『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋社長×大舘隆司氏が仕掛ける、ガッツリ本気な産学連携授業

『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋社長×大舘隆司氏が仕掛ける、ガッツリ本気な産学連携授業
 サイバーコネクトツーのゲーム『戦場のフーガ』を原作とし、ファミ通.comにて隔週火曜日に掲載しているマンガ『戦場のフーガ 鋼鉄のメロディ』ですが、本日休載のため、『戦場のフーガ』シリーズに関する特別インタビューをお送りする。
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 東京情報デザイン専門職大学(以下、TID)のゲーム制作実習に、異色のゲスト講師が訪れた。株式会社サイバーコネクトツー代表取締役・松山洋氏だ。今年度のゲーム分野の授業では、サイバーコネクトツーのオリジナルIP『戦場のフーガ』を題材に、新規ゲームプロトタイプを企画・制作する。そして、この授業の教鞭をとるのは元バンダイナムコスタジオの大舘隆司准教授だ。

 『戦場のフーガ』はRPGだが、本実習ではそれとはまったく異なるジャンルやゲームシステムを制作する。学生は5名1チームで7チームを編成し、7月の最終発表に向けて取り組む。企業側から本物のRFP(提案依頼書)が提示され、評価観点も1ゲームとしての成立性や、新規性、実現性などの7つの項目に明確に定められた、リアルな開発プロセスを擬似体験できる実習だ。

 しかも提供される素材は、本物のゲームデータ。MAYAのFBXファイルはもちろんUI素材など、制作素材がそのまま学生に渡された。通常は入社しなければ触れられないプロのデータを、学生が自由に使えるのだ。

 なぜこのような授業が実現できたのか、その真の目的とは。松山氏と大舘准教授にお話を聞いた。あわせて、熱意に満ちた授業の様子もお届けする。

松山洋まつやまひろし

サイバーコネクトツー代表取締役社長兼ゲーム製作総指揮。現在は『.hack//Z.E.R.O.』を開発中。2026年5月15日には原作を担当したマンガ『チェイサーゲーム』のドラマ版『チェイサーゲームW』シリーズの続編となる映画版『チェイサーゲームW 水魚の交わり』が公開。

大舘隆司おおだて りゅうじ

バンダイナムコスタジオにて『テイルズ オブ』シリーズに携わる。2023年より東京情報デザイン専門職大学にて准教授として、ゲーム制作演習·実習、ゲーミフィケーション論、情報デザイン演習·実習などを担当する。

座談会:大舘准教授 × 松山氏――「本物を使って、本物を学ぶ」

『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋氏×大舘隆司氏が仕掛ける、東京情報デザイン専門職大学がガッツリ本気の産学連携授業を実施
 TIDでこの授業を設計したのは、バンダイナムコスタジオ出身のプロデューサー・大舘隆司准教授だ。「漠然とゲームを作るだけでは意味がない」という問題意識が出発点だったという。

 「前職では、IPをお預かりして、それをファンに届けるためにゲームにすることが多かったです。であれば、学生のうちからそういう環境に触れられる機会があるといいと思ったんです」(大舘准教授)

 連携先として真っ先に思い浮かんだのが、旧知の松山氏だった。もともとサイバーコネクトツーは、仕事や人材紹介を通じて距離の近い関係。

 「ゲーム会社にこんなことをお願いしたら怒られるんじゃないか、と遠慮するケースが多い中で、私はゲーム業界のことも、松山氏が快諾してくれることもわかっていた」と、大舘准教授は笑う。

 オファーを受けた松山氏は「やるんだったら中途半端なことはせず、ガッツリやろう」と即答した。
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 プロのデータを学生に渡す、という決断。

 今回もっとも注目すべきは、サイバーコネクトツーが“本物のゲームデータ”をそのまま学生に提供したことだ。

 マンガ・ゲームの参照資料にとどまらず、制作に使ったアセットデータまで学生の手に届けられた。学生がそれを初めて開いた瞬間、プルプル震えていたと大舘准教授は言う。

 「プロのデータを見たことのない学生がほとんど。ふつうは入社しないと触らせてもらえないし、チームによってはそれすら禁止というところも多い。でも今回は目的が明確なので、全部どうぞと渡しました」(松山氏)

 なぜそこまでするのか。松山氏の考えはシンプルだ。

 「ゼロイチで何か作ってみろというのは、取っ掛かりがなさすぎる。わからないことがわからないから、完成イメージが見えない。でもプロの素材がそこにある状態なら、きっかけが作りやすい。しかも将来どこかのゲーム会社に入ったとき、最初にやるのは先行プロジェクトの仕様を読み込む仕事です。それを学生のうちからやれるのは、めちゃくちゃ有利ですよ。後は、卒業生がゲームメーカーに入ってくれれば、業界の活性化につながりますから」(松山氏)

「ゲームが好き」を言語化する——大舘准教授の仕掛け

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 毎回の授業の冒頭、大舘准教授は“ゲーム好き力強化ワーク”と名づけた10分間のセッションを行っている。ペアになった学生が互いに、自分の好きなゲームとその理由を1分間語り合うというものだ。

