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リメイク版『サイレントヒル 2』岡本Pインタビュー。原作らしさを最大限大切にするリメイク。ファンのための“変えない”決断をオリジナル版スタッフとともに

by西川くん

リメイク版『サイレントヒル 2』岡本Pインタビュー。原作らしさを最大限大切にするリメイク。ファンのための“変えない”決断をオリジナル版スタッフとともに
 プレイステーション5と、PC(Steam)にて、KONAMIより発売予定のリメイク版『SILENT HILL 2』(サイレントヒル 2)。開発はポーランドのゲームスタジオ・Bloober Team(ブルーバーチーム)が手掛けている。

 本作の発売日が、2024年10月8日に決定した。それに合わせて、ゲームの雰囲気やシステムの一端を感じ取れる最新映像も公開された。

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 本記事では、『サイレントヒル』作品群を再びリブートさせた、シリーズプロデューサーの岡本 基氏へインタビューを実施。リメイク版
『SILENT HILL 2』に込める想いを始め、細心の注意を払いつつ磨き上げたシステムの詳細などについて詳しく聞いた。

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岡本 基 氏おかもと もとい

2019年にKONAMIに入社し、『サイレントヒル』シリーズプロデューサーとして『サイレントヒル』シリーズ全体の復活を目指す。(文中は岡本)

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『SILENT HILL』のアイデンティティ

――リメイク版『SILENT HILL 2』の新情報が発表されて、いよいよ発売日も決まったことで、世界中のファンから多くの反響がありました。岡本さんはこういった声を、どう受け止めましたか。

岡本
まずはやっぱり、うれしいです。オリジナル版の『SILENT HILL 2』は、とくにストーリーが高く評価されていますよね。セリフでは多くは語らずに、ビジュアルとサウンドでそれを体験していくことが物語への没入感を深めていて、そこが高く評価されているんだなと感じています。だからこそファンの皆さんの目はとても鋭いんですよ。

 語りすぎてもいけませんし、何も語らないわけにもいかず。

 そこのさじ加減は、我々も開発を手掛けるBloober Teamもとても慎重に見てきました。それだけに、反響の大きさには責任感も感じると同時に、楽しみにしてくださるファンの声を聞くとうれしさも大きいですね。

――そうですよね。長尺のトレーラーが公開されたことで、楽しみだというファンの声も多く目にしました。しかし名作のリメイクと言うからには、しっかり変えるところは変えつつオリジナルのよさを残さないといけないと思うので、そこのバランス感覚がたいへんそうです。

岡本
そうなんですよ。でも、じつのところオリジナル版を手掛けたデザイナーの伊藤暢達さん、サウンド制作の山岡晃さんなど、日本側のスタッフのほうから「ここは変えたい」という声が出ました。逆にBloober Teamのほうから「いや、ここは変えたくない!」といった意見が多くて。

 ときには意見がぶつかり合いながらも、最終的にはうまいところに落とし込んでいます。オリジナル版のよさを残しつつ現代的に生まれ変わった姿は、トレーラーを見てもらえばきっとわかっていただけると思います。


――オリジナル版に関わっていたからこそ変えたい部分も多かったと。

岡本
やはりゲームクリエイターは自分が作ったものをもう一度作りたくない。同じことで楽しんでもらいたくないんですよ。ですから、リメイク版ではガラリと変えたい部分がたくさんあったのだと思います。

 ですが、最終的にはオリジナル版の大ファンでもあるBloober Teamの意見のおかげで、原作を高くリスペクトした仕上がりになりました。

 もし完全に日本国内だけで開発チームを結成していたら、ガラリと変わったリメイク作品になったかもしれません。

――そうだったんですね。しかし、それほどまでにシリーズファンから注目されている『SILENT HILL 2』を、シリーズのリブートの嚆矢としてリメイクしようと考えられたのはなぜでしょう。

岡本
昨今もホラーゲームは発売され続けていますが、その中には『SILENT HILL』シリーズに影響を受けているように見受けられるタイトルも多いですよね。

――たしかに。主人公が平凡な一般人だったり、不条理な表現がなされるような作品も多いです。

岡本
まさにそうした魅力的なホラーゲームがたくさん並ぶ中、シリーズ作品を改めて発売するとなったら……そこに『SILENT HILL』ならではの尖った個性がないと、きっとまたいつか、シリーズが埋没して途絶えてしまうだろうと考えていました。

