カプコン時代にプロデューサーとして多数のヒット作を手掛け、現在は2022年に立ち上げた新会社GPTRACK50(ジーピー・トラック・フィフティ)の代表取締役社長を務める小林裕幸氏。ファミ通では、小林氏とゲーム業界の第一線で活躍するクリエイターが“プロデューサー視点によるゲーム開発”について語り合う連載企画をお届けしていく。
第2弾となる今回のお相手は、グラスホッパー・マニファクチュアのCEO、須田剛一氏。お互いにNetEase Gamesグループであり、それぞれ新作を開発中のおふたりに、ゲーム開発の楽しさや難しさなどをプロデューサー視点で語っていただいた。
なお、本日(2024年8月8日)昼より、GPTRACK50とファミ通.comによるプレゼントキャンペーンも開催している。こちらもぜひチェックしてほしい。
小林裕幸(コバヤシ ヒロユキ)
GPTRACK50代表取締役社長。カプコンにて『バイオハザード』、『戦国BASARA』など多数の人気シリーズに携わる。2022年にはゲームスタジオ“GPTRACK50”を立ち上げ、現在、完全新作を開発中。(文中は小林)
須田剛一(スダ ゴウイチ)
グラスホッパー・マニファクチュア、CEO。ディレクター/シナリオライターとしても多数の作品を手掛ける。代表作は『Killer7』、『ノーモア★ヒーローズ』、『ロリポップチェーンソー』、『シャドウ オブ ザ ダムド』など。(文中は須田)
後のクリエイティブにも影響……『killer7』開発当時の裏話を直撃
小林
ふたりでこうやって、オフィシャルの場で話すのは初めてですよね?
須田
そうですよね。20年くらい前に『killer7』をいっしょに作らせていただきましたが、取材はそれぞれで対応しましたので、今回が初だと思います。初めてお会いしたとき、まわりには関西弁の方しかいなかったので、標準語で話される小林さんが合流されたときはホッとしたといいますか。ちょっと安心したことを覚えています。
小林
僕の中では須田さんは、社長のときとディレクターのときの切り換えといいますか、そのギャップが強烈でしたね。社長モードのときは物腰柔らかで、気遣いの姿勢がしっかりとあるんですけど、クリエイティブモードに入ると、まさにディレクターといいますか。はっきりと意見を言われて、こだわる部分は絶対に曲げないという。その切り換えができるところがすごいなと思いました。
須田
『killer7』のときのことは鮮明に覚えています。開発時はいろいろとトラブルも多くて。小林さんには、そうした問題が山積みになっていたときに途中から入ってもらったんですけど、ひとつひとつの問題を迅速に解決していただいて。本当にあのときは助かりました。とにかく発売まで、しっかりとロードマップを引いてくれて、着地するところまで面倒を見ていただきました。
小林
それから20年近くが経過して、こうして同じグループでゲームを作っていることが、なんだか不思議ですよね。ちなみに僕は須田さんがいらっしゃったかららNetEase Gamesへの参加を決めたんですよ。
須田
本当ですか?
