2009年7月にセガよりリリースされた『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ-』。『初音ミク』ユーザーのあいだで人気の楽曲や、ユーザーの描いたイラストなどがゲーム中に収録されるなど、ミク好きが集まって作り上げたゲームという様相を呈した。さらにリズムゲームプレイ時に画面上で流れるPVは、「これでもか」というほどに気合の入った……というよりもミクへの愛が込められた作り込みとなっていた。そんな『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ-』を作り上げた開発スタッフというのは、どのような人たちなのか? これまで謎に包まれていた開発陣の中から、ファミ通.comでは、『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- 2nd』のクリエイティブプロデューサー・林誠司氏と、ディレクター・大坪鉄弥氏にお話を伺う機会を得たので、ふたりのこだわりポイントともに、同作の魅力に迫っていく。
前作ではディレクターを務め、本作ではクリエイティブプロデューサーとして、外部クリエーターとのやり取りやゲームシステムまわりの監修、曲の選定などを行う。ちなみに中の人(1号)さんではありません。
セガ社内で開発している部分や、外部でやっている部分の橋渡しなど、現場の切り盛り役。クオリティーとスケジュールのバランスを取る役回りであり、スケジュールに関してのツッコミ役でもある。
多数の楽曲が収録されている『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- 2nd』。収録曲は新規追加楽曲30曲に、前作から厳選された楽曲16曲、さらにエディットモードやチュートリアル用に用意された楽曲を合わせると、全部で56曲にも及ぶ。さらにエディットモードではmp3データをBGMとして使うことができるので、その楽曲数に限界はないのだ。
『初音ミク』といえば、ステキな楽曲が山ほどある! あの曲もこの曲も遊びたいと思うのは、当然の欲求と言えるだろう! うん、絶対そう。間違いない。大好きな楽曲が収録されていたときの喜び、「まさかこの曲が!?」という曲まで収録されていたときの驚きもまた本作の楽しみのひとつ。でも、これって誰がどうやって選曲しているの?
楽曲の選考基準は、ユーザー認知度が高くて根強く支持を受けている楽曲というのを中心にしているとのこと。林氏は選曲の理想として、「“このときにこんな曲が流行っていて、こんなことがあったよね”というのを初期からのユーザーさんって覚えているんです。ですから、初期曲なども入れているのは、この曲が流行ったとき、ちょうどミクを好きになったんだとか、そんな感じで自分の歴史と重ね合わせてもらえるように」と言う。『初音ミク』の歴史から、幅広い楽曲を選ぶことで多くのユーザーが満足できるような収録曲となっているわけだ。
↑ニコニコ動画などで人気の楽曲が盛りだくさん! もちろん、一度も聴いたことのない人でもリズムゲームを遊びながら、PVを観たり、曲を聴いたりしているうちに、どんどんいろんな曲に興味が沸くはず!
『プロジェクト ディーヴァ』シリーズの楽しみのひとつと言えば、このゲームのために作られたオリジナル楽曲の数々だ。そのほかの収録曲と同じく、クオリティーの高い楽曲が収録されているけど、オリジナル楽曲ってそもそもどうやって発注しているんだろう?
前作のときはプロとして活躍されている方に依頼をしていたというオリジナル楽曲。今回は『VOCALOID』から育って、現在プロとして活躍していたり、有名になって活躍をしている『VOCALOID』育ちのクリエーターに絞って依頼しているのだ。
↑→人気クリエーターたちによるオリジナルの楽曲も注目ポイント。ぜひチェックしてほしい。
楽曲選考に関して、基本的にはユーザーの方の認知度が高くて、根強く支持を受けている曲というのをイメージしています。あとはリズムゲームですので、譜面がおもしろくなりそうだったりするような曲ですね。だいたいそうやってリストアップしていくと、ものすごい数になってしまいますね(笑)。その中からバランスをうまく取っていくようにしています。まぁ、ただ極端な話ですけれど、いい曲がたくさんあるので、目隠しして選んでもいいリストになると思います(笑)。
好きな楽曲を使い、自分だけのPVを作成することができるエディットモード。『2nd』になって、このエディットモードの機能が大幅にパワーアップしている。プレビューでいつでも自分が作ったパートの確認ができるほか、ひとつ前の小節からプレビューを見られるなど、使いやすさが向上。さらにエフェクトや2キャラクターでのエディットなど、気になる機能が盛りだくさんとなっている!
