臨場感を出すために、ゲーム画面の撮りかたにはこだわった

 ただいま、テレビ東京、テレビ大阪ほかにて毎週金曜日深夜0時52分より放送中の連続テレビドラマ『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』。本作は、『ゼビウス』など往年の名作ゲームを題材に、ゲームの歴史を辿る……というゲームファン注目のドラマ。2013年10月11日 深夜0時52分からは、第2回目の放送が予定されている。ファミ通.comでは、原案・シナリオ・ストーリー構成を担当した佐藤大さんに続き(⇒記事はこちら)、監督の鈴村展弘氏へのインタビューの模様をお届けする。

 鈴村氏は、『平成仮面ライダー』シリーズや『非公認戦隊アキバレンジャー』など、特撮ファンに人気の監督。本作ではメイン監督として、第1話、第2話を始め6話分を担当している。

一般視点を持つ礼治が、主人公として最適だった

『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の鈴村展弘監督に聞く、「特撮モノにおけるアクションが、このドラマではゲームに相当する」_01
▲鈴村展弘監督。本作のメイン監督として6話ぶんを担当。

――まずは、『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』に関わることになったきっかけからお教えください。
鈴村 テレビ東京の五箇プロデューサーから、「今度ゲームの番組をやろうと思っているんです」という話をいただいたんです。最初は、「なんだろう? バラエティー番組なのかな?」という感じだったのですが、よくよく話を聞いてみると、ゲームを題材にしたドラマだという。五箇さんが『非公認戦隊アキバレンジャー』を好きだったようで、声をかけてくださったみたいですね。それが、今年の5月くらいかな。

――鈴村監督もストーリー作りに参加されているとか?
鈴村 そうです。最初に企画書を見せていただいて、ドラマとしてどうしたらいいのかをアドバイスさせていただきました。そもそも最初は木戸が主人公で、大さんにとって木戸は分身だったんですよ。木戸はすごいゲーマーなわけですが、ドラマをご覧になる方は、全員が木戸に感情移入できるわけでもない。むしろ、ゲームに対してニュートラルな礼治を主人公に据えたほうがいいのではないか……という話はさせていただきました。ゲームが好きじゃない人が見ても、楽しめるドラマにしたいという思いがありました。

――第1話の冒頭では、礼治はゲームに対して否定的でしたね(笑)。
鈴村 一般目線で、「ゲームって何がおもしろいの?」というところから入るわけです。礼治はそこから徐々にゲームの楽しさに目覚めていくわけですが、ゲームをあまり遊ばない方が見ても、「何か、おもしろそうだな」と思っていただけると思うんです。礼治の目線でドラマ作りをしたほうが、入っていきやすい。視聴者の幅を広げる意味でも、そのほうが見やすいのかな……と。

『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の鈴村展弘監督に聞く、「特撮モノにおけるアクションが、このドラマではゲームに相当する」_08
▲10月11日放送の第2話からのカット。木戸の親子の確執がテーマとなる。

――ゲームファンは木戸に肩入れしてしまうかもしれませんね(笑)。
鈴村 そうですよね。木戸メインの回もあったりするので(まさに第2話がそうですが)、木戸目線で見ていただいても破綻がないようには作っています。むしろ、見ようによっては、「木戸が主役なのでは?」と思われるかもしれません。

――実際に形にしていくにあたってはどうだったのですか?
鈴村 ずっと苦労しています(笑)。とにかく時間がなくて……。大さんとは意見のすり合わせをしないといけなかったので、定例の打ち合わせだけでは足りなくて、お互い仕事が終わったあとに集まって、夜中の3時、4時まで話し合ったりしました。ドラマとしては、とにかく第1話の本作りには時間がかかりましたね。このドラマは、いろいろな意味で“新しいものを作る”という取り組みだったので、1話目がすべてのベースだったんです。逆にいうと、1話ができないことには、どういったテイストで作っていったらいいか、方向性が見えてこない。とにかく1話ができるまでがたいへんでした。

――1話の台本ができたときには手応えがあった?
鈴村 そうですね。ただ、みんなが伝えたい思いがいっぱいあるので、どうしても本が長くなってしまいまして……。鬼になって、泣く泣く切っていく役を、僕が担当しました。本作はゲームのみならず、当時のサブカルチャーも盛り込んでいくつもりでいたんです。とはいえ、30分番組で、とてもじゃないけれど、全部は表現し切れない。ゲームが絶対に主役で、そのあとがドラマ。サブカルチャーはあくまでもサブに回ってもらわないといけないということで、そのへんの調整には苦労しましたね。

