少し前に『スーパーモンキーボール バナナランブル』(以下、バナナランブル)のインタビュー記事を作った。対話の合間に取材対象の写真を入れるのがインタビュー記事の基本だ。そうすると「この人がしゃべっているんだな」と、読者が感覚的に理解できる。
インタビュー記事の話が上がったとき、「その前におさるのことを知っておきたいです」と冗談を言ったら、あれよあれよという間におさるランド&アニタウンの視察スケジュールが組まれてしまった。何やってんだ、セガ。
後日、インタビューを実施。記事で使う写真がなかったので、このとき撮っていた写真が大活躍した。
おさるランド&アニタウンは日光さる軍団で有名なテーマパーク。鈴木信宏プロデューサーを含むセガさん関係者と訪問したところ、まあこれが楽しいのである。鈴木Pとミス・ユースケ、おじさんふたりできゃっきゃしてしまった。
せっかくなので思い出をしたためようと思う。2024年、あの夏の日はきらきら輝いていた。おさるたちに囲まれて。
『スーパーモンキーボール バナナランブル』はNintendo Switch用アクションゲーム。おサルが入ったボールを転がすというシンプルな操作性と絶妙な難易度設計がとくに北米でバカ受けし、シリーズ累計で500万本以上も売れている。
冗談に向き合うために前乗りする男たち
おさるランドは栃木県にある。東武鬼怒川線 鬼怒川温泉駅からバスで約15分。自宅からだと3時間以上かかる。ちょっとした冗談で行く距離ではない。
楽しみすぎて前乗りしてしまった。子どもは遠足の前日は楽しみで眠れず、当日に体調を崩すこともしばしばだと言うが、僕は大人なので前日移動という力技で解決する。
とはいえ遊びではない。移動中も仕事をしたし、宿泊先でも作業に追われることになる。適度な運動(移動)のおかげでふだんより効率がよかったかもしれない。これからは仕事で行き詰ったら鬼怒川温泉に行こう。
考えてみたら僕は在宅ワーク中心なので電車内で原稿チェックしたっていいのである(機密情報を扱わないものに限る)。
鬼怒川温泉駅から出ると、夕方だけど空気は熱を持っていた。カメラマンとして同行してもらったライターのソムタム田井さんと世間話をしながらホテルに向かう。
有名な温泉地だが夏の平日ということで人影も車もまばら。明日の仕事本番を前にして妙に落ち着く時間が流れる。ソムタム田井さんはこの日が締め切りの原稿が残っているそうだ。何かごめん。
駅を出てすぐのところにニコニコ町会議全国ツアー2014の顔ハメ看板があった。
ホテルまでの道のりがエモい。
ホテルは安さ重視で選んだのに立派な温泉があった。和室のビジュアルもたまらないものがある。
館内には麻雀コーナーにカラオケルーム、卓球台、ビリヤード台などがあり、昔は社員旅行などで使われたのだろうなあと思いを馳せる。
仕事であることを忘れそうになるが、この後きっちり働いた。
つぎのプリキュアか?
よく眠って翌日。鈴木Pたちとの待ち合わせ時間より早めにおさるランドに向かう。行きのバスでは観光を満喫するマダムたちと乗り合わせた。楽しそうでいい。熱中症に気を付けてくださいね。
鬼怒川温泉駅前にはSLの転車設備があった。動いているところを見たい。(左)/バスでおさるランドへ。(右)
到着。(左)/向かいにガールズバーみたいな居酒屋があった。(右)
おさるランドの所在地は国道121号線沿い。バスを降り、写真でも撮りながら待とうと思ったが暑かったのですぐに諦める。道路を挟んで向かいにある喫茶店に逃げ込んだ。
こういう写真を撮っていた。
待ち合わせ時間の少し前にセガさん到着。じつは鈴木Pとはこのときが初対面である。まずは名刺交換から。
その前に、通りかかったペンギンに夢中になる。
気を取り直して。
おさるに見守られながら受け取った名刺を見て、鈴木Pがけっこう偉い人だと知る。セガさんのアグレッシブな社風は有名だが、忙しい時期に偉い人がほぼ1日おさるを見るだけというのはアグレッシブで済ませていいのだろうか。たぶんだめだ。
で、どうしておさるランドを視察するかというと、2024年6月25日~7月21日の期間に『バナナランブル』とコラボしていたからである。コラボ先のことはよく知っておきたい。支配人さんに説明してもらいながら散策することに。
ところで、視察が決まってから当日まで僕は不安だった。だって、鈴木Pがどんな人か知らないから。気難しい人だったらどうしよう。
会ったこともないのにいきなり栃木県に呼びつけられる。しかも綿密に予定を組んでいるわけではなく「現地集合。あとは流れで」なのだから、ふつうは機嫌を悪くする。さあ、どうか。
大丈夫だった。あとから写真を見返したらふたりともすごい笑顔で驚く。おじさんどうしの友情を描いた映画のポスターみたいである。つぎのプリキュアはこのふたりなのではないか。自分、やれます。やらせてください!
