コンソールやPCメーカーに、Tegra3で開発をしてもらうようにリクルートしているところ

 2012年1月10日~13日、世界最大規模の家電見本市2012 International CESが、アメリカ・ラスベガスにて開催。ハードメーカーとグラフィックチップを共同開発するなど、ゲーム業界にとって欠かせない存在となっているNVIDIA。CESにあわせて行われたプレスカンファレンスでは、スマートフォンやタブレット端末に最適化したチップTegra3を発表して話題を集めたのはご存じの通り(⇒記事はこちら)。そんなNVIDIAの今後の戦略は? 会期中にNVIDIAのコンテンツ アンド テクノロジー事業本部 グローバル コンテンツ マネージメント部 部長 飯田慶太氏にインタビューをする機会を得た。飯田氏は、ただいまNVIDIA本社(米国)にて、グローバルでゲームプラットフォームを担当している。

NVIDIAのキーパーソンに聞く、今後注力するのはオンラインゲームとモバイル端末【CES 2012】_01

――NVIDIAがいまもっとも注力していることはどのような点になりますか?
飯田 これからの期待という意味ではふたつあります。ひとつはオンラインゲーム。ソーシャルやフリー・トゥ・プレイ、MMOを含めて、中国や韓国でまだまだ市場が伸びています。いまのNVIDIAでは、グラフィックプロセッサであるGeForceビジネスでは、売上の3割くらいが中国市場になっています。といいますのも、中国では家庭用ゲーム機の基盤があまりないので、ゲームを遊ぶ場合はパソコンになるんですね。もうひとつは海賊版の問題があります。中国のゲームユーザーも当然のことパッケージ用ソフトを遊ぶのですが、どうしても海賊版がネックになってきます。そうなると、オンラインのフリー・トゥ・プレイで課金というビジネスのほうがビジネスとして成立しやすいのです。中国では、「少しくらいお金を払えばこれだけのすばらしいものがもらえる」ということでビジネスとして成立していまして、マーケット規模はものすごい勢いで成長しています。そういった中国の成長も含め、2013年には、グローバルでのゲームの売上で、PCがコンソールを追い越すという数字が見通しとして出ています。

――来年にはそんなことが?
飯田 なぜかと言いますと、いまの世代の家庭用ゲーム機の基盤はちょうどサイクルの終盤に差し掛かっていると思います。中国、インド、ブラジルといったいま急成長している国を見ると、すべてパソコンでゲームを遊んでいます。どうしても、いまの世の中は、ソーシャルゲームに代表されるように、いっしょに遊びたい、いっしょに対戦したい、というニーズが強いのですが、それを考えるとどうしてもパソコンが最適になります。そういう背景もあって、GeForceに力を入れていきたいです。中国のデベロッパーもUnreal Engine 3などといった次世代のエンジンを使いながら、かなりハイクオリティーのゲームを作っています。

――なるほど。オンラインゲームの隆盛により、PC向けゲームが有望ということですね。
飯田 はい、もうひとつがTegra。そこでおもしろいのが、とくに日本のメーカーにとってポイントとなると思うのですが、Tegraの処理能力を見るといまのコンソールに近い性能があるのです。ということは、ハードの性能をギリギリまで駆使したソフトだときびしいのですが、PlayStation NetworkやXbox LIVE アーケード向けゲームならば問題なくTegraに持ってこれます。最近では、ひとつのプラットフォーム専用にゲーム開発をするのはコスト的に不可能になっています。たとえば、今後はプレイステーション3とPS Vita向けにソフトを開発するという例も出てくるかと思いますが、PS VitaとTegra3は性能的に近いのですね。であるならば、PS VitaといっしょにAndroid端末向けに作ってみようと判断しても、少しもおかしくないのです。Android端末向けに、あまりフィーチャーを削らずにPS Vitaのソフトを移植できるのであれば、こんなにおいしいことはないと、だんだん考えてきていると思います。さらに、PlayStation Network向けタイトルを数億人の規模を持つAndroidマーケットに持ってきても、おもしろいのではないかと思っています。とくに、フリー・トゥ・プレイにビジネスモデルを変えてやろうとするメーカーさんが増えていますので、そういったメーカーさんに対しては、Tegra3は魅力的なプロセッサになるのではないでしょうか。やはりプラットフォームは魅力的なコンテンツありきです。そういった意味では、コンソールやPCメーカーに、Tegra3で開発をしてもらうようにリクルートしているところでもあります(笑)。

