『エルシャダイ』からアンリアル・エンジン、国産エンジン・シェーダーまで――ゲームエンジン&ミドルウェアの現在【GTMF 2011】
ゲーム●重要性が増すゲームエンジンとミドルウェアの現在がわかる展示会
2011年6月30日、東京都内でゲーム開発者を対象としたツール&ミドルウェアの総合展示会“Game Tools&Middleware Forum”が行われた。ゲーム開発を行う上で重要性が高まってきているゲームエンジンやミドルウェアに関する講演から、トピックを整理してお届けしよう。
エピック・ゲームズ・ジャパンでサポート・マネージャーを務める下田純也氏は、『進化し続けるアンリアル・エンジン』と題した講演で、同社が誇るUnreal Engine(アンリアル・エンジン)の最新情報を解説した。
Unreal Engineは1996年に登場したゲームエンジン&統合型ゲーム開発ツール。『ギアーズ オブ ウォー』シリーズをはじめ、200以上のトップクラスのタイトルに採用されている。その『ギアーズ オブ ウォー』など、自社開発タイトルの開発チームからのフィードバックを受けて、より使いやすく、開発チームが欲しい機能を追加しながら進化してきた。現在はDirectX 11世代の技術に対応しながら、ハイエンドゲームだけでなく、iPhoneなどのモバイル端末にも対応。海外のゲームエンジンビジネスの代表的なゲームエンジンと言える。ゲームを起動したときに“u”の字のロゴを見たことがある人も多いのではないだろうか。
●そもそもゲームエンジンってナンだ?
では、なぜUnreal Engineのような外部のゲームエンジンを利用するのか? それについては、急速に広まっているゲームエンジン“Unity”の日本担当ディレクターである大前広樹氏が『Unityで始める 不幸にならないためのゲームエンジンとのつきあい方入門』で行った説明がわかりやすい。大前氏はゲーム開発のパターンを4段階に分けて、以下のように説明した。
STAGE1: コードの時代
プログラマーがゲームのすべてを担当し、すべてがコード(プログラム文)によって表現される時代。なにかを修正して反映を確認するまでに、非常に時間がかかる。
STAGE2: データの時代
データを再生するエンジンと、データを作成するための開発環境によってゲームを作る。企画とデザイナーは各種ツールでゲームを作り、プログラマーはツールで表現できないゲーム要素を作っていく。なにかを修正する際には、データだけなら企画職やゲームデザイナーが自分で確認できるが、ものによるとプログラマーの手を借りなければならないことも。
STAGE2.5: スクリプトの時代
STAGE2とほぼおなじ。データの振る舞いなどはスクリプトで記述しており、よりプログラマー以外の手作業で確認できるものが増えた。
STAGE3: ゲームエディタの時代
ゲームを実行するためのエンジンと、動的にゲームを作れる統合型エディタでゲームを開発する。変更点はリアルタイムに確認可能。代替用のデータで作業し、あとでデータを差し替えることもできるので、誰かの作業を待たずに並行して作業を進めることができる。
この分類に沿って、なぜ外部のゲームエンジンを使うかを整理しよう。かつてはゲームの要素のすべてをプログラム言語で記述していたが、ゲームの規模が拡大した現在、それをいまやるのは難しい。キャラクターモデルを作る人、モーションを作る人、演出する人、音を作る人、テクスチャーを作る人……といったような分業が必要となり、ゲームエンジンはそれらをまとめて動かすコアの部分を担うことになる。だが、ゲームを作るごとに最新技術を盛り込んだゲームエンジンを開発するのは手と人が掛かりがち。外部のゲームエンジンを持ってくれば、お金がかかるぶん、エンジンの開発は外部にまかせて省略できる。外部のゲームエンジンを使う第1のメリットだ。
第2のメリットは、プログラム知識に依存しなくていい部分が増えたこと。多くのゲームエンジンでは視覚的にゲームの要素をコントロールできるエディターを持っており、オブジェクトやキャラクターを置いたり、音をどこで鳴らすか決めたり、カメラや光源を変えて演出する作業をリアルタイムかつ簡単に行うことができる。どのパラメーターがどんな部分に関係しているかを知っておく必要はあるが、そういった作業を行うにあたってプログラムの専門的知識は必ずしも必要ないというのがミソ。演出をする人は、ツールの使いかたさえ分かっていれば、演出の知識を存分に発揮することができる。
第3のメリットは、より合理的な時間コストの節約。仮データでガンガン作業を進めることができるので、ほかのパートの作業が完了するのを待たずに済むことが多い。大前氏は、48時間でゲームを開発する“Global Game Jam”に参加した際に、アーティストがテクスチャーなどのデザインを作るのと並行して、仮データでコンセプト検証用のプロトタイプを制作したことを例に挙げていた。
