『野狗子: Slitterhead』トークライブリポート&インタビュー。『SIREN』の外山氏、『SILENT HILL』の山岡氏、『ブレス オブ ファイア』の吉川氏が、本作へ込めた想いや熱意を語る

『野狗子: Slitterhead』トークライブリポート&インタビュー。『SIREN』の外山氏、『SILENT HILL』の山岡氏、『ブレス オブ ファイア』の吉川氏が、本作へ込めた想いや熱意を語る
 Bokeh Game Studioより2024年11月8日に発売予定の『野狗子: Slitterhead』。対応ハードはプレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、PC(Steam、Epic Games Store)。

 某日、Bokeh Game Studioのオフィスにて『野狗子: Slitterhead』のメディア体験会が開催され、その中で、本作に関わるクリエイター陣のトークライブが行われた。プレイの手触りについては別の記事でお届けしているので、そちらもチェックしてほしい。

広告

 本記事ではトークライブの模様をリポートするほか、終了後に実施されたミニインタビューもお届けしよう。登壇したのは、下記の3名。

外山圭一郎 氏とやま けいいちろう

Bokeh Game Studio代表取締役 CEO/クリエイター。『SILENT HILL』や『SIREN』、『GRAVITY DAZE』などのディレクションを経て同社を設立。『野狗子: Slitterhead』ではクリエイティブディレクターを担当。

山岡 晃 氏やまおか あきら

作曲家、音響監督、ゲームデザイナー。『SILENT HILL』シリーズの音楽制作とプロデューサーとして知られる。本作ではゲームミュージックをおもに担当。

吉川達哉 氏よしかわ たつや

『ブレス オブ ファイア』シリーズ、『デビル メイ クライ』シリーズなど数多くの作品でゲームキャラクターをデザイン。2017年には『GRAVITY DAZE 2 Alternative Side:時の箱舟 -クロウの帰結』にゲストキャラクターデザイナーとして参加。本作でもキャラクターデザインを務める。

[IMAGE]
左から、外山氏、山岡氏、吉川氏。

『野狗子』に込めた想いとは?

 まずはゲーム内にも登場するビールで乾杯し、トークライブがスタート。最初の話題は2024年6月8日に海外で実施されたイベント“Summer Game Fest 2024”にて、発売日が発表された件について。

 同イベントでは会場での出展も実施し、メディア向けの試遊も可能だったそうだ。公開したトレイラーの影響からか、予定以上に試遊の申し込みがあったのだとか。メディアからは「得体の知れない、昔のゲームみたいな雰囲気があって気になる」といった意見が多かったようで、とても好感触で「うれしかったです」と外山氏。

 山岡氏も吉川氏も、SNSでトレイラーを見たファンたちから、本作の独自性を評価する声や、期待している声を見て、喜んでいたようだ。

[IMAGE]
ゲームに登場するビールで乾杯(山岡氏は車で来場していたので、お水で乾杯)。
[IMAGE]
このビールはゲーム中にも登場。会場にはイラストも展示されていた。
[IMAGE]
“Summer Game Fest 2024”の模様も、いくつか公開されていた。

 続いての話題は、今回この3名が組んでゲーム制作に臨むことになった経緯について。サウンドを担当する山岡氏は、外山氏とともに初代『SILENT HILL』を制作したメンバーでもあり、おふたりは非常に長い付き合い。

 これまでにも「いっしょに何かやりたいよね」といった話はしてきたものの、都合が合わず実現していなかったとのこと。それが今回、『野狗子: Slitterhead』でようやく叶った形となる。

 山岡氏は『SILENT HILL』の制作時、外山氏と対話しながらサウンド制作をする中で、自分にはない感性やアイデアを外山氏に引き出してもらったそうで、「ある種、外山さんはゲーム音楽をやっていくうえでの恩人です」と語った。今回依頼されたときには、また外山氏に新しいものを引き出してもらえることを期待しつつ、喜んで引き受けたそうだ。

 また、キャラクターデザインを担当した吉川氏は外山氏が「この人しかいない」と思って依頼した経緯があるという。「本作のキャラクターデザインは悩ましい部分があったんです」と、外山氏。

 というのも、『野狗子: Slitterhead』は、一般人に紛れこんで活躍するキャラクターたちを描いたタイトルだ。そのため、街の中に溶け込んでも違和感がなく、かつヒーローらしいキャラクターをデザインする必要があるという、二律背反のようなデザインを求めていたそうだ。