「あそこに子ざるがいますよ!」とノリノリな鈴木P。
おれたち、マブダチ。
入ってすぐ左手に子ざるを抱っこできる“赤ちゃんハウス”があり、ここはかぶりつきで見ていたお子さんに順番を譲る(大人なので)。まずは園内をざっとめぐる。
おさるランドは小さな動物園みたいだった。おさるのほかにもいろいろな動物が暮らしていて、ペンギンがそこら辺を歩いていたりする。近くでふれあえるのが一般的な動物園との違いなのだと思う。
何やら小屋が見える。
下の方は“アニマルバレー”と呼ばれていて、至近距離で動物を見られるらしい。せっかくなので案内してもらう。
アニマルバレーの入り口にはトーテムポールが立っていた。意図はよくわからないが、漠然とした“よさ”を感じる。こういう衝動みたいな存在に弱い。
何かあるとすぐに記念写真を撮る。
入り口は地下通路風。ひんやりしていて気持ちいい。
アニマルバレーの中央にはでかい石が積み上げられている。もともとは猿山として使われていたようだ。いまはさるは別のところに移動し、やぎとひつじ、うさぎ、モルモットとのふれあいスペースになっていた。
『バナナランブル』パッケージに興味を示すやぎ。
エサを用意するとすごい勢いで食べる。
しれっと会話に加わるやぎ。
動物たちとのふれあいの最中は、鈴木Pと世間話なんかもした。
鈴木 前にここに来たことがあるんですよ。
ユースケ コラボの打ち合わせか何かで?
鈴木 いや、仲間内で「さるを見よう!」と盛り上がって。
同行したセガスタッフもプライベートで来たことがあると言っていたし、人には急にさるを見たくなる本能があるのかもしれない。そして、思い立ったらすぐ実行する行動力は見習いたいところだ。
左から、ミス・ユースケ、やぎ、やぎ、鈴木P。全員かわいいですね。
モルモットたち。鳴き声がほんとにモルカーみたいだった。ぷいぷい。
ゲームの表示バグみたいに斜面に立つやぎを撮る僕と、うさぎに夢中な鈴木P。情報量の多い1枚。
アニマルバレーから出た頃には“スポーツスタジアム”でショーをやっていた。おさると猿回しのお兄さんお姉さんがチームを組んでサッカー勝負。日本対アルゼンチン。
言うことを聞いたり聞かなかったり、おさるたちが自由に振る舞っていてすごくいい。勝敗には選手のやる気も関わってくるようで、この日はアルゼンチンが大勝していた。さすがメッシを生んだ国である。
がんばれがんばれと声援を送るにこにこおじさんたち。
「スポーツは筋書きのないドラマですね」などと話していると、おさるランドのスタッフさんから声をかけられた。赤ちゃんハウスがすいたので子ざるを抱っこしてみませんか、と。
いいんですか? 「赤ちゃんを抱っこしてみませんか?」って最大限に心を許した人にしか言わない言葉だろう。今日会ったばかりの僕らに心を許してくれるんですか?
スタッフのお姉さんに促されて赤ちゃんハウスの中へ。中央のいすに座ると、ひざの上に子ざるが置かれた。
わー。
「ん?」みたいな状況を理解していない顔をしている。小さくて毛はふわふわだ。ちょっとたとえようのない愛らしさだなこれは。人間の赤ちゃんと動物の赤ちゃんはかわいさのベクトルが違うと思うのだが、子ざるには両方あるのである。かわいさのオールラウンダー。個人総合で金メダル。いまおれのひざには小さな命が乗っている。守りたい。世界で愛されるKawaiiカルチャー発祥の地・日本において原宿よりも子ざるのほうがかわいさランクが上だ。あー、でも姪っ子甥っ子と比べたら悩む。あいつらのほうがかわいいかもしれないな。うん、にぃにはお前たちがいちばんかわいいと思うよ。
眼鏡が気になる。
ほんとにやべえですよ、これは。
まだ小さいとはいえ、さるはさる。すごく身軽に僕の身体を上る。「お兄さんの首に上るのが好きみたいですね」とスタッフさん。うれしい。
今度は帽子が気になる。
邪魔らしい。
僕の首に上ったと思ったら今度は髪をつまむような仕草をし始めた。どうやら毛づくろいをしてくれているみたい。うわー何それかわいい! うれしい!
