『ヘブバン』3Dライブシーン開発者インタビュー。コンセプトは“衝動”に駆られる映像体験! リアリティーを研ぎ澄まし、感情表現を洗練させて“センセーショナルなMV”に進化を遂げた

『ヘブバン』3Dライブシーン開発者インタビュー。コンセプトは“衝動”に駆られる映像体験! リアリティーを研ぎ澄まし、感情表現を洗練させて“センセーショナルなMV”に進化を遂げた
 ライトフライヤースタジオ × Keyが贈るスマートフォン、PC向けRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)。50人を超える個性的なキャラクターが織りなす切ないストーリーが大きな魅力で、世界中のファンの心をつかんで離さない。そんな本作は2025年2月10日に3周年を迎えた。

 3周年特別ストーリーイベント“あの娘ぼくが唯一の光だと言ったらどんな顔するのだろう”では、劇中バンドのShe is Legendが
『Moon Day Real Escape』を披露。そのライブシーンは、3Dライブシーンという『ヘブバン』ならではのリアルで臨場感ある映像で描かれる。従来の3Dライブシーンとは一線を画した、キャラクターが躍動して思わずスクリーンショットを撮りたくなる映像は必見だ。

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 3Dライブシーンの最新作が実装されることを記念し、3Dライブシーンを手掛ける竹俣太樹氏とどんまる氏に対談形式でインタビューを実施。進化したライブムービーのコンセプトや注目ポイントを訊いた。
※インタビューは2025年1月中旬に実施

週刊ファミ通『ヘブバン』3周年記念特集号が発売中

 本記事は週刊ファミ通2025年2月27日号(No.1886/2025年2月13日発売)に掲載されている『ヘブバン』3周年記念特集内のインタビューに加筆を行ったもの。

 24ページにわたる特集では、
『へブバン』の魅力を改めて解説しつつ、3周年特別ストーリーイベントで焦点を当てられた白河ユイナと、プレイアブルキャラクターとなった七瀬七海の魅力を凝縮して紹介。

 さらに、
『へブバン』の核を担うディレクター・小沼勝智氏とシナリオチームのプロジェクトマネージャー・高田和磨氏へのインタビューもお届けする。こちらも要チェックだ!
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竹俣太樹氏たけまたたいじゅ

ライトフライヤースタジオに所属する『へブバン』のシネマティックディレクター。本作のカットシーンや3Dライブシーンなどのディレクションを担当する。文中は竹俣。

どんまる氏

ビジュアルアーツ所属のリードサウンドコンポーザー。さまざまな作品で楽曲制作、音声収録を担当する。『へブバン』では音楽制作進行、音声収録を担う。文中はどんまる。

現実と遜色ないようリアリティーを追求する

――まずはこれまでの3Dライブシーンの制作を振り返ってみて、いかがですか?

竹俣
 楽器の演奏で魅せる映像をフル3DCGで正確に作り込むのはかなりハードルが高いのですが、本気で取り組みたいという考えに共感してくれたビジュアルアーツさんやアニメーションスタジオのグラフィニカさんと協力して制作したことで、臨場感があり、“『へブバン』らしい”ライブシーンが描けていると思います。
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――楽器を使った映像は難しいとのことですが、具体的にどう難しいのでしょう?

竹俣
 楽器の干渉や演奏の正確さがクオリティーに直結するため、きちんと表現するには膨大な工数がかかります。モーションアクターは楽曲を演奏できることが前提で、当然練習期間が必要ですし、撮影本番ではプレイヤーとして演奏しながら、アクターとして役を演じていただくことになります。なおかつ、バンドなので一体となったグルーヴ感も醸成する必要があり……。

 そのままステージに立つくらいのリアリティーや熱量を引き出せるよう、「もっともっとギアを上げて!」のような演技指導をさせていただき、毎回何テイクも撮らせていただいています。

――なるほど。モーションアクターはShe is Legendのライブを参考に演じているのでしょうか?

