【2026年予測キーワード】“生成AIクリエイター”の群雄割拠時代に。氷川、細川、ひばり……IPコンテンツ制作のDX化に注力する日本コロムビアの取り組みを紐解く【中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編】

【2026年予測キーワード】“生成AIクリエイター”の群雄割拠時代に。氷川、細川、ひばり……IPコンテンツ制作のDX化に注力する日本コロムビアの取り組みを紐解く【中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編】
 立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、海外ゲーム情報を中心とした連載ブログ。今回は、ゲーム産業を中心とした周辺エンタメ分野の“キーワード”となる言葉についてお届けする。
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日本コロムビアグループが“AI一択”の狼煙を上げる場となったAI動画制作コンテスト“COLOTEK”。ここからすべてが始まった。
 本コラムでは例年、年明けに来る1年におけるゲーム産業を中心とした周辺エンタメ分野の“キーワード”となる言葉について、筆者の直感に基づく展望をお伝えしてきた。本年のキーワードは、タイトルにもある“生成AIクリエイター”としたい。2026年は、この“生成AIクリエイター”が群雄割拠する1年となると予想する。新年のコラムは、“生成AIクリエイター”の躍進を予想するにいたった背景と、それを後押しするIPビジネスのキーマンの取り組みをお伝えする。

 “生成AI”は、ここ数年で一般のニュースでもしばしば取り上げられるほど注目のキーワードとなり、エンタメ業界にとっても無視できない存在となっている。その中で一気に注目を集めつつあるのが“生成AIクリエイター”た。筆者はこの躍進を2026年最大の注目キーワードと捉えているが、じつはかなり前からその予兆はあり、昨年あたりには顕著であったと実感する。

 AI先進国である米国においては、昨年2025年夏の時点で、AIで作られた虚構バンドThe Velvet Sundownが話題となっていた。また、2025年11月11日付の音楽チャートBillboardの“Billboard Airplay Chart”(ラジオの放送回数を集計するチャート)において、Telisha "Nikki" Jonesが創出したバーチャルR&Bアーティスト、Xania Monet(ザニア・モネ)による楽曲「How Was I Supposed to Know?」(Jones自身が作詞し、音楽生成AIのSunoが作曲)が 、AIアーティストとして史上初のランクインを果たした。

 加えて大手企業の動向としても、ワーナー・ミュージック・グループ(WMG)が、2025年11月、音楽生成AI企業大手、SunoやUdioと提携し、IP保護を前提としたライセンス契約を締結した。さらにディズニーグループはOpenAIに10億ドル(約1500億円)を出資し、2026年前半から同グループが有する200以上のキャラクターをSoraやChatGPTで利用可能とすることで合意にいたるなど“生成AI”を取り巻く大きな動きがすでに始まっている。

 こうした潮流は、確実に日本にももたらされつつある。音楽業界では、かねて生成AI導入に意欲的だったユーミンこと松任谷由実が、昨年2025年10月にリリースしたアルバム
『Wormhole/Yumi AraI』において、ふたりのユーミン(荒井由実と松任谷由実)の歌を学習したAIが生成した第3のアーティスト“Yumi AraI”による楽曲を収録し、話題となった。年明けには、全編AIを取り入れた細川たかしによる新曲「カムイ岬」のミュージックビデオ(MV)が界隈を賑わせている(後述)。そうした背景もあり、今度は歌い手たるアーティストのみならず、それらを作り出す“生成AIクリエイター”に焦点が当たり、さまざまな分野でメディアを賑わす年になるのが2026年と見る。

 筆者が今回フィーチャーした“生成AIクリエイター”というキーワードを初めて耳にしたのは、2025年9月13日から14日にかけて開催されたAIクリエイティブコンテスト“COLOTEK(コロテック)”がきっかけだ。“君の中にいるモンスターを映像化せよ”とのミッションのもと、活動休止明けの氷川きよしが小室哲哉をプロデューサーに迎えて制作した楽曲「Party of Monsters」(氷川きよし with t.komuro)を題材に、AI映像作品
『カプセルムービー』が公募されたもので(同曲はテレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ』のエンディングテーマでもあった)、筆者も学術研究の一環として、クリエイターの立場から作品を制作し、参加したのだ。イベント当日は応募総数120名のうち13チーム(40名)と個人14名の総勢54名が選抜された。

