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【ネタバレ注意】『グラブル』“イスタルシア編”完結記念。メインクエストのシナリオに深く携わる福原哲也氏&寺嶋氏による対談が実現。制作の裏側を赤裸々に語ってもらった

by原常樹

【ネタバレ注意】『グラブル』“イスタルシア編”完結記念。メインクエストのシナリオに深く携わる福原哲也氏&寺嶋氏による対談が実現。制作の裏側を赤裸々に語ってもらった
 2025年3月10日に11周年を迎えた『グランブルーファンタジー(以下、『グラブル』)。幻想的で冒険心をくすぐられるような世界観、そして多くの登場人物たちが織り成す物語は本作にとって欠かせない要素だ。

 そんな『グラブル』において、サービス開始から紡がれてきたメインクエスト“イスタルシア編”が2025年10月22日の更新で完結を迎えた。そこで今回は、メインクエスト制作・執筆のキーマンであるクリエイティブディレクターの福原哲也氏と、メインクエストシナリオライターの寺嶋氏にこれまでの歩みを振り返っていただきつつ、これから始まる新章への展望を語っていただいた。
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※本記事はメインクエストのネタバレを含みます。未見の方はご注意ください

福原哲也氏ふくはらてつや

プロジェクト立ち上げ当初から参加し、ディレクターとして『グラブル』を牽引してきた。現在はクリエイティブディレクターとして、スピンオフ作品を含めた世界観全体の監修を担当している。

寺嶋氏てらしま

“蒼の少女編”のルーマシー群島のエピソードからメインクエストに参加。以降はメインクエストのほとんどの執筆を担当している。シナリオのディレクション業務も担当。

イスタルシア編が終わったいまこそ忙しい!?

――まずは『グラブル』において、おふたりがどのような作業を担っているのか、ご紹介をお願いします。

福原
 『グラブル』は元プロデューサーの木村(唯人氏)を含めた5人で始まったプロジェクトで、僕もそのひとりでした。5人それぞれがバトル担当、編成システム担当……と分担をして作業に当たっていて、僕はクエスト・会話シーンなどを担当していました。3ヵ月くらいでα版が完成し、社内の開発継続の承認が取れた段階で、それまでにほかのパートにもいろいろ介入させてもらっていたのもあってか、ディレクターに就くことになりました。リリース後は、ゲーム内外に拡がっていった『グラブル』関連のコンテンツに関しても見させてもらうことになりました。

――2024年にはクリエイティブディレクターへの就任も発表されましたが、作業内容も大きく変わったのでしょうか?

福原
 2016年以降から原作となる『グラブル』と並行する形で『グランブルーファンタジー リリンク(以下、『リリンク』)と『グランブルーファンタジー ヴァーサス(以下、『GBVS』)の開発も進めてきまして、しばらく3タイトルの開発を同時に見ていたこともありまして……。その中で『グラブル』という世界の統一感であったり、タイトルを横断した仕掛けの整合性を作るのは僕にしかできない仕事になったと思い、現在は世界観の監修などを引き続き担当しています。現場での開発と運営は後任のプロデューサーらに引き継ぎ、シナリオやアートのアイデア出しなどはお手伝いをしつつ別の開発業務のほうを進めています。

寺嶋
 私はプロジェクト発足時から『グラブル』に参加していたわけではないのですが、それまで関わっていたタイトルがクローズすることになって、開発中の『グラブル』に異動してきました。その後、前任の方から引き継ぐ形でシナリオ全般の作業を担当しています。メインクエストについては、開発中に引き継いで以降、2回だけ別の方に更新をお願いしましたが、それ以外はすべて担当させていただいています。

福原
 プロジェクトが始まって早いタイミングで合流しましたよね。

寺嶋
 そうですね。つぎはなんのIPのタイトルだろうと思っていたら、まったくの新規プロジェクトで驚きました(笑)。

――2025年10月にはついに“イスタルシア編”が完結となりましたが、12年近くにわたる開発を振り返っての心境は?

