「ゲーム体験をエンハンス(拡張)させていきたい」(水口氏)
『Rez』や『ルミネス』などで知られる水口哲也氏が、2014年末、アメリカに新会社エンハンス・ゲームズ(enhance games, inc.)を設立。2015年1月末には『ルミネス』と『メテオス』の世界展開権をモブキャストと共同取得したことを発表した。いままさに本格始動した水口氏に、新会社で目指すことをうかがった。
※本記事は、週刊ファミ通4月23日号(2015年4月9日発売)に掲載された記事に加筆したものです。
水口哲也氏(文中では水口)
エンハンス・ゲームズ(enhance games,inc.)CEO。ゲームクリエイター、プロデューサー。代表作は『セガラリー』や『スペースチャンネル5』、『Rez』、『ルミネス』、『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』など。音楽と映像のハイブリッドユニット・Genki Rockets(元気ロケッツ)のメンバーでもある。
ゲームクリエイター、プロデューサー
水口哲也氏
◇エンハンス・ゲームズとは?
水口哲也氏が2014年10月にアメリカ・カリフォルニア州に設立した新会社。VR(仮想現実)からモバイルまで、共感覚的にエンターテインメント体験をエンハンス(拡張)することを目指している。
・エンハンス・ゲームズ オフィシャルサイト
準備期間を終え、“新しいゲーム体験”の拡張へ
——『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』以降、エンハンス・ゲームズ設立までの期間は何をされていたのでしょう?
水口 2012年にキューエンタテインメントの取締役を退任し、大学で教えたりしながら、ずっとやりたいと思っていた活動……人間のWANTS(欲求や本能など)といった根本的な部分についてのリサーチや、自分が積み上げてきたクリエイティブ・メソッドを学生や企業の方々にシェアするなど、そんな活動を行っていました。『Rez』、『ルミネス』、『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』と続いてきたシナスタジア( 共感覚的)な作品群の未来を構想するのに、いったん頭をリセットして、“つぎ”へ行くための準備が必要な時期だと本能的に思ったからでしょうね。新しいインプットのために、なるべくゲームから離れつつ、“つぎ”のゲームの構想を準備していました。
——では、エンハンス・ゲームズの設立は、その準備が整ったということでしょうか。
水口 そうですね。「なぜ米国に設立したの?」と訊かれるのですが、それにはいくつか理由があります。ゲームを作ろうとした場合、いままでは限られた方法でしか資金調達ができなかったのですが、海外ではクラウドファンディングも含めてバリエーションが豊富になってきました。あと、デジタル配信が中心となったので、インディーデベロッパーでもパブリッシャーになることが容易になったという点もあります。そして、ゲームはいまやVR(仮想現実)にも拡がりつつあって、VRの動きはアメリカが先行しています。いろいろな状況を考えて、アメリカに法人を設立するのが最適だと判断したんです。でも本社がアメリカというだけで、開発自体は、世界中どこでも構いません。いま東京に開発チームがありますが、拠点は中心となる人やチーム、プロジェクトの状況に応じて合理的に決めていく予定です。いまは遠隔でも仕事ができるので、オフィスの場所にはあまり固執していません。エンハンス・ゲームズは、“クリエイターとして独立して存在できる人”の集まりにしたいので、社員ではなく、個人法人のような人々を求めています。簡単に言うとインディペンデントな人々の集まりですね。テーマによっては、ほかのスタジオや開発会社とも自由に組みます。責任を持っていいものを作る、受動的な人はNG、全員が自分事になれる、その代わりフィー(対価)もしっかり取る、そんな感じです。これはかつて、UGA(ユナイテッド・ゲーム・アーティスツ:セガの開発スタジオ)時代から夢見てきた発想でもあります。
——そんなエンハンス・ゲームズで、水口さんが目指すものとはなんでしょうか。
水口 エンハンスとは“拡張する”という意味です。モバイルでもVRでも、ゲームを「新しい体験」として拡張させていきたいと考えています。自分がずっと追い求めてきたシナスタジアの体験を爆発的に進化させたいと思っています。スマートフォンも含め、いまや世界中の人が何らかのゲームプラットフォームを持っている。VRに関しても、高解像度で3D、フレームのない自由な世界が拡がっています。この数年で「こんな世界が来たらなぁ」という時代が一気にやってくると思います。
——先日開催された“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2015”で、VRを重点的に体験されたそうですね。