Unreal Engineのセッションでは、実際にレベル(マップ)エディター“キズメット”やカットシーンを作り込むエディター“マチネー”の作業画面を見せながら、その場で頂点カラーを弄って岩に苔がかかっているように見せたり、濡れている感じに見せたりといった作業をリアルタイムに行ってみせていた。ライティングやオブジェクトの“汚し”などは後からいくらでも直せるというのは、ここでも語られていたことだ。
これらのメリットは、いずれもゲームエンジンやエディタという仕組みを用意することで合理化して待ちコストなどを減らし、より自分の専門分野に注力するという論理だ。結果として開発スピードを上げているが、大前氏は「ゲームエンジンを導入する価値は速度だけ」だと語り、逆に「速度のために自分たちの価値を犠牲にするのであれば意味が無い」と言い切る。
そして「エンジンとは考え方であり、仕事の仕方である」ため、導入するのであれば戦略をきちんと立てるのが需要として、Unityは導入コストも安く(しかも、前年度の年収が10万ドルを超えていない個人やインディーデベロッパーであれば、無料版で製品を作って売ることも可能)、試しやすいことなどを挙げた。最後は、日本のゲーム業界は世界から見てもユニークなものが生まれやすいとして、その独自性を活かし、エンジンを利用することでおもしろいゲームをどんどん作っていきましょうと語りかけて、セッションを終えた。
かつて海外製のゲームエンジンは日本でのサポートが弱いという評もあったが、それもしだいに変わりつつある。エピック・ゲームズ・ジャパンでは日本語のドキュメントやフォーラムを整備しており、講習会なども開催しているとか。CEDEC 2011では、『ギアーズ オブ ウォー 3』のプログラマーやレベルデザイナーを実際に呼び、いかにツール群を利用しているかを講演するとのこと。
●日本からの勝負
一方、“国産オールインワンゲームエンジン”を標榜するものもある。シリコンスタジオの“OROCHI”だ。ポストエフェクトミドルウェア“YEBIS”やエフェクトツール&ミドルウェア“BISHAMON”など、12のライブラリと40以上の開発ツールを備えており、マルチプラットフォームに対応した「Made in Japanの全部入り」(パンフレットより)で、インターフェースやドキュメント、サポートもすべて日本語ということを売りにしている。
プレゼンテーションでは、モーションブラーや照準の位置に合わせた被写界深度とオートフォーカス、プロシージャル生成、カットシーンエディター、フローチャート式のAIエディター、パフォーマンスを改善するための各種ビューワなど多彩な機能やツール群を紹介。
その上で最後に、昨今のゲーム業界が苦しい状況が続いている中、日本語サポートに強いゲームエンジンが少なく、なかなか採用できないという事情を鑑みて開発したと開発意図を語り、「日本人の分業で勝負をかけていきましょう」とプレゼンテーションをしめくくった。
日本産ということでは、ボーンデジタルが販売するMaya&3ds Max用シェーダープラグイン“日の丸”が、“日本ならでは”の表現に強いミドルウェアとして記憶に残った。Unreal Engineなどは欧米のハイエンドゲームでは欠かせない“フォトリアル(写真のようなリアリティー)”の表現を得意とするが、日の丸が得意とするのは“ノンフォトリアル”。3DCGをイラストレーターが描いたかのようなタッチに仕上げることを可能とする。輪郭線を描き出したり、照り返しを加えたりといった効果にも対応しており、これが素人目にもなかなかスゴい。
プレイステーション3やXbox 360のゲームに対応可能とのことで、プレゼンテーションではUnity上に組み込んだデモも披露された。今後はさらに細かなニーズに応えるべく、描線周りの機能を強化していきたいとのこと。
●『エルシャダイ』のアートスタイルはこうして生まれた
最終セッションでは、イグニッション・エンターテイメントの『エルシャダイ』の開発事例が明かされた。まずはアートディレクターを務めた堀壮太郎氏が、本作の独創的なグラフィックスタイルの秘密を明かした。
2007年当時、ディレクターの竹安佐和記氏から伝えられたオーダーは、独自性のあるアートワークにするということ。そして最初に伝えられたイメージは、“旧約聖書が元で天使が出てくる世界”。堀氏は重厚な宗教画の感じをイメージしたというが、これは独自性というには物足りない。
そして次に伝えられたのは“iPodのCMのようなシンプルな画面”でというもの。完全に予想外だ。“SFのような未来世界も機械文明もある”、“誰も見たことのない世界”、“ほかのタイトルに埋もれないグラフィック”と続く。いま『エルシャダイ』のアートスタイルの完成形を知っている我々からすると「確かに合っているかな」とも思えるが、こうして文字だけ並べてみるとなかなかカオスだ。
