開発秘話や日本におけるVRの問題をキーマンが語る!

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催中の、ゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。会期最終日となる本日8月28日に実施された“「サマーレッスン」が誘う非現実のリアル(1) プロデュース編”では、バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏、玉置絢氏が、話題作『サマーレッスン』開発の舞台裏や、日本におけるVRコンテンツ普及の問題点などを明かした。

 昨年9月に開催された“SCEJA Press Conference 2014”にて発表され、大きな話題を集めた『サマーレッスン』。本作は、ソニー・コンピュータエンタテインメントが開発中のバーチャルリアリティー(VR)システム“Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)”を利用したVR技術デモで、先に行われた“E3 2015”にも出展を果たしている。発表以降、ファミ通.comでも多くの記事を掲載してきた。

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 本セッションでは、『サマーレッスン』プロジェクトでディレクター/プロデューサーを務める原田勝弘氏、企画立案・脚本・ディレクションを務める玉置絢氏が登壇。いったい『サマーレッスン』はどのような意図をもって企画され、どのような障害を乗り越えて発表・実施へとこぎつけたのか。そんな制作秘話とともに、現状のVRコンテンツが抱える問題に至るまで、興味深いテーマが語られた。

『サマーレッスン』を生んだ3つの命題とは? 原田勝弘氏が制作秘話や紆余曲折から痛感した“VRコンテンツの問題・未来を語る【CEDEC 2015】_07
▲原田氏(写真左)はおなじみのサングラス姿ではなく、ふだんの仕事中の姿だというメガネで講演。

 なお『サマーレッスン』に関するセッションは本記事の“プロデュース編”のほか、“テクニカル編”“開発者ディスカッション編”の3コマが実施。これらのリポートは、追って掲載していく。

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 セッションは、おもに以下のテーマに沿って進行した。

(1)HMD VRコンテンツ開発の発端と経緯
(2)『サマーレッスン』が目指したもの
(3)日本のゲーム業界はHMD VRコンテンツの先駆者になり得るのか?
(4)現世代のHMD VRにおける開発時の注意点
(5)HMD VRの未来とコミュニケーション分野の展望

企画の発端は“キャラクターをもっと好きになってもらう手段”の模索

 まずは紹介映像とともに、『サマーレッスン』がどのようなものであるかが紹介。本作はとくにVRにおけるコミュニケーション実験を目的とした技術デモで、プレイヤー(HMD装着者)は“女子学生の部屋で勉強を教える”というシチュエーションのもと、彼女とコミュニケーションを図る。

 まずは原田氏より、HMD VRコンテンツ開発の発端と経緯が解説。『サマーレッスン』プロジェクトの発端は、原田氏がプロデューサーを務める“鉄拳プロジェクト”にあったという。20年以上続く“鉄拳プロジェクト”は、ポリゴンの黎明期から全盛期にかけて、3Dの黎明期を支えた技術を生み出すプロジェクトでもあった。この観点から『サマーレッスン』は人体制御研究の一環とも思えるが、その発端は“キャラクターをもっと好きになってもらう手段”の模索にあったと原田氏は言う。

『サマーレッスン』を生んだ3つの命題とは? 原田勝弘氏が制作秘話や紆余曲折から痛感した“VRコンテンツの問題・未来を語る【CEDEC 2015】_01
▲原田勝弘氏

 “キャラクターをもっと好きになってもらう手段”としては、すでにフィギュア化やマンガ・アニメ化などのさまざまな展開が存在する。たとえばアニメやマンガなどで食事シーンを見せることで、キャラクターに対する親近感が与えられる……などの心理的な“好きになってもらいかた”もあるが、原田氏が着目したのは、“人の視界の80%以上を覆うとリアルに近い錯覚が得られる”という表現。これらは古くからテーマパークの巨大ドームアトラクションやドームスクリーン筐体に応用されていたものだが、HMDではまさにこの表現が実現可能。これを利用することで、「とにかくキャラクターを好きになってもらいたい」(原田氏)という大目的のため、プロジェクトは動き出した。

 すでにインタビューなどで語られているが、“女子学生の部屋で勉強を教える”というシチュエーションににたどり着くまでには、もちろんさまざまな紆余曲折も。まずは簡易的に『鉄拳』キャラクターをHMD VRに対応させてみたが、そこで得られた知見は「格闘家と対峙すると怖い」という「当たり前」(原田氏)のもの。ここで原田氏は、現実世界で感じることは、VRで体感できる――つまり、“現実世界で起きて嫌なことは、VRでもイヤ”という、意外と気づかないポイントに気が付いたという。

 そこで“キャラクターを好きになってもらうため”に導入されたのが、コミュニケーションの要素。“現実と同じコミュニケーション”の実現はHMD体験であれば可能だ。この気づきから、プロジェクトはキャラクターコミュニケーションの研究へと移っていくこととなった。

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