プレイヤーと作り上げたエンディングテーマ
特集“ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール”の第3回は、ゲームの思い出を彩るサウンドについて。今回話を伺ったのは、じつに14年にわたって『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のサウンドを支えてきた水田直志氏。最終章“ヴァナ・ディールの星唄”(以下、“星唄”)では、エンディング曲『ヴァナ・ディールの星唄 -Rhapsodies of Vana'diel』で、プレイヤーがコーラスとして参加するという企画を展開した。その制作の裏側や、楽曲に込めた思いに迫っていく。
『FFXI』のサウンドを担当。初期こそ分業だったが、拡張ディスク以降の楽曲はほぼ氏によるもの。
──“星唄”で追加された楽曲の中で、もっとも注目するべきはエンディングテーマだと思います。今回はそこにフォーカスしたいのですが、エンディング曲はタイトル画面の『ヴァナ・ディールマーチ』のメロディーがモチーフですよね。
水田直志氏(以下、水田) 最終章に流れる曲として、集大成にふさわしい、これまでの冒険を思い出してもらえるものがいいと考えました。その象徴が『ヴァナ・ディールマーチ』であり、このメロディーを使うべきだと。
──作詞を担当したのは、佐藤弥詠子さんですが、水田さんから何かオーダーはされたのでしょうか?
水田 歌詞はお任せしていました。実際に上がってきて、気になるところに対してリクエストを出したりはしましたが、佐藤や伊藤(伊藤泉貴氏。『FFXI』ディレクター)にもこだわりがあったので、それならばということで話がまとまりました。
──水田さんが気になったポイントはどこだったのですか?
水田 抽象的な言いかたになりますが、視点がいくつかの場所に移動していると感じたんです。それを、一点に定めるのはどうか、と伝えました。
──具体的にはどのあたりでしょう?
水田 歌い出しはプレイヤー視点ですが、途中から引いた視点になっていますよね。そこを、地に足の着いた感じで統一してはどうか、と。言葉尻どうこうというレベルではなかったので、「そうすると私の作詞とは相容れない」ということになりました。って、べつにケンカしていたわけじゃないですよ(笑)。
──佐藤さんなりの意図があってのことだったと。
水田 そうですね。結果的にとてもよかったと思います。一歩引いた大きな視点があることも大事だなって。
──エンディングテーマのとてもユニークな試みとして、プレイヤーをコーラスに参加させるという企画がありましたよね。これはどういった経緯で?
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水田 コーラスの企画は自分が発案しました。最終章にふさわしい盛り上がりとして、ゲーム内でもさまざまな企画があったと思います。そこで、サウンド面からもアプローチができないかと感じていました。集大成のシナリオに対してふつうに曲を作るより、『FFXI』らしく、音楽もいろいろな人が参加して1曲を完成させるというのが、このゲームの思想そのものにぴったりだと思ったんです。
──プレイヤーからはどのくらいの応募があったのですか?
水田 700人弱だったかと思います。
──海外からの応募はありましたか?
水田 ありましたね。自分が編集した感覚では全体の2~3割くらいです。
──男女の比率は?
水田 イメージでは、男性6:女性4くらいでしょうか。
──ミックス作業はたいへんでしたか?
水田 たいへんでしたね(苦笑)。まず、プレイヤーがコーラスに参加すると言っても、全員にスタジオに来てもらうわけにもいかないので、それぞれで録音したものを送ってもらうという形式にしました。しかも、募集要項に“審査をせず、すべて使います”とうたっていたので、全員のコーラスを聴きました。その後、そのまま使えるものと、別途編集が必要なものとに選別するだけで1週間かかりました。
──編集とは?
