フロム最大規模のボリュームになった本作がユーザーにもたらすものとは?

 2022年2月25日、ついに発売を迎えた『ELDEN RING』(エルデンリング)。

『エルデンリング』宮崎英高ディレクターインタビュー。脅威と未知に満ちた世界、自由な冒険と手に汗握る戦闘、勝利への達成感……本作に込めた思いを語る

 世界中のプレイヤーが“褪せ人”となり、“狭間の地”での冒険を楽しんでいることだろう。フロム・ソフトウェアでも過去最大規模のボリュームとなった本作の開発は、けっして平坦ではなかったはずだ。しかし、“ユーザーを楽しませたい、自由な冒険を体験してほしい”、この一点へのこだわりが、最高の冒険をもたらしてくれた。
 
 そんな『エルデンリング』のディレクターを務めるフロム・ソフトウェアの宮崎英高氏に、氏はもちろんフロム・ソフトウェアが込めた思いをインタビューで訊いた。氏が「ストレートなゲームを作った」と語った意味を、ぜひ皆さんに知ってほしい。

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宮崎英高(みやざきひでたか)

フロム・ソフトウェア代表取締役社長/ゲームディレクター。『Demon's Souls』(デモンズソウル)、『DARK SOULS』(ダークソウル)シリーズ、『Bloodborne』、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』などを手掛ける。

想定より規模が大きく複雑なものに。それでもスタッフが期待に応えてくれました

――無事に発売を迎えることになったいまの心境をお聞かせください。

宮崎本作に限らず、過去のタイトルすべてでも同じですが、あまり気持ちのいい時間ではありませんね。

 ほっとしているのは確かですが、いろいろと不安のほうが大きいので。いつまでたっても慣れません。

――以前より本作は『ダークソウル』シリーズの正統進化作とおっしゃっていますが、あらためて『ダークソウル』シリーズからどのようなノウハウが活かされたのか、お聞かせください。

宮崎確かに、本作は『ダークソウル』シリーズの王道進化と位置付けています。我々がシリーズを作り続ける中で培ってきたもろもろ、それを前提として初めて、作ることのできるゲームを作ろう、ということです。

 その領域は多岐にわたりますが、いくつかとくに挙げるとすれば、戦闘周りのシステムと、レベルデザインと難易度の作りかたでしょうか。

――なるほど。宮崎さんは「本作は過去最大のボリュームになる」と公言されていました。それだけに本作の開発はまさに“総力戦”ともいえるものになったと思いますが、当初からこの規模になることは見えていたのですか?

宮崎本作が過去最大の規模感になることは、最初から想定していたことです。それを、このタイミングで作ろうと考えたきっかけは、弊社の中で優秀な、任せることのできるスタッフが育ってきたことです。

 正直な話、本作は最初の想定よりも大きな、また複雑なものになってしまったのですが、スタッフは皆期待に応え、制作を支えてくれましたね。

――この規模のタイトルをディレクションするにあたって心掛けていたこと、実際に開発を進める中で苦労されたことは?

宮崎そうですね。過去のタイトルに比べて任せる部分が増えたのは事実なので、物事の結論だけでなく、方針や考えかた、あるいは思考の過程などをできるだけ言語化し、共有するように意識しました。

――実際にプレイすると、フロム・ソフトウェアのタイトルの特徴である達成感や冒険感に加えて、たとえば『SEKIRO』のスピーディーで立体感のある戦闘や探索のエッセンスを感じます。本作は“現時点”のフロム・ソフトウェアの集大成であると思いました。

宮崎うーん、そこまでおおげさな話ではありませんね(笑)。本作と『SEKIRO』の制作は並行していたので、『SEKIRO』からの直接的なフィードバックはあまり多くありません。ただ、ディレクターはどちらも私なので、相互に影響を及ぼし合っていたのは確かです。

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ゲームプレイそのものがユーザーの物語になってほしいからこその語り口

――では、本作の世界観についてお聞きしていきます。ジョージ・R・R・マーティン氏(※)による神話が世界観のベースとなったと言われていますが、その神話は本作の開発にどのような刺激や影響をもたらしたのでしょうか?

