『Lies of P』の本質は伝わり切っていないのではないか。もったいない。そう感じている。 　本作は2023年9月18日にNEOWIZから発売され、今夏にはDLC『Lies of P: Overture』の配信も決定しているアクションRPG。戦闘システムはいわゆる“ソウルライク”と呼ばれる高難度・死にゲーに属しており、それは決して間違いではない。事実、筆者もそれが目的でプレイしている。 　なので、世に出ているレビューや評価は基本的にソウルライクが好きな人の目線であり、“よくできたソウルライク”として結論付けられていることがほとんどだ。

この記事は『Lies of P』の提供でお送りします。

ソウルライクは好きな人にはめちゃくちゃ刺さる反面、そうでない人には難しすぎる、無理ゲー、ストレスが溜まる、というイメージがつきまとい、手を出しにくいジャンルであるのも事実。ゆえに、ジャンル名を聞いただけで回れ右してしまう人もいるだろう。 　だがちょっと待ってほしい。たしかに『Lies of P』はソウルライクとして良ゲーだが、それだけで語るのはもったいないくらい、世界観や美術設計、そして物語が作り込まれているのだ。 　誤解を恐れずに言えば、

ゲーマーとかオタクってこういうの好きでしょ的な要素がこれでもかと詰め込まれている

。ゲーマーでありオタクである筆者は「好き……」と、トゥンクした。 　以前のレビュー記事では“ソウルライクの奥に秘めたテーマ”をフィーチャーしているが、今回は物語方面をもう少し深掘り。少しでも多くの方、とくにアクションが苦手な人に本作の魔力を届けたい。

『Lies of P』の魅力は「ソウルライクだから」じゃない。イージーモードを実装し、高難度のプライドを捨ててまで届けたい、嘘＝人間性の象徴ということ

DLC『Lies of P: Overture』の発売を2025年夏に控える『Lies of P』を改めてレビュー。高難度なソウルライクアクションとして評価される一方で、イージーモードの実装も発表されている。なぜ難度を下げるのか。開発者の真意とゲームの本質を考察したい。

なお、核心は避けているものの、企画の性質上、多少のネタバレは避けられない。記事を読んでいて「あ、おもしろそう」と思ったらすぐブラウザバックしてゲームをプレイしてほしい。遊んだ後でじっくり語り合いましょう。

『Lies of P』情報がつまった特設サイト“DIVE TO OVERTURE”はこちら

多種多様な姿を魅せるクラットの街並み

　ざっくり物語の全体像を紹介すると、ほとんどの人が知っているであろう

の冒険をモチーフにしていて、人形技師のゼペットじいさんに作られた人形が主人公。とはいえ世界観はだいぶ異なり、ベル・エポック時代（19世紀末～20世紀初頭頃）のヨーロッパを舞台に、華やかさとゴシックホラー的な恐怖が共存している。

主人公を導いてくれるヒロイン的なお姉さんも超美人。レベルアップのために触れられるシーンとか、耽美でいけない雰囲気がすごい。

『Lies of P』の世界では“エルゴ”と呼ばれる謎のエネルギーが発見され、自動で動く人形、文字通り自動人形が発明される。人形たちの力を借りて急速に発展したのが、本作の舞台となるクラットだ。 　しかしあるとき、自動人形たちが一斉に謎の暴走を始め、人間を虐殺。人間も人形を恐れて反撃を行った結果、街は崩壊し、血と油まみれの廃墟になってしまったところで主人公が目覚める……というのが物語の始まり。

自動人形の普及率はそうとう高かったようで、街中に暴走した人形たちがたくさんいる。街中で動いているのは人形くらいで、生存している人間はほとんど見かけない。

なぜ人形たちは暴走したのか。なぜ主人公は同じ人形にも関わらず正気を保っていられるのか。いろいろな疑問が断片的に提示される中でクラットの街を巡り、人々を助けながら原因を探っていくのが序盤のおもなシナリオとなる。 　あちこちを奔走していると、自動的に街並みが目に入る。これが本当にすばらしいのだ。かつての栄華を思わせる造形美や、ブリキと歯車に満ちた蒸気はないけれどスチームパンク的な雰囲気（蒸気機関はエルゴに置き換わっているイメージ）は、ゾクゾクするほどの美しさを放っている。

光と影による演出、TIPSアイテムを見つけたときの「何かあったんだろうな」と思わせる匂わせ、そして癖のある登場人物たちと、これでもかと世界観にグイグイと引き込もうとしてくる。ものすごい引力を感じるはずなので、もう身を任せてしまおう。退廃的なビジュアルに魅了された瞬間があなたのスタート地点だ。