福原
 “光陰矢の如し”でした。ゲームの運営にスピンオフの開発に、ゲーム外の監修ごとなど、おかげさまでいつも忙しくさせてもらったので、まったく振り返る暇もなくて。社内であった懇親会やグラブルフェスの写真が出てくるたびに“写っているスタッフや自分が若い……”と驚かされます(笑)。

寺嶋
 私自身も12年も経ったという実感がぜんぜんないですね。「ここまで終わったぞ、やったー!」となるような節目のタイミングがなかったので、気づいたらここまで来ていたという感覚のほうが強いです。

福原
 寺嶋を含めて、開発初期からずっといるスタッフも何人か残っていますが、全員走り続けていることになりますね。

寺嶋
 メインクエストに関しても、終わったからといって、とくに打ち上げをしようというような話もありませんし、むしろ開発側としてはこれからもお客さんに楽しんでもらうためにつぎの展開を準備しなければいけない状況なので。

福原
 節目だからこそ、そこでお客さんに悪い意味で満足されてしまうというのは避けたいですし、「まだまだ楽しませてくれそうだ!」と思っていただけるつぎの展開をしっかり打ち出していかなければいけないターンだと思っています。

――メインクエスト“星の旅人編”のクライマックスでは、主人公たちがイスタルシアに到着し、世界にまつわる秘密がつぎつぎと明らかになるという展開が描かれました。こういった世界の根幹に関わる設定はプロジェクトの初期段階から固まっていたのでしょうか?

福原
 何年前かというのは覚えていないのですが、かなり早い段階からルリアやビィについての設定は決まっていました。

寺嶋
 私がプロジェクトに合流した段階ではまだ決まっていなかったのは間違いありません。サービス2周年~3周年くらいのタイミングで、いつでもゴール地点として用意できるものは用意しておこうということで、全体の整合性を取りつつルリアやビィに関する設定が固まった気がします。

福原
 メインクエスト上で語られてはいないけれど、その時点で走っている展開のバックボーンとして存在している場面はあったので、それが状況に応じて少しずつ表に出てきていたと考えてもらえると納得いただけるのではないかと思います。

寺嶋
 そのあたりのことを書いた資料がないかな……と思って自分の机を漁ったら、かなり古い資料が出てきました。これは“暁の空編”までの資料ですね。

――ここまで厚い資料が!
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寺嶋
 この資料にも創世神に関する設定はしっかり記載されていますね。「あれ!? いまはもう、こんな設定じゃないよね」みたいな設定もいっぱい出てくるんですけど(笑)。

福原
 世界観に関する資料はほかにも作ったりしました。広く共有していたわけではありませんが、初期段階でアウライ・グランデまでの空域図を描いてみたり、アウギュステ列島全体の地図みたいなものも作ったりとか。

ついに描かれた主人公の両親とデザイン上の大きなこだわり

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――ルリアやビィの秘密をメインクエストのラストで開示するということは早い段階から構想にあったのでしょうか?
福原
 終着点がイスタルシアということは決まっていたものの、そこにいたる物語がどうなるのかということは決めていませんでした。ただ、ビィやルリアの正体に関わる情報はかなりセンセーショナルなものなので、それを明かすのは最後の最後になるだろうとは想定していました。

寺嶋
 とはいえ、『グラブル』ではシナリオイベントや各コンテンツに付随されるシナリオで開示される情報も多く……。ユーザーさんによっては“星の旅人編”のラストの展開は、これまでの情報のまとめとその答え合わせのような感じになったのではないかなと。ちなみに仕様の構想段階では、すべてのイベントクエストをクリアーしていないとイスタルシアにたどり着けないようにするというプランもあった気がします。

福原
 プレイヤーごとにキャラクターとの出会いやシナリオイベントを読んだ順番は違っても、イスタルシアという旅の目的地に到着するにあたって、プレイヤーの数だけ存在する“体験”という物語が一箇所に収束する……というイメージから出てきたプランでした。かなり前からそのプランを立てていましたが、いざ実装するにあたって、実際にはユーザーさんの手間やストレスが大きくなるだろうという意見もあってなくなりましたけど。

――イスタルシアでガラントが登場するというのも予定通りだった?

寺嶋
 お父さんに会いに行くというところが物語のスタート地点でしたし、「イスタルシアで待つ」とまで手紙に書いていたので、そうするしかないだろうと。

福原
 イスタルシアに到着することは5~6周年くらいのタイミングで話していて、7周年の前あたりであと何回くらいの更新でどこまで持っていくかという話を決めた気がします。本当は10周年の年にイスタルシアにたどり着くようにしたかったのですが、いろいろあって11周年である今年の更新でついに到達するという流れにさせていただきました。ガラントのビジュアルが決まったのも、脚本作業が始まってから並行での作業となったのもあり、ギリギリのタイミングになりました。

寺嶋
 確かに、ガラントのビジュアルに関しては後から決める形だったので結果的にギリギリでした(笑)。こちらのリクエストとして「男主人公に近い雰囲気でメガネをかけさせてほしい」ということだけはイラストレーターに伝えました。“お父さんに似ている”ということはこれまでの物語でもたびたび言及されていたので。
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ガラント(声:小野友樹)
――むしろ、主人公に似ているからこそメガネをかけさせることで差別化を図った?
寺嶋
 それもありますが、なにより大きい理由としてはメガネをかけさせると年齢感が出やすいからです。