※編注:ジョージ・R・R・マーティン氏:世界的な人気を誇るファンタジー・SF作家。アメリカを代表する日刊紙『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーリストでトップになった『氷と炎の歌(A Song of Ice and Fire)』シリーズや『タフの方舟(Tuf Voyaging)』、『ダンクとエッグの物語(Tales of Dunk and Egg)』などを執筆。ヒューゴー賞やネビュラ賞といった権威ある賞を受賞し、『氷と炎の歌』を原案とするテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』では製作総指揮と脚本を務めた。氏は本作のために神話を書き下ろしている。

宮崎 マーティンさんの神話は、開発のごく初期の段階から存在し、さまざまな刺激を我々に与えてくれました。

 その神話は、神秘とともに、複雑で興味深い人間関係を描いており、我々が作るもろもろに、歴史とも呼ぶべき重層的な深みを与えてくれました。重要な敵キャラクターのデザインや、マップの意匠、NPCの設定などに、それを感じてもらえればうれしいですね。

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――マーティン氏に神話の執筆をオファーする際に、“リング”を巡る物語であるとか“黄金樹”といったキーワードなど、何かしらの具体的なコンセプトを説明されたのでしょうか?

宮崎はい。当初は“リング”とは呼ばれていませんでしたが、エルデンリング的な存在と、それが砕けるという契機のイメージは、お話ししたかと思います。

 ただし、それはあくまでも抽象的な概念として話され、黄金樹などの具体的モチーフは、そのころはまだ存在していなかったと思います。

――本作の物語を紐解くには、NPCとの会話やアイテムのフレーバーテキストなど、断片的な情報をユーザーみずからが集約して理解する必要があるのでしょうか? より重層的な物語が展開するということで、情報を整理しやすくするための施策などは盛り込まれているのか、気になります。

宮崎本作における物語の語りかたの基本的な方針は、『ダークソウル』シリーズと変わりません。テキスト情報は断片的に提示され、ユーザーさんの頭の中でつながる、あるいはユーザーさんに想像してもらうことを意図しています。

 そうした理由は、まずゲームプレイそのものが、ユーザーさんの物語になってほしいからです。ただ、NPCの会話などは、過去作よりは率直になっていると思います。

 それは、今作のNPCが広大な世界の探索に意味や方向性、手掛かりを与える役を担っているからですが、ある意味では、先ほどお話した『SEKIRO』からの影響もあるのかもしれません。

――物語だけでなく、“狭間の地”という世界においても黄金樹は重要なモチーフになっていると思うのですが、そもそも黄金樹は本作において、どのような意味を持つ存在なのでしょう?

宮崎黄金樹については、まず本作の画作りを象徴するものとして考えました。それは、神話的、あるいは絵画的な世界を描くのだ、という方向性を端的に示すものですし、画面をパッと見たときに、そこが『エルデンリング』の世界であることを感じられるものでもあります。

 また、ゲーム的には、屋外であればほぼ見えているものなので、いま自分が、ざっくりと世界のどのあたりにいるものかを知るランドマークでもありますし、夜に降る黄金の枯葉など、本作ならではの特徴的な演出の主体でもあります。そしてもちろん、黄金樹は世界観と物語の中でも重要な役割を担っています。

 黄金樹はエルデンリングの具象であり、本作はエルデンリングを巡る物語ですから。

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――もうひとつ、物語を語るうえで気になるキーワードに“破砕戦争”があります。ストーリートレーラーでも語られていますが、破砕戦争とはエルデの王の座を巡るデミゴッドたちの戦いなのでしょうか? また、エルデの王が選ばれたときに世界はどのようになるのでしょう。

