“星唄”のゲーム的なコンセプトと、気になるヴァナ・ディールの未来

 週刊ファミ通2016年3月10日号に掲載された特集“ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール”から、ディレクター伊藤泉貴氏とアソシエイトディレクター藤戸洋司氏へのインタビューを、紙幅に収まらなかった部分を含めてお届けしよう。

 ビシージやカンパニエなどのバトルコンテンツや、最終章“ヴァナ・ディールの星唄”(以下、“星唄”)の監修を務めた、ディレクターの伊藤泉貴氏。そして、チョコボ育成や釣りなど、“ライフ系”を手掛けている藤戸洋司氏に、“星唄”のゲーム的なコンセプトと、気になるヴァナ・ディールの未来について尋ねた。

『FFXI』ディレクター伊藤氏&アソシエイトディレクター藤戸氏インタビュー~“星唄”からまた冒険が始まる【ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール】_03
『FFXI』ディレクター伊藤氏&アソシエイトディレクター藤戸氏インタビュー~“星唄”からまた冒険が始まる【ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール】_05
▲ディレクター伊藤泉貴氏
バトルプランナーを経て、『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のディレクターとしてヴァナ・ディール全体を統括する。
▲アソシエイトディレクター藤戸洋司氏
チャットや合成、チョコボ育成などを担当。利便性の向上など、『FFXI』をさまざまな形で支えてきた。

“星唄”は新しい冒険の導線になっている

──おもにゲームプレイの部分を手掛けられているおふたりですが、まずは“星唄”のゲームプレイにおけるコンセプトをお聞かせください。

伊藤泉貴氏(以下、伊藤) 現役の冒険者の方に最後の物語をお届けするということはもちろんですが、復帰してくれた方が“星唄”のシナリオを進めることで、よりプレイが快適になり、やり残したことにも挑戦しやすくなるというものを目指しました。

──終盤に訪れる醴泉島の敵を1体倒すと、万単位の経験値が入って驚きました(笑)。

藤戸洋司氏(以下、藤戸) それは、おそらくキャンペーンの影響が強いですね。醴泉島の敵がいちばんレベルが高く、もともと得られるポイントも多いので、そこに期間限定のキャンペーンやアイテムの効果が重なると、ものすごい経験値量になります。

──“星唄”を進めていくと、フェイスを5体まで呼び出せるようになりますが、これは大きな決断だったのでは?

伊藤 フェイスは最初から5体まで呼び出せるように設計していました。それをいつ開放するべきかと考えたとき、“星唄”実装のタイミングしかないと。そもそも、フェイスはソロプレイを促進させるという目的ではなく、今後パーティが組みにくくなっていくことへの対策である側面が強いため、それほど大きな決断でもなかったですね。

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──“星唄”の終盤では、けっこう歯応えのあるバトルが発生しますが、復帰者は少し苦労するのではないでしょうか。

伊藤 スタッフと話し、あまりゆるいバトルにはしないと決めていました。なかにはちょっと強いヤツもいますが、そこはガチでいってもらいたくて。

藤戸 いまですと、エミネンス・レコードをこなすだけでIL117までもっていけるので、当面は装備に困らないはずです。しかし、そのまま一直線で“星唄”を終えようとすると、醴泉島のナラカ族討伐あたりで詰まるかもしれませんね。そこで、たとえばアーティファクトをIL119に強化できることを知って、必要なアイテムを集めるために上位バトルフィールドに行ったりしてほしいなと。寄り道にはなるけれど、愛着のあるジョブを強くすることができる。そういう考え、行動につなげてもらうための導線でもあるんです。

伊藤 ジョブによってはIL117で最後までいけなくもないのですが、かなりきついとは思いますね。

藤戸 “星唄”は、復帰者の方が「『FFXI』ってどんなゲームだったっけ?」とか、「装備を強くしたいなあ」といった状況を体験してもらいつつ、ラストバトルを乗り越えて、最後は泣いてもらうという意図もあるので、できればいろいろなコンテンツにアクセスしてほしいんです。

──流れを追ってほしいと。その手始めとなる、エミネンスで取得できるIL117の装備群ですが、見た目がかなり貧相と言いますか……(笑)。

伊藤 エミネンス・レコードでIL117の装備を手にしたプレイヤーは、いったん初心に帰ってほしいんですよ。そこから再スタートして、見た目のいい装備に早く更新したいというモチベーションに変えていただければと思いますね。

──エミネンスの交換品にIL119の装備を追加したりはしないのでしょうか?

伊藤 先ほど藤戸も話していたように、現在ではいろいろなルートでIL119の装備を手にすることができます。ひとりでスカームに挑戦してIL119を狙ってもいいですし、モグチケット【赤】を持っているなら、それで交換するのも手です。安易にエミネンス交換品にIL119を追加すると、そうしたコンテンツ群が不要になってしまう懸念もあるんです。

──確かに、エミネンスだけで装備を揃えてラスボスに挑戦という流れは、ちょっと違いますね。ちなみにですが、ラスボスがアレになった理由は?

