シーシャ屋で起こる人間ドラマをフィーチャーしたアドベンチャー『フーカーヘイズ』は、僕の目には魅力的に映った。こういうのが好きな人に向けて、“狙って”作られたゲームなのだろう。これを求めていた。
画面から漂う何とも言えない空気。もののあはれである。清少納言だったらシーシャの煙がたゆたう様を見て「いとをかし」と詠んだに違いない。
もののあはれとは、見聞きしたものに触発されて生じるしみじみとした情緒のこと。かわいいドット絵、マンガのコマ割りのようなメイン画面、リラックスできるBGM。シーシャを吸うキャラはアニメーションし、煙はコマを越えるように流れていく。店内のアクアリウムがこぽこぽと音を立てるのもいい。いとをかし。
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メディアに掲載する記事としては、いとをかしの理由を紐解くべきなのだろうけど、すでにレビュー記事はいろいろ出ているし、体験版も配信中だ。ゲーム性の解説はそちらに譲るとして、ここでは僕の感想を中心にまとめようと思う。
生を諦めた人間のエゴ
『フーカーヘイズ』のベースはテキストアドベンチャーだ。そこにシーシャをかけ合わせたことが個性として光る。シーシャは別名を水たばこと言い、フレーバー付きの煙を吸う嗜好品。ゆっくり時間をかけて味わうイメージも手伝って、ゲーム全体に独特の“チルさ”が生まれている。
主人公の炭木トオルはシーシャ屋“Hookah Haze”の店長。フレーバーにはフルーツ、スイーツ、ドリンク、スパイス、ナッツの5種類があり、3つをミックスして客に提供していく。しばらく楽しんでもらったら炭を入れ直して温度と煙の量を調整。そして、他愛のない会話を楽しむ。
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SNSでの宣伝も大切だ。お店は14日間限定。常連さんとメッセージを送り合うのも何だか楽しい。
サウンドは店内BGMという設定。ゆったり耳障りのいい楽曲が揃っており、プレイリストは自分で作成できる。好きな曲をリピートするのもいいが、きっとトオルならお客様のことを考えて心地のいい選曲をするだろう。
と、言ってしまえば『フーカーヘイズ』でやることはこれくらいである。客の好みはわかりやすく、ミックスのヒントも出るので難しくない。経営シミュレーションではないので売り上げを心配することもない。
作り手が届けたいのはきっとそこではない。
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お店が14日間限定の理由。それはトオルの余命だ。難病におかされており、痛み止めを飲まないと日常生活もままならない。主治医の先生は「やりたいことは決まりましたか」と問う。終末医療の一環だろうか、患者の夢を支援する制度があるらしい。
絞り出された言葉は「好きなもので、誰かと繋がりたいです」。トオルには生を諦めている節があるのだが、これは助けてほしいという静かな叫びなのだと思う。少しくらいはエゴを出していい。自分の生きた証が何も残らないのはさみしいだろうから。
果たして、救いを求めて差し出される手を取ったのは3人の女性だった。
店長と常連さんの関係
コンカフェで働く愛上あむさんはとにかく自己愛が強く、自称「かわいいことしか取り柄がない」。でも相手に合わせる思いやりも持ち合わせていて、わがままなのに憎めない人だ。距離感が近く、パーソナルスペースにぐいぐい入り込んでくる。自分に気があると勘違いする人もいるだろうから心配。
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大きい。
ショップ店員の明月院こころさんはすごくおしゃれ。本質的にはくだけた性格なのだろうけど、言葉遣いも周囲への配慮もしっかりした大人なお姉さんである。心の底では無理をしても笑ってごまかすクセがあるようで、それはちょっと切ない。
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おしゃれ。
ぬいぐるみ作家の古森くるみさんは小動物みたい。自分を抑えることができず、思うままに行動し、人とのコミュニケーションが苦手。だけど、クリエイターとしての実力はたしか。彼女が作ったジェントルメンダコは商品化するべきだと思う。買うので。
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かわいい。
彼女たちはそれぞれに悩みを抱えている。打ち解けると話してくれるようになり(あるいは言動から察する)、その会話劇が本作『フーカーヘイズ』の中心だ。
トオルは入院生活が長いために世間一般の感性に疎く、的外れな受け答えにやきもきしてしまう。すれ違いドラマのようなおもしろさがあり、世間ずれしてないがゆえの芯をついた反応にどきっとさせられることも。