宮崎そうですね。エルデンリングが砕けた後、その破片である大ルーンを得たデミゴッドたちが、エルデの王の座を巡り争う。それが破砕戦争です。

 もうひとつの質問、何者かがエルデの王になった後のイメージは、実際にゲームで体験してもらったほうがよいでしょう。

――その王を目指すのが、プレイヤーである褪せ人の目的となる。

宮崎狭間の地の人々は、黄金樹に祝福され、その瞳に黄金の光を宿しています。けれど、やがてその光を失う人々が現われ始めます。彼らは“褪せ人”と呼ばれ、狭間の地を追われるわけですが、その子孫が主人公であり、ほかの褪せ人たちであり、といったことになります。

 そしてエルデンリングが砕けた後、狭間の地を追われた褪せ人たち、死にきれずにいた者たちに、祝福の導きが訪れます。狭間の地に戻り、エルデンリングに見え、エルデの王になれと。それが本作の始まりです。

――『ダークソウル』シリーズでは不死、本作では“祝福”という、何らかの喪失を経て復活する主人公という共通点があると思うのですが、本作における主人公と『ダークソウル』の主人公で異なるポイントはありますか?

宮崎『ダークソウル』シリーズの主人公との大きな違いは、祝福の導きの存在でしょう。

 本作では、主人公を導かんとする明らかな意志が存在し、それと向き合うことになるのです。

――主人公のような、啓示を受けて王を目指す“褪せ人”はほかにもいるのでしょうか?

宮崎はい。祝福に導かれて狭間の地に至り、エルデの王たらんとする褪せ人は、主人公以外にも多く存在します。

――主人公に重要なきっかけをもたらすメリナは、『ダークソウル』シリーズの“火防女”とは異なり、強い意志を感じさせるキャラクターです。本作においてメリナとはどのような人物なのでしょうか?

宮崎そうですね。メリナは、『ダークソウル』シリーズの火防女たちとは、また違ったニュアンスがあります。

 彼女は、自分の意志を持った、主人公と対等なパートナーであり、あえて神秘性を重視せず、素顔を晒すデザインにしています。

 メリナは、失くした使命を探すために黄金樹の麓を目指しており、そこに連れていくことを条件に、主人公に協力を申し出ます。その使命が、主人公の物語にどのように関わってくるのかは、実際にゲームで体験してもらえればと思います。

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未知の場所を探る楽しさにメリハリをつける地図と霊馬

――狭間の地のグラフィックを見ると、輝きが褪せたような黄金樹、少し枯れたような木々、霧がかかった山など、どこか寂しげな色合いの印象が強いのですが、フィールドデザインのコンセプトを教えてください。

宮崎先ほど、黄金樹の話で少し触れましたが、神話的、幻想的、絵画的といったことを意識しています。

 あとは、抽象的な言いかたになりますが、寂寥とした浪漫でしょうか。

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――新たなフィールドは、ハブとなるレガシーダンジョンでデミゴッドを倒すことで開放されるのでしょうか? 先に進む手段は複数用意されていますが、デミゴッドを倒さずとも新たなエリアに進めたり、ワープのような特殊な移動手段もあるのか、気になりました。

宮崎レガシーダンジョンの攻略なり、大ボスであるデミゴッドの撃破なりで、新しい地域にアクセスできることはありますが、それは全体的なルールではありません。

 新しい地域にアクセスする条件はさまざまで、ワープのような特殊な手段を含め、複数の方法が用意されていることもありますし、単に地続きに歩いていくことでアクセスできる地域もあります。

 本作では攻略の自由度を重視しており、各地域にどのように、またどういう順で訪れるのかも、ある程度自由になっています。また、大ボスをゲーム進行の避けられない関門にすることも、かなり抑えているのです。

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――その自由を担う意味でも“霊馬”の存在がとても大きくて。霊馬で移動が快適になるだけでなく、二段ジャンプや霊気流などもあって探索のおもしろさが広がっています。霊馬はどのようなコンセプトで実装されたのですか?

