『右手にペンを、左手に過去を。』人生の小説を書き換えて鬱屈とした自分をなかったことに。少女の過去を気軽に改編するノベルゲームの恐ろしさ

by寺島壽久

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『右手にペンを、左手に過去を。』人生の小説を書き換えて鬱屈とした自分をなかったことに。少女の過去を気軽に改編するノベルゲームの恐ろしさ
「こんなことになるなら、いっそ何もしなければよかったのに!」

 あのときの別の行動をとっていたら、後悔は取り除かれていたのだろうか、自分はどんな人生を歩んでいたのだろうか。

 悔いの残る過去を書き換えて、“手に入らなかったifの未来”を作りあげたら、満足な人生を送れるのだろうか?

 そんなテーマのゲームが、2025年5月4日、東京都立産業貿易センター浜松町館で開催されたインディーゲーム展示会“東京ゲームダンジョン8”に展示されていました。
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 鬱屈した少女の過去を小説として読み上げ、要所をペンで書き換えると、芸術一筋で生きてきた少女の人生は消えてなくなり、同じ人物でありながらまったく別の人生を歩む人間が誕生する。

 ゲーム開発サークル・HaraPeko部が作る過去改編ノベルゲーム『
右手にペンを、左手に過去を。』は、そんなうれしいような、恐ろしいような選択を行うゲームです。
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鬱屈した少女の人生に手を加えよう

 本作の主人公・芝崎心羽(しばさき こはね)は、子どもの頃から芸術に情熱を注ぎ、県で一番の腕前を誇っていた神童でしたが……。
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 高校で同じクラスになった草間飛鳥(くさま あすか)が彼女をしのぐ才能を発揮したため、草間に対して嫉妬心を抱き始めます。表面上は変わらず友人として接し続けても、ふたりの関係は徐々にぎくしゃくし、微妙な緊張感が漂い始めたある日。
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 主人公は夢の中で本棚と向き合います。そこに置かれているのは、彼女の人生を切り取った本でした。
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小説を読みながら人生を添削しよう

 その本を手に取った瞬間、画面が一気に切り替わり、これまでのビジュアルノベル画面構成から変化。主人公の過去を縦書き小説として、読み進めるようになります。
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 どうやら、主人公が絵の才能を発揮し始めたのは、小学校時代に帰宅して絵を描く習慣ができてから。ならば、その部分を書き換えてしまいましょう。

 過去を変更しないこともできますが、今回は「グローブとバットを手に取って」遊びに行ってもいいし、「机に並ぶ参考書で勉強」してもいい。

 せっかくだからまったく異なる展開を見たいと思い、芸術系から一気に体育会系に振り切ってみました。「グローブとバットを手に取って」を選んでみます。
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 すると、それ以降の人生の小説はすべて書き換えられ、その日は楽しく野球で遊んだように変化。体験版では人生の小説は4ページでしたが、選択した瞬間に全ページが新たに書き換わっていたのが印象的でした。

気軽に人生改変する恐ろしさも同時に感じるゲーム

 そして、現実に戻ると野球部で県大会に燃え、友だちと涙を流した人生を送り、野球仲間に囲まれて幸せそうな主人公の様子が描かれます。
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 ちょっとしたことを変えて人生がうまく回る……そんなものでは終わりません。一見幸せそうですが、芸術と友人関係に悩む少女は完全に消え去っています。過去改変によって主人公という存在自体を消し去ってしまったようで、恐ろしさすら感じました。

 HaraPeko部さんによると、プレイヤーの選択によって人生が変化する少女を眺め、行く末を見るゲームになるとのこと。いわゆるベストエンド(トゥルーエンド)は存在せず、数回の過去改変を行い、プレイヤーが主人公の人生に介入した結果を見て楽しんだり、その影響の大きさについて考えたりするものになるそうです。

 商業ゲームは、やっぱりある程度のプレイ時間が欲しくなります。しかし、本作は「心にインパクトを与えれば短時間で終わってしまってかまわない」という割り切りが感じられ、インディーらしさを強く感じるゲームでした(開発中のため、異なる仕上がりになることもありえます)。
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 『右手にペンを、左手に過去を。』は、現在も開発進行中。最新情報は
HaraPeko部産の公式Xで公開されますので、フォローして待つといいでしょう。

 もしかしたら、フォロワーが増えることで開発が加速される未来改変が生まれる……かも?
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配布されていたクリアファイルの雰囲気がとてもいい感じ。“2024年夏 公開”とありますが、過去が書き換わった結果だそうです。
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集計期間: 2025年05月10日20時〜2025年05月10日21時