福原
 顔つきについてはだいぶ調整を重ねました。しわがどれくらい入っているのかとか、髭は生えていたほうがいいのかとか……。キーカラーも男主人公に寄せるのかそうじゃないのかで何パターンか検証しつつ、最終的には男主人公と女主人公のキーカラーの中間を取るような形で、落ち着いた紫色にまとまりました。

――グラン(主人公)役の小野友樹さんがガラント役を兼ねるというキャスティングに驚かれた騎空士も多いかと思います。

福原
 キャスティングを考える中で、ある日「小野さんはどうだろう?」と自分の中に浮かんできまして。小野さんはアニメやコンシューマータイトルでグラン役を演じていただいていましたが、『グラブル』原作では男主人公が声つきでしゃべることはありません。その点が、ある種のメタ的な悪ふざけに見えてしまう可能性もありましたし、そもそも兼ね役が多い小野さんにガラントまで演じさせてしまうのもどうなのかと悩みました。

――なるほど……。

福原
 これは、依頼前に一度小野さんご自身の意見も伺ってみたいと思い、『GBVSR』の追加収録の後に状況と意図を説明し、ボイスオーディションのような形でいくつかのセリフのお芝居をいただけないかとご相談したところ、快く応じてくださいました。持ち帰った音声を、寺嶋を含めたメンバーに聴いてもらったところ、イメージ通りだという感触でした。

寺嶋
 ガラントのコンセプトが“すごく強いお父さん”だったのに対して、小野さんにテストでいただいたボイスがまさにすごく強そうな感じだったのでベストだと思いました。

福原
 グランより低い声にしてもらう必要があると思っていたのですが、そうなるとランスロットとの演じ分けも必要になってきます。しかし、そこはさすがの演技力でした。何パターンか声をいただく中で、小野さんの中でもガラント像が徐々に固まっていっているということも伝わってきたので、見事にハマった気がします。

――ガラントはバトルモーションにも猛者のオーラがにじみ出ていましたが、こちらもおふたりのほうからアイデアの提案を?

寺嶋
 そうですね。主人公がゲーム的な都合でさまざまな武器を使いこなすというのもありましたし、その対極としてガラントは素手がいいだろうと。また、彼にはザンクティンゼルでジョブ関連のクエストに登場するおばあさんから技を習っていたという裏設定もあったので、おばあさんのちょっとクセが強めのモーションを踏襲しています。

福原
 ただ、おばあさんの構えと完全に同じにしてしまうと、ギャグっぽさが勝ってしまうので、そこは少しアレンジを入れて調整しました。結果、かなりカッコよくなったのではないかなと。

――主人公の母親であるリインについては、本編よりも先に『グランブルーファンタジーヴァーサス -ライジング-』(以下、『GBVSR』)で多くの情報が開示されました。発売当時、驚いたユーザーも多かったかと思います。

福原
 『GBVS』は登場キャラ全員と総当たり的にバトルをくり返して、最後に黒幕のベルゼバブを倒す……という、格闘ゲームのある種の様式美的なストーリーにしていました。1作目というのもあってそれでよかったのですが、2作目となる『GBVSR 』でその先となるストーリーを作ることになり、「今度はルシファーを倒しに行くぞ!」というような前に進み続けるだけの展開ではおもしろみも意外性も薄いですし、前作におけるベルゼバブのような、スピンオフタイトル単体での驚きと魅力が必要と考えました。ルシファーを倒しに行くというオフェンシブな展開の中に、ディフェンシブな要素として、グランたちが守らなければならない立場でありながらものすごい秘密を抱えるキャラクターを登場させることで、物語に深みとサプライズを加えようというのが狙いです。
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リイン(声:河瀬茉希)
――リインはグランやジータと血縁関係があるようには見えないビジュアルだったのもサプライズにつながった気がします。
福原
 サプライズを狙ううえで、発売前に母親とバレては意味がないですし、物語上の仕掛けも利用して意図的に髪色をどちらにも寄せませんでした。

寺嶋
 私もリインが黒髪になると最初に聞いたときは「えっ、なんで!?」と思ったのですが、細かい設定を聞いて納得した感じです。やっぱり血のつながりを表現するときに髪色は合わせるのが自然なので、原作メインクエストのほうでは女主人公に近い髪色のリインを出せてよかったなと思います。

物語の焦点を絞るためにも仲間との別離は必要だった

――“星の旅人編”のクライマックスでは、ともに戦う仲間との別離が相次ぐという展開もありました。こういった展開になることはあらかじめ決まっていたのでしょうか?