 だからこそ、
「『SILENT HILL』ならではの個性とは何か」をじっくりと考えてみたんです。そこで見えてきたのが、やはり精神的に追い詰められていくような、自分の心に潜む葛藤などを描く“サイコロジカルホラー”の部分でした。そのアイデンティティの塊こそが、『SILENT HILL 2』だと考えたのが決め手です。

――『SILENT HILL』のアイデンティティを現在の技術で確立させるためには、苦労もあったのではないでしょうか。

岡本
じつは、そこまで苦労していません。まず「『SILENT HILL 2』のリメイクをしたい」という声は海外のゲームスタジオから数多くいただいていまして、そのひとつがBloober Teamでした。彼らはすでに“『SILENT HILL 2』とはこういうものである”と理解している、原作の大ファンでもありました。

 “サイコロジカルホラー”とは何なのか、それをもっとも体現しているのが
『SILENT HILL 2』であるということを最初から理解していただいていて、そこの共通認識はスムーズでした。

――たくさんの海外スタジオからのお声掛けがあった中から選ばれるほどに、Bloober Teamの『SILENT HILL 2』愛が高かったんですね

岡本
『SILENT HILL 2』への愛情と、とても強い情熱を感じたんです。Bloober Teamは『Layers of Fear』(※)シリーズを代表するように、“サイコロジカルホラー”のジャンルも愛していて、かつ開発経験も豊富です。

 ただ、バトル部分に関するノウハウなど、経験の少ない部分での懸念点はありました。それでもきっとBloober Teamのこの熱量ならば、乗り越えてくれる、チャレンジしてくれると信じて、リメイクを託すことにしました。
※……2016年発売のホラーゲーム。2023年には第1作と2作目をバンドルしたバージョンも発売。
――なるほど。『SILENT HILL 2』はたしかに、海外ファンもとても多い作品ですが、ホラーものとしては“和”の要素を感じる作品だと思います。海外ファンの理解度の高さには、少し驚きもあるといいますか。

岡本
山岡さんたちも「日本のホラーものとして“和”の気持ちで制作した」とよくおっしゃっているのですが、おそらくそこの部分を理解してもらえているわけではないと思うんです。ただ、海外にも“冥府まで、自分の妻を救いに行く”といった冥府くだり的な逸話や神話ってあるじゃないですか。世界中の神話によく似た共通項があるように、そこが海外の方々に刺さり、いろいろと想像を膨らませてくれたように感じています。

――探索では、静謐なサイレントヒルの街を長く歩き回ること自体にも、意味を感じられる趣があったと言いますか……うまく言語化できないのですが、ゲーム的な攻略やテクニックとは別に、プレイすることで独特の情緒のようなものが胸に去来するところも本作の魅力のひとつでもありますよね。

岡本
まさにおっしゃる通りで。道や街をうろつくことこそ、主人公・ジェイムスの心境を表している部分でもあるように思います。会話やムービーシーンで語られていることを受け止めるだけではない、そういったところもファンの方々に刺さったのだと感じています。

 そこのバランス感は、オリジナル版の時点でもきっと完璧に狙っていたわけではないと思いますが、結果的にファンにとっての黄金比になったのかなと。

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――文字通り、“さじ加減”なんですよね。
岡本
『SILENT HILL 2』には、パズル要素もあります。ただ、パズル要素にはリアリティのない部分もあるじゃないですか。

 たとえば、落ちているはずのないモノが突然カギになったり。それがファンたちには「ジェイムスの心理を表している」と解釈していただいたり、パズル自体の不条理さも楽しんでもらえているように見ています。

 説明しすぎるとすべてがジェイムスのことに見えて
『SILENT HILL』らしさに欠けてしまったり、ジェイムスのことを示唆しすぎると、味わいがなくなってしまいます。そういったストレートに描かない、あいまいなところこそが、国内外問わず、ファンの心をつかんだのではないでしょうか。

――リメイク版では、見た目から伝わる情報量がより増えたので、そうした要素もがさらに研ぎ澄まされていそうです。トレーラーでは、風景から街並までがとても細かく描写されていて、寂寥感のようなものも強く感じられました。

岡本
そこは最新の環境で制作してとてもよかったところです。とにかく細かな描写を詰め込めるようになったので、そこもバランス感を見ながら情報量を増やしてます。

 また、Bloober Teamはポーランドの会社です。ポーランドって、街並の彩度がすごく低いんですよ。全体的にシックな空気感をもっていて。あの色彩感覚が
『SILENT HILL 2』にすごくマッチしていて、Bloober Teamにお願いしてよかったポイントでした。