 このコンテストを主催したのが、創業115年を迎えた現在のIPビジネスの最古参の一社とも言える日本コロムビアを傘下に持つ、日本コロムビアグループ。これと前後してオンラインやオフラインでAI映像コンテストは実施されつつあったが、IPビジネスの老舗が所属するアーティストの楽曲使用を前提に行われたコンテストである意味は、業界ならずとも大きなトピックスであり、関心を抱いた応募者も多かったに違いない。

 日本コロムビアグループでは、いままさに次回“COLOTEK”開催に向けて取り組んでいるが、業界にも影響力のあるIPビジネスの雄の“AIへの全フリ”決断と取り組みは、“生成AIクリエイター躍進”という筆者の2026年予測を大きく裏付けるトピックスだ。同社は、いかに“AIへの全フリ”を決断したのか。連続実業家(シリアルアントレプレナー)アーティストとしても活躍する日本コロムビアグループ株式会社 代表取締役社長、CEO セオ氏(佐藤俊介氏。以下、 セオ氏)とそのブレーンたちに話を伺う機会を得たので、次項に詳らかにしようと思う。

伝統とAIの融合で加速化する日本コロムビアグループにおける“COLOTEK”という特異点

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グループ全体の成長ドライバーを“AI一択”にしぼったCEO セオ氏。
 創業115年を迎えた日本最古のレコード会社、日本コロムビア。その長い歴史の中で、2025年は“AI”によって企業DNAが抜本的に組み替えられた年と言える。クリエイティブ産業において大手であればあるほど、AIの扱いについては研究を推進してはいるものの、“極めて慎重にならざるを得ない”のは自然だ。そのような中で、AIの活用に対し“フルベットした”のが同社とも言えるだろう。

 これについては、2025年3月当時、日本コロムビアの親会社(2014年に傘下に収めていた)であったIT企業、株式会社フェイスの代表取締役として前述のセオ氏が就任したことが大きい。(現在の日本コロムビアの親会社は、フェイスが2025年10月に設立し、セオ氏が代表を兼任する日本コロムビアグループ)

 セオ氏は、24歳のときに企業を共同創業したのをきっかけに、成長事業の立ち上げを担う連続起業家としての活動を始め、黎明期のインターネット広告企業での経験からオンラインマーケティングに強みを発揮する。2010年代に自社で展開していたファッションブランド拡大のためにシンガポールに移住した後には、Facebookで500万人のフォロワーを獲得するほどの反響をもたらし、日本のブランド、IPを東南アジア中心に世界に広げるビジネスを推進した。

 その後、トランスコスモスに自社の会社を売却したうえでトランスコスモスの取締役CMO(最高マーケティング責任者)に就任。その際に、同社コールセンターのDXを標榜したチャットボットによるデジタル化を推進した。ほぼ同時期に音楽活動もスタート。堀江貴文氏とユニットを組み、MV制作をプロデュースするなど、その活動は多岐にわたっていたのだ。

 一方、セオ氏がトップに立つことになるフェイスは、着メロサービスを世界で初めて展開し、以降も音楽配信やプラットフォームを事業の主力としてきた。さらに2010年に日本コロムビアの主要株主となり、その後連結子会社化してフェイス・グループに迎え、2017年に非上場化、完全子会社化して現在にいたっている。だが音楽事業については、日本コロムビアはもちろん、フェイス自体も音楽産業での事業の取り組みから33年経過して硬直化していたこともあり、従来の枠にとらわれずに有するIPを最大限活用していきたいとの思いから、セオ氏に白羽の矢が立ったのだ。

 フェイスの代表取締役社長に就任したセオ氏がまず考えたのが、事業再編と成長戦略へのシフトだ。フェイスが展開している事業の中で不採算だった事業を清算したうえで、あるひとつの結論にいたった。それが“AI一択”という結論だ。当時、Web3の名のもとにメタバースやNFTといった新興テクノロジーに事業進出をしている企業が数多くいた中、どれも“100%の確信”を得ることができず静観の立場を貫いていたという。だが、AIにのみ“100%の確信”を見出していたとセオ氏は言う。