『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の鈴村展弘監督に聞く、「特撮モノにおけるアクションが、このドラマではゲームに相当する」_03
『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の鈴村展弘監督に聞く、「特撮モノにおけるアクションが、このドラマではゲームに相当する」_04
▲こちらも第2話からのカット。

“当時っぽさ”を出すために心がけたことは……

――キャストに関して伺いたいのですが、今回主要キャストさんは15歳~45歳までの30年間を演じましたよね。年代に応じて役者さんを変えるという判断はなかったのですか?
鈴村 ありました。少年期と青年期で変えるという意見もありました。ただ、今回12話じゃないですか。毎週1年以上の時代が経っていくわけです。3年、4年空いてしまうケースもある。そのときに、先週から続けてご覧になった視聴者の方が、「今週主役が変わった?」ということにもなりかねない。50話、60話と続くのであれば、頭の10本が少年期で、つぎの10本が青年期で……ということができるのですが、全12話だとさすがにつらい。だったら、「ひとりの役者さんに演じてもらったほうがいい」という判断になりました。そういう意味では、今回は引き出しの多い役者さんにお願いしています。

――演技達者な俳優さんが揃ったということですね?
鈴村 はい。今回ですが、じつはスケジュールの諸般の事情で、後ろの2話(11話、12話)から撮影したんですよ。1話からだったら、徐々に成長していく芝居もできますが、いきなり45歳だったんです。波瑠さんは22歳なのですが、いきなり45歳の演技をやらないといけないことになったわけです。田中圭さんだって、実年齢は29歳なので、いきなり45歳ということで、悩まれながら演じられていたようです。ただ、ドラマの都合上17年ぶりの再会というシチュエーションだったのですが、昔仲がよかったけど、久しぶりに会うという緊張感が、逆に出せたのではないかと、浜野謙太さんは、ポジティブにおっしゃってくれていましけど(笑)。

――演技が初顔合せということと、ドラマ中の10年ぶりの再会というのが、うまくシンクロしたわけですね(笑)。
鈴村 それにもうひとつの課題として、撮影は夏なのに設定は冬というのもあったりしました。『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』の回は、ソフトの発売日にあたる1987年1月26日の話を描いているのですが、図らずも真冬で……(笑)。太陽が照りつけるなか、ジャンパーを着て「寒い!」とか演技をしてくれました。

――(笑)。それでは、演出上ではどのようなところに気を配ったのですか?
鈴村 ドラマは1983年から始まるのですが、どうしたら当時っぽさを出せるのか……というのは、ひとつのテーマでした。昔っぽい演出をするのもありかなとも思ったのですが、ただそれも限界がある。セットを古めかしい感じにすれば、なつかしさは出るのですが、演出でなつかしさを出すのは、なかなかに難しい。そこで思い出したのが、当時は駄菓子屋に筐体が置いてあったな……ということでした。あのミスマッチな感じが、当時っぽさを醸し出すのではないかと思ったんです。そして、当時のゲームセンターは、いまとは違って、何となく薄暗くて怪しい雰囲気だった(笑)。もちろん、ゲーム画面を見やすくするためということもあったとは思うのですが……。そこで、ライティングも少し暗めに作ってもらいました。あとは、当時はタバコを吸っている人が多かったので、ゲーセン自体にモヤがかかっている印象があったんですね。それで、撮影のときは煙を焚いたりしました。

――ああ、そういえば、当時のゲームセンターは煙たかったなあ(笑)。
鈴村 あと、重要だったのが音楽。たとえば、『ゼビウス』の音楽が流れたりすると、耳から記憶が蘇ってきたりするんです。視覚・聴覚を駆使して、「とにかく、舞台となるゲームセンターわたなべをなつかしく」というのがテーマでしたね。

『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の鈴村展弘監督に聞く、「特撮モノにおけるアクションが、このドラマではゲームに相当する」_06
▲こちらも2話から。ゲーム画面の撮影にもこだわりが。