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3人を否定することなく受け入れるトオルは善人なのだと思う。その善性がどこから来ているのかというと、やはり死を受け入れているからだろう。未来を閉ざしているからか欲を出さず、自分本位な発想があまりない。
とはいえ、それは序盤の話。会話を重ねるたびに自分の意思を出すようになっていき、成長を見守るようでうれしかった。本心では彼女たちに深入りしたいのだと思う。誰だって誰かに必要とされたい。自分を路傍の石だと思い込んで生きてきたトオルにはそのきっかけがなかっただけだ。
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シーシャ屋“Hookah Haze”の営業は、おすすめフレーバーをSNSに投稿することから始まる。するとフレーバーに対応した女性が来店。マルチエンディングのゲームではあるが、来店するほどにその娘のストーリーが進行していくため、フラグ管理に気をもむ必要はない。
ゲーム開発のリソースは有限なので、何を描くかによって取捨選択するのはふつうのことだ。『フーカーヘイズ』の場合は、プレイヤーにストーリーに集中してもらうため、“シーシャ屋経営”の比重を軽くしたということだろう。
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ずっと同じフレーバーを提供し続けてもいいし、好みに合わない味でも大丈夫。好みから外すとおかしなリアクションをしてくれて、それもかわいいのだけど、どうしてもお客様が喜ぶ顔を見たくなって、相手の好きなミックスにすることが多かった。トオルもこんな気持ちだったのだろうな。
なお、“情報を発信してから待つ”行為はトオルと3人の心の距離の暗喩だと思っている。基本的にトオルは受け身。これが恋愛ゲームだったら自主的に動くこともあるだろうが、『フーカーヘイズ』で楽しむべきはヒロインの攻略よりも4人の生き方なのである。
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こういう顔を見ていたい。
ちなみに、『フーカーヘイズ』は2024年8月11日までシーシャ カフェ&バー“C.STAND”とコラボを実施中だ。ゲーム内に登場するミックスはたいていリアルでも再現できるらしい。オレダモントMIXを吸いたい。レモンコークMIXも気になる。
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オレダモントMIXはオレンジの甘さにミントとカルダモンの清涼感が炭酸飲料と相性抜群とのこと。うまそう。
シーシャ屋で弱音をはくということ
きっとこれは目を背けている自分の弱さに向き合う物語だ。深呼吸をするようにシーシャをふかしていると、ふとした瞬間に無防備な部分が顔を出す。誰よりも優しいトオルと話すことで3人は自分の本音に気づき、トオルもまた彼女たちから救いを得るように、物語は走り出した。スポーツのように人間の強い部分はエンターテイメントだが、人間の弱さは文学である。弱いことに価値がある。
シーシャ屋“Hookah Haze”はトオルも含めた4人にとって都合のいい逃げ場所のように思える。かといって、逃げは悪いことではない。いったん逃げて弱音をはき、羽を休める時間も必要だ。そこにシーシャのイメージがピタッとハマるようだった。シーシャの煙は弱さを受け止めてくれる気がする。単なる僕の想像なのだけど。
たとえばレストランを題材にしていたとしたらこうはいかないはず。シーシャは大人の嗜好品。本来は強いはずの大人も弱さを見せていい。
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本作は“ヒューマンドラマアドベンチャー”と銘打たれている。もっと複雑な展開を期待したが、作り手は直接的に胸に響かせるやり方を選んだのだろう。奇をてらわないストーリーだからこそ、心のど真ん中に160kmのストレートがズバッと決まる。
ちなみにバッドエンドは容赦がない。全エンディングを見たくていろいろ試したところ、シンプルにつらくてくらくらしてしまった。僕に甘いシーシャをください。
アドベンチャーゲームにとって物語の起伏は重要だ。でも、ひととおりの結末を見た僕が最終的に求めたのは、シーシャ屋の店長と常連さんが何てことのない会話を楽しむだけの日常だった。そういう未来が来てほしいと願っている。
※『フーカーヘイズ』はシーシャの喫煙を推奨しているわけではありません。CERO-C(15歳以上対象)のゲームだけど、シーシャは20歳になってから。製品情報
- タイトル:Hookah Haze(フーカーヘイズ)
- 発売時期:2024年7月11日(木)
- ジャンル:ヒューマンドラマアドベンチャー
- 対応機種:Steam、Nintendo Switch
- 販売価格:1,980円[税込](※7月24日まで10%オフの1,782円で購入できるローンチ割引を実施)
- 対応言語:日本語、英語、中国語簡体字
- 企画・開発:株式会社アクワイア
- 販売:株式会社アニプレックス