小林
須田さんが参加されているなら間違いないだろうということで、GPTRACK50を立ち上げたんです。実際にいまも、お互いのタイトルの具体的なことは話せませんが、社内ツールの使いかたなどでわからないことがあったら、「ここがわからなくて困ってるんですけど、須田さんはどうやってますか?」みたいな感じで連絡させていただいて。いろいろ相談に乗ってもらえて、本当に助かっています。
須田
同じグループだから、使っているツールがいっしょなんですよね。僕がわかる範囲であれば、対応させてもらっているという感じでしょうか。
小林
それで今回は、お互いの仕事であったり、仕事をごいっしょする中で感じた印象などについて話せれば……と思うんですけど、僕の場合は、さっきちょっと話しましたが、やっぱり社長としての須田さんが、ものすごく印象に残っていて。当時の僕は気遣いといいますか、お客さんに対しての丁寧な対応が苦手だったので、「社長とはこうあるべき」という姿勢を須田さんから学ばせていただきました。
須田
社長業を褒められることは珍しいです。
小林
クリエイティブの面では、『killer7』でしかごいっしょしたことはないですが、それでもあの経験がなかったら、『戦国BASARA』であそこまではっちゃけた取り組みはできなかったと思うんです。
須田
『戦国BASARA』は、小林さんのやりたいことの集大成みたいなところがありましたよね。
小林
それまで、「ゲームとはこうあるべき」みたいな固定観念があったんですけど、『killer7』でごいっしょさせていただいたことで、アニメを入れたり、歌を入れたり、クリエイティブな発想って、もっと自由にやっていいんだ……と考えられるようになって。これは自分の中では、めちゃくちゃ大きな変化だったんです。いろいろな手法を取り入れつつ、ゲーム作りに取り組めるようになったのは、まさに『killer7』といいますか、須田さんのおかげなので、同作への参加は僕にとってすごいキーポイントだったように思います。なので、ものすごく感謝しているんですけど……ただ、現場は本当にたいへんでした(笑)。須田さんには、予定通りに作業を進めてもらうためにすごい圧をかけてしまったので、窮屈な思いをさせてしまったと思うのですが……。
須田
いえいえ。あれくらい締めてもらわないと開発が終わらない状況だったので、感謝しています。社長としては「納期に間に合わせないといけない」と思いながらも、ディレクターとしては「納得いくまでこだわりたい」という思いが強くあって。そうした中、小林さんに喝を入れてもらって、全体を引き締め直していただきました。あれがあったからこそ、無事に発売へと漕ぎつけることができたんだと思っています。もし、小林さんがいなかったら、いまでも開発が続いている可能性もぜんぜんあるので(笑)。
小林
いや、さすがにそれはないでしょう(笑)。
キャラクターやストーリーを創造する際のこだわりとは?
――おふたりがプロデューサーとしてディレクターとやり取りをする際、気をつけていることとかありますか?
小林
「ディレクターにはやりたいことをやってもらいたい」ということを、つねに心掛けています。その“やりたいこと”を、売れる方向に向けるかじ取りがプロデューサーの仕事だと思っていて。タイトルごとに目標とする売り上げは異なりますが、そこに向けて売れなくなるようなことをディレクターが言ってきたら、軌道修正するようにしています。それ以外のところでは、あとはもう本当に好みの話になるので、「ディレクターの好みでやったらいいじゃん」という感じです。須田さんはディレクターとして、いろいろなプロデューサーと仕事をされていますが、その際、付き合いかたなどで意識していることはあるんですか?
須田
やっぱりプロデューサーとディレクターの相性や関係性って、ゲームにすごく反映されるんですよ。画面を見れば、どのようなやり取りがあったのかだいたいわかるといいますか。だからこそ両者の関係性をいかによくするかはいいゲームを作るうえでとても重要で、僕としては自由に遊ばせてくれるプロデューサーさんは、やはりありがたいです。そのうえで、最後はしっかりと締めてくれるという。小林さんはまさにそういうスタンスでやらせてくださったので、個人的には「相性がいいな!」と、勝手に思っています(笑)。
小林
そう言っていただけて光栄です! 今回の対談ではキャラクターやストーリーの創造についてもお聞きしたいのですが、須田さんは新しい企画を立ち上げる際、キャラとストーリー、どちらを先に考えられているのでしょう?
須田
キャラクター先行の場合が多いですね。『ノーモア★ヒーローズ』や『ロリポップチェーンソー』は、最初に主人公のイメージがバーンとあって、そこからストーリーを作り上げていきました。逆に『シャドウ オブ ザ ダムド』や現在開発中の最新作は世界観が先ですね。こういう世界観を描きたいので、それに合う主人公を……という形で制作しています。小林さんはいかがですか?
小林
今回の場合は、最初に8枚ぐらいの企画書を作って、それを叩き台にしながら皆で話し合って作り上げていく予定でした。しかし、だいたいがこてんぱんに叩かれて、跡形もなく形が変わってしまいましたけど。ほぼ、ディレクターやゲームデザイナーがやりたいことが凝縮される形になり、そこからようやくスタートした感じです。基本的には現場の判断に任せていて、ゲーム性の部分は自由にやってもらっていいんですけど、主人公の設定だけは、場合によっては口を出すこともあります。
須田
それはどういった理由で?