宮崎まず単純に、広大なファンタジー世界を冒険するのであれば、やっぱり馬は欲しいでしょう! という話はあります。せっかくのオープンなフィールドですから、やらない手はないと思いました。

 機能面からいえば、オープンなフィールドにおける移動と探索の快適性のため、ということになるでしょうか。特徴としては、単純な速度に加えて、立体的な移動を重視している点が挙げられると思います。

 ご指摘のあった、二段ジャンプや霊気流などもそのための要素ですし、少々の悪路であればグイグイと踏破し、緩やかな崖であれば駆け下りていくこともできるようにしています。

――召喚も容易で、扱いやすいところが魅力ですよね。絶対に欠かせない相棒になりました。

宮崎乗騎としてのリアリティーよりも、アクションゲームとしての手触りのよさを重視してもいます。

 馬が騎手の言うことを聞かない“ままならなさ”といった要素はありませんし、召喚から騎乗、あるいは走る乗騎から降りる流れなどが、気持ちよくなるよう調整しました。

 都合のよいときに召喚でき、不要なときは消えてくれるという、霊馬の設定自体が快適で余計なストレスがないことを意図したものですね。

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――地図に関してお聞きします。よく見受けられるような、プレイヤーの移動に合わせて地図の範囲が開放されるシステムではなく、“地図断片”を入手することで情報が開示されるシステムを採用した理由は?

宮崎地図入手前の、まったく未知の場所の探索と、地図入手後の、ある程度の手掛かりがある探索といったふうに、探索の感覚にメリハリを付けたかった、ということがありますね。

 もちろん、地図に必要なものがすべて描き込まれているということはないので、探索の楽しさや、実際に行ってみての発見を損なうこともないと思います。

――ちなみに、地図断片を入手しなくともクリアーは可能なのでしょうか?

宮崎地図断片を入手せずともゲームのクリアーは可能ですが、地図の入手はうれしく、地図ありでの探索は楽しいものですよ。

 全体的に地図断片の発見難度を下げているのも、この点が大きいですね。

――探索と言えば、話題が横道にそれてしまうのですが、気になったことがありまして……。狭間の地では“教会”があちこちにある印象を受けたんです。そこで、本作の世界において宗教とはどのような位置づけ、意味を持っているか、教えていただけますか?

宮崎狭間の地における教会は、基本的に、すべて黄金樹信仰のものです。それは、狭間の地でもっとも一般的で、支配的な信仰、宗教でした。ですが、狭間の地には、黄金樹信仰以外の宗教も存在しています。

 黄金樹信仰が広まる以前の、古い信仰はまだ生き残っていますし、黄金樹信仰の衰退により、新しい信仰も生じているのです。

――そのあたりも気にしながら物語の断片を集めていくのも楽しそうですね。

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ワンプレイが短くならないように継戦能力を上げる施策

――ここからは、ゲームシステムで気になった部分についてお聞きしていきます。まずはアイテムの製作です。アイテム製作によって、いままで以上にアイテムの有無が攻略に直結している印象を受けました。任意のタイミングで製作できることで使用頻度も汎用性も高まっていますが、アイテム製作を採用した理由は?

宮崎理由はいくつかありますが、ゲームの緊張感をある程度保ちながら、継戦能力を上げていきたい、というのが大きいでしょうか。

 本作では、オープンなフィールドを採用したことで、ワンプレイが短すぎるとストレスを感じる傾向があり、「アイテムが尽きたからいったん戻ろう」ということが、従来よりも不快なので、そうした機会を減らしたかったわけです。

――雫スカラベや一定数の敵を倒すなど、聖杯瓶を補充する方法が祝福以外にも用意されているのも、進行をスムーズにするための施策ということでしょうか?

宮崎そうですね。これらも先ほどと同じ理由です。ワンプレイが短すぎることのないよう、継戦能力を上げていく意図があります。

――ユーザーにとってはありがたいですし、本作で初めてフロム・ソフトウェアのタイトルに触れる人にとってもわかりやすいですね。初めてプレイする人の視点でいうと、本作では10種類の素性が用意されていますが、素性の選択で迷った場合はどうしたらよいでしょうか?