堀氏はあれこれ苦心しながらコンセプトアートを描き、最終的に、シンプルで大胆なシルエットで画面を構成し、シーン自体の情報を絞ってゲーム情報を押し出すこと、そのために起こる物足りなさをカバーするためにシーンごとにイメージの変化の幅を持たせることを狙ったという。コンセプトアートの実物も披露された。
このコンセプトアートは、ゲーム上での実装を想定していないもの。ゲーム上で実現するためには、シーンごとに特殊なシェーダーがいくつも必要となる。プログラマーにこれらのシェーダーを発注するにあたり、デザイナーサイドでシミュレーションしてからプログラマーに発注する形を取ることで、かなりイメージしたプロトタイプに近いものを最終出力で得られたという。
そのオーダーを受けていたのが、描画プログラムのリーダーを担当していた奥川剛氏だ。堀氏から伝えられたのは、“iPodのようなシンプルなデザイン”、“誰も見たことのない新しい世界”、“変わり続ける世界”を実現したいということ。エルシャダイの各ステージは、シェーダーで計算した模様がライトやカメラに応じて常に動き、その上でポストエフェクトを重ねる、かなり手の込んだ幾何学的かつ幻想的な絵作りとなっている。
ポストエフェクトの作成とゲーム中のアニメーションを設定するシーンエディタでは、40〜50種類のポストエフェクトを好きな順番にかけられるようになっており、実際にすべてをモノクロにするエフェクトをかけた上でキャラクターだけマスク処理をかけたり、その上でさらに武器のパーティクル処理をモノクロエフェクトの後に回してカラーにするといったデモが披露された。
このようにしてオリジナリティあふれる画面を作ることができたものの、シェーダーが影響し合っている関係で、あるパートで変更したことが別のパートで問題になってしまうなど、事故が多発。最適化やデバッグ作業もかなり「泥臭く大変」(奥川氏)なものになったという。
最後は、テクニカルリードを担当した西澤成人氏が、ミドルウェア導入の経緯と問題点、克服方法などを語った。イグニッションエンターテインメントの東京スタジオは、それまでの開発資産がないゼロからのスタート。方向性を固めるために試行錯誤する期間と最後の調整期間をできるだけ長く取るため、ミドルウェアの力を借りることにしたのだと語った。
ゲームエンジンのベースはGameBryo2.6のスレッド処理と描画関連を改造したもので、選定にあたってはUnreal Engineと比較し、当時Unreal Engineは日本にサポートがないことで情報も少なく、同時に独自のアートスタイルに合わなそうだということがネックとなり、一方のGamebryoは奥川氏という経験者もいたことが強みとなった。
西澤氏はミドルウェアの利点を、インテグレーション(集積)が提供されていること、それぞれがビューワーを持っていて、ゲームデザイナーがすぐ使って結果を確認できること、マニュアルやサポートがあることとする一方、欠点についても「問題が起きたときに自分たちでは解決できない」とする。
これは複数のミドルウェアが衝突して起こっている問題ならばなおさらで、どちらの処理が悪いのかわからず、自分たちで解決しなければならない。カスタマイズして使っている場合は言うまでもない。
対処法は、ミドルウェアメーカーと連絡を密に取ること。カスタマイズなどは正式版に導入してもらえるようにしてしまい(正式採用されたらサポートが受けられる)、複数のミドルウェア間の問題解決方法などは購入前に取り決めておくようにしたとか。細かくやり取りすることで、問題を前向きに解決していくのだ。アニメーションに使っているミドルウェア“Morpheme”は、メーカーのNatural Motionと協力して機能を追加していき、実際に「かなり使いやすくなった」(西澤氏)とのこと。
ミドルウェア製品には海外のものが多いことから現場の声を伝えるのを躊躇することが多いと思うかもしれないが、普段からコミュニケーションするのがカギであり、機械翻訳を使ってでも連絡を取るとか、担当者は些細な問題から聞く癖をつけることで、欠点を克服してよりより開発ができるはずだとしめくくった。
ゲームエンジンやミドルウェアはあくまでゲームの一部を担うツールであって、ゲーム開発の問題を解決する万能薬というわけではない。しかしながらゲームが大規模化し(あるいは小規模プロジェクトでもどう効率化するかが求められ)、マルチプラットフォーム開発が進む現在、無視することはできない存在であり続けるだろう。
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