 「最近は、自分が好きなものをうまく言語化できない学生が多いんです。就職活動で“なぜこのゲームが好きなのか”、“なぜゲーム業界を目指すのか”をちゃんと語れないと、面接でも苦労する。だから小さいところから言語化の訓練をしているんです」(大舘准教授)

 おもしろいのはその効果だ。最初のうちは「妹といっしょに『
太鼓の達人』をやって楽しかった」というような思い出話が多い。

 ところが毎回くり返すうちに、

 「あのゲームのここの仕様がこうなっているからおもしろい」、「この差別化ポイントが競合と違う」 

 という構造的な分析が自然と出てくるようになるという。

 「好きを語ることのくり返しが、ゲームを分解する目を育てていく。授業として非常によくできていると思いますよ」と松山氏も評価する。
 

プロが本当に求めるコミュニケーション能力とは

『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋氏×大舘隆司氏が仕掛ける、東京情報デザイン専門職大学がガッツリ本気の産学連携授業を実施
 松山氏が授業前に強調したのが、ゲームクリエイターに求められるコミュニケーションの水準だ。

「ゲーム会社のイメージって、黙々とパソコンの前でカチャカチャ作っているというものが多いと思いますが、じつは思いのほか話し合っている時間のほうが長いんです」(松山氏)

 プロの現場では、自社タイトルだけでなく他社のゲームについても真剣にミーティングを行う。どういう狙いでそのゲームデザインになっているのかを分解・分析したうえで、自分たちのプロジェクトをどう展開するかを議論する。

「その能力はプログラマーにもアーティストにも求められる。一般企業より求められる水準が2段階くらい高いんです」(松山氏)

 だからこそ、作る前の話し合いが重要だという。

 「サボるから失敗する。”仕様書通りに作りました”と言われたら怒るよ、というのはどこの現場でも起きること。いいチームほど、作る前に、予防線を張るためのミーティングをしっかりやるんです」(松山氏)

 目標なきものづくりは完成しない。
『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋氏×大舘隆司氏が仕掛ける、東京情報デザイン専門職大学がガッツリ本気の産学連携授業を実施
 この授業でどのような努力を学生に求めるかを大舘准教授に聞いた。

 「“とにかく作るしかない”です。松山さんの著書『ゲーム業界の攻略法』にも書かれていたことですがまさにその通りです」(大舘准教授)

 「取り上げていただいてありがとうございます(笑)」(松山氏)

 「でも本当のことで、とりあえず10本作ってみて、本当に自分がやりたいことがあればそれを11本目に作ればいい。そしてそれにはゲームが好きであることが大前提です。そのためにはいろいろなゲームを触れていないといけない。クリエイターを目指す学生には全身でゲームが好きであることをアピールしていってもらいたい」と大舘准教授は語った。

 一方、松山氏がゲームを作るうえでもっとも重視するのが目標設定だ。授業前のインタビューでこう語っていた。

 「“作れと言われたから作っています”では話にならない。ゴールがないから戦略が生まれない。完成した末にSteamで出すとして、何千ダウンロードを目指すのか。その目標から逆算して初めて計画が生まれる。プロでたまたま売れましたなんて人間はひとりもいない。学生だからといって無計画でいい理由はない」(松山氏)

 もっとも、最初の1作目はそれでいいとも言う。

 「何の目標もなく、とりあえず作ってみる。それはいいんです。でも完成して赤の他人に触れる場所に置いたとき、なぜ誰にも届かないんだろうと死ぬほど後悔する。そこで初めて気づく。だから2作目からそれをやれというのではなく、最初からわかっていればその遠回りをしなくて済む。いますぐ決めてほしい」(松山氏)

利用できるものは何でも使えばいい——それが松山氏の一貫したメッセージだ

『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋氏×大舘隆司氏が仕掛ける、東京情報デザイン専門職大学がガッツリ本気の産学連携授業を実施
 「AIだろうと、Unityだろうと、プロのデータだろうと、おもしろいゲームを作ったやつが勝ちなんですよ。お手本がそこにあるんだから、後は勝つだけ。いまの学生は言い訳できない環境にいる」(松山氏)

 真剣な眼差しが刺さる授業。

 「学生の本気度が高い」と大舘准教授が言っていた通り、18名の学生たちは松山氏の発言の一言一句を噛み締めるように聞き入っていた。松山氏の言葉に、学生たちの頷きがさざなみのように広がる様子が印象的だ。その後、グループごとに制作中の作品を松山氏に直接プレゼンし、講評を受けた。
『戦場のフーガ』本物のゲームデータを丸ごと提供。CC2松山洋氏×大舘隆司氏が仕掛ける、東京情報デザイン専門職大学がガッツリ本気の産学連携授業を実施
 松山氏に、学生たちのプレゼンの感想を聞いた。

 「IPをちゃんと理解したうえで企画を作っているのは、本人たちの能力と先生の指導の賜物だと思います。ただ、余計なことをいっぱいやっているな、ここに絞ったらいいのに、という内容も多かった。思い描いている理想と現実のギャップを埋めるには、身の丈に合った計画とステップを踏む順番が必要。残された時間を考えると、いますぐ立て直したほうがいい。そこを先生がしっかり指導してくれると信じています」(松山氏)
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