宮崎そのキャラクターの自分なりの背景設定が浮かびやすいとか、あるいは単に見た目が好みであるとか、そういったことで選んでもらってよいかと思います。ゲーム的には、特定の素性を選んだことが、後々に何らかの制限とはならないようデザインされています。

 たとえば、騎士の素性でゲームを始めたとして、後に魔術師になっていくといったことも可能ですし、むしろそうしたことが、そのキャラクターだけのドラマなのかと思います。ああでも、“素寒貧”だけは別ですね。あれは、迷って選ぶものではないと思います(笑)。

――あれを最初のゲームプレイで選ぶのは、相当な腕前の持ち主か、コアなプレイヤーだと思います。オープンフィールドということもあって、どこに向かうべきか迷う人もいると思います。そこで効果を発揮するのが“祝福の導き”です。プレイしていて幾度となく助けになったのですが、導きに従って進めば最低限は迷わず物語を進められるものなのでしょうか? まったくノーヒントで、丹念な探索をしなければ発見できないような場所もある?

宮崎そうですね。祝福の導きに従うことで、最低限の進行に迷うことはないと思います。ただそれは、本当に最低限のものですし、導きから外れた先に、多くの発見とドラマが待っていることも事実です。

 くり返しになりますが、本作は自由度の高いゲームです。祝福の導きは、その自由度が“何をしてよいかわからない”というストレスにつながらないための要素であり、また導きを「あえて」外れるとき、それがみずからの選択であると感じられるための要素でもあります。

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どの武器も戦技もみずからの命を託し敵を倒さんとするものに

――では、戦闘に焦点を当てて、いろいろとお訊きしていきます。本作では“鳥の遠見”のようなギミックも含めて、“観察”が戦闘における重要なポイントとなっていると感じました。

宮崎そうですね。とくにオープンなフィールドでは、プレイヤーが先に敵集団を発見することが増えましたので、それを前提に、どのように敵集団を攻略するか? といった部分を重視して戦闘を設計しています。ラッパを持った見張りを先に倒しておこう、といったようなことですね。

 また、ステルスや霊体の召喚といった新要素も、敵集団を発見し、観察し、攻略方法を考える、といった流れをイメージして採用された要素です。

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――いわゆる魔法を“魔術”と“祈祷”というふたつの系統にした理由は何でしょうか? 学院や王家のように、魔術と祈祷の中にもいくつかの系統が存在するようですが……。

宮崎本作では、魔法の種類が多岐にわたっており、最初はもう少し多くの系統というか、触媒の種類を想定していました。

 ですが、触媒の種類が多くなることで、ビルドの幅が狭まり、わずらわしさが増していく傾向があったので、現状の魔術と祈祷に整理したという流れです。ですから、必然として魔術と祈祷のそれぞれの中に複数の系統が含まれており、それぞれに個性があります。

 それは、まず設定や使い勝手のニュアンスですし、特定の触媒などで強化されることもありますし、参照するパラメータにも違いがあったりします。本作の魔法を使うビルドには、ロールプレイ的にもさまざまな幅があり、楽しんでもらえるかなと思います。

――魔術や祈祷を使用したときのエフェクトが種類によって異なるので見るだけでも楽しいですし、集めたくなります。戦技も含めて攻撃のエフェクトが派手になっている印象です。

宮崎単純に派手にしよう、という意図があったわけではありません。

 ただ本作では、武器であれ戦技であれ、あるいは魔術であれ祈祷であれ、神話の中にあったもの、あるいは神話の英雄たちに挑むためのもの、として位置付けていたので、結果として少し派手になったのかもしれませんね。

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――それもまたユーザーのコレクティブに対するモチベーションにつながると思います。武器種は本作も豊富ですが、バリエーションが増えるほど、武器それぞれの特性を設定するのは難しくなりませんか? 武器の個性と挙動にはユーザーの反応も敏感になりますし。そもそも、「武器はこうあるべし」というような武器製作の軸となるコンセプトはありましたか?