福原
 物語と世界の真相に迫るタイミングで、主人公、ビィ、ルリアを中心軸に据えていく展開を……という話はだいぶ前から寺嶋としていました。騎空団の中心にいるこの3人にドラマが集約していかないと収拾がつかないという観点もあり……。

寺嶋
 仲間たちとの別離については、本当に悩んだことをよく覚えています。幽世という強大な敵との決着、そしてそこからイスタルシアへという流れを考えたときに、今回のような形となりました。あとは家族の話になってしまうので、血のつながった家族であるガラントと、騎空団という家族の両方を並列で描くと、どうしても両者に甲乙をつける印象になってしまうといいますか。どちらも大切な家族であるからこそ、終盤は主人公、ビィ、ルリアに軸を絞るべきと考えました。

――主人公が多くの仲間を引き連れた状態でガラントとの再会を描くと、主題がぼやけてしまうと。

寺嶋
 はい。一方で主人公が旅を通して得た家族である騎空団の仲間に、ガラントを紹介する場面がないのは寂しいなとは、シナリオを書いていても感じましたね……。仮にその場にオイゲンがいたら“同じ父親としてガラントがどう見えるか”みたいなところを描かないと不自然ですし、ロゼッタもガラントとかつて旅をした間柄なのでそこにも触れないといけません。ひとりひとりがそういう要素を持つため、少なくとも別行動はさせていないと、話の焦点がぼやけてしまうとは思っていました。

福原
 ただ、仲間の死を描くべきかどうかという点については慎重に考えました。『グラブル』ではこれまでほぼ、一度死んだ人物が蘇るということはなかったので……。結果的には死後の世界であるイスタルシアを舞台に世界を動かすような事件が起きるということで、ああいった結末となりました。

寺嶋
 いまだにほかの描きかたができなかったのかと自問自答することはあります。

――“星の旅人編”のクライマックスでは、主人公とルリアが“教えの最奥”にいたる展開もありましたが、こちらについてはどのような狙いで入れることに?

寺嶋
 シナリオのどこで強敵と戦うか、またシナリオのどこを盛り上げたいかといった大枠については、福原たちから話を聞きながら作業を進めます。その中でプランナーから「ここはもっと派手にしたいからシナリオ上で派手な展開にできませんか?」と相談を受けることもありますし、そういったゲーム全体の流れを考える中で主人公とルリアが教えの最奥にいたるという展開が決まりました。当初から想定していたわけではありません。

生粋の悪がほとんどいないのも『グラブル』ならでは

――『グラブル』といえば、立ちはだかるヴィランも個性派揃いです。メインクエストを通して印象深いヴィランを教えてください。

福原
 ヴィランと言っていいのかはわかりませんが、真王(タウルーク)は印象深いですね。

寺嶋
 不思議なキャラクターでしたよね。

福原
 真王という立場を捨てるという驚きの行動を取ったのにも関わらず、共感してくださる方が多いというのも少し意外でした。それまでは「この野郎!」みたいなことを言われまくっていたのに(笑)。
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真王タウルーク(声:内田直哉)
――主人公の叔母である“巫女(パルティータ)”をさらったりもしていますし、ヘイトが向かうのも当然という感じでした。
寺嶋
 娘(アリア、フォリア)に対する仕打ちもひどいですからね。とはいえ、あれだけの非道を行うのには相応の理由があるというところで納得していただけたのかなと。

福原
 初登場時との対比を考えるとおもしろいキャラクターになったなと思います。

寺嶋
 ほかにお気に入り……といえば、私はやっぱりロキですね。“蒼の少女編”からずっと登場していながら、“星の旅人編”のラストをしっかりと締めくくってくれました。“星の旅人”という言葉自体もロキを指していたので、しっかり彼の活躍を描くことができてよかったです。

 あと、印象に残っているキャラクターとしてはポンメルンも外せません。途中からはいいやつみたいな感じを出していますが、一度主人公を殺害しているんですよね(笑)。

福原
 チュートリアルでの非道な行いからは考えられないほど、ポジティブな人気を獲得しているので、アニメ『グランブルーファンタジー ジ・アニメーション』のシーズン1での扱いには少し困りました。彼に関しては公式4コママンガ『ぐらぶるっ!』でアツアツのおでんを押しつけられるようになってから潮目が変わった感じがあります(笑)。