 外山氏はそういった難しいデザインに答えを出せるのは吉川氏しかいないと思い、依頼したとのこと。結果的に、外山氏は「今回頼んで、本当によかったです」と感謝の気持ちを述べていた。

 そんな依頼を受けたとき、吉川氏は「このゲームなら、いちばんお役に立てるのはクリーチャーデザインなのでは?」と思ったそうだが、プレイヤーキャラクターたちを依頼されたことで、プレッシャーを感じていたのだとか。

 ただ、過去作での外山氏との経験やプライベートでの付き合いなども含め、相性のよさは感じていたため、「僕でよければ」といった気持ちで吉川氏は引き受けたのだという。

 おつぎの話題は、本作で3名それぞれがチャレンジした部分について。

 外山氏は、キャラクター性が挑戦だったと語る。先ほどの説明通り、本作のメインキャラクターは一般人の中に溶け込んで活躍していく。それでいて、誰が見ても特別なヒーローとして見てもらわなくてはいけない、ふたつの狙いが相反するようなキャラクター性にしなくてはいけないことが、本当にたいへんだったようだ。

 吉川氏もそこがやはり挑戦だったそうで、「すごく難しかったです」と振り返る。ただ、難しいながらにやりがいを感じていて、多種多様なキャラクターたちを並べていくのが、本当に楽しかったのだとか。

 Bokeh Game Studioのキャラクターデザインチームも、もちろんデザインに関わっている。吉川氏とのやり取りについて、「吉川さんは“YES”がないんです(笑)」と外山氏。

 デザインについては「もっと上を目指せる!」と、デザインチームと吉川氏の終わりのない討論が続いたそうで、製作期間やコストなどを度外視すれば、その答えは遥か上にあるような、本物のプロのこだわりを痛感したそうだ。

 とはいえ、もちろん答えを出す必要がある。その際の取捨選択やスケジュール感については、外山氏が答えを出していたそうで、吉川氏は「そこの感覚が僕とも近くて、それがすごくやりやすかったです」と、その相性のよさを語っていた。諦めるところは諦めて、伸びしろのある部分は任せてのびのびとやらせてもらえることが、デザイナーとしてとてもうれしかったのだとか。

[IMAGE][IMAGE]

 山岡氏は、新しい挑戦はとくにしておらず、これまで通りゲーム音楽というものに取り組んだという。以前から山岡氏は、ゲーム音楽はゲームを楽しむための音楽であって、普通の音楽を聞くのと、ゲームを遊びながら聞く音楽の感覚は違うと感じていたと語る。音楽を通して、どうすれば『野狗子: Slitterhead』がより楽しめるようになるのか、それを考えて作っていったそうだ。

 どうすれば音楽でゲームがおもしろくなるのか。それは外山氏と『SILENT HILL』を作ったときから、ずっと語り合っていた。その先をさらに行くにはどうすればいいのかを、制作当初から山岡氏は考えていたとのこと。

 一方で山岡氏との制作は、「天才すぎて、僕が言うことないんです(笑)」と外山氏。これまでのゲーム制作でも、サウンドについて「こういうシチュエーションなので、こういうサウンドに……」など、注文を出すことは多々あったそうだ。

 しかし山岡氏は、外山氏からの注文がなくても、ゲームの世界にマッチすることに重きを置いてサウンド制作に臨んでいたそうだ。そのため、外山氏が注文を出すのではなく、逆に山岡氏から「こういうゲームになら、ここはこうでしょ?」と、提案されるほどだっただとか。

 ちなみに山岡氏が最初に制作したサウンドは、2021年に公開されたティザートレイラーの楽曲。制作時、山岡氏が用意した多種多彩なジャンルの6~7曲の候補を聴いた外山氏はホラーゲームとしても見られている点もあるため、その中から無難なタイプの曲をチョイスしたそうだ。

 だが、山岡氏は数曲提案しながらも、心の中ではいちばんの曲が決まっていたようで、「こっちのほうがいいですよ」と、実際に採用されている激しい楽曲をアピール。それを受けて、外山氏は「あの曲を採用したことが、このゲームの方向性を決定付けました」と語る。予定調和を壊すような作風を目指していた外山氏と、山岡氏の考えがうまくマッチしたようだ。

 なお、山岡氏は本作のサウンド全般に関わっており、楽曲だけでなく、セリフの聞こえかたまで確認しているそうだ。

[IMAGE]