小林
まず最初に主人公の方向性が固まって、そこから敵が生まれて、ストーリーができあがっていく……という順番で開発に当たることが多いので、最初の部分がブレないようにそこだけは毎回、必ずチェックするようにしています。ちなみに須田さんはキャラクターを創造する際、ゲーム性といいますか、そのタイトルのジャンルなども念頭に置いて考えられるのでしょうか?
須田
僕の場合は、だいたいアクションベースで考えちゃいますね。なんというか、それがもう染みついてしまっているので。ゲームの画面内にそのキャラクターが登場して、こんなアクションをくり出したらおもしろいだろうな……というのが前提としてあって、そこを意識しながらキャラクターを作り出して、そのうえで、キャラクターが映えるシステムを考えるケースが多いですね。逆にアドベンチャーゲームの場合は、世界観や設定から考えることが多いです。それらを先に固めて、シナリオを書いていく中でキャラクターが生み出てくる感じですね。
ワールドワイドな展開に対する意気込みは?
――おふたりとも最新作ではワールドワイドな展開を考えていらっしゃると思うのですが、キャラクターのクリエイティブにおいても、そうした考えは設定の中に盛り込まれているのでしょうか?
須田
海外展開は視野に入れていて、人種問題など、いろいろ意識しないといけない要素はあるんですけど、いまはあまり深く考えていないですね。これから徐々に考えるべきことは増えてくると思うんですけど、いまはまだ、自分がやりたいことを優先していて。そちらをキャラクターに反映させる……という形を取らせてもらっています。
小林
どちらかというとユーザーにも、グラスホッパーらしいキャラクターといいますか、須田さんならではのキャラクターの活躍を見てみたいという人が多そうですね。
須田
あと、「埋もれないようにしたい」という感覚はつねにどこかにありますね。世界中にたくさんのゲームがある中で、新作を発表したとき、ビジュアル一発でゲーム性すら説明できてしまうような主人公を作り出すことを、これからも大事にしていきたいと思っています。小林さんは、新作のキャラ設定はどのようにされているんですか?
小林
当然、グローバルでの展開は意識していて、とくに北米の若いユーザーに刺さるものを提示したいという思いは強いです。それと同時に、国や年齢、どれくらいの頻度でゲームに接しているか? といったユーザーのターゲット設定も、できるだけ細かいところまで割り出して固めるようにしています。スタッフ間でも共通するターゲット像があったほうが、方向性がブレずに作業を進めやすいので、そこはかなり気を遣っているところです。
須田
とくに新会社で、新しいスタッフといっしょに完全新規のタイトルを開発するとなると、口頭で何度も説明するより、最初に皆で“ターゲットとして捉えるユーザー層”を割り出しておいたほうが楽ですよね。
小林
まさにその通りです。あと、そうしておけば、今後、新メンバーが開発に加わることになったとき、僕やディレクターがその場にいなくても、いまいるスタッフだけで指示を出せるようになるので、作業効率を高めるうえでも大切なことだと思っています。グラスホッパーさんの場合、メインのターゲット層となると……。
須田
うちはいまも昔も変わらず、血が出るゲームが大好きな人に向けて作っています(笑)。そこは創業当初からいっさいブレていないですね。毎回、「これくらい血が出たら喜んでもらえるかな?」とか言いながら開発を進めています。
小林
そこがグラスホッパーさんの強みですよね。世界中に認知されている“グラスホッパーらしさ”みたいなものがあって、そうした期待にいかにして応えるか?という部分に注力する開発のスタイルは、まさに御社ならではだと思います。
最新タイトルも鋭意開発中! 2025年初頭には発表もアリ!?
――おふたりの開発中の新作タイトルについても、可能な範囲でお聞きしたいです。須田さんの新作の開発は順調なんですか?
須田
じつはもうゴールは見えています。発売までのスケジュールを引いて、タスクの割り振りも完了しているので、ここから発売に向けて、いよいよ全力疾走に入る感じです。
小林
となると、発表も近いうちには……?