寺嶋
 さすがにスピンオフコミックの『グランブルーファンタジー外伝 追憶のアーシヴェル』が来たときは驚きましたね……。『グラブル』のスピンオフの話が来たときは「そういうコンテンツになったのか」とうれしくなり、内容を聞いて「えっ、ポンメルンなの!?」と、うれしさ以上の驚きがありました(笑)。

福原
 確かコミックの担当編集さんからの提案だった気がします。
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ポンメルン(声:横島 亘)
――こうやって考えると、『グラブル』は憎めないヴィランが多いのかも。
寺嶋
 真王にしてもロキにしてもポンメルンにしても、自分の大事なもののためなら他人を殺めることができるというだけで生粋の悪ではありません。見かたや立場によって変わってくるわけで、たとえほかの世界に侵略している場合でも、自分の世界がボロボロだからそうしなければいけないというようなケースもあります。それこそ、幽世の住人だって本質的には被害者ですから。

福原
 シナリオイベントも含め、『グラブル』には本当にいろいろな勢力が登場していますし、どこも一枚岩ではないんですよね。それぞれに立場や信念があるので、逆に誰が見てもわかりやすい悪を作りづらいとも言えます。ベルゼバブは格闘ゲーム出身ということでコテコテの悪役として生まれましたが(笑)。

寺嶋
 これまで出てきた中でいちばんの悪を挙げるなら、ギルベルトかもしれません。生い立ちに若干歪みがあるというのはありますが、ひたすら個人の利益のために動いていたという点ではレアケースかなと。

福原
 あとヴィランといえば、比較的新しいところでデミウルゴス(レプティ)もよかったなと。寺嶋のアイデアで生まれたキャラクターですが、イスタルシアでの深掘りもあり、僕個人としてもすごく魅力的で好きなキャラクターになりました。

寺嶋
 私の中では旅の始まりに関わっていた人がラストに立っていてほしいという気持ちがあって、それを考えたときに「主人公に手紙を届けたのは誰なんだろう?」という疑問が出てきたんです。さすがにイスタルシアに郵便ポストはないだろうし。

 それで当初はデミウルゴスが作った存在をラスボスに置こうとしていたのですが、結果的には彼自身が主人公の前に立ちはだかることになりました。演じてくださったのが石田彰さんということでしたし、あのビジュアルだったらキャラクター性や思考はそのままに、もう一段階エッジを効かせても許されるだろうと(笑)。

福原
 同じ石田さんが演じているキャラクターでもサリエルとはぜんぜん違うタイプですよね。ビジュアルに関しては、レプティとしての姿のままだと道化的な印象が残っていたので、イスタルシアで登場する際のラスボスとしての風格を補強するための、新しいビジュアルのアイデアを出させてもらったりしました。
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デミウルゴス/レプティ(声:石田 彰)

星の民のイメージは“楽園を追放されなかった人類”

――主人公とガラント、オイゲンと黒騎士アポロニアなど、メインクエストでは親子関係が物語のカギとなるケースが多くありました。意図的に盛り込んだテーマなのでしょうか?

福原
 僕は小学生のころにプレイした『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』(スクウェア・エニックス)で、誰かの人生を追体験できるというゲーム体験に大きな衝撃を受けたことも影響し、以来父と子の物語を描いた作品がとくに好きになりました。ゲームならではの体験として、長い時間の流れを描く物語体験を提供してみたいという欲は個人的にはありますが、『グラブル』はゲームの構造とサービスの形態上、歳月の経過や世代交代といった展開は仕掛けづらいんですね。その反動というと言いすぎかもしれませんが、血縁によるドラマという普遍のドラマを入れたくなってしまうところはあったように感じます。また、純粋にキャラクターが増えたことによって、比例してそういう関係性も増えていったという感じでしょうか。

寺嶋
 個人的には多少なりとも意識した部分がありますね。たとえば、デミウルゴスとガラントの関係性にはギリシャ悲劇『オイディプス』と、それを由来とする“エディプスコンプレックス”(母親を手に入れ、父親に対して強い対抗心を抱くという心理的抑圧)を意識し、そのうえで大人になるというのはどういうことなのかを問いかけていますし……。観念的な話になりますけど、『グラブル』の全体的なコンセプトは“旅”です。では、旅とはなんなのかというと、それは大人になっていくことではないかなと。そして、大人になっていく過程で親の背中を追う、親を超えるといったテーマが出てくるのが自然な流れだと思います。たとえば、わかりやすいところでいうと、主人公とガラント、リーシャとヴァルフリートは“偉大なる父親とその子ども”という構図になっていますね。