つねに新しいモノを目指して

 続いては、もしこの3人で何かを制作することになったら、今後何をやりたいか? という質問。外山氏は「誰かといっしょにやる、その前提で作ることはないです。何かをやるときに、この人が適材だと思ったときお願いします」という前提を述べたうえで、「もし3人でやるなら、同じようなことを続けてやりたい3人ではないので、まったく別モノをやりたいと言ったら乗ってくれるでしょう」と語る。

 吉川氏は『GRAVITY DAZE 2 Alternative Side:時の箱舟 -クロウの帰結』、そして『野狗子: Slitterhead』と、外山氏のまったく違うスタイルのゲームに関わってきた。確実に次回も、これまでにないことをやってくれるだろうと期待しつつ、「もしお声が掛かればぜひ」とアピールしていた。

 山岡氏は本作の開発に関わったすべてのスタッフたちと、もっと密な関係で開発に臨んでみたかったと振り返る。もちろん山岡氏が、本作へ中途半端に関わっているわけではなく、各セクションのスタッフたちが何を考えてゲームを作ったのか、どんな狙いがあったのか、それをすべて知ったうえでゲームサウンド制作に臨んでみたいと、目標のような想いを語っていた。

[IMAGE]

 最後は、本作に期待しているファンたちへ、3名からのアピールコメント。

 山岡氏は「制作に関わっていながらも、どうやったのか驚くような仕掛けがたくさんあるゲームです。音楽とかはどうでもいいです(笑)」と、冗談を交えながら、プレイヤーの感想を楽しみにしている様子。

 吉川氏は「新しいものが味わえつつも、どこか僕の好きな昔の映画のような雰囲気もある作品です」と、ゲームの感想を述べつつ、「もしかしたら映画になったりしないですかね?」と期待も寄せていた。

 外山氏は「自分にないものは何か、新しいものは何か、という部分にこだわってゲームを作り続けてきました」と、これまでの自分を振り返る。その想いに付いてきてくれたスタッフに感謝しつつ、今後もその挑戦を続けていくためにも、「『野狗子: Slitterhead』を受け入れてもらいたいです」とアピールし、トークライブは終了となった。

[IMAGE]
ラストには発売日公開記念として、『野狗子: Slitterhead』ケーキが登場。
[IMAGE]
よく見ると、本作の鍵とも言える血液が掛かったようなケーキになっている。

ミニインタビュー


 本記事の最後として、トークライブ終了後のインタビューの模様をお届けしよう。(以下、敬称略)

――本作の特徴である“憑依”システムはどのように生まれたのでしょうか?

外山
本作の根本のコンセプトは、『SIREN』のコンセプトを現代的なアクションゲームとして再解釈することでした。『SIREN』では“視界ジャック”という、他人の視界を乗っ取ることが切り口でしたよね。そこを再解釈し、拡張したのが“他人の身体を借りることしかできない主人公”みたいなイメージが浮かびました。そこにフォーカスしたのが、本作になります。

――試遊した範囲では、『SIREN』シリーズのように他人の視界を垣間見れる場面もありましたね。

外山
はい、そこは少しだけファンサービスの意味合いも込めています。

――憑依できるキャラクターは一般人を含めてたくさんいますが、なぜここまで多数の人物に憑依できるようにしたのでしょうか。

外山
企画当初は、すべての人間に憑依できるとなると、ゲームバランスが壊れてしまうので、世界に選ばれた人間がいて、その人たちだけに憑依できるようにしていました。ただ、最終的には一般人含めて、相当な数の人間たちに憑依できるゲームになりました。

 一般人はあくまでアクションのコマにすぎませんが、ドラマを形成するメインキャラクターたちは十数名存在しています。最初のうちはキャラクター数もさらにたくさんいたのですが、制作中に現実的な数へ絞りました。とはいえ、それでも多いと思いますよ。

――そんなキャラクターたちを、吉川さんはどのようにデザインしていったのでしょうか?

吉川
今回は、現実に存在しそうなデザインを見定めながら調整していくことに、注意を払っていました。とくに、キャラクターそれぞれの顔付きです。ドラマに出てくる登場人物であることを意識して、そのキャラクターのバックボーンがわかるような顔にしています。

 たとえば、アレックスは男前ではありつつも、彼の思考は常人ではありえないことを考えています。その複雑な部分を表情に少しでも出せたらいいなと、そこに気を配りました。

[IMAGE]
憑依時に大きな力を引き出すことのできる“稀少体”のひとりであるアレックス。
――なるほど。ちなみにメインキャラクターでもある“稀少体”たちは戦闘中にマスクを着けていますよね。どんな意味があるのでしょうか?
外山
“数多く存在する人間VS数は少ないが強敵である野狗子”の戦いを描くとなると、その素性を知られることが決定的な弱点になってしまうんです。といったところから、全員が隠しています。顔が知られるということがどういうことになるのかは、物語の中でも描いているので、そこはぜひ、楽しみにしていてください。

――顔を隠すアイテムが全員違うことに、理由はあるのでしょうか?