鈴木P、ゲーム業界でいちばん優しい目をしている。
今度は鈴木Pのおひざに。『バナナランブル』のパッケージが気になる模様。
これが売れるときみのご飯が豪華になるかもしれないよ(コラボしているから)。
鈴木Pの首の上が気に入ったのか、くつろぎ始める子ざる。かわいすぎて意味わかんない。
なお、はしゃいでいる僕らの様子は外から丸見えである。“子ざるに夢中のおじさんたち”という展示品になっていた。
ショーの完成度に衝撃を受ける
子ざるを存分に愛でた後はメインステージへ。映像も駆使したショーを見せてもらう。冷房の効いた屋内に入るとそこはおさるランドの資料館のようにもなっていて、いろいろな写真や歴史年表が飾ってあった。
おさるランド内のシアターで公演を行う日光さる軍団は、“反省ポーズ”で知られる太郎次郎コンビの村﨑太郎さんが主宰する猿まわし団体。猿まわしとは、猿使いとおさるが協力して行う伝統芸能だ。アクロバティックな大道芸から寸劇まで、芸の幅は広い。
猿まわしと言うと軽業をイメージするが、これ以外にもいろいろあるらしい。
おさるたちは賢く、信頼関係を築けないと言うことを聞いてくれない。逆に、信頼できるベテランおさるは若い子の失敗をフォローするように動くため、猿使いの皆さんも助けられているそうだ。すごいな、おさる。僕は全然若手のフォローができないというのに。
おさるは次郎やチビ次郎みたいな名前が多いのだが、2013年6月に誕生した四代目次郎の長男は“宇宙”。いきなりスケールがでかい。
これまでの写真には出てきていないが、支配人さんが付きっきりで解説してくださった(左写真の中央)。/おさるたちのサイズ感。大きい子は90cmくらい。(右)
少し待ち時間があったので、お客さんの邪魔にならないように後ろの方の席について鈴木Pとこれまでの感想を話す。子ざるのかわいさについて盛り上がるひと幕もあった。
コラボ期間中はスクリーンに『バナナランブル』の映像が流れていた。
ユースケ 稽古はたいへんそうですよね。どうやって教えてるんだろ。
鈴木P ひたすら反復練習ですかね。やっぱり何度もテストするのは基本なんじゃないかなあ。
ユースケ 『バナナランブル』も?
鈴木P めちゃくちゃテストしましたよ。16人集めて週2ペースで。
バトルモードでは最大16人でオンライン対戦できる。
鈴木P 対戦ゲームでもあるので、テストは限界までやったほうがいいです。じゃないと、ちょうどいいバランスが見えてこないから。
ユースケ 週2って(ほかのゲームと比べて)多いほうですか?
鈴木P かなり多いと思います。でもまあ、おもしろかったですよ。アーケードゲームを作っていた頃みたいで。みんなで筐体の周りに集まってあーだこーだ言い合ってましたからね。
ユースケ ほぼゲーセンだ。楽しそう。
大勢で意見を出し合い、あとで冷静にアンケートも取る。出した意見がしっかり通る透明性を担保するとやる気が出るのでテストの精度が上がる。そもそも“みんなでゲームをする”こと自体が社内レクリエーション的に機能するのでチームの雰囲気もよくなっていく。
意見を出せない/出しにくいのは組織にとってよくない状態だ。『バナナランブル』ではその辺をうまく解決できていたようだ。おもしろい話だったので、後日のインタビューでもあらためて訊き直している。
それはさておき、おさるたちのショーを観る。
さて、いくつもある演目の中から、いまのシーズンは“おさるの学校”と“パイレーツオブモンキー”の2本立てだった。おさるの学校はいわゆる教室コント、パイレーツオブモンキーは“パイレーツ・オブ・カリビアン”のパロディーといったところ。
実際に観覧してほしいので詳細には触れないが、これだけは書いておこう。“ちゃんとおもしろい”のである。おさるのかわいさを期待していた僕は衝撃を受けた。フリとオチがコンパクトにまとまっていて、コントとして丁寧だ。
えっ、すごくない?
