議論はさておき、まずはこれらの写真を見てほしい。
eスポーツ元年とも呼ばれる2018年に設立された日本eスポーツ連合(JeSU)がその当初から言っていた通り、いまやeスポーツは興行としての側面も持つ大きな産業へと成長しつつあるのだ。
日本のeスポーツ市場はこの3年で倍の規模に
eスポーツの市場規模は2018年3月時点で総務省(委託先:Gzブレイン[現KADOKAWA Game Linkage])がまとめており、2022年3月1日からはJeSUが“日本eスポーツ白書”という書籍を刊行。2023年12月の発表によると、日本国内の市場規模は2022年時点で125億円強に到達。61億円強だった2019年からの比較で言えば、その数字は2倍以上。忘れてはいけないのが、この期間のほとんどがコロナ禍と重なっていることだ。
数多くの産業がコロナ禍で打撃を受けるなか、eスポーツ市場は順調に成長を続けてきたのである。ちなみに、日本eスポーツ白書では市場規模に関して2025年までの予測も記述されている。2025年の市場規模は約218億円。今後3年で1.7倍に伸びると予測されるという。
また、2022年の家庭用ゲームタイトルの売り上げを見れば、年間トップ20にeスポーツタイトルが4つも入っていることも特筆すべきだろう。
eスポーツの認知度
オフラインで観戦する大規模なeスポーツイベントはコロナ禍で一時的に数を減らしたものの、2022年頃から客入れタイプのイベントも含めて徐々に復活。注目すべきは規模が大きく、リアルでの観戦が有料であるものが目立っていることだろう。
多くの大会はオンラインでの配信も行っているので、回数に比例するように視聴数や全体のファン数も伸びているのは間違いないだろう。
JeSUがその設立当初に“未来の姿”として口にしていたeスポーツの興行化。その“未来”はいまや現実のものに。eスポーツはこの数年で新たな広がりを見せているのである。
オリンピックやアジア大会におけるeスポーツの取り扱い
第19回杭州大会においては『リーグ・オブ・レジェンド』や『Dota 2』、『ストリートファイターV』など、7タイトルで金メダルが争われ、日本選手団も参加している。
2024年5月現在、オリンピックにおいては国際オリンピック委員会(IOC)がeスポーツに対して慎重な姿勢を見せているためか、いまだ正式種目としての採用は確定していない。しかしアジア大会の実績を考えるなら、正式種目に採用される可能性は高まったと言えるのではないだろうか。
日本と世界では人気ゲームの傾向が異なるなどの差異はあるが、日本でもeスポーツは順調に発展。市場規模を捉えたかなり正確な数字も発表されている。
有料だって観たいものは観る! 大規模eスポーツイベントの勃興
これら2点を語るうえで欠かせない存在がある。それがeスポーツイベント『RAGE』だ。オンラインでは数百万以上の視聴数を集め、アリーナクラスの会場で開催されるオフライン大会では1万人ほどの集客に成功。観戦数の累計はオンラインで1億9240万人、オフラインで6万9000人にも上る。
ちなみに、日本eスポーツ白書2022年度版には『RAGE』のデータは含まれていなかった。2023年度版には『RAGE』の業績も加えられ、総合プロデューサーを務めるサイバーエージェントの興行本部本部長・大友真吾氏のインタビューも掲載されている。
要するに、「お金を払ってゲームイベントを観る時代を作ろう」と乗り出したのである。現在ではオンラインとオフラインのハイブリッド開催が基本。競技タイトルによって差はあるものの、オンライン視聴者数は数百万人を超えるなど、非常に多い。
オンライン観戦はほとんどが無料にも関わらず、有料チケットを買い求めてオフライン会場の熱気を体験したいと考えるファンは少なくない。それを踏まえたうえでオフライン大会のデータを見ていくと、さらに驚かされる。
2023年のおもな『RAGE』関連興行データ
開催日時:2023年6月3日/4日
会場:エディオンアリーナ大阪
入場者:約10000人
RAGE VALORANT 2023
開催日時:2023年9月16日/17日
会場:幕張メッセ
入場者:約12000人
Riot Games ONE 2023(制作・運営:RAGE)
開催日時:2023年12月2日/3日
会場:Kアリーナ横浜
入場者:約15000人
『RAGE』はイベント主催のほかに運営という立場でも業界を支えている。大規模な会場でのオフラインイベントを年間10回以上も開催。有料のイベントだけを並べても、最大約15000人を筆頭に、10000人以上も動員した大会を2023年内に3つも連発しているのである。
『RAGE』がこれまでのゲーム系イベントと異なるのは、内容的にさらにもう一歩踏み込んでいるところだ。イベントクオリティを格段に向上させると同時に、チケット価格もそれに見合った金額に引き上げている。
過去のゲーム系イベントでは、有料チケットの相場は1000円~2000円といったところ。一方、『RAGE』の価格例は以下の通り。端的に言って安くはない。
閑話休題。自宅で観戦できるにも関わらず、決して安くはないお金を払ってでも会場に足を運ぶ観客が1万人もいるのは特筆すべき点だ。また、会場では海外からの来場者も多く見かけることから、世界からの注目度も高いと言える。