――なるほど。

寺嶋
 親子の関係といっても決して良好な関係ばかりとは限りません。真王とフォリアのように“自分を利用してきた親に反発する関係”もあれば、ミカボシとシトリのように“感謝の気持ちがある一方で、親にダメな部分があることもわかっているからその後始末をしようとする関係”もあります。『グラブル』では本当にいろいろなパターンを盛り込めました。

福原
 メタ的な話にはなってしまいますが、血縁が絡む問題というのは他者が踏み込むのが難しい濃度の話になるのでシナリオを作りやすいというのもありそうですよね。同じ絆でも友だちどうしの絆と、親子の絆では性質がぜんぜん異なるので。

寺嶋
 あと、ソーシャルゲームは主人公を中心とした人間模様を描かなければならない都合上、恋人という間柄を出すのが難しいというのもあります。主人公よりも恋人のほうを向いていないとおかしくなってしまいますし……。

 中には婚約相手を亡くしたレオナのようなキャラクターもいるにはいますが、それも物語がある程度進んで、登場人物が増えたことでバリエーションが出せるようになったからというのが実情です。
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――レオナの亡くなった婚約相手はアベルですね。“暁の空編”のメインキャラクターがカインと合わせて旧約聖書に登場する兄弟が名前のモチーフかと思いますが、『グラブル』では登場キャラクターと名前と伝承・神話を紐づけているケースがたびたびあるような。
福原
 はい。アベルの設定に関しては、確か寺嶋の趣味だった気が。

寺嶋
 完全に私の趣味ですね(笑)。『グラブル』でのカインの行動自体は決して罪深いわけではないのですが、本人が罪の意識を抱えているということから兄弟ふたりをあの名前にさせてもらいました。

 私は、シナリオを書くうえで『グラブル』はファンタジーだけれども登場するキャラクターたちは言葉の通じない宇宙人ではないということをつねに意識していまして。名前を神話から取らせていただいているというだけでなく、思考や行動もおおむね世界史、もしくは神話の積み重ねに近くなるというロジックで書かせてもらっています。

――空の民と比べると、星の民は宇宙人的な異質さもあるように感じますが。

寺嶋
 旧約聖書では “知識の実”を食べてしまったことでアダムとイヴはエデンの園を追放されてしまいますが、そこで知識の実を食べずに楽園に残っていた場合はどうなったのかというイメージで設定したのが星の民です。

 与えられるだけ与えられて、最初から全部持たされているとしたらプライドも高くなるだろうし、追放された人間を見たら見下すだろうなぁ……みたいに考えて。

福原
 最初に登場した星の民ってロキでしたよね? メインクエストに出る前にシナリオイベント“聖夜のスターダスト・メモリーズ”に登場して、サンタに悪態をついていたと思うんですけど(笑)。

寺嶋
 そうでした!(笑)

福原
 ロキの思考回路はふつうじゃない、得体の知れなさを出そうとしようと意識していたのを憶えています。

寺嶋
 私は回収されていない伏線を作るのが好きではないので、ロキに関してもメインクエストの中でドラマを描き切ることができたのはよかったです。途中までフラフラしていましたけど、そのフラフラしているところをキャラクター性として捉えて、どこに落ち着けるかということを考えられたので。
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ロキ(声:白石涼子)
――最終的にイスタルシアでビューレイストにお説教されるのも想定していた流れだったのでしょうか(笑)。
寺嶋
 そうですね(笑)。ダメな父親が多いと言われがちな『グラブル』ですが、子ども(オルキス)のことを何よりも優先するビューレイストはお父さんとしては完璧なんですよ。子どもに我慢を強いることになりながらも妻を救うことを選んだガラントとは真逆の存在で……。どちらがいい悪いというのはなくて、スタンスの差でしかないとは思いますが。

――ロキとフェンリルの関係性も非常に印象深いものがありました。

寺嶋
 元ネタである北欧神話のように『グラブル』でもロキがトリックスターとしてフラフラしているのであれば、北欧神話でオーディンを殺しているフェンリルには神を殺す権能が備わっていてもおかしくありません。

福原
 フェンリルも、もともとは『神撃のバハムート』からスターシステム的に登場したキャラクターだったんですよね。オーディンに対して特攻性能を持つキャラクターでしたが、『グラブル』ではオーディンではなく、創世神の映し身を取り込んだ幽世の住人に対する切り札としてがんばってくれました。
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フェンリル(声:松岡由貴)
――ロキの騎空団は物語の中でも大きな役割を果たした気がします。
寺嶋
 主人公とロキを対比構造にさせることが決まった段階で、ロキにも騎空団を率いてもらうという展開はすんなり決まりました。彼が騎空団を作る流れで完全な新キャラクターをたくさん出す流れにはしたくなかったので、メインクエストにおける出番が終わったキャラクターたちを集めてみようと。

 また、全員が全員そうなってしまうのもよくないので、完全新キャラクターのネセサリアを織り交ぜています。本当に印象に残るような活躍をしてくれました。

――ロキの騎空団のメンバーも含め、“イスタルシア編”で出番が終わったキャラクターたちが今後再登場する予定はありますか?