宮崎武器であれ戦技であれ、「こうあるべし」という強いルールは設定していません。そうすることで、むしろ発想が委縮し、保守的になることを避けたかったからです。

 ただ、そうですね、それでもあえて挙げるとすれば、“真剣なものであること”でしょうか。どの武器も、どの戦技も、一見どれだけ奇抜で奇妙なものであれ、当人たちは真剣で、みずからの命を託し、敵を倒さんとするものであってほしいと思っています。

――防具にも、侍や狩人のようにユーザーが「こうなりたい」と思うであろうデザインをできる限り用意して、ロールプレイに貢献するという狙いを感じました。

宮崎そうですね。防具については、ロールプレイ性は重視して考えています。もちろん『エルデンリング』の世界観を壊さない範囲で、ということですが。

――ガードカウンターやジャンプ攻撃によって立ち回りの選択肢が増し、敵の体勢をいかに崩すか、その方法を考えるのも楽しいです。体勢を戦闘において重要なものにした理由は?

宮崎冒頭でお話しした『ダークソウル』シリーズの王道進化として、剣戟バトルをより奥深いものにしたかった、ということがあります。

 ジャンプ攻撃が体勢を崩しやすいなど、新しい要素間でシナジーが生まれてくれたことも、よかったですね。

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――本作ならではの戦闘要素を語るうえで“霊体”は外せないものですが、どんな状況でどんな霊体を選ぶのか、どのように活用するのか、霊体によって戦術の幅も変わる印象です。

宮崎霊体の召喚については、楽しみかたに幅があるものかと思います。純粋に戦略的に、敵の個性や、敵配置の状況に合わせた霊体を選んで戦っていくこともありですし、お気に入りの霊体と、ずっといっしょに戦っていくこともありだと思います。

 霊体をコレクションする楽しみも含め、個人的にもお気に入りの要素なので、ユーザーさんにも気に入っていただけたらうれしいですね。

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――“戦灰”による戦技の付け替えというシステムも、よりプレイスタイルに沿ったカスタマイズを可能にしましたね。

宮崎先ほど少しお話しした通り、本作における戦技は、武器種の個性を際立たせる要素というよりも、神話の中にあったもの、あるいは神話の英雄たちに挑むためのもの、といったニュアンスが強くなっています。

 そのことと、本作の大きなテーマのひとつである“自由度”を考えたとき、戦灰という形で、戦技を自由に付け替えられるシステムを採用しました。武器カスタマイズの幅は大きく広がったと思いますので、これもまた、ユーザーさんに楽しんでほしい要素のひとつです。

――ちなみに、宮崎さん自身がプレイヤーとして好きな戦闘スタイルは?

宮崎肉を切らせて骨を断つ的な、タフなキャラクターが好みですね。要所でゴリッと押し込めるような。た

 ただ本作は、戦闘スタイルとロールプレイのビルドの幅が多く、まだいろいろと試しているところで、後々もっとお気に入りが出てくるような気がしています。

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――ボス戦についてもお聞かせください。“接ぎ木のゴドリック”のようなデミゴッドのデザインがとくにすばらしい!

宮崎デミゴッドに共通するデザインコンセプトは、英雄的であることですね。

 もちろんそれは、我々が広義で解釈する“英雄的”ということですし、かつて英雄であった者たちが、敗れ、堕落し、歪み、変質し、異形になり果てた、といったところまでを含んだものですが。

――ほかの敵にはない特徴的な攻撃もボス戦の楽しみのひとつですが、モーションなどを構築する際に気を付けているポイントは?

宮崎ゲーム的には理不尽でないことですが、加えて、しっかりと圧力と殺意があることを重視しています

 そうしたモーションは、パラメータ的な難易度と相乗効果をなし、敵を大きな脅威であると感じさせてくれますし、それを何とか倒したときの、喜びと安堵を大きくしてくれます。

 本作のテーマのひとつは、『ダークソウル』シリーズから変わらず、困難を克服した達成感ですが、その達成感を高めるために、あるいは、困難が克服可能でありながら絶望的な脅威であると感じられるために、モーションが圧力と殺意を持っていることが重要なのです。

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――その圧力を感じさせるデミゴッドの語り口も“らしい”要素だと思うのですが、デミゴッドも含めてNPCの声優の選定には宮崎さんも関わっているのですか?