須田
明言はできませんが、2025年の早い段階で何らかの発表ができれば、と考えてはいます。NetEase Gamesに参画後、初めての完全新規タイトルとなりますので、ユーザーの皆さんには単なるクローンゲームやコピーゲームではない、すでに世の中にあるゲームとは違う感覚や体験を提供したいと思っています。「おもしろそうなゲームだな」と思って触ってみたら、これまでのゲームとはちょっと違うものが見えてくるような。そういった体験を意識して開発を進めています。GPTRACK50のタイトルはいかがですか?
小林
遅れ気味ですがちゃんと進んではいます。ただ、昨年の設立1周年のときに「2年目にはタイトル発表をしたい」と話したのですが、それは現状ちょっときびしそうです。とはいえ、シナリオはもう上がっているので、ここから翻訳のターンに入る感じですね。そうして翻訳が完了すればコンテを切って……と、これから徐々に忙しくなっていきます。シナリオのラインはそんな進行具合ですが、ゲームの部分に関しては、見た目がけっこう整ってきています。ジャンルはアクションRPGなのですが、アクションパートなどはすでに開発が進んでいて、そろそろブラッシュアップするターンに入ります。PCベースで開発していますが、コンシューマー機の実機での動作テストもすでに完了していて、その点はちょっと安心しました。
須田
確かにそれは大事ですね。終盤になって「実機で動かない」となるのは非常にまずいので、うちも早めにテストをしています。
――両社ともに新しい環境でゲーム開発を進められていますが、これまでと比べてやりやすさを感じる部分はありますか?
小林
小さい会社なので、いろいろなことがすぐ決まります。どんどん進んでいく感覚がいいですね。とにかく意思決定が早くて、ミスがあってもやり直しがめちゃくちゃスムーズといいますか。何でもその場でパッと決められて行動に移せるというのは、ゲームを作るうえで非常に効率のいい環境なんじゃないかなと感じています。
あと、“スタッフの声が自然と聞こえてくる距離感”というのもいいですね。自分がタッチしていない部分でも、横から会議の声が自然と漏れてきて、「そんなふうにやっているんだ」ということがなんとなく把握できるという。そうした何気ないところからも“皆でいっしょにゲームを作っている感覚”が得られるんです。本当に快適な環境で、ゲームづくりを楽しませてもらっています。
須田
僕もいまの環境はすごく居心地がよくて、会社に来るのが楽しいです。小林さんのおっしゃる通り、何事もパッと決めて、すぐに行動に移せるというのは、本当にストレスがなく快適なんですよ。実際のところ、会社の雰囲気もすごくよくなってきているので、このムードを維持しつつ、そのうえで皆には各分野のプロフェッショナルになってもらえるよう、クリエイティブ面もさらに突き詰めていければ……という感覚です。
――逆に環境が変わったことで、困っていることなどはあるのでしょうか?
小林
NetEase Gamesはコンシューマーゲームに関してはまだ発展途上なので、まだまだ環境が整いきっていない部分もあります。かなり揃ってはきているのですが、要件によってはスムーズに行かない場合もあり、いろいろと模索しながら環境を整えていますね。
須田
僕個人というより、グラスホッパーとしては「NetEase Gamesがどのような出口を用意してくれるのか?」という点が、気になっています。同社がパブリッシャーとして、ブランドを立ち上げて売ってくれることにはなっていますが、せっかく小林さんや名越稔洋さん、市村龍太郎さんといった、ビッグタイトルを売ってきた方たちがグループにいらっしゃるので、そういった皆さんの力もお借りして、世界に向けて作品をリリースしていく展開が実現できたらいいな……という期待はすごくあります。
小林
これからまさに、皆でいっしょに実績を作っていく感じですよね。
須田
まずはNetEase Gamesというブランドを、ファーストパーティーが一丸となって盛り上げていって。もちろん、そうした準備はすでに着々と進んでいるとは思うんですけど、どんな展開になるのか非常に楽しみなところです。
小林
ガチガチに役割分担をしている会社だと、「それはこっちがやるんだ」みたいになってしまいますが、NetEase Gamesではそうした決まりがないので、いろいろといっしょにやっていけるんじゃないかと思います。これからの展開が楽しみですね!