Unityにより、ゲーム開発手