福原
 未来のことはわからないのですが、その可能性もあると思います。

寺嶋
 私自身“シナリオ上で不可能はない”ということを信条にしているので、個人的にも期待する部分はありますね。

福原
 ラクレイスやギヨタのように“星の旅人編”で登場したキャラクターはオンリーワンな役割を担っていることが多かったので、なんらかの形で活躍してくれたら僕としてもうれしいです。そして、『リリンク』など関連作品のキャラクターも登場させたいですね。

存在感がデカすぎたナル・グレートウォール

――“蒼の少女編”、“暁の空編”の制作秘話も教えてください。

寺嶋
 私がプロジェクトに入った段階で、メインクエストのシナリオはルーマシー群島のあたりまで進んでいてそれを引き継がせてもらったのですが、『神撃のバハムート』にも登場していたオーキス(オルキス)のデザインが球体関節人形じゃなくなっているというところに驚きました。

福原
 『神撃のバハムート』のキャラクターをスターシステム的に『グラブル』にも出してほしいという会社のオーダーがあったので、メインクエストの登場人物として何人かを配置していたんです。

 ただ、同じキャラクターでも作品ごとに外見の一部に違いをつけてほしいという要望もあって、たとえばモニカだったら体型が大きく違うとか、オーキスは球体関節人形ではなくしていたという流れだったように記憶しています。そのルールはしばらくしてなくなりましたが(笑)。

 僕が“暁の空編”で印象に残っているのは、初めて別の空域にたどり着くという点から、街はもちろん山や草原の風景まで、ガラッと東洋風の景観へと切り換えるのを試みたことです。空気や湿度が変わった感覚を味わってほしいということで着手したのですが、事前準備にかなり時間がかかり、背景チームにはだいぶ助けてもらいました。

寺嶋
 建物の建築様式もファータ・グランデ空域とナル・グランデ空域ではぜんぜん違いますよね。

福原
 これまで西洋がモチーフだったのが東洋のそれに切り換わるわけですからね。ワールドマップで表示される雲海にもこだわり、気候や雲の表情の違いで区別がつくように試行錯誤した記憶があります。BGMに関しても作曲担当の成田勤さんにナル・グランデ空域のビジュアルをお見せしてテーマ曲を書いてもらいました。

寺嶋
 全体のイメージがアジアンということで、名前やビジュアルが東洋風のキャラクターも数多く出させてもらったことが印象に残っています。

福原
 ナル・グレートウォールを配置したいという話もしました。

寺嶋
 確かに置いてほしいと言われました(笑)。

福原
 基本的に雲しかない空の景色というものを、ひと目で違う場所に来たことがわかるようにランドマークな存在が必要と考えて生まれたものでした。

 実際にある宇宙の構造体の名称から着想を得て、空の世界には主人公たちがまだまだ理解が及ばないものがあるということを表現させてもらっています。ダイダロイトベルトなども、宇宙のアステロイドベルトがモチーフですね。

寺嶋
 そんなオブジェクトが登場するならシナリオに絡ませなきゃいけないなと(笑)。現実の世界においても、宇宙から大質量の金属棒を打ち込む“神の杖”という軍事兵器のアイデアが出たことがあるという噂がありますが、ナル・グレートウォールから放たれる天罰はまさにそういうイメージでした。
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――12年近くプロジェクトが続いてきた中で、時代に合わせたシナリオの軌道修正などはありましたか?
寺嶋
 最初は「終わらない話にしてほしい」ということを聞いていて、当時はそれを前提に島ひとつ単位で終わるシナリオを書きながらあまり話と話がつながらないように意識していました。それが最終的にはイスタルシアにたどり着くことになったので、そういう意味での軌道修正はあったと思います。

福原
 2013年、2014年くらいのタイミングでは“終わらない感じ”を出すことが重要でしたからね……。ただ、2017年以降あたりから“ソーシャルゲームであっても区切りをつけることが美しい”みたいな風潮ができてきたのを感じて軌道修正を行いました。そういう意味では時代の影響を受けた部分としてはそこがいちばん大きいかもしれません。