宮崎本作に限らず、自分で脚本を書くすべてのタイトルについて、キャスティングはすべて私自身で行っています。

 やりかたに特殊なところはなく、ごくふつうに、そのキャラクターと求める演技に合った役者さんを選ぶのですが、ひとつ特徴を挙げるとすれば、同じ英語であっても、言語圏にこだわっていることでしょうか。設定によって、このグループはケルノウ系、このグループはウェールズ系など可能な限り英語のニュアンスを調整するようにしています。

――そういったこだわりが英雄譚をより勇壮なものにするのだと思います。それは音楽にも言えることですが、音楽においてテーマはあったのでしょうか?

宮崎とくにデミゴッドとの戦闘BGMなどに、ご指摘の特徴があるかと思いますが、そのコンセプトはアートデザインと同じです。つまり、何らか“英雄的である”ことですね。

オープンなフィールドの解放感と自由度で親しみやすいタイトルに

――本作ではマルチプレイのハードルを下がっている印象ですが、あらためてその狙いをお聞かせください。

宮崎たびたび言及した“自由度”という文脈からも、また、純粋なアクションに依らず、困難を克服しようとするいち手段としても、マルチプレイのハードルを上げることは、あまり相応しくないと判断しました。

――グループ合言葉も本作ならではのユニークな要素ですが、このシステムを実装した理由は?

宮崎ひと言で言えば、いっしょに遊ぶことのハードルを下げ、またその定義を更新したい、ということでしょうか。

 幻影や死亡血痕、メッセージなどの非同期要素について、“全世界のユーザー誰かのもの”から“グループ内の、認識可能な誰かのもの”となることで、これまでとは違った意味、あるいは遊びかたが生まれていくことを期待しています。

 たとえば、メッセージであっても、“誰に読んでもらえるかわからないし、そもそも読んでもらえないかもしれない”ものから、“おそらくは、グループ内の認識可能な誰かに読んでもらえる”ものになることで、それを書くモチベーション、意味も変わってくるのではないかと。

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――オンラインにつないで遊ぶことに対するユーザーのスタンスの変化が新しい遊びにつながる可能性は大いにありますね。では、そろそろまとめに。本作でフロム・ソフトウェアのタイトルを初めて遊ぶに、冒険を楽しむコツがあれば。

宮崎あまり構えず、また最適であろうと意識せず、気楽にプレイしてほしいですし、死を恐れず、むしろ死を含めた試行錯誤を楽しんでほしいです。それこそが、我々が意図する、本作の王道的な楽しみかたなので。

 我々の過去作、たとえば『ダークソウル』シリーズなどと比べても、オープンなフィールドの解放感、そしてもろもろの自由度により、親しみやすいタイトルになっていると思います。

――メイン部分のみを追うのであれば30時間のプレイを想定されているとのことですが、隅々まで遊びつくすとしたら、どれくらいのプレイ時間を想定されていますか?

宮崎うーん、プレイ時間に言及するのは苦手ですね。人による違い、また慣れと知識量による違いが大きいところなので。

 ただ、本作が、たとえば『ダークソウル』シリーズなどと比べても、より大きなボリュームを持っていることは確かです。

――本作の開発は、宮崎さん自身だけでなく、フロム・ソフトウェアの今後のゲーム作りにおいて、何かしらの影響を与えましたか?

宮崎将来のことはわかりませんが、恐らくあるだろうと思います。本作が、優秀な人材が育ってきたことで初めて作り得たものであることは、すでにお話しした通りですが、そうした人材の、さらなる新しいチャレンジにつながっていったらうれしいですね。

――最後に、本作の発売を楽しみにしているユーザーにメッセージを。

宮崎未知の大きなフィールド。脅威と謎と、出会いとドラマと、神話が散りばめられた世界。自由な冒険と、そして手に汗握る激しい戦い。勝利の達成感。そういった、ストレートなものを作ったつもりなので、ぜひ、多くの皆様に楽しんでもらえればと思います。

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