――鈴村監督といえば、特撮モノでおなじみですが、撮りかたに違いがあったりしました?
鈴村 アクションは、特撮における最大の見せ場なのですが、『ノーコン・キッド』では、ゲームが見せ場にあたると思ったんですね。特撮モノにおけるアクションが、『ノーコン・キッド』におけるゲーム。特撮モノでアクション部分は、本当に手が抜けないんですよね。芝居は飛ばしてでも、アクションは見たい! という方もいるくらいです。だから、ゲーム画面の撮りかたにもこだわっています。ゲームプレイそのものの映像を、そのままドラマに挿入することもできたのですが、それだと臨場感がない。だから、プレイヤーの肩越しに撮影して、“ゲームを遊んでいる感”を出すようにしました。そのほうが当時っぽい味がでるかな……という判断もありました。そこはこだわった点ではありますね。ちなみに、『ノーコン・キッド』の撮影は、『非公認戦隊アキバレンジャー』でごいっしょさせていただいた菊池亘さんにお願いしているのですが、ちょっと特撮的な雰囲気は醸しだしているかもしれませんね。

――ゲーム画面の撮影にこだわったということは、ゲームプレイ自体もけっこうこだわった?
鈴村 役者さんにガチでお願いしているものもありますが、難易度が高いプレイは、そのゲームのエキスパートの方にお願いしました。

――特撮におけるスタントといっしょだ!
鈴村 そうなんです(笑)。スティックの持ちかたも指導してもらっています。素人くさい持ちかただと、すぐにわかってしまいますからね。ちなみに、第2話のゲームプレイは、全部ハマケンさんが実際に遊んだものなのですが、エキスパートの方の指導の賜物と言えるかもしれません。

――12話ごとに、それぞれのゲームのエキスパートを招いているのですか?
鈴村 できるだけ、リアリティーを出すためにそうしていますよ。リアリティーということで言えば、僕が五箇プロデューサーに呼んでいただいて、この作品を手掛けることになった大きな理由として、リアリティーというのもあるんですよ。『ノーコン・キッド』は、1983年からスタートするのですが、ちょうど僕がゲームを遊んでいた時代なんです。で、回を追うごとに監督が若くなっていく。これはどういうことかというと、自分たちにとってちょうど“どストライク”のゲームをモチーフとした回を担当しているんです。自分たちの世代のゲームを担当したほうが、リアリティーが出るだろうし、いろいろな思い出を反映できるだろうという発想ですね。だから、僕は『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』までなんです。90年以降は助監督をやっていて、ゲームはほとんど遊べない地獄の時代が待っていたので(笑)。

――(笑)。たしかに、ちょっとしたところにもリアリティーが出ますものね。
鈴村 そうなんです。「そういえば、ゲーセンには不良がいたなあ」とか。カツアゲはされなかったけど、「金を貸してくれ」と言われてイヤだったなあ……とか(笑)。いい思い出も悪い思い出も、スパイスとして作品に活かしていけるといいなと、作るときは考えていました。

――最後に、『ノーコン・キッド』を楽しみにしている視聴者に向けてのメッセージをお願いします。
鈴村 本作は、ゲーム30年の歴史を辿る……ということで、その世代を象徴するタイトルを毎回取り上げています。「これは俺にドンピシャの回だ」とか、「両親や先輩の世代は、こんなゲームが流行っているのか」といった感じで、ドラマを見ていただけるとうれしいです。一方で、当時のサブカルを盛り込んでいるので、たとえば、「昔はゲーセンって、24時間営業がオーケーだったのか。夢のような時代があったものだなあ」といった時代背景にも注目していただけると、ドラマの楽しさも倍増すると思います。ゲームを遊ぶ方はもちろんですが、遊ばない方にも好きになっていただけるとうれしいです。

『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の鈴村展弘監督に聞く、「特撮モノにおけるアクションが、このドラマではゲームに相当する」_02
▲ゲームセンターわたなべのセットで、脚本を手がけた佐藤大さんと撮影。

[関連記事はこちら]
※ゲームを愛し続ける生きかたを強く肯定する連続テレビドラマ『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』が放送決定
※『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』キャスト発表第二弾、波瑠、浜野謙太、佐藤二朗の出演が決定
※『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』では『ゼビウス』や『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』など、数々のジャンルの名作が登場
※『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』に『バーチャファイター2』が登場することが判明
※話題のドラマ『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』の秘話を制作陣が語る
※『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』制作発表記者会見にて、田中圭さんらがゲームへの愛を語る
※『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』制作秘話を原案・脚本家の佐藤大氏に聞く、「ゲームも役者のひとりだった」