――ただ暗いだけの闇を歩くのは、『SILENT HILL 2』の色使いとはちょっと違いますよね。

岡本
ほかのホラーゲームと比べて、たとえばキービジュアルを見ても、一見ホラーゲームに見えるかどうかも怪しいです。

 ショッキングな見た目でもないですし、静かそうな街並に女性の顔が浮かんでいるだけで。そういった、ある意味美しさすら感じられるところも含め、きっと独自性の強いホラーゲームとして見てもらえると思います。

――そのほかに、“サイレントヒル”の街並を作るうえで、気をつけたポイントはありますか?

岡本
オリジナル版の設定から、じつは“サイレントヒル”(※本作の舞台となる街)の中には電気が通っていません。固有の電源を使っている場所もありますが、街全体には電気が通っていないので、信号機なども光っていないんです。

 本当は街の雰囲気作りやライティングを出すために信号機や街灯なども使いたかったのですが、設定の時点で使えないので採用しませんでした。

 そういったものを使うことで絵作りはしやすくなるのでつい出したくなるところですが、そこはこだわって別の形で雰囲気作りをしています。

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没入感を重視したオプション機能も登場

――ゲームシステムついてもお聞かせください。まず、オリジナル版の冒頭には、何か怖いことが起きそうだけれど何も起こらない林道をひたすら歩いていくパートがありましたよね。何も起こらないけれども、サウンドや雰囲気で密やかな恐怖のような感情をじわじわとプレイヤーにもたらすような。こうしたシーンもリメイク版ではそのまま採用されていますか?

岡本
もちろん、あのパートはほぼ変わらず登場します。

 序盤で変わっている点と言えば、初めてクリーチャーと遭遇するタイミングが変わっていますね。
『SILENT HILL 2』にとって、クリーチャーと戦うことはそこまで重要ではありません。そのため、開発初期は「リアルな世界が狂気に変わる前をもっと楽しんでもらおう」と、クリーチャーとの遭遇をオリジナル版よりもさらに遅らせていました。

 ただ、あまりにも遅すぎてメリハリがなく、どうしても「つまらない」といった意見が多かったため、それよりも遭遇タイミングを早めています。

 とはいえ、遭遇タイミングは時間で言うとオリジナル版よりも遅いですね。これは、おもにシステムの違いなどによる影響です。

――いちファンとして、残してくださってありがとうございます。しかも、新しく調整されたクリーチャーとの初遭遇シーンは、「早めよう」ではなく、「さらに遅らせようか」との議論があったとは、まさに『サイレントヒル』シリーズ作品作りの矜持のようなものを感じてしまいました。

岡本
好きなスタッフが集まっていると、そういう話になるんですよね(笑)。

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――変わった点としてはトレーラーではマップを開く際に、マップ画面をシステム的に表示するのではなく、ジェイムスがマップを取り出していましたね。とてもいい演出だと感じました。
岡本
サイレントヒル2』はゲーム的なマップを見るのではなく、手描きのようなマップを見ながらジェイムスがメモを書いていくのがいいですよね。

 そういった描写を尊重するために、リメイク版では極力ゲーム的なユーザーインターフェース(UI)を登場させない方針を取っているので、マップを取り出す形にしました。

――オリジナル版も、UI表示はほとんどなかったですよね。

岡本
いまでこそ重視されている“世界への没入感”ということを、当時から『サイレントヒル 2』は意識していたのだと思います。『サイレントヒル4 ザ ルーム』(PS2/2004年発売)では、ライフゲージが戦闘中にも表示されるようになりましたが、それを好まないプレイヤーも少なからずいたので。

 近年では、海外を中心とした大作ゲームなどでUI表示を排除して没入感を高めているタイトルがありますが、それを『サイレントヒル 2』発売の2001年当時から取り入れていたというのも珍しい魅力だったと思います。

――落ちているアイテムにはジェイムスが視点を向けるので、見つけられるヒントになっていたり。

岡本
リメイク版ではモーションや3Dモデルがリアルになったのでジェイムスがアイテムに視点を向けるヒントもより自然な仕草になっています。

 どうしてもアイテムを取るときに丸いアイコンが表示されたりと、少しだけUI表示を採用しています。

 ただ、安心してほしいのですが、どういったアイコンが表示されるのかはプレイヤー側がオプションで選べます。アイコンを非表示にもできますよ。

 デフォルトでプレイするといくつかアイコン類の表示がありますが、それらも全部見えない設定にできるので、「UIが画面に出るだけで興ざめする」といった人は、ぜひ活用してください。

――そんな細かい配慮まで。では、リメイク版ではアイテムへの誘導的なものはないのでしょうか?

