話することで、その魂がどんな存在なのかが少しずつわかるようになっています。この対話で得られた情報をもとに、どの魂を消すか決めていくのもいいでしょう。また対話の中では、そもそもなぜ魂が4つあるのかといった大きな謎に迫ることもあるでしょうし、つぎのステージのヒントになるものを得られることもあるかもしれません。

――ちなみにですが、最後に残した魂によって、エンディングも変化しますか?

佐々木
 変わります。ここは明言しておこうかなと。

河合
いまテスト版をプレイしていますが、あっちの魂を残していると何かありそうだと思うシチュエーションもあるので、もう一回プレイしたくなるようなモチベーションは与えられそうです。どの魂を残すのかによって物語そのものも変化するので、ぜひくり返し遊んでいただきたいです。

佐々木
 ひとつのエンディングを見ると、べつのエンディングも見たくなるようなゲームバランスにわざとしてあるので、くり返しプレイしていただきたいです。

――すべてのエンディング、すべてのストーリーを見てみたいですね。

河合
 自分こそが本物だと主張する魂たちと対話を重ね、どれが本物なのかを特定していくというのが最初に提示される目的になります。どの魂がいつ出てくるのかによって攻略法も変化するので、毎回新鮮なゲーム体験が楽しめると思います。

佐々木
 それぞれの魂と対話するうちに、どの魂にも人生があることが見えてきます。ですが、プレイヤーはステージをクリアーするごとにそのうちのどれかの魂を消さなくてはいけない。会話をするうちにどんどん愛着も湧いてくると思うので、ぜひ悩んでいただきたいです。

――魂を消していくという点について気になることが。魂ごとにできることが異なるということは、プレイを進めて魂が減っていくとできることも減り、弱くなっていくということでもあると思います。

佐々木
 おっしゃる通りで、実際のところ、最初期のテストビルドではゲームになりませんでしたね。ただそれでも、“不安”というテーマ、そして魂を消していくという設定は本作の背骨であり絶対に削除したくない要素だったので、これをどうゲームに落とし込み、魅力的なものに仕上げていくかは、大きなハードルでした。

――魂が減り、できることも減っていくと、進行が詰んでしまうこともありそうですしね。

佐々木
 進行で詰むことはないので、ご安心ください。ただ、特定の魂でしか行けない場所があるので、「この魂を残しておけばよかった」と思うことはあるかもしれません。

――もうひとつシステムについて質問。ホラーゲームといえば敵との戦いもよくありますが、本作には攻撃方法はあるのでしょうか。

佐々木
 基本的にはないです。最初は攻撃ができる魂も考えていたのですが、明らかに便利すぎるので開発の段階でなしにしました。

河合
 殴って倒せるならトラウマにならないですしね(笑)。
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――確かに(笑)。

佐々木
 それに、戦闘ができてしまうと恐怖感とか不安感がかなり薄れてしまったというのもひとつの理由です。我々が表現したいものとは違うものになってしまうので、それも戦闘要素を排除した理由です。

――現在もまだまだ開発は続いていると思いますが、本作を開発するうえでの意気込みをお願いします。

山中
 本作は「こういったジャンルのゲームを作ります」とジャンル決めから始めるのではなく、新たな体験を追求するところから企画・開発がスタートした特殊なゲームです。こうしたゲーム開発はクリエイターとしてかなり貴重で刺激的な経験なので、ありがたい機会をいただけて集英社ゲームズさんには心から感謝をしています。

 きっと、想像もできなかったような体験を提供できると思います。自分自身も最終的にどんなゲームに仕上がるかを楽しみに開発を進めたいと思います。

佐々木
 これまでにもいろいろなゲームを作ってきましたが、本作は自分にとってもかなり挑戦的なタイトルです。アート的な文脈の濃い作品になっていて、ゲームシステムもいままでにないものになっています。そういったゲームが好きという人は、ぜひご注目いただけるとうれしいです。

河合
 最初にできあがったプロト版からけっこう紆余曲折しているタイトルで、「本当に完成するのか」と日々考えていましたが、なんとかこうして発表できるところまで来ました。これは開発チームの皆さんが日々諦めることなく挑戦を続けてくれているお陰で、すごくおもしろいゲームに一歩ずつ近づいているのを感じています。

 テーマは“不安”なのですが、不安を覚えつつもクリアー時には何か違う感情にもなるようなシナリオになっていますし、そこもまた本作の魅力になると思うので、楽しみにお待ちください。
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