ゲームの新しい方法というより、映像やインターネットの発明に近い

 VRヘッドマウントディスプレイ“Oculus Rift”を開発しているメーカー、Oculus VR。同社がRiftおよび専用モーションコントローラーの“Oculus Touch”(別売り予定)を使ったデモプログラム“Toybox Demo”のプレイ映像を公開した。

 “Toybox Demo”では、Riftを被り、Touchを両手に持って、VR空間内でさまざまなおもちゃを手に取って遊ぶことができる。マルチプレイに対応しており、実際にプレイ動画をよく見るとプレイヤーの向こう側にもうひとり解説役がいるのに、現実の映像には存在しない。つまり解説役は、別のところから同じVR空間にアクセスして向かい合ってコミュニケーションしているのだ。

 市販を目指す現行のVRヘッドマウントディスプレイは、Oculus Rift(Oculus Rift)・HTC Vive(HTC/Valve)・PlayStation VR(ソニー)の主流3機種がいずれもビデオゲームを出自に持っているため、現在のビデオゲームの延長上にある、新たな周辺機器か何かとして認識している人も多いと思う。

 もちろん新たな周辺機器によって新たなゲーム体験ができるのは素晴らしいことなのだが、それだけの理由では、FacebookがOculus VRを約2000億円(20億ドル)で買収するということにはならない。このToybox Demoが示しているように、VRの特性を活かして“そこにいない相手があたかもそこにいるような”現実の空間的制約を超えた新たなコミュニケーションの可能性がそこにあると認識しているからこそ、それだけの金額を投資する理由になるのだ。

 という理解をしてからToybox Demoの映像を見直すと、このデモにはアナログな遊びを通じて「異なる場所から同じVR空間にアクセスできるマルチプレイ」、「声と仕草によるコミュニケーション」、「手のジェスチャーの認識」といった、幅広い分野に応用できる仕組みを実証するものであるのが見えてくる。

VR空間であえてアナログな遊びをする“Toybox Demo”のプレイ映像がスゴい! この空間を超えたコミュニケーションの可能性にこそ2000億円の価値がある_03
▲(ちょっとビデオのシンクが甘いけど)ピンポン玉と卓球のラケットで遊んだりもできちゃう。
VR空間であえてアナログな遊びをする“Toybox Demo”のプレイ映像がスゴい! この空間を超えたコミュニケーションの可能性にこそ2000億円の価値がある_04
▲パチンコだってこの通り。

 たとえばこれ自体がインターネットのチャットのようなコミュニケーション空間だし、細かい仕草を含めて総合的な体験として学習する英会話スクールのようなことも考えられるだろう。一緒に同じ映像を見ればバーチャル映画館にもなる。
 実際、VRのバーチャルリビングルームで一緒に映像を見る体験は“Virtual Living Room Viewing”として検討が進められており、友達を家に招待して自分が借りてきたレンタルビデオでも見るように4人までのゲストを招待可能という規定が映像プラットフォームである“Oculus Video”の規約に既に存在する。

 さらに機器やソフトウェアの進化も織り込んで考えれば、VRペイントソフトを通じてアートを学ぶとか(既報の通り、VR造形ツールやペイントツールはすでに存在する)、VRドキュメンタリーを通じて学習する(こちらもドキュメンタリープログラム自体はすでにある)といったことも可能で、要はインターネットがそれまでにあったあらゆるコミュニケーションやサービスの土台となったように、VRはあらゆる領域を拡張しうる。
 その上でさらに映像メディアとしても、映画の発明によって“行ったことない場所、実際には到底行けない場所”を見ることができるようになったのと同じく、VRでは“行ったことない場所、実際には到底行けない場所”に立つことができる。そういった可能性がビデオゲームの技術によって支えられているというのもまた最高なことで、この分野が生活をどう変えるのか、そしてゲーム業界がどう関わっていくのか、注目していきたい。

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▲もちろん銃で遊ぶこともできる。
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▲指の状態を認識して取り込めるので、「グッジョブだぜ!」って仕草もちゃんと反映。