外山
そこはデザイン上のバリエーションとして、全員違うものにしました。

吉川
とても苦労しました。それぞれのキャラクターの生活や個性が滲み出ていて、一般人でありながらも特別なヒーロー感を出すために、いろいろな顔の隠しかたを考えていきました。たいへんでしたが、とてもおもしろかったです。

外山
服装から覆面まで、サクッとお店で買えるものばかりですから、コスプレがとても簡単です(笑)。

――(笑)。中にはほとんど変装になってないキャラクターもいますが、何か深い意味が?

外山
とくにありません(笑)。そこは変身ヒーローもののお約束と言いますか、仮面を付ければ誰かわからなくなることを表現しているまでです。

[IMAGE]
――わかりました。トークライブで山岡さんは、本作の個性的な部分をアピールしていましたよね。そんな本作に合うサウンドを作るうえで、どのような部分に力を込めたのでしょうか?
山岡
外山さんからお願いされたときから、僕の仕事は“自律させること”だと思っていました。“自律”というのは、何かに影響されずに、自分だけで成り立つものです。ようは、外山さんの言う唯一無二の存在になることです。それをサウンドでもやろうと決めていましたが、そういった考えは何十年も前から考えていたことでした。

――具体的には、どのような?

山岡
長いあいだゲーム音楽を作りながら考えて、その答えにほぼほぼ近いのかなと思ったのが“ゲーム音楽は聴かせるための音楽であってはダメ”ということでした。やはりゲーム音楽を作るときは、ひとりの“音楽家”なので、やはり聞かせたくなってしまいます。悲しいシーンであれば悲しいBGM、バトルはバトルBGMと、フォーマットに合わせて作りがちです。

 でもそれって、じつはゲームに合わせているわけじゃないんです。ゲームを遊んでいる人は、基本的に音楽を聞こうと思ってゲームを遊んでいるわけではないですよね。もちろんそういうジャンルのゲームもありますが。ですから、聴かせる音楽を作るのではなく、ゲームを遊んでいたら流れてくる音楽で、自分の興奮度が増したり、ゲームの楽しさがアップするべきだと思うんです。

 『野狗子: Slitterhead』では“ある種、聴かせないための音楽”くらいのことを取り入れました。経験上考えてきた、最終的なゲーム音楽の在りかたはそこなのかなと、本作でも感じていましたね。

――では外山さんより、プレイヤーに注目してほしいポイントを教えてください。

外山
大多数の人に遊んでもらって「すごく楽しい!」と思ってもらえるゲームかというと、そうではないと思います。我々の尖った何かを伝えたい中で、「わかる人がわかればいい」とも思っていません。我々の作るゲームを遊んで、「こんなおもしろいゲームがあったのか!」と思ってもらえる、そんな作品になったらいいなと考えています。

 ゲームは予定調和で作られるわけではなく、こんなゲームを作る人間もいるんだと、ぜひ知ってほしいです。

――ちなみに、ゲーム冒頭で犬に憑依できますが、犬が戦闘に参加したりとかしないです……よね?

外山
ああ、それはいろいろと事情があって導入しませんでした。

――ああ、よかった! 犬とか猫がひどい目に合うゲームだったらどうしようかと(笑)。

外山
そういった面で「よかった」と思ってもらえるなら、よかったです(笑)。

――もちろん、アクションゲームとして「犬でも戦いたい」って人もいるとは思うんですけども、本作はかなりゴア表現も多いので……。

外山
アクションとしては遊んでみたいですよね。ただ、犬がひどい目に合うような状況は描けませんから、野狗子たちが誰も犬に攻撃できなくなってしまうので……(笑)。

 あくまで演出や物語のアクセントとして、動物が登場します。冒頭で言うと、憑鬼が実体を持たないゼロの状態から始まり、人間になるまでのあいだに「自分は何者なんだ?」みたいなワンアクションが欲しくて、犬に憑依するシーンを取り入れました。

[IMAGE]
    この記事を共有

    本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

    週刊ファミ通
    購入する
    電子版を購入