とにかく多数の機能が追加され、利便性もアップしている本作のエディットモード。しかし、あまりにも機能が多彩すぎて、どこに注目したらいいかわかんない! どれもこれも試してみればいいのはわかるんだけれど、せっかくだから注目の機能を教えて!
さまざまな機能をつけて、その中でもエディット職人と呼ばれる『プロジェクト ディーヴァ』でのPV作成の達人たちに注目されたのが、キャラクターの視線制御機能。カメラを追いかける“カメラ目線”など、目線の使いかた次第で、これまでにはない演出ができるようになるとのこと。かわいく使うだけでなく、おもしろい使いかたもあるとか……?
さっそくPVを作ってみようと思ったけど、どんなことができるかよくわからない! ということで、エディット職人さんの作ったPVを観てみたものの……ホントにこんなことできるの!? 観たことのないモーションがあるんですけど! っていうか、この場面切り替えとか衣装替えどうやってるの!? という人も多いことだろう。ぶっちゃけ、何か裏があるんじゃね?
たとえば2キャラクターを使ったエディットの方法として、2キャラクターを並べて使うだけでなく、同じキャラクターで違う衣装を着せたものを用意して、キャラクターモデルの表示/非表示の機能を使って、瞬間的に切り替えることで早着替えをしているようにも見せられる。さらに、モーションの再生開始地点を選べるようになったことで、新しい動きやポーズをユーザーが生み出すこともできるのだ。用意されたものを、いかに工夫して使うか、というのもPV作成時には重要になってくるのだ。
←ふたりのキャラクターを表示させられるようになった『2nd』。ふたりのキャラクターの使いかたも工夫次第でいろいろなことができる。
→新たに追加されたエフェクト機能。炎や桜吹雪、集中線といったアニメ的効果から、フェードイン、フェードアウトといったエディット職人歓喜の効果まで、さまざまなものが使用できる。
今回はエフェクトの機能が追加されているんですが、現場からのおもしろいアイディアがたくさん入っているんです。集中線とか走っている風の線とか、アニメ的な演出もできるんじゃないかと。リズムゲームの部分でもチャンスタイムが設定できるようになっているので、チャンスタイムや長押し、同時押しをどう使ってくるかというのは楽しみなところですね。矢印をうまくつないでいってキャラクターをそのとおりに動かすとか。想像しているのは、同時押しの“w”を“(笑)”という意味の“w”に見立てて、弾幕で“wwwwww”と飛ばしたりとか誰かやるんじゃないかな、と(笑)。そういったことを想像しながら楽しみに待っているところですね。
エディットモードは、各小節にカーソルを合わせるとその小節の頭が背景に表示されるようになったりとか、すごく使いやすくなっています。前作で「難しいなー」と思っていたのが、「ん? できるかな?」というぐらいにはなっていると思います。実際には機能が増えてよりややこしくなっている部分もありますが、利便性が向上されていますね。あと、歌詞が入れられるようになっています。ということは、メッセージを入れられるということですので、ドラマ仕立てのものPVを作れたりもします。
“ミクルーム”から“DIVAルーム”へと進化した本作。ショップなどで購入して手に入れたアイテムを配置して自分だけのDIVAルームを作れるほか、ゲーム内のPVをリスト化して楽しめる“PVギャラリー”や、目覚ましとして利用できる“ウェイクアップタイマー”など実用的な機能も用意されているのだ。
“スリープタイマー”、“ナビゲートタイマー”、“ウェイクアップタイマー”と実用的な機能が多数追加されているDIVAルーム。自分のライフスタイルの中に『初音ミク』を取り入られられる機能とあって、ミク好きにはたまらない要素のひとつといえるだろう。……言えると思います。たぶん。……あの、そこんとこどうなんでしょう?