 「新しい成長ドライバー、柱を作るには”どう考えてもAI一択だ”と。3月に(フェイス社長に)就任して1ヵ月目ぐらいに”AIクリエイター向けのハッカソンをやろう”と決めました。私の経営判断は自分が100%納得できることしかやらないというルール。AIの場合は”思いきり100”と言い切れました」(セオ氏)

 もちろん、セオ氏はリスクが十分にあることも認識していたという。だが、そこで活かされたのが起業家としての経験値だった。

 「起業はリスクよりリターンの時間軸で判断します。AIにコミットするほうが、圧倒的にリターンが大きいという判断ですね」(セオ氏)

IPビジネス老舗の鉄壁の法務が下支えするリスクヘッジ

 セオ氏のビジョンに基づき、実行部隊を担ったのがフェイス企画統括室の森崎樹生氏と中村美里氏だった。プロジェクトは実質的にゼロからのスタート。50名もの生成AIクリエイターを集結させるという目標にもかかわらず「実際はもうほぼ99%社内でやりました。一般的に、イベントを開催する際は、外注業者を入れたりします。撮影チームなどはとくにそうです。ですが、今回は、社員それぞれの強みを活かせる場面で声をかけ、チーム編成を実現したのです」と森崎氏はいう。

 クリエイター募集の実務を担ったのは、同じく企画統括室の中村美里氏だ。当初は、関東付近の大学に連絡し、チラシを大学事務室に配架したり、学生に配布したりという地道な活動から始めたという。もちろん、SNSサービスへも広告を出稿した。ただ、応募者数増加にもっとも貢献したのが、AIクリエイターに対してピンポイントにDMしたプロモーションであるという。Xで話題となっているクリエイターを見つけ出し、ひとりひとり声がけすることでクリエイターからクリエイターへと話が伝わっていったのだ。あわせて、AI を活用している年齢層が、意外に30代から40代、50代までの中高年層に多く、ユーザー分布も関東に限らず全国に広がっていたことが、DMでのプロモーションが最大限の効果を発揮した理由ではないかと中村氏は分析した。 
 
 クリエイターへの訴求にメドが立ったとしても、成果を世に示すことができなければつぎにはつながらない。その点においても、日本コロムビアはリスクを回避するべく、あらゆる施策を講じた。筆者がコンテストに参加して実感したのが、作品制作に関するレギュレーションの秀逸さだ。提供された楽曲の活用方法からプロンプトを作る際の留意点など、細かく規定されていた。さらに、楽曲提供側とAIクリエイター側の双方のあいだでトラブルが生じないよう、同意書まで用意されており、ルールが明確に整備されていたのだ。これについては、「ハッカソンをやると決めた直後から法務が中心になって検討を重ねた結果」だったとセオ氏は語る。

 「日本コロムビアという歴史があるゆえに法務が強いのですよね。リスク回避に関してはずっと取り込んでききたので。過去の歴史をちゃんとアセットにしたという感じです」(セオ氏)

現場の空気を一変させた“COLOTEK”成果発表会

 “COLOTEK”の真の山場は、2025年9月の成果発表会の当日、ある瞬間にあった。氷川きよしの楽曲に乗せて展開されたAI映像のクオリティは、会場の空気を一変させた。制作現場の人たちも、完成された作品を目の当たりにして驚きを隠せなかったという。

【“COLOTEK”最優秀賞(グランプリ)受賞作品】 作品名:『ShowMeBeast』 クリエイター:AoKi¹⁰⁴氏
 「本当は全社員が参加してほしかったぐらいですよね。熱量は参加した人たちから伝播していくしかないですが、実際に参加すれば、もっと可能性に気づけたのではないかと思います」とセオ氏は今回のイベントが社内にもたらした影響について述べた。

 実際、この熱量は“COLOTEK”に続く試み、“COLOWORKS(コロワークス)”へとつながっていく。“コロテック発。 AIクリエイティブの“お仕事共創拠点”と銘打って展開されることになったこの試みは、2025年10月29日、COLOTEK用専門サーバー内に新チャンネルが設置される形で進められた。その第1弾が、冒頭でも触れた演歌界の重鎮・細川たかし向け新曲の公式MVであった。同MVにおいてAI技術を主軸に展開されるプロジェクトに対する参加がコンペ形式で競われた。この第1弾の提案に関しては、MV制作に生成AIを活用することに対し、細川たかし本人も興味を示したことから素早く決定がくだされたとセオ氏はいう。