水田 生活音も合わせて録音されていたりして、それを除去するとかですね。
──一般家庭での録音は、なかなかハードルが高かったと(笑)。
水田 企画自体はよかったと思うのですが、伴奏なしで録音するというのは、簡単ではないですよね。でも、多くの方にご協力いただいていますし、失敗できないぞというプレッシャーを感じつつ、ひとつずつ作業を進めていきました。
──エンディングテーマのメインボーカルを担当されたファンタスマゴリックのRiRiKAさんは、かなり熱心な『FFXI』プレイヤーと聞いています。
水田 はい。この企画自体がプレイヤーの皆さんで1曲を作り上げるものなので、そのメインを歌うかたも、単に知名度などで選ぶのではなく、『FFXI』に思い入れのある方に歌ってもらうことがとても大切だと考えていました。
──彼女の歌声はすばらしいのですが、プレイヤーのコーラスのパートになると、主張を抑えて、主役をプレイヤーたちに譲っているように思えます。
水田 そこは、すごく気をつけた点なんですよ。最初はメインボーカルのふたりが曲を引っ張っていきますが、コーラスのところからはプレイヤーに主役が変わるということを明確にしたかったんです。
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気持ちが高まるまでに必要な10分間
──エンディング曲はおよそ10分ありますが、ゲーム内で流す際、水田さんはこれを編集せず、フルで使ってほしいと伝えたそうですね。
水田 はい。いままでそういうような指定をしたことはなかったのですが、今回のエンディングテーマは、完全に計算して作り上げた10分ですし、一部を切り取って使ってほしくはなかった。同じメロディーのくり返しだとしても、歌っている人も違うし、時間の経過による気持ちの高まりってあると思うんです。
──水田さんの強い気持ちに応えるべく、開発チームも10分のイベントにすることを決断したのですね。
水田 シーンとしては最高のところから曲がスタートして、当初は入れる予定のなかったスタッフロールも流れ、すばらしい演出になっています。
──個人的に、すばらしい施策だと思ったのは、エンディングテーマの編集版をYouTubeにて広く公開したことです。エンディングのために書いた曲を公開するというのは、難しい判断だったのでは?
水田 これは、宣伝チームからの提案ですね。
宣伝担当 隠しておくよりも、プレイヤーはもちろん、以前『FFXI』をプレイしていていまは休憩している人などにも、ひとりでも多くの方に“星唄”を知ってもらうことのほうが大事だと思ったんです。
水田 理想を言えば、ふつうにプレイしていただいて、シーンとともに感動してもらいたいのですが、遊んでいただくプレイヤーさん自体を増やさないと意味がないことも理解しています。ですので、そのきっかけとなるような編集版を公開することにしました。
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──開発チームの方にお話をうかがっていると、画面もまだでき上がっていない状態で、フワッとした内容で楽曲制作を依頼されることが多かったようですね。
水田 具体的に曲調を指定されることもありますが、概要説明の後「いいものを作ってください」とだけ言われることも多いので、こちらも考え甲斐があります。ただ、時間がないときはボツになったら怖いので、イメージだけでも……ということはありました(笑)。
──提出後に「これじゃない」みたいに言われたことはありますか?
水田 ありがたいことに、一度もなかったんですよ。
──それは職人の域ですね。考えようによっては、NGがなかったというよりは、水田さんの音楽が『FFXI』の音楽であり、水田さんご自身が『FFXI』のサウンドというものを定義し、広げていったのかもしれません。そうした『FFXI』の楽曲制作も、今回でひと区切りになりそうです。いまの心境は?
水田 やっとプレイステーション2から解放される、でしょうか(笑)。
──世界中でプレイステーション2向けに楽曲を制作されているのは、水田さんくらいでしょうね。
水田 PC(Windows)版の場合は、制作した楽曲データを変換するだけで済みますが、プレイステーション2で曲を鳴らす場合、一度曲をバラバラにして、楽器単位でサンプリングを行い、さらに演奏データも作る必要があります。これがものすごく手間で、仕上がるまで10日くらいかかるんです。スマホ向けのゲームもストリーミングで音楽を鳴らしている時代にですよ(笑)。
──プレイステーション2は、2000年発売のハードですしね……。
水田 そうした作業がなくなることはホッとしていますが、半面、これまでいろいろな曲を作ってきて、多くのプレイヤーに愛されているタイトルなので、今後、追加することがないのかな、と考えると寂しいですよね。
──またあるかもしれませんよ! あと、そのときはおそらくPC版の変換だけで済むのでは?(笑)
水田 たしかにそうですね(笑)。
──では、最後になりますが、『FFXI』のプレイヤーにメッセージを。
水田 これまでずっと遊んでいただいている方には、とにかく感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます。いまのヴァナ・ディールはとても遊びやすく、最終章の“星唄”もプレイする価値のあるものに仕上がっています。休止中の方や、『FF』シリーズのファンだけど『FFXI』は未経験という方も、ぜひこの“星唄”をきっかけに、『FFXI』を楽しんでいただければと思います。
ファミ通.comでは3月22日から4日連続で特集企画“ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール”をお届けしている。
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