大坪氏によると、前作が発売された際、「ミクルームでミクさんを眺めているだけでいいや」という人も多かったとのこと。そこで、「じゃあ、ミクルームで生活してもらおうか」というコンセプトのもと追加された機能が前述の“スリープタイマー”や“ナビゲートタイマー”、“ウェイクアップタイマー”である。そのほかにも、自分の気に入った曲をリスト化して流し続けられる“ミュージックボックス”などの機能もあるため、『2nd』を持ち歩くときは、音楽再生プレイヤーとしてプレイできたり、ミクたちの日常を楽しめたりと、つねにミクたちといっしょにいるような感覚を味わえるわけだ。
←指定した時間になるとアラームが鳴る“ナビゲートタイマー”や、指定した時間が経過するとPSPのスリープモードに移行する“スリープタイマー”など、日常で使える機能が追加されている。
→DIVAルームに、ほかのキャラクターが遊びに来ることもある。ほかのキャラクターとの交流や、キャラクターたちの日常を垣間見られるだけで、顔がにやけてしまいそう。
せっかくDIVAルームがあるのだから、「もっとミクたちとプレイヤーがコミュニケーションを取れるようにして欲しい!」という人も多いはず。DIVAルームでもっとコミュニケーションを取ることはできないの?
ミクたちとのコミュニケーションという部分にガッツリ切り込まないのには、もちろん理由がある! 林氏は「“ミクはこんなこと言わないだろう”とか、そういった部分はユーザーさんごとにあると思います。そのさじ加減というか、バランスというのは、1作目よりはアクティブに攻めていますが、基本的には行き過ぎないようにしていますね」とコメント。大坪氏も「ミクというキャラクターには確定的な答えがないんです。だから、ふだんどんな生活をしているのか、という想像がしづらいんですね。逆にその部分を想像して膨らませていくと“セガが考えたミク”になってしまうので、そのラインをどう引くか、つねに課題として考えています」と、あくまでクリプトン・フューチャーメディアが生み出し、ユーザーたちが育てた『初音ミク』像というものを大事にしたいという意向から、コミュニケーション要素の比重はリズムゲームよりも薄めにしているとのことだった。
『プロジェクト ディーヴァ』1作目が発売されて、そこで初めて『初音ミク』を知ったという人もけっこういらっしゃいます。そういった方が抱く『初音ミク』像と、初期から曲中心で聴かれている方とで、思い描く『初音ミク』像がやっぱり違っているんです。両方の方たちから気に入っていただくには、どうするかということは、つねに考えていますね。ただ、ひとつ言えることといえば、いわゆる本作から派生した“ディーヴァミク”というのも、数ある『初音ミク』像のひとつとして育ちつつあるのかな、と。そうであれば、ありがたいなと感じています。
――『プロジェクト ディーヴァ』全体として貫いているコンセプトというのはどんなものなんでしょう?
林誠司(以下、林) やはりユーザーさんが抱いている『初音ミク』像を壊さないということですね。クリプトン(・フューチャーメディア)さんという版権元さんと連動しながら本作は制作されています。ただ、クリプトンさんから「必ずこのとおりにやってください」と言われるわけではないんです。やっぱり『初音ミク』は、たくさんのクリエーターさんによって醸成され、成長を続けているキャラクターですので、その流れをクリプトンさんから教えていただきながら、逸脱しないように制作している感じですね。
大坪鉄弥(以下、大坪) 『初音ミク』の特徴として、“型”がないということが挙げられると思います。ふつうアニメ原作のゲームなんかを作ると、まず作品の“型”があって、その作品のユーザーさんが喜ぶものを作るにはどうしたらいいか? あとは原作をいかに大事にするか、ということを考えるんですけれども、ミクの場合は曲ごとに世界観が違うんです。そこがおもしろいところであり、難しいところでした。たとえばニコニコ動画などで、すでにPVが作られている楽曲などもありますが、それを本作に持ってきたときに、そのまま同じものを作るのではなくて、違うものをPVとして作りつつ、かつ元のPVを観ていた方たちに「セガはこういう風に作ったんだ」、「こっちもいいよね」って言っていただけるようなモノを作る。これが大前提としてありました。
林 とくに1作目のときは本当に手探りで、「これはいんでしょうか?」ということを本当に何度もくり返して。「ここまでやってしまったら、“セガの『初音ミク』”になっちゃうんじゃないの?」というところは気をつけて、そうならないようにやっているつもりではあります。
――1作目の開発というのは、いつごろから始まっていたんですか?
