3社の取り組みとVRゲームの今後

 2016年5月10日、東京・The Grand Hallにて、グリーとVRコンソーシアムが共同で主催する国内VR市場の活性化を目的としたカンファレンス“Japan VR Summit”が開催された。本記事では、“VRで生まれるヒットゲーム”と題されたセッションをリポートする。

 本セッションには、パネリストとして馬場功淳氏(コロプラ 代表取締役社長)、原田勝弘氏(バンダイナムコエンターテインメント Worldwide Planning & Development Unit 部長 鉄拳プロジェクトリーダー ゲームディレクター/チーフプロデューサー)、水口哲也氏(レゾネア/エンハンス・ゲームズ CEO)が登壇。数あるVRコンテンツの中でも“ゲーム”に焦点を当てて、それぞれの着眼点から見たVRゲームコンテンツが語られた。

【Japan VR Summit】VRでゲームはどう変わる? 馬場功淳氏、原田勝弘氏、水口哲也氏がアツく鼎談_01
▲馬場功淳氏

 冒頭ではまず、それぞれがVRへの取り組みを解説。コロプラは2014年8月からのべ5つのVRコンテンツをリリースしており、開発に着手するきっかけは馬場氏が個人的にOculus Rift(DK1と呼ばれる開発機)を購入してその魅力に触れたことだったという。コロプラは現在は40~50名でVRコンテンツの開発を手掛けているが、その第一歩は同社のスマートフォン向けタイトルの移植から。『the射的! VR』、『白猫VRプロジェクト』(Oculus Rift版)を皮切りに、Oculus Riftのローンチタイトルとなった『VR Tennis Online』、『Fly to KUMA』、そして米国子会社のCOLOPL NIが制作したHTC Vive用タイトル『Cyberpong VR』の5タイトルを配信中。「本気で取り組んでいる」(馬場氏)という通り、ファンド(Colopl VR Fund)、映像制作(360Channel)といった非ゲーム事業にも積極的だ。

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▲原田勝弘氏

 ファミ通.comでもたびたび取り上げてきた『サマーレッスン』を手掛けた原田氏は、2011年から鉄拳プロジェクト内でヘッドマウント型VRの研究に着手。その根底には「キャラクターをもっと好きになってもらいたい」という命題があったという。その後2011年~2012年にかけて自社IPを活用したVRデモの開発などを経て、2014年に『サマーレッスン』を発表。本作発表時の盛り上がりはご存知の通りだろう。そんな原田氏が大きな転機として語ったのが、2014年11月に開催したPlayStation VR(当時は“Project Morpheus”とされていた)のユーザー体験会(リポート記事はこちら)。世界でも類を見ない台数のデバイスが出展され、2日間で多くの参加者が集まったことから、「ここで得られたフィードバックはいまでも僕らの宝」(原田氏)とのこと。以降は2015年にOculus Gear VRで『パックマン』や『ギャラガ』などをVRアーケードタイトルとして展開したり、お台場に世界初のVRエンターテインメント研究施設であるコインオペレーション式の“VR ZONE Project i Can”をオープンしたりと、取り組みを続けている。

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 そして原田氏が最大の挑戦と語るのが、ヘッドマウントディスプレイ型VRにおける“集団的プレゼン力の弱さ”への挑戦。上層部にデモを見せた時点では好感触が得られるものの、その後、先行投資としての研究費に話が及ぶと渋い反応を見せられることが多かったといい、“個人としての強烈な体験”が得られる裏返しとして、一度に大勢へアプローチできないというVRの特性を、自身の経験を踏まえて語った。なお『サマーレッスン』にフォーカスした原田氏の見解は、CEDEC 2015の講演リポート記事に詳しい。

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▲水口哲也氏

 一方の水口氏は、2014年末、アメリカにVR専門のパブリッシャーであるエンハンス・ゲームズを設立。VRへの挑戦をビジネスとクリエイティブに分けて考え、アメリカを起点にファンディングや契約、交渉などを行っているという。水口氏はアメリカに新会社を設立した理由を「日本よりも情報が早く、プレイヤーと直接話ができる」とし、契約などもスピーディーに行えるといったメリットを挙げていた。

 そして2015年12月には、アメリカで開催されたイベント“PlayStation Experience 2015”にて『Rez Infinite』を発表。PlayStation VRのローンチタイトルとして、2016年10月のリリース予定だ。これは2001年に発売された『Rez』のVR版。水口氏は同作を開発していた15年前から「頭の中ではVRのイメージだった」といい、VR化を決めてファンディングを行い、セガから同作の権利をライセンスアウトして制作しているとのこと。『Rez』は効果音が音楽になったり、コントローラーを通じて震える触覚を感じたりといった“共感覚的体験”がテーマの作品だが、VR版でもテーマは変わらず、現在のテクノロジーを駆使してシナスタジア(共感覚)を体感できるタイトルとなるよう制作しているそうだ。『Rez Infinite』では、プレイに応じた振動が身体にフィードバックする“シナスタジアスーツ”を制作したり、2016年2月~3月に開催された“Media Ambition Tokyo”に出展したりといった取り組みも実施。『Rez Infinite』をプレイしている人を見守る人の座る椅子が、プレイに応じて光り、震えるといった試みで、原田氏が課題として挙げた“集団的プレゼン力の弱さ”に対して「周りの人たちともVRを共有できないかという実験」(水口氏)を行ったという。

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 異なるアプローチでVRゲームの開発を行う登壇者だが、VRゲームならではおもしろさ、VRに適しているゲームとは何なのか。この問いに、馬場氏は「あまり移動のないもの」と回答。体験するにつれて慣れるものの、「現状いちばんの問題」(馬場氏)である“VR酔い”を回避するためには、移動の少ないものが適切だろう語った。一方の原田氏は、VRゲームの特色として、キャラクターがこちら(プレイヤー)を意識することを挙げる。キャラクターに主眼を置いて開発を進める原田氏は、ゲームが映画などの映像と比較される一因を「キャラクターがこちらを意識することがない」ことにあると指摘。ゲームはあまねく“体験”であるがゆえに、そこに“キャラクターからの意識”が加われば「VRは体験として、絶対強烈になる」と断言した。キャラクターがプレイヤーを意識することで、キャラクターとプレイヤーの間には“関係”が生まれる。これが従来のゲームとの最大の違いにつながるのだ。原田氏いわく、VRにおいてゲームは「嫌でも臨場感は得られ、勝手にすばらしくなる。“それ以上のもの”がキャラクターとの関係性やつながり」とのこと。

 また水口氏は、VRタイトル開発の醍醐味を「新しい体験をデザインし、提供すること」と熱弁。「過去の前例や“お作法”の延長で考えてもイノベーション(技術革新)は生まれない」と語ると、原田氏も「おっしゃる通りだと思います」と賛同。「やりたいと思っていたことに、ようやく技術のレベルが追い付いた」とする一方で、イノベーションに対する価値の見出しかたなどがいままでよりも難しくなり、従来の技術革新のようにすぐに突き抜けることがないもどかしさを感じるとも吐露した。