水口 今年のGDCでは、VRもAR(拡張現実)もひと通り体験してきました。感じたのは「ここにひとつ確実な未来がある」ということ。この先には、エンハンス・ゲームズでやろうとしてることの未来の大きな部分を占めていると思います。これから何をエンハンス(拡張)しようとしているのか、その構想については、まだ具体的にお話するタイミングではありませんが、来年で『Rez』の発売から15年が経つので、この体験をVRで拡張すると、どんな体験にアップデートできるのか、頭の中で妄想が始まっています。自分が目指してきた共感覚体験をVRで実現することを考えると、アイデアが止まらないんですよね。僕はこれまで“Genki Rockets”などの活動を通じて共感覚的なミュージックビデオを作ったり、ホログラムや3Dの技術を使ってライブをやったりと、いろいろな表現や体験を試してきたのですが、VRはそれさえも内包していく可能性があります。また、『Rez』や『スペースチャンネル5』、『ルミネス』、『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』などの流れの中で挑戦してきたシナスタジアのテーマは、技術の進化によってさらに顕在化できると思っています。過去を振り返ると、いつも技術的なフラストレーションを抱え続けながら開発を続けてきましたが(笑)、ようやく、その制約から解放され始めるかな。そんなわけで、「これからはこんなことができる」というような想像が止まらなくて、日々興奮しています。
新『ルミネス』とは? 新プロジェクトも準備中
——先ほど名前が挙がった『ルミネス』や『メテオス』については、モブキャストと共同で権利を取得されましたね。
水口 それがみんなにとっていちばんいいだろうということで交渉が成立しました。自分
だけでは背負いきれない部分もあったので、モバイルゲームの開発会社であるモブキャス
トに相談して、いっしょに作りましょう、ということになったんです。昔から思い描いていた『ルミネス』の未来形は、世界中の何十億人が遊べるパズルゲームです。詳細については追ってお知らせしますが、いい意味で皆さんの予想を裏切ることになると思います。『ルミネス』のプロジェクトはすでにスタートしています。
——それは、当時の『ルミネス』のままではないということでしょうか。
水口 何をもって『ルミネス』か、という定義があるとすると、その定義をどこまで拡大するか、という話ですね。もちろん、スマートフォンでプレイするのに最適な『ルミネス』を作ります。時代に迎合するのではなく、ルミネスをモバイルでどう進化、どうエンハンスするかを考えたいです。
——『ルミネス』に関して、水口さん自身は、どういった立ち位置になるのでしょうか?
水口 まだ決めていません。いまはほかのメンバーたちと同じ目線で、何が『ルミネス』の気持ちよさで、どんな要素を取り入れることによって『ルミネス』を拡張できるのか、といったことを日々語り合いながら、いろいろなことを試しています。
——『ルミネス』のつぎは、やはり『メテオス』についてのお話を期待してしまいます。
水口 『メテオス』に関しては、桜井政博さんの関与がないものは『メテオス』ではないと考えています。もし本当にやる場合は、桜井さんと話し合い、新しい『メテオス』のイメージができあがってきたら動き出す、というような感じになると思います。
——今後も、エンハンス・ゲームズのプロジェクトに注目しています。
水口 ありがとうございます。『ルミネス』以外にもいくつかプロジェクトを準備していますが、それはまた次回ということで(笑)。世界中の新しもの好きに、喜んでもらえるのではないかと思います。もうね、やりたいことリストがいっぱいなんですよ(笑)。これからは、新たな作品づくりを楽しもうと思っています。インディーで上を目指そうとしている人たちの視線を感じつつ、がんばって楽しまなきゃなと。あとは、新たなメンバーを探しています。僕が手掛けてきたゲームやテーマに興味のある方は、個人でも、法人としてでも、どんどんオファーしてください。いっしょに作りたいという気概のある人たちと、積極的につながりたいです。今回のインタビューを機にエンハンス・ゲームズのホームページを作りますので(笑)、興味のある方はぜひ、気軽にメッセージをください。
<水口氏が手掛けたおもなタイトル
■『ルミネス -音と光の電脳パズル-』
バンダイナムコエンターテインメント(当時のバンダイ)より2004年に発売されたPSP用のパズルゲーム。一定時間内に連続してブロックを消していくと音楽や映像が変化していき、没入感あふれるプレイ感覚を楽しめる。
■『メテオス』
バンダイナムコエンターテインメント(当時のバンダイ)より2005年に発売されたニンテンドーDS用の“打ちあげアクションパズルゲーム”。桜井政博氏が企画、原案、ゲームデザインとして参加した。
■『Rez』
セガより2001年に発売されたドリームキャスト、プレイステーション2用ゲーム。シューティングゲームと音楽の演奏感を両方味わえる。連続でエネミーを撃破していくと効果音は音楽となり、映像や振動と共鳴する。
■『Child Of Eden(チャイルド オブ エデン)』
ユービーアイソフトから2011年に発売されたXbox 360、プレイステーション3用ゲーム。『Rez』の“精神的続編”として制作された。キネクト版は指揮者のようにプレイできる。音楽はGenki Rockets。
■『【18】 キミト ツナガル パズル』
モブキャストよりiOS、Android向けに配信中のパズルRPG。『ルミネス』シリーズ主要メンバーのひとりである小寺攻氏率いる開発スタジオMonstarsと、モブキャストの共同開発タイトルだ。プレイヤーは、夢世界で活動できる特別な存在“ダイバー”となり、夢世界に囚われた眠り姫を救い出していく。水口氏はスーパーバイザー(監修)として参加。