
自身のアイスショー『Echoes of Life』において、『ペルソナ3 リロード』の“Mass Destruction -Reload-”でスケートを披露して話題になったのが、2024年12月~2025年2月のこと。それからしばらく時が経ち、競技選手からプロスケーターに転向した3周年のその日、2025年7月19日に本人のYouTubeチャンネルで公開されたのである。
白と黒の衣装に身を包んだ彼は、不敵な笑みを浮かべてスケートリンクを滑り出した。氷の上にも関わらず、ダンスは専門外にも関わらず、陸上と同じように踊るから驚きである。
ヒップホップ特有の力感のない動きにフィギュアスケートのしなやかさをプラス。リンク全体を広く使っているときは、自由を謳歌するような軽やかさを感じる。このときの振付はフィギュアスケート的なのだけど、脱力感を活かしているからか、自然に音楽を楽しんでいるように見えた。
『Echoes of Life』から受け取ったメッセージ
そのストーリーは、主人公・Novaがさまざまな“音”と出会い、「自分とは?」、「命とは?」などの哲学的な問いの答えを模索していくというもの。きっとNovaは“Mass Destruction -Reload-”から大切な何かを感じ取ったのだ。
この曲は『ペルソナ3 リロード』の戦闘曲で、曲名を直訳すると“大量破壊”。このプログラムが、「自分を縛る枷なんてぶっ壊しちまえ」というメッセージだとしたらどうだろう。世間的に優雅なイメージのある羽生結弦さんが発するからこそ、力強さはより際立つ。ショー全体を通してだとまた印象は変わるが、少なくともこの曲1点にだけ絞ったのなら、乱暴な優しさがそこにあるように僕には思える。
その予想は頭を銃で撃つ仕草に後押しされた(『ペルソナ3 リロード』ファンは大興奮だったはず)。ゲーム内では銃型アイテム“S.E.E.S.制式召喚器”で頭を撃つことで“ペルソナ”を呼び出す。ペルソナとは内に秘めたもうひとりの自分。つまり、抑圧された本来の自分を解放する行為とも言える。
公演の中には“ベルベットルーム”のBGMでしっとりと舞う一幕もあった。曲名を“全ての人の魂の詩”といい、主人公がペルソナと向き合う大事な場所を穏やかに包み込む曲だ。本来の自分を解放し、目をそらさずに相対する。羽生結弦さんが描きたかったのはそういうことなのだと思う。僕とNovaの感じ取ったものは違うかもしれないけど。
Mass Destruction -Reload-をスケートの楽曲に使用すると話題になったとき、何人ものゲーマーが「せっかくだからフィギュアスケートを観てみよう」と、スケートリンクに足を運んだみたいだ。その際によく見かけた評判は「ゲームに対する解像度が高い」。羽生結弦さんと僕らの『ペルソナ3 リロード』像は合致するところも多かった。うれしい。
『Echoes of Life』を通して、羽生結弦さんは本来の自分を解放できたのだろうか。もっと自分勝手に、彼が彼自身のために作り上げるショーがあったとしたら、それはそれで観てみたい。
羽生結弦さんの演技を深く知るために
羽生結弦ファンのみなさんにおかれましては、ぜひ『ペルソナ3 リロード』やシリーズ作をプレイしてほしい。彼の表現をより深く知れると思うから。7月24日までセール中だし、『ペルソナ5: The Phantom X』ならスマホで無料プレイ可能。こちらには元フィギュアスケート選手のキャラも登場する。さらに言うと、『ペルソナ5』のオープニングアニメはフィギュアスケートがモチーフである。
ちなみに、羽生結弦さんは『ファイナルファンタジー10』の“いつか終わる夢”や『ファイナルファンタジー9』の“破滅への使者”、『UNDERTALE』の“Megalovania”、自身の原点と語る『エストポリス伝記2』の“地上を救う者”でも演技を披露している。ゲーマーとしてシンプルにうれしい。
YouTubeチャンネルには『エストポリス伝記2』のプログラムも公開されているので、こちらもぜひ。