竹俣
 She is Legendのライブはもちろん参考にしています。XAIさんと鈴木このみさんのレコーディング後にお時間をいただき、表情や熱量の参考となる歌唱のリファレンス(※)も撮影させていただいています。
※リファレンス……動きや演技の参考になる映像
――She is Legendのおふたりのリファレンスを撮影してリアリティーを追及していたとは知りませんでした。

竹俣
 歌唱だけでなく、実際に楽曲を演奏されているプレイヤーの演奏なども撮影させていただいています。これはアクターのパフォーマンスの参考や、演奏の正確な作りこみのために撮らせていただいております。こういった資料を充実させることはリアリティーを追及するうえでとても大事です。

 私はギターの経験があるので、ギター関連については細かくフィードバックさせていただき、ピアノなどの私がわからない楽器は、演奏できる弊社のスタッフが確認しています。そうしてできあがった映像をビジュアルアーツさんに監修してもらいます。
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3Dライブシーンに使用されているギターとベースはアメリカの老舗楽器メーカーのフェンダー社に許諾を得て、実在する楽器を忠実に再現。細部までこだわり抜いている。
――ビジュアルアーツはどのような点を監修しているのでしょうか?
どんまる
 音楽プロデュースを担当している麻枝(※)は、とくに表情や歌いかたについてチェックをしている印象で、「この歌詞を歌うときはこういう表情はしない」など、かなり細かく確認しています。演奏としておかしくないかといった確認は私がしています。
※麻枝……Keyの麻枝 准氏。『AIR』や『CLANNAD』などを手掛け、“泣きゲーのカリスマ”として知られる。『へブバン』の原案・メインシナリオや音楽プロデュースなどを担当[IMAGE]
――制作でとくにたいへんなことがあれば教えてください。

どんまる
 早い段階で楽曲の歌詞・構成を確定させるのがたいへんです。というか、できたことがありません。麻枝は歌詞に対するこだわりがとても強く、制作の過程で何度も直しますし、レコーディング現場で複数案歌っていただいてどれにするか判断することもあります。演奏も、アレンジされた状態から生楽器のレコーディングなどをしていく過程で構成が変わることがあります。

 ですので、半年前に「この楽曲でいきましょう」となってもそのまま進行することはほぼなくて、何らか変更が入るたびに竹俣さんに対応していただけるか確認しています。

竹俣
 楽曲の調整が発生するたびにどんまるさんと連携させていただき、資料やデータを更新して進行しています。

 たとえば、いただいたデモの音源から、レコーディングの過程で、キーが半音低くなったことがありました。半音変わると当然演技も変わるので、つねに各所と連携して制作しています。

観ると“衝動”に駆られる新たな3Dライブシーン

――3周年特別ストーリーイベント“あの娘ぼくが唯一の光だと言ったらどんな顔するのだろう”の劇中歌『Moon Day Real Escape』も3Dライブシーンとなりました。映像のコンセプトを教えてください。

竹俣
 ひと言で言うと“衝動”です。たとえば、大事なものを失いそうなとき、いてもたってもいられず、考えるより先に体が動いてしまう感覚のような、観た人が高ぶりを誰かに伝えたくなるセンセーショナルな映像体験、つまり、“衝動”に駆られる映像体験がコンセプトです。

どんまる
 これまでの3Dライブシーンの4本は、現実に忠実なライブムービーとして作ってくださっていました。ただ、ほかのゲーム作品のライブムービーを観ると現実ではありえない演出をしているシーンもあるので、ミュージックビデオ風のライブムービーに挑戦してみたいという提案をいただいたときには納得感がありましたね。毛色を変えて別のアプローチでプレイヤーの心に訴えかけるのはすごくいいかなと。

竹俣
 これまで実際のライブに携わっている照明の方などにも制作に参加していただきました。今回もそういった方々に引き続き参加していただいたことで、ミュージックビデオに寄せた演出だとしても、説得力のある映像という土台が変わらないようにしています。

 今回の新しいチャレンジもいつも尽力いただいておりますグラフィニカさんとの積み重ねのおかげです。本当に感謝しております。

――従来のリアリティーを残しながら、映える演出も取り入れられたと。

竹俣
 はい。ベースはあくまでもリアルなライブムービーで、そこに、キャラクターの“映え”を重視した演出をたくさん入れています。

 今回の楽曲は儚さがありながらもエッジの効いた部分もあり、映像のアプローチとして、印象のコントラストを強くしています。たとえば、曲に合わせてハードな色の組み合わせのカットをたくさん入れている一方、
『へブバン』を象徴するような淡く消え入りそうな儚いカットを作るなど、振り幅を大きくしてアトラクションに乗っているような満足感の高い体験を目指しました。
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どんまる
 キャラクターの表情がすごくよくなっていて、逢川と國見がこれまで以上に楽しそうにライブしています。茅森がすごくいい表情をするシーンもあって、演出もそうですけどみんなの表情にも注目して観てください。
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――キャラクターが映える演出を取り込むためにこれまでと比べて変更した点があれば教えてください。