岡本
アイテムが光ったりもせず、配置やライティングでプレイヤーが「アイテムが置かれているな」と把握できるようにしています。

 また、演出によってわかるようになっている場合もあります。ただ、グラフィックの密度が高いと、どうしても背景とアイテムが同化して発見しにくい部分は出てきてしまいます。

 オリジナル版はトップビューに近い視点ですが、リメイク版は肩越し視点のいわゆるTPSに近い形ですので、よりアイテムの視認がしにくいです。それを解消するためにアイテム取得アイコンなどが表示されるようになっています。

 もちろん、こちらもオプションで変更可能ですが。

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ゲームプレイの視点は大きく変更されている。
――トレーラーでは車の中を探って、アイテムを取り出すシーンもありました。オリジナル版では、街中に回復薬がポツンと落ちていたりもしましたが、そうではなく、オブジェクトなどから手に入れていくのでしょうか?
岡本
そこはゲームバランス的にいまも調整している部分で、「ここからきっと回復薬が必要になるだろう」と、突然置かれている場面もあるかもしれません。わかりやすく。

――(笑)。

岡本
ですが、建物を探索する際には棚の奥に回復薬があったり、車の中に放置されていたりと、ひと工夫しないと手に入らない場面もあるでしょう。

 ただ、それを置きすぎると「とにかく棚を探索するゲーム」になってしまうので、アイテム配置のバランス感はいまも議論を重ねています。

――なるほど。遊びやすくすることを追求するゲームは多々ありますが、雰囲気作りのためにUI表示の設定があるのも『サイレントヒル 2』へのリスペクトを感じます。

岡本
もっと言うと、リアリティを出すために、ゲーム的なアイテムメニューみたいなものは表示せず、すべてリュックの中でやりくりできるようなシステムにしようか、という話もあったんです。

 「このアイテム、ジェイムスはどこに持ってるの?」といった疑問も解決したくて。

 ですが、やはりジェイムスがリュックを背負って探索する姿はなんだか冷めてしまいますし、アイテム管理的なゲーム性が加わってしまうのも、本作の場合は何か違うなと。

――わかりやすさも重要だとは思うのでそこの塩梅もまた難しそうです。

岡本
たとえばジェイムスがダメージを受けたリアクションも、あまりにもわかりやすく「いまピンチですよ」と教えてしまうとゲームっぽさを感じてしまう部分なので、抑えています。

 ゲーム的表現と没入感のバランスはテストプレイを重ねて意見をもらいながら調整していますね。

――よかったです。現代に蘇るとなると、もしかしたら、目的地までナビが表示される『SILENT HILL 2』になってしまうのではないかと危惧していて(笑)。

岡本
そこは安心してください(笑)。これまで通り、行った場所の情報をジェイムスがマップにメモしていく形で探索を進められます。地面にべったりと塗られた血痕ですとか、オリジナル版にあった道標的な要素はそのまま登場すると思ってください。

 また、情報量が増えたことで、たとえば倒れたゴミ箱ですとか、何かしらの探索の指標になるオブジェクトなどで、すこしだけ探索しやすくなっています。

 ただ、これも安心してほしいのですが、プレイヤーを誘導するためのいわゆる“黄色いペンキ”みたいなものは出ません(笑)。

――わかりやすくはなりますが、『SILENT HILL 2』の場合はそれが出てきたら作品の雰囲気が壊れてしまいますよね(笑)。

岡本
深くは語れないのですが、たとえば『SILENT HILL 2』には白い布がよく出てきます。街中に白い布があることにも意味はあるのですが、それをうまく違和感のないように探索のガイド的に使ったりしています。

――演出によって自然にいざなわれていくような構成なんですね。あの“サイレントヒル”の街を歩くことが、独特の魅力と言いますか。ある意味、観光に近いような。

岡本
『SILENT HILL 2』と言えば、霧に覆われたあの街を探索することが魅力のひとつですよね。霧の濃さもかなり議論を重ねた部分です。

 あまりにも霧が濃いと、せっかく作った密度の高い街並が見えなくなってしまいます。かと言って晴れすぎていたら、それは
『SILENT HILL 2』ではありません。情緒のある風景の中で探索してもらうことこそが重要ですので、調節は難しい部分でした。