伊藤 最初のシナリオミーティングのとき、自分から出したアイデアが、エンプティロード(無の王)という存在だったんです。エンプティは、『プロマシアの呪縛』で登場した要素ですね。そしてもうひとつ、“無の使者”というキーワードがあって、これを突き詰めると、“すべてを無にする存在”になる。そう考えたときに、『FFIII』に出てきたアレが“無”そのものだったんですよね。それに気づき、ヴァナ・ディールの世界にマッチしているということで選びました。

──『FFIII』を手掛けた田中さんへのリスペクトでもある?

伊藤 田中さんたちがヴァナ・ディールを作った時点で、すでにそのキーワードが世界に秘められていたということです。つまり、この最終章である“星唄”は、田中プロデュースでもあるんですよ。

──さて、“星唄”をきっかけに復帰したプレイヤーが『アドゥリンの魔境』のミッションを進めようとすると、ワイルドキーパー・レイヴが大きな壁になりますよね。

(編注:進行上必須ではないが、ユムカクスと呼ばれるモンスターを討伐していると、移動距離を短縮できるワープが使用可能となる)

藤戸 現状、定期的にワイルドキーパー・レイヴキャンペーンという施策を展開しています。この期間中は現役の冒険者も参加することが多いので、その流れに乗って討伐に挑戦してほしいですね。キャンペーン自体に魅力がなくなり、参加者が減ってしまったら、そのときまた考えようとチームでは話しています。

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“FFXI”のバトルとストーリーは今後も進化し続ける

──今後の展開についてですが、毎月アップデートしていくそうですね。

藤戸 もとからそのつもりだったんですけど、もうバグフィックスと調整しかしないよ、みたいな変な伝わりかたをしてしまって。あくまで、拡張ディスクのような大規模なアップデートは難しいというだけで、定期的なアップデートはもちろん続きます。チーム自体が縮小してしまうのはしかたのないことなので、そのメンバーでできることを毎月提供していきたいですね。どこまで手を入れられるかに関しては、制限はありますけど、何もできないわけではないので、「やりますよ!」という意思表明と受け取っていただけるといいと思います。やめる気なんてぜんぜんないですよ(笑)。

──こういうことをやってみたい、というものはありますか?

藤戸 具体的なことはまだ言えませんが、バトルとストーリーは『FFXI』の大きな柱でもあるので、この要素はできるだけ大切にしたいと考えています。皆さんがフォーラムなどで心配されているのも見ていますが、続けていくので「勝手に終わらせないで!」と(笑)。

伊藤 やれることのボリュームや、実装の優先順位はもちろんありますが、まだまだ開発は続きますので、あまり心配しないでください。

──マウント(乗り物)も増えそうな予感ですね。

伊藤 じつは10年くらい前にも、マウントを増やせないかって相談したことがあるんです。その当時は、さまざまな仕様の関係で実装できないと言われてあきらめたのですが、新しいプログラマーに相談したら、「やれますけど?」って(笑)。

藤戸 あの当時はサーバーの都合で増やせないものが多かったんです。しかし今回、“星唄”を終え、その上限が見えてきたことで、以前できなかったことも可能になってきた。

伊藤 当時は、この先何年運営するかわからないから、これ以上クライアントを太らせる(仕様を詰め込む)といつか大きなしわ寄せが来る、そんな恐れからセーフティーラインがだいぶ手前にあったんですよね。

藤戸 そうしたやり取りを経て、いま装備品のバリエーションを増やせたりもするわけです。

──伊藤さんが当時増やしたかったマウントは何ですか?

伊藤 たとえば、ビートル族のマウントに乗るには、そのノートリアスモンスターを倒さなければならない……とか。そうすると、世界を巡る新たな理由になりますよね。

──なるほど。それはいいですね。

藤戸 ビートル族の脚の向きも直ったしね(笑)。

伊藤 これで冒険者の体重も支えられます(笑)。新しいエリア、モンスターが増えれば、あれに乗れるんじゃない? という楽しみが生まれる。ただ、ひと口にマウントといっても、種族ごと、そして男女で乗りかたも変わってくるでしょうし、体の大きさもバリエーションがある。その調整を考えると、どれだけたいへんなことかも想像がつくので、どんどん追加できるかどうかはまた別になりますね。

──今後のアップデートに期待しています。では最後に、休止中の方を含めて、すべての『FFXI』プレイヤーにメッセージをお願いします。

伊藤 “星唄”は、開発者全員がユーザーの皆さんに、「ありがとうございました」と言えるような内容に仕上がっていると感じています。これからもサービスは続くので、『FFXI』に一度でも触れたことのある方は、ぜひ“星唄”をクリアーしていただきたいですね。

藤戸 “星唄”は、『FFXI』のひとつの大きな区切りになります。また、これを境に大きく伸びていくぞという想いもあります。すべての冒険者が、もっと濃密な時間をすごしていただけるものをこれからも用意していきますので、興味を持ってくれた方は帰ってきてください。そして現役の冒険者には、ガンガン先を目指してほしいですね!

『FFXI』ディレクター伊藤氏&アソシエイトディレクター藤戸氏インタビュー~“星唄”からまた冒険が始まる【ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール】_04

 ファミ通.comでは本日3月22日から4日連続で特集企画“ファイナルファンタジーXI ~15年目のヴァナ・ディール”をお届けしていく。

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