真実を求めて突き進むうち、引力はさらに力を増す。人間の身体が硬化して死に至る謎の“石化病”と、それを治そうと非道な実験をくり返す“錬金術師”、そして明らかに感情を持った人形などが登場し、ますます混迷を極める『Lies of P』の物語。戦いの舞台はクラットの各地へ広がり、まったく違う様相を見せ始める。

アントニア婦人の美しさは前回の記事で語られている。そちらもぜひご一読を。

石化病とか錬金術とかこういうワードは単純にワクワクするので大好き。

あえて別のゲームにたとえるならば、『バイオショック』のような雰囲気であった街に、次第に『バイオハザード4』を彷彿とさせる空気が流れ込み、最後は『エルデンリング』だなぁと感じた。 　過去に掲載された開発スタッフインタビューでは『ダークソウル』や『ブラッドボーン』に影響を受けていると明言していることもあり、この辺りの雰囲気が好きな人にはビンビン来るものがあると思う。

ちなみにゴシックホラーな雰囲気が担当編集者の心の柔らかい部分を刺激したらしく、「ゴスロリ好き、とくにアリスアウアア（※）やモワ・メーム・モワティエ（※）に憧れた人に遊んでほしい。ミホマツダ（※）の王子系ファッションが好きな人にもおすすめ。ゲームだったら『アリス イン ナイトメア』や『第五人格』が好きな人」と熱弁をふるっていた。

※アリスアウアア、モワ・メーム・モワティエ、ミホマツダ：ファッションブランドの名称。独特な世界観を形成していて、とてもかっこいい。ちなみに、モワ・メーム・モワティエはMALICE MIZERやMoi dix Moisのギタリストとして知られるMana様のブランド。

言葉だけで説明すると、いろいろな要素のごった煮に見えるかもしれない。だが心配は不要だ。実際は没入感を高める演出と世界観の落とし込みによって、じわじわ心にしみ込んでいく。清流が流れるように少しずつクラットの裏の顔が明らかになり、人形への恐怖から人間への恐怖に移り変わっていく。 　本来なら嫌悪されるはずの“恐怖”でプレイヤーを魅了する手法はじつに見事。だからこそ、似ているようで似ていない、オリジナルのゲームとしてしっかり確立されているのだ。

科学的なモノからオカルト的なモノまで山盛りで登場する。

物語と演出、この2点がものすごくストレートに刺さる。難解そうな物語でありながら答えがハッキリ描かれているのもいい。序盤から中盤はたくさんの謎が降ってきて、ひたすら匂わせのターンが続くのだが、終盤は謎解きパートと言わんばかりに真相への答えが散りばめられている。「あれはそういうことだったのか」と気づいた瞬間のカタルシスたるや。 　メインのストーリーだけだとすべてを知ることはできないが、サブクエストやTIPS集め、2週目のプレイによってたいていの謎は解ける。プレイ後にモヤモヤすることなくスッキリできるのもおすすめポイントのひとつだ。

ちなみに、プレイ後に原作小説の

『ピノッキオの冒険』やディズニー映画の『ピノキオ』

に触れると、「コレがモチーフになっていたのか！」と直接的なものからさりげないものまでたくさんのオマージュに驚くのでぜひ。

人形が嘘をつく。そこに込められた意味と本家“ソウルライク”との対比

ここまではおもに美術的な美しさから没入感を語ってきたが、物語と演出面の魅力にも踏み込ませてほしい。 　『Lies of P』に登場する自動人形たちはアシモフのロボット三原則のような「嘘をついてはいけない」、「人を傷つけてはいけない」などの絶対のルールを持っている。それにも関わらずなぜ人間を虐殺してしまったのか……というのも大きな謎のひとつなのだが、そんな暴走した人形たちですら嘘をつくことはできない。

ところが、ゼペットじいさん最高傑作の主人公は、なぜかこの縛りから逃れ、嘘をつくこともできれば、人を殴ることもできてしまう。これを逆手に取って、人形を排除しようとする人間たち相手に嘘をつくことで「自分は人形じゃない」と証明しながら進んでいくことになる。初めて嘘をついたシーンがこちら。

「ソウルライクだから」という理由で『Lies of P』を敬遠してはいないだろうか。たしかにアクションRPGとして評価されやすいゲームではあるが、世界設定や美しさ、人間の描き方も魅力的なのだ。

『Lies of P』世界観と雰囲気が最高な名作を語りたい。アクションが苦手だからと敬遠せず、SF・ゴシックホラー・レトロを混ぜ合わせた退廃美に浸ろう

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