 このようなアーティスト側からの関心については、「いくら形になってないものを言われても、イメージが湧かないと思うのですが、“COLOTEK”であれだけの作品が出てくると、アーティスト側もイメージしやすい」とセオ氏は分析する。
 
 “COLOWORKS”ではその後もコンペが行われており、新規プロジェクトも順調に推移しているようだ。
 
 「日本コロムビアのアーティストだけでやってくのはもったいないと思っている」とセオ氏は語り、こう続けた。「他レーベルのアーティストやクライアント、そのほか、企業に対してもAIを活用した動画向けプロモーション素材などを作っていきたい」(セオ氏)

生成AIクリエーションを促進させる垣根を越えた新たなレーベル

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次回“COLOTEK”は2026年2月21日〜22日に開催される。題材はなんと美空ひばりの「川の流れのように」。
 “COLOTEK”で、“AI×レガシーIP”がもたらすシナジー効果が実証された中、日本コロムビアグループはつぎなる一歩を打ち出すことをすでに決めた。新レーベル“NCG ENTERTAINMENT(エヌシージー・エンタテインメント)”の立ち上げだ。セオ氏はここで、単なる自社制作に留まらない、世界中のAIクリエイターを対象とした所属公募を提案している。
 
 セオ氏によれば、じつは2025年7月からステルスでのAIアーティスト実証実験でPDCAサイクル(“Plan=計画”、“Do=実行”、“Check=測定”、“Action=改善”の仮説・検証プロセス)を回していたとのことで、今回の施策もそこでの結果を踏まえての本格的な展開である。AIアーティストの台頭や大手AIサービスとメディア企業との連携で先行するアメリカ市場が目の前に広がる中、もしこの施策が有効に機能すれば、映画、ゲーム、アニメに続く新機軸のコンテンツクリエイターを世界へと解き放つプラットフォームになり得るだろう。前述のように鉄壁のリーガルチームを有する日本コロムビアの強みを生かしつつ、プラットフォームビジネスを構築するノウハウを有するフェイスの技術力とセオ氏が有するゼロイチを実現する才が組み合わされば、それも夢ではない。
 
 さらにこれらすべての契機となった“COLOTEK”も前述の通り、次回開催に向けて現在参加者を募集中だ。今回のテーマは前回のプロジェクトを凌駕するほどのインパクトがある美空ひばりの「川の流れのように」。以前、NHKのプロジェクトでAI技術を使って美空ひばりをAIの力で復活させたのが2019年9月。それから7年弱にもたらされたAIの進化でどのようなクリエイティブが実現するのを確認できる非常に興味深いチャンスになるだろう。さらに優秀賞は公式MVとして採用されることも決まっている。まさにAIのプロフェッショナルとなるうえでの登竜門のような位置づけにまでコンテストが昇華されていると言ってもよい。

 新たな才能がここから見いだされ、“COLOWORKS”、NCG ENTERTAINMENTでその才能を開花していくことだろう。AIを主軸としたクリエイターエコシステムがいよいよ日本でも完成する。
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前回“COLOTEK”の授賞式で参加クリエイターが集結。これらの人たちはいまでも交流があるのみならず、コラボレーションも進んでいると聞く。
 現在、ゲーム業界ではあくまでもクリエイティブプロセスの一部やリサーチの一環としてAIを活用することは許容しているものの、AI使用を理由に賞の受賞が剥奪されるなどの抵抗も強い。だがAIを活用するうえで必要となるプロンプトエンジニアリングや、プロンプトを通したクリエイティブな表現には独自の技術やノウハウが確かに存在する。

 AIを取り巻くクリエイティブ面での競争はすでに加速化しているのだ。いずれあと数年のうちに、これら新技術に関する偏見もやむだろう。とりわけ、プロンプト構築が社会生活の中で組み込まれるのが日常になったとき、みずから生み出すコンテンツとプロが生み出すコンテンツとのあいだに“超えられることができない壁”が明らかになればなるほど、これらのクリエイターに対するリスペクトはより一層、高まっていくのだ。そのような視点からも、優れたAIクリエイターがいま、日本から台頭するか否かで当該分野における日本の国際的な優勢性も決定づけられると言えるだろう。

担当者プロフィール

  • 中村彰憲

    立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。

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