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劇薬 -エンターテインメントという薬の真実- はじめに

2017年に出版されたサイバーコネクトツー松山社長のノンフィクション著作、『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』。出版1周年を記念して、登場人物である少年がみずから半生をふり返った手記を公開!

公開日時:2018-11-01 19:00:00

ロゴ決定稿

はじめに
第1章 母の戦い
第2章 再発
第3章 全盲生活
第4章 視力障害センター
第5章 光に向かって

はじめに

“僕も本を書いてみようと思います”

ヒロシくんは電話の向こうで、私にそう告げました。


この文章を公開するに至った経緯を順に説明させていただきます。

私の名は松山洋。株式会社サイバーコネクトツーというゲーム開発会社の代表で、職業はゲームクリエイターです。
2017年に、『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』という本を執筆しました。Gzブレインから出版され、全国の書店で販売されています。
『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』特設サイトはこちら

その本の内容は、“3週間後に全盲となってしまう少年が「最後に遊びたい」と言ってくれたゲームソフトを届けに行く話”。10年前に実際起きた事実をもとに、改めて取材を重ねて執筆しました。
その少年こそが、ヒロシくん(藤原洋くん)です。

『エンターテインメントという薬』を執筆するにあたって、私は10年ぶりにヒロシくんと再会し、およそ4ヵ月ほどかけて本人に取材を行いました。本の発売後、フジテレビからオファーをいただいて、2018年3月には『奇跡体験!アンビリバボー』という番組でドラマ化もされました。
たくさんの人に、ヒロシくんの物語を届けることができました。

そんなある時、ヒロシくんがちょっと照れくさそうに私に言ったのです。

“僕も本を書いてみようと思います”

突然の申し出に、私も一瞬固まりました。え?目の見えないヒロシくんが?本を?書く?書けるの?というか、どうしたの? と尋ねると、ヒロシくんは胸の内を明かしてくれました。

“正直に言うと、ぴろし社長に感化されたのかもしれません。10年ぶりにぴろし社長と再会してからのこの1年。ぴろし社長から「本を書きたい! 書かせてくれ!」って言われた時も、取材を受けながら話をしていた時も、なんていうか相変わらずすごい行動力だなぁって思ってまして。「本を書く」って言っても、そんな簡単に本なんて出せるんだろうか? って思っていたら本当に発売されて。それからフジテレビでも放送されて。やっぱり、ぴろし社長を見てるとなんでも行動すれば実現できるんだなあって思って。そして、「僕も」って気持ちになったんです”

“じつを言うと。ぴろし社長の本の時のインタビューではすべてを語っていなかったのです。あ、いや、嘘はついてません。なんというか、起きた出来事はすべて正直にお話してきましたが、やっぱりその、恥ずかしくてみっともないことや都合の悪いことはあえて言わなかったんです。けど、ぴろし社長の本が発売されてから、僕らの周りでも「藤原君すごいね、すごくいい話だったよ!」ってたくさんの人に言われました。もちろん素直にうれしかったんですよ。それでも、やっぱり心のどこかで「全部」を伝えてないことに後ろめたさというか引っかかりがあって”

“ぴろし社長から勇気をもらったので。これからすべてをさらけ出して、「真実」をみんなに知ってほしくて。それで本を書いてみようかな、って思いました。ぴろし社長、応援してくれますか?”

もちろんだ! わかった。書こう、ヒロシくん。全力で応援するよ。

ハッキリとそう伝えてから、ヒロシくんの執筆がスタートしました。ヒロシくんは自宅のパソコンを使って原稿を書き続けました(キーボードを叩くたびに音声で読み上げてくれる全盲者用のソフトが入っているのです)。

それから数ヵ月後。ヒロシくんから完成原稿が送られてきました。

私はそれを読んで衝撃を受けました。

なんじゃこりゃ……。

思わず口からこぼれた言葉は正に、「なんじゃこりゃ」でした。私がまったく知らなかった・知らされていなかった衝撃の事実が、そこには記されていました。いや、衝撃なんてもんじゃない。事実はもっともっと残酷で過酷な内容だったのです。私はすぐにヒロシくんに電話をかけて確認しました。

“おい、待て、ヒロシくん! 君は本当に「コレ」を公開するつもりなのか? 本当に、世界中の人に見られるってことをわかって書いたのか? いや、いくらこれが事実だったとしても、いくら、なんでも! ヒロシくん、これを公開するといままで俺の本を読んだ人たちの、君たち家族に対する印象が真逆になってしまわないか?”

するとヒロシくんは、“すべてを知ってほしくて、わかって書きました”と静かに答えました。

その後、少し時間をもらって、逆に私のほうが頭を整理することになりました。“わかって書いた”とヒロシくんは言った。けど、これはこのまま公開すべきなのか? どういったカタチで? どうするのがベストなのか? たくさん悩み、いろんな人とも相談しました。

そうして決めました。このまま全文を無料公開しよう、と。

ヒロシくん自身が覚悟を持って書いたものなのだから。すべてをさらけだして「わかった上で」書いたんだから。それを汲み取って応援しよう。そう思いました。

それから、受け取った原稿をこちらですべてチェックし直しました。

ヒロシくんから送られてきた原稿はどうしても誤字がたくさんあって読みにくかったので、そこはこちらで修正しました。文章が繋がっていない所は最小限の修正を入れました。けど、なるだけヒロシくんの原文を生かした状態で公開できるように配慮して調整しました。

なぜこの文章をヒロシくん自身が書くことになったのか?という経緯を説明するために、【はじめに】の部分だけ私が執筆をして、それから本編が始まるという構成になりました。

ヒロシくん自身にもそれを伝えて、承諾をいただきました。

これから始まる本編は全5章に分かれています。第1章はお母さんの視点で書かれています。第2章から第5章まではヒロシくんの視点です。すべてをヒロシくんがひとりで執筆しています。

これから始まる長い長い物語。

ヒロシくんではなく藤原洋くんの物語。

「ある家族」の物語。

残酷で過酷で熾烈で、そして美しい物語。

これは『薬』なんてものじゃない。『劇薬』です。『エンターテインメントという薬の真実』をぜひ皆さんの目で確かめてください。


株式会社サイバーコネクトツー 松山 洋


はじめに
第1章 母の戦い
第2章 再発
第3章 全盲生活
第4章 視力障害センター
第5章 光に向かって

『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』特設サイトはこちら

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