林 『みくみくにしてあげる♪』が出てくる前から企画そのものはスタートしていましたね。幸いなことに『初音ミク』の最初期の頃に、僕はいち視聴者として立ち会うことができたんです。そのときに、前作のプロデューサーと「『初音ミク』を題材にしたゲームを作りたいね」という話をしていました。開発がスタートしてからは、たくさんスタッフがいるので、『初音ミク』のことをあまり知らない人もいるんですよ。でも、そういう人たちには、「この動画いいですよ」とか、「この曲ガチで泣けます!」などとみくみく菌を増殖させていって、洗脳していきましたね(笑)。
――今後、もし続編を作ると仮定して「こんなことをしたい」といった、アイディアの断片などはありますか?
林 お、それは僕も聞きたいですね。メモしておこう(笑)。
大坪 (笑)。今回、かなりいろんなものを出し切っているので、つぎの『(プロジェクト)ディーヴァ』を作るとしたら、単純にボリュームを増やせばいいというだけではないかな、と思っています。DIVAルームに関しては、もっと違う形もあるんじゃないかな、と感じていますね。ただ、あくまで自分の中での構想なので、ここでは言えないです(笑)。
林 前作から本作への進化というのは、ボリュームアップと最適化という部分でした。もしつぎの作品というものがあるとすれば、その延長線上にありつつも、違う要素がきっと大きくなってくるんだろうな、と漠然と思っています。曲自体はホントに名曲がまだまだたくさんあって、「これを遊びたいんだ」という要望もたくさんいただいています。でも、だからといって「1000曲収録しました! これで満足ですか?」というとそういうことではないと思うんですね。ですから、単純にボリュームアップだけではなくて、『VOCALOID』や音楽って楽しいんだな、ということを、ゲームを通じて高めあっていくようなもの……、そういう仕組みを誰か考えてくれませんかね?(笑)
――それでは最後に、すでに『2nd』を購入した人、そしてまだ購入していない人に向けて、それぞれひと言ずつメッセージをいただければ。
大坪 この作品はリズムゲームが得意な人から、そんなに得意じゃない人まで幅広く遊んでいただけるようになっていると思います。遊んでいただければ『初音ミク』がもっと好きになっていただけるんじゃないかな、と。毎日毎日遊んで、EASYしかクリアーできない人もEXTREMEまでキッチリ遊んでいただけるとうれしいですね。攻略に関して、どうしても難しいと思う人は、曲を何度も聴いてミクといっしょに歌っている感覚でボタンを押してみてください。それだけでけっこうクリアーできてしまうので、ぜひがんばって全曲遊んでいただきたいです。まだ購入していない方でミクに興味がある方は、買って損はしないと思いますので、ぜひ買っていただければ!
林 買ってくださった方に対しては、けっこういろんなことを組み合わせて楽しめるソフトだと思います。いろんなキャラクター、いろんなコスチュームを買って遊び込んでいただいて、いろんな発見をしていただきたいですね。
大坪 ミクをあまり知らなくても、『初音ミク』というものに興味を持っていれば、とりあえず入っていけるゲームだと思うんですよね。“ミクを知らない人でも遊べるように”ということを意識して作っていますので、『プロジェクト ディーヴァ』をきっかけに、ニコニコ動画の広い海へ旅立っていただけるといいかな、と。
林 それ僕が言ったことにしていい?(笑) これから買っていただく方に、ミクが好きな方にも買っていただきたいんですけれども、ミクを知らない人にもいい入り口になっていると思います。いろんな曲が入っているので、ゲームをプレイしていただいて、いろんな曲に触れていただくことで、たぶん幸せになれます。『VOCALOID』を知ると人生が豊かになりますよ!