――ある意味で、スマートフォンから最先端のPCまでをフォローする戦略ということですね?
飯田 基本的には、NVIDIAは、ピクセルがあるもので、グラフィックスの処理が必要とされているものにノウハウを持っていきたいという発想はありますね。たとえばクルマだとか。その上で、どこの市場のTegraやGeforceを投入するかと考えた場合、まずは市場規模、もうひとつが、我々がそこに製品を持って行って、ユーザーの皆さんにメリットがあるかどうかを考えます。あまり処理能力が必要でないところだと意味がありません。我々としてのフォーカスは、携帯、パソコンと、オートモティブ、あとはCAD、スーパーコンピューティングなどがあります。

――プレスカンファレンスでは、「スーパーフォンからスーパーカーまで」と謳っていましたが、とくに方向性のようなものはありますか?
飯田 それはとてもシンプルで、それぞれの分野に合わせて独自の開発をしているわけではなくて、ひとつの開発手法をそれぞれ応用しているということですね。やっていることはいっしょなんです。さらに踏み込んでいうと、どの分野の技術も最適化しているのですが、それは各分野のパートナーさんとの強力なリレーションシップがあるからです。それを我々は“エコシステム”と呼んでいるのですが、投資をミニマムにして応用するだけでなくて、強力な関係によって技術を最適化する。そこの強みは、絶対にほかには負けないと自負しています。

――パートナーシップには自信を持っているということですね。
飯田 はい。さらに、NVIDIAはチップ会社だと思われがちですが、じつは社内ではハードウェアに携わるスタッフよりも、ソフトのエンジニアのほうが圧倒的に数が多いのです。ただ単に、ソニーさんやマイクロソフトさんや、アウディさんにチップを渡して、「はいどうぞ」と終わらせるだけではもう話にならない。とくにほかミドルウェア会社さんと協力しながら、しっかりとしたプラットフォームを構築しているのです。各メーカーさんが心置きなく開発に取り組めるような万全な体制を整えたいと思っています。

NVIDIAのキーパーソンに聞く、今後注力するのはオンラインゲームとモバイル端末【CES 2012】_02
▲会場に出展されていたTegra3。

 さて、昨今家庭用ゲーム機のウワサが取り上げられることが多くなったが、話題は勢い次世代機の話に。「2013年には家庭用ゲーム機よりもPC市場のほうが大きくなる」との飯田氏のコメントにあわせて、今後のPCと家庭用ゲーム機、さらにはスマートフォン&タブレット端末の趨勢を聞いてみたところ、「BRICsの国々におけるPCゲーミング同様に、爆発的なモバイルの普及はゲーム開発社やソフトメーカーにとってゲーム市場の拡大につながることでしょう。NVIDIAは成長産業であるゲーム業界に関わりをもてることをとてもうれしく思います」とのこと。ちなみに、BRICsとは、ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の台頭する新興大国を意味する言葉だ。さらに、NVIDIAでも次世代機の家庭用ゲーム機の研究は進めているようで、「もちろん次世代の家庭用ゲーム機の基板の研究はすでにしています。おそらくいまのパソコンのハイエンドの機能がそのまま次世代に行くのでは……ということは想像がつきます。グラフィックチップを作れるメーカーは世界でも限られているので、ある程度の予測は立てられる。次世代機が登場するのはいつになるのかわかりませんが、ハードメーカーがどれくらいのレベルのグラフィックチップを採用するのかは、だいたいわかってくるのです。ですので、PC上でその研究はしています」(飯田)とのこと。

 グラフィックまわりに関しては、プレイステーション3やXbox 360など、現行機でも十分満足できるレベルにあるような気もするが、その点に関しては「進化はまだまだ、どんどん必要です」と飯田氏。課題のひとつとして飯田氏が挙げてくれたのが、処理能力のスピード化。たとえば、ピクサーが手掛ける映画のCGなどは、ひとつのフレームを制作するのに数時間かかる。ゲームはひとつのフレームを60分の1秒で制作しないといけないわけで、次世代機が実現する世界に注目が集まるところだ。

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