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クリーチャーとの戦いは“不気味さ”を重視

――バトル要素についてですが、トレーラーを見る限りでは、いわゆるTPSアクションになっているように見えます。

岡本
はい、現代的なTPSアクションになっています。そこまで難しい設定ではないので従来のシリーズファンの方々にもすんなり楽しんでもらえるかと思います。

――オリジナル版からして、戦闘はあくまで演出のひとつのように意図的に使っていましたね。

岡本
リメイク版はある程度バトル要素を増やして、アクションゲームとしても楽しめるものになっていて、そこが新たなシリーズファンを呼び込めるポイントだと考えています。

 そしてオリジナル版同様に難易度選択がありますから、苦手な人はイージーを選択すればいいですし、得意な人向けに歯応えのあるハードな設定もあります。

 とはいえ、“敵が強すぎることがホラーになってしまう”みたいな、本末転倒な高難度にはしていません。

――オリジナル版では打撃武器がすごく強かった思い出もありますが、ジェイムスの、とある部分を表現しているのかな、と想像したりもしました。

岡本
バトル自体にも意味合いを考えられるようなところが本作の魅力ですね。ちなみに、今回のリメイクでは一方的に殴り倒す、みたいなものはないですね(笑)。

 しっかり攻撃を狙って、回避アクションで攻撃を避ける……といったアクションの楽しみを用意しています。

――トレーラーでは『SILENT HILL 2』らしい、クリーチャーたちの動きの存在感や奇妙さも感じ取れました。

岡本
以前公開したコンバットトレーラーは、おもに海外ファンから「アクションゲームすぎる」とご指摘を受けてしまいました。

 「しっかりアクションも楽しめます」とアピールしたかったのですが、すこし激しすぎたのと、敵の動きなどからアクションゲーム寄りに見えてしまっていたんですね。

 たとえば、クリーチャーの“バブルヘッドナース”は優雅に、まるでパルクールをしているかのような動きをしていました。そういった部分にも言及されてしまって。

――コンバットトレーラーではたしかに、バブルヘッドナースの持つあの得体の知れなさ、不気味さみたいなものがあまり感じられなかったかもしれませんね。

岡本
このゲームはクリーチャーたちがしっかり意志を持って主人公を倒しにやってくるわけではないんですよね。

 “何を考えているのかわからない”といった部分が敵のアクションとしても反映されないといけなかったわけです。ですので、そういった部分をよりブラッシュアップして
『SILENT HILL 2』に似合うバトルになっています。

――露骨に噛みついてくるだけのクリーチャーが出すだけならばきっと簡単だったはずですが、そうではないと。

岡本
シンプルに敵を作るというだけならばもっと簡単でした。

 どう攻撃するのか、何をするのか、どんな動きなのかなど、不気味さを残しながらクリーチャーを作っているので、
『サイレントヒル』シリーズのクリーチャー制作にはきっと通常の数倍の労力は掛かっていると思います。

――そこのバランスの加減も、アクションを作るうえでかなりたいへんそうに見えます。

岡本
本当に難しいところで、敵キャラクターですから、当然、プレイヤーのことを倒しに迫るわけです。ですが、ストレートに倒しにくる感じを出してしまうと『サイレントヒル』らしさが減ってしまう。

 戦っていながら「コイツはいったい何なんだ?」と思ってもらえることが
『サイレントヒル』の戦闘なのかなと。

 そこをBloober Teamとも見直して、
『SILENT HILL 2』の敵たちはどう表現すればいいのか、もともとのモチーフや物語から解釈していろいろな動きを取り入れています。

――ちなみに、クリーチャーの種類は増えていますか?

岡本
完全新規という意味合いですと増えていません。ただ、同じ種類でも動きの違うクリーチャーを追加しています。

 元のクリーチャー像からは乖離しない程度に、動きやシチュエーションなどでバリエーションを増やしている形です。ホラーゲームですし、アクションとしてもついにクリーチャーを増やしたくなるところですが、
『SILENT HILL 2』のクリーチャーにはしっかり“意味”があるので増やせないんですよね。

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リメイクだからこそ、ストレートな表現を

――10分を超える長尺のトレーラーではムービーシーンなども見ることができましたが、ものすごい懐かしさを感じつつも、最新技術による美しさも同時に感じました。ああいったシーン作りでは、やはりモーションキャプチャーなどを採用されているのでしょうか。