竹俣
 ワークフローを大きく変えて演出中心で進行しました。今回は、私が直接データを触ってカット割り(※)を行いましたね。感情や演奏に合わせてレイアウトや流れ、エフェクトなど、演出すべてを設計し、“衝動”に駆られる映像体験への確度を上げています。

 また、カット割りやレイアウトを決め込んでからアクターにパフォーマンスを行っていただきました。アクターや他スタッフを含めて、皆と完成イメージを共有して進行できたことで、後工程でのトライ&エラーも抑えられ、結果的に作り込みに時間を割けました。
※カット割り……映像の各シーンを数カットごとに区切り、構成を決める工程
どんまる
 絵作りの話で、『春眠旅団』の3Dライブシーンで茅森が弾く想定だったタッピング(※)のフレーズを逢川に変えたことを思い出しました。

 茅森は天才なので、そのフレーズを弾きながら歌えると思います。ですが、あまりカッコイイ絵にならないし、ひとりにフォーカスされすぎるなと考えて逢川のフレーズにしてもらいました。3Dライブシーンを制作するときにここは茅森、ここは逢川というように見せ場を振り分けて調整しています。
※タッピング…… ギターのフレットを直接叩いて音を出す奏法
竹俣
 そういった経緯も踏まえて、今回は構成の段階でさらにひとりひとりに見せ場を作るようにしました。

――見せかたに対するこだわりを強く感じました。

竹俣
 こだわりでいうと、今回からモーションキャプチャーの収録時にバーチャルカメラ(※)を使用しており、私が撮影を行いました。

 カメラの挙動は視聴者の感情を表す鏡のようなものなので、アクターの熱量に負けないよう、私自身も一体となって撮影しました。その結果、臨場感が増し、エモーショナルさが格段に向上しています。
※バーチャルカメラ……マーカーを用いてあらかじめ制作した3DCGの空間に入っているように撮影できるカメラ[IMAGE]
協力 exsa×Studio Tanta
――ほかにこだわった点があれば教えてください。

竹俣
 パーツ見せのカットですね。たとえば、サビの茅森の口もとのカット。歌詞は「好きだ」の部分です。自分は演出する際パーツを絞って見せるのが好きで、ここは口もとにフォーカスしています。

 シンプルな言葉の強さが映えるレイアウトで、なおかつ人それぞれの「好きだ」があるので、ひとりひとりの思いをはせる余地を残すイメージで映すものを限定的にしています。このカットに限らず視聴した方が何かを感じてくれるととてもうれしいです。
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――最後に読者へメッセージをお願いします。

竹俣
 ストーリーがいちばん大切な『へブバン』ですが、サウンドまわりも大事で、楽曲だけでなくSEやBGMなど、すべての音をすばらしく、とことんこだわり抜いている作品です。

 自分はライブだけでなく、劇中のシネマティクス全般をディレクションしており、直近だとメインストーリー第五章中編“世界の終わりと白の呪文”も担当させていただいています。たとえば、その中のカレンちゃんがピアノを弾くシーン。そのシーンは演奏のニュアンスが大切で、弊社サウンドチームやビジュアルアーツさんと密に連携しました。

 どんまるさんに実際にピアノを弾いていただいたリファレンスをご準備いただき、そのニュアンスをモーションキャプチャーで再現しつつ、より音が印象的に感じられるように映像で演出しています。

 第五章中編はそういった繊細なシーンからスペクタクル感のある大迫力な隕石落下シーンまで、幅広い体験ができます。音に対するこだわりは
『へブバン』の魅力なので、ぜひサウンドまわりとそれにともなった演出にも注目いただきたいです。

竹俣
 このようにカットシーンや3Dライブシーンでも“『ヘブバン』らしい体験”を届けるべく全力を尽くしてきました。リリースから3年を経て向上してきた表現力を活かして、さらなる新しい“『ヘブバン』らしい表現”を生み出していきたいです。

どんまる
 たくさんのクリエイターの思い入れやこだわりが集まって、それをうまく調整して成り立っている奇跡の作品が『ヘブバン』です。

 
『ヘブバン』が巨大なコンテンツになって、麻枝がプロデュースするShe is Legendが大きなイベントにお声掛けいただくなど、すごく勉強になっていると同時に、もっともっとたくさんのことに挑戦していきたいと考えています。そういったことに挑戦できるのもたくさんのお客様からご支持いただけているからこそですし、期待に応えられるよう精一杯がんばりますので、これからも末永くよろしくお願いします。
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      集計期間: 2025年05月01日03時〜2025年05月01日04時