言葉を選ばずに言えば、満足度の高いイベントを提供した興行主は儲からないといけない。目的は、よりハイレベルなイベントを観客に提供するため。そのひと言に尽きる。
仮にチケットの平均価格を8000円とすると、1万人以上が入った上記3大会の売り上げだけで約3億円近くにも達する。たしかにそれはすごいことだ。だが、それ以上に、eスポーツイベントの興行主を“チケット代が高いと観客が入らないのではないか”という呪縛から解放した功績は大きい。これこそが『RAGE』最大のエポックメイキングかもしれない。
近年は大物ゲストを呼びつつ大会場で開催する大型eスポーツイベントが増えてきた。この流れに先鞭を付けたのは『RAGE』と言っても過言ではない。
日本におけるeスポーツ前夜
諸説があり正確なところはよくわかっていないが、“eスポーツ”という呼称は日本においては2000年頃から格闘ゲームやFPSを遊ぶプレイヤーたちの一部で使われ出したと言われている。
ところで、日本のeSportsにおける17年の歳月とはどういうものか。コチラの画像をご覧ください。#RAGE_VALORANT pic.twitter.com/RsVE3BhfDV
— やすお(OFF) (@offeryasu) May 9, 2022
1991年にはアーケードゲーム『ストリートファイターII』がリリースされ、“対戦格闘ゲーム”というジャンルが浸透。爆発的に大ヒットとなったこのタイトルでは、ゲームセンター単位で大小さまざまな大会が開催されるに至った。
PCゲームにおいてはPCを持ち寄ってid Softwareの『DOOM』を遊ぶLAN大会が1990年頃からNIFTY-Serveなど大手BBSのコミュニティを中心に開催されていた。インターネットでの対戦が可能になった1995年リリースの同社の『Quake』ではその流れが加速。ユーザーコミュニティ主導によって国際的なオンライン大会も開かれていた。
振り返ればeスポーツという言葉が使われ出すはるか以前から、規模は小さいがその萌芽はいたるところに存在していたのだ。
こうした黎明期のeスポーツはあくまでも“プレイヤーたちが自ら楽しむためのもの”という性格が強かった。前述の闘劇は観客の来場も想定し、2003年開催の第1回時点で前売り1500円、当日1800円という入場料金が設定されていたが、それはごく例外的な存在だ。
先ほどは『RAGE』を例に入場料収入の概算を示した。ここで無視できないのが“経済効果”だ。大規模なeスポーツイベントでは諸経費が数百万円から数千万円という単位でかかるもの。また、来場者は交通費をかけて会場まで通ううえ、会場近辺でグッズや飲食物も購入するだろう。地域経済への貢献という意味でも、eスポーツの存在は決して小さくない。
ゲームにおける楽しみ方の多様化
大規模イベントの勃興は、だからといって古くから続くコミュニティベースのイベントを否定するものではない。たとえば、『ストリートファイター6』のオフライン大会“Fighters Crossover全国大会#00”は、ひとつの好例と言えるだろう。
この大会は同タイトルのプレイヤーのひとりであるかげっち氏が個人で主催している大会ながら全国で予選を行い、2024年3月10日に東京・高田馬場のASH WINDER Esports ARENA高田馬場店で行われた決勝戦には約100人の選手が出場。さらに入場料3000円という有料イベントにも関わらず、200人ほどの観客を集めることに成功した。
こういった多様化の波はイベント運営以外にも及ぶ。いまや“自分ではゲームをプレイしない”あるいは、“軽く楽しむ程度”のライトユーザーでも“見て楽しめる”ものへと進化、深化、そして洗練を遂げている。それは客層の変化という形でも表れている。
まずは観客の男女比。一昔前まではゲーム関連イベントといえばその観客の9割は男性といった時代が長く続いたが、現在では『RAGE』を例に挙げれば女性が3~4割を占めているという。
女性が増えたことに加えて、客層やその楽しみ方にも変化が表れている。プロeスポーツ選手の人気向上と相まって、客席ではアイドルの推し活のようにデコレーションしたうちわなどで選手を鼓舞するファンが増えたこともまた興味深い。
時代の変化は着実に進んでいる。一方的に“ゲームは悪いもの”とみなされる時代はもはや過去のものだ。2024年1月にはJeSUが経済産業省や東京都の後援を受け、功労者を表彰する“日本eスポーツアワード”を初開催。受賞者はユーザー投票によって決定し、13万票以上も集まったというから驚きだ。いまはeスポーツのファンが“好き”を声に出しやすくなっている。
そこを支えてくれたのが大型イベントに参加する高揚感だ。周りには同じゲームを愛する仲間。少しくらいはしゃいだとしても好意的にとらえてもらえる。“好き”を肯定してくれる空間である。
『RAGE』はそんな場所を2016年から提供し続けている。最初から順風満帆とは限らず、動員数が振るわないこともあったかもしれない。それでも耐え続けたことが実を結び、eスポーツは大きく花開いた。先頭に立って引っ張るだけでなく、こういった献身がポジティブなエネルギーを生み出すことはある。