驚いた後にしっかり笑う。
観客に「こういうことが起きたらおもしろいだろうな」と期待させ、その後にしっかり回収していく。「おさるは指示通りに動かないのでは」というハラハラ感もいい。どこまでが台本通りでどこから外れているのかわからないのである。
お話自体はシンプルだ。だが、その流れを“さる”という存在が一段階上に押し上げている。小声で鈴木Pと「……完成度が高すぎませんか?」と神妙に話し合った。
喜ぶおじさんふたり。
「かわいいよー!」と声援を送る。
シアターを広く使うアクションシーンもある。身を乗り出すほど熱中。
終演後に記念写真を撮らせていただくついでに話を伺う。支配人さんが僕らを紹介すると、猿回しのお兄さんが「セガさんですか!?」と声をあげた。
「僕の本名、“セガ”って言うんです」
漢字で書くと瀬賀。『バナナランブル』とおさるランドのコラボは、セガさんと瀬賀さんのコラボでもあったのだ。この日いちばんのミラクルであった。
右上のお兄さんが瀬賀さん。
テンションが上がって撮った写真。
おさる神社でヒット祈願
これはほんとに仕事だったのか。軽く不安になるレベルで満喫してしまった。……と思いきやまだ終わらず、今度は“ねむり猫カピ屋敷”で猫とカピバラを眺める。
猫たちはすぐに寄ってきてくれるのでうれしい。
なぜかライター・ソムタム田井さんの下が気に入った猫。(左)/近い。(右)
カピバラは近くで見るとけっこうでかい。おっとりしているイメージがあるが、アグレッシブに動き回っていた。意外と速いんだこれが。
閉場時間が近づいてきた。最後はおさる神社で『バナナランブル』ヒット祈願だ。おさるがおみくじ入りのカプセルを転がしてくれる。
鈴木Pは、
小吉! 微妙! つぎは僕の番である。大丈夫、僕はやるときはやる男なので。任せといてくださいよ。おさるに。
大吉!
その瞬間、「……ワッ!」とフロアが沸いた。これで大ヒット確実である。小吉で終わったら締まらないので、支配人さんは安心しただろうな。
おさるランド&アニタウンでただ遊ぶだけという仕事が終わった。真夏の夜の夢みたいな体験である。閉演後にはスタッフさんにあいさつをして、そのとき今度デビュー予定だという子ざるに会わせてもらった。みんなめろめろ。かわいすぎてどうしていいかわからず、「あー!」と声をあげる。
合間の時間に鈴木Pと世間話をして、楽しそうにゲームを作る様子が目に見えるようでうれしかった。ゲーム開発がたいへんなのは重々承知のうえだが、楽しく作っていてほしい。そもそも、半日もかかる(移動も含めると1日仕事である)効率の悪いお願いを「おもしろそうですね」で引き受ける人たちだ。信頼できる。
そういう人たちと回ったおさるランドはとてもよかった。残念ながら『バナナランブル』とのコラボ期間は過ぎてしまったが、紹介し切れていないアクティビティもあるので、みなさんもぜひ。
ズッ友だよ。
おさるランド&アニタウン概要
所在地:栃木県日光市柄倉763
[電車・バス利用の場合]
鬼怒川温泉駅 3番のりば
“おさるの学校・日光江戸村”行き(約15分)
新高徳駅 のりば
“日光江戸村”行き(約5分)
営業時間
- 平日:10時~16時(最終入園15時)
- 休日・祝日:9時~16時(最終入園15時)
入園料金
「おさるランド&アニタウン」パスポートプラン
メインステージの観覧、サブステージの観覧、アニタウン(ペンギンガーデン・ねむり猫カピ屋敷・アニマルバレー)の入場が含まれる。この記事の写真みたいなことを楽しみたいならこちら。
- 大人(中学生以上) 当日券:3000円 / 前売券:2700円
- 小人(4歳以上) 当日券:1800円 / 前売券:1600円
- シニア(65歳以上) 2500円
[障がい者割引チケット]
- 大人(中学生以上):2000円 / 小人(4歳以上):1200円
「おさるランドショー」プラン
ステージショーだけを楽しみたいならこちら。
- 大人(中学生以上) 当日券:2300円 / 前売券:2000円
- 小人(4歳以上) 当日券:1100円 / 前売券:900円
- シニア(65歳以上) 1800円
[障がい者割引チケット]
- 大人(中学生以上):1500円 / 小人(4歳以上):700円
[団体割引チケット(20名以上)]
- 大人(中学生以上):2000円 / 小人(4歳以上):1000円