寺嶋
 12年の中で演出などが変化した部分もあります。最近はシナリオの中で演出として、キャラクターの立ち絵ではない一枚のカットも表示されるようになりました。あれは確かアルビオン崩壊時にカタリナがヴィーラを抱きかかえているイラストが出たのが初めてで、CMなどにもたびたび使われるようになったと思います。メインクエストの中で私がゼロから担当させていただいたのがアルビオン編ということもあって、そのあたりはすごく印象に残っています。

――いまではヴィーラも大人気キャラクターとなりました。

福原
 確かにここまで人気になるとは。キャラクターの設計自体は一貫していて、イラストでも最初から目のハイライトが入っていませんし、笑顔も恐ろしい感じになっていますが、そこも人気の要因になりましたね。

寺嶋
 確かにクレイジーな部分もありますが、カタリナが関わらなければ人間としても領主としてもまともなんですよね。いまではキャラクターのバリエーションも増え、よりクレイジーなキャラクターもいるせいか、余計にまともに見えると言いますか(笑)。

 “イスタルシア編”のラストで彼女とカタリナの再会を描けなかったのは、いまでも心残りです。

福原
 尺の都合もありますし、いかんともしがたいところでしたね。

新鮮なメンバーとともに進む新たな旅路に期待を!

――12月からは新しいメインクエストが始まるということも発表されています。どんな内容になる予定なのか教えてください。

福原
 いちばん大きなところでいえば、これまでメインクエストに絡まなかったキャラクターたちが登場することです。そのあたりは“暁の空編”の時点で、つぎの空域からシナリオイベントのキャラクターを合流させていけないかという話をしていましたが、いろいろとかみ合わずに先送りにしていました。今後シナリオイベントからメインクエストに合流するキャラクターたちは、どのキャラクターも筋が一本あるドラマを描くうえで 必然性のある登場をしてくるはずなので楽しみにしていただければと。

寺嶋
 これまでメインクエストに登場したキャラクターたちは全体的に活躍してくれるはずですし、なかでも一部のキャラクターは濃密に活躍が描かれると思います。

福原
 逆にメインクエストのみ登場していたキャラクターが物語の大きな区切りを迎えたことで、シナリオイベントなどでも大々的に活躍させやすくなったというのはあるかもしれません。

――メインクエストが新章に突入するにあたり、シナリオ制作体制に変化はありましたか?

福原
 僕はメインクエストの担当からは一歩退いて、今後の展開などは寺嶋やほかのベテランライターに任せることとなりました。これによって、いままでにないアイデアや新しい味が出てくると思いますし、僕自身もそれが楽しみです。

寺嶋
 これまで福原のもと、ほぼひとりでウンウンうなりながらメインクエストを書かせてもらってきましたが、新章からは広くチームとしてやっていけたらなと思っています。新たにチームに加わるメンバーも、過去におもしろいシナリオを数多く担当してきたライターばかりなので、よりよいものになっていくと確信しています。

福原
 イスタルシアに向かう旅は区切りを迎えましたが、あの旅も空の世界全体を巡る物語としては一部分にしかすぎません。末永く楽しんでいただけるとうれしいです。

寺嶋
 私はユーザーさんの反響を直接確認するタイプの人間ですし、皆さんがおもしろいと声を上げて喜んでくださったおかげでここまで書いてくることができました。感謝を申し上げたいです。まだまだ『グラブル』は終わりません……というか、11年続いているのにビックリするくらい終わる気配がなくて面食らっているところで。

福原
 ひとつのゲームとして実装している文字数とボイス数はギネスに挑戦できる気が……。

寺嶋
 それくらいの物量は本当にありますよね(笑)。この先の『グラブル』もぜひ楽しんでいただけたらありがたいです。

インタビューでも話題に上がった新章ティザーPVの場面カット

 新章ティザー映像には、『グラブル』ファンにはなじみ深い3人の姿が。十天衆のシスは暗殺術で名を馳せたカルムの郷の出身で、主人公の父ガラントに引き取られた過去があることから主人公にとっては義理の兄のような関係。ナルメアは十天衆のオクトーに憧れる剣豪だが、シナリオイベント“...and you.”では、妖刀の力で辻斬りと化した別の可能性も描かれていた。そして、サンダルフォンはシナリオイベント“どうして空は蒼いのか”シリーズでも活躍する天司長。新たに描かれた六枚羽のシルエットの人物との関係性にも注目だ。
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