岡本
ありがとうございます。当初はキャラクターの顔を手作りのモデリングで制作することも選択肢にありましたが、やはりフォトリアルな画面作りをすると、実在の俳優の顔をフォトスキャンしないと不自然に見えてしまうので、フォトスキャンとフェイシャルモーションキャプチャーは必須でした。

 ただ、そうなると“顔の造形と演技両方でジェイムスに似ているか”が重要になってくるため、キャラクターたちのオーディションは慎重に行いました。

――ジェイムスが警察官のようにしっかりとした所作で拳銃を扱ったりしていたら、それは違う動きですものね。

岡本
そうなんです。ただ、表情については手作りで調整を加えたりしています。あくまでやりすぎない程度に、アクセントを加えていると言いますか。激しい感情表現を露わにしてしまうと「このときのジェイムスはこんな感情ではないだろう」と思われてしまいますので、そこもバランスを気をつけています。

 たとえば、発表時に公開したゲーム冒頭のシーンはすでに作り直しているんですよ。ですから製品版ではよりよいものになっています。そのくらい感情表現へのこだわりは強いです。あと、ジェイムスの年齢感もすこし変更を加えていますね。

――年齢感ですか。発表時は、もう少し年齢の高いジェイムスに見えました。

岡本
もともとは、プレイヤーたちの年齢層も上がっているのでもう少し老けたジェイムスにする予定だったんです。いまは若返ってオリジナル版に近い年齢感になっています。実際、ゲームを作りながら遊んでいくうちに、やはり元の若いジェイムスのほうがいいなと感じるようになって。

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――なるほど。また、まだ“裏世界”については確認できていないのですが、どのような感じになっているのでしょうか?
岡本
裏世界も、伊藤さんにしっかり監修していただき、裏世界らしい空間になっています。奇抜なことはせず、ストレートにオリジナル版で描きたかった裏世界を現代的に描いているので、ある意味ではシンプルです。

 Bloober Teamはそのような表現が得意なチームで、とてもいい感じになっているのでぜひ続報をお待ちください。

 『SILENT HILL 2』の裏世界はシリーズ作品で比べると、一見地味なんですよね。ただ、各裏世界、物語の中で深い意味を持っているので、オリジナル版で伊藤さんが描きたかったものを、今回はよりイメージに近づけたように思います。

――設定があるからこそ、曲がったことはできなかったわけですね。

岡本
ゲームとしておもしろくしたい、ゲーム側の都合みたいなことを入れ込みたい部分もあるのですが、そこを変えてしまうと意味合いが違ってくることもあるので、そこもバランスを見つつ調整しています。

 マップもそうですが、ゲームの要素も「今風のシステムにするならこうしたいけれども、
『SILENT HILL 2』では矛盾してしまうのでできない」みたいな要素が開発する中で多々あり、Bloober Teamもとても苦労していました。

――ある意味では、リメイクの宿命ですね。

岡本
完全新作ならばゲームの都合で仕様を変えられますが、リメイク作品はオリジナル版がありますからね。その尊重が非常に重要です。

 たとえば、代表的なクリーチャーの“ピラミッドヘッド”の大きさも議論を重ねたところです。通常ならば、単に巨大で異質なクリーチャーを作ればいいと思うんです。大きくて強そうで……というだけで怖さを演出できますから。

 ただ、ピラミッドヘッドを巨大にすると、本来の意味合いが変わってきてしまいます。単純な魅せかたではなく、動きや演出などで工夫して脅威感が出るようにしています。

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――シリーズを象徴するクリーチャーだからこそですね。
岡本
そうなんです。サイズ感なども含めた演出や存在感はギリギリまでずっと調整し続けているくらいで(笑)。追ってファンの皆さんにお見せできると思いますので、こちらも楽しみにしてもらえたらうれしいです。

――動いているところを早く見てみたくなります。発売日もいよいよ公開されましたので、最後に、『SILENT HILL 2』を待ちわびているファンの方に、岡本さんからメッセージをお願いできますか?

岡本
たいへんお待たせしてしまいましたが、ようやく発売日を告知できました。最新トレーラーでもたっぷりとゲームシーンを見ることができるのでチェックしてみてください。

 また、これから発売日に向けて、どんどん続報も公開していくので、ぜひお楽しみにお待ちください。

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 なお、本日2024年6月6日発売の週刊ファミ通2024年6月20日号(No.1852)では、
『SILENT HILL 2』の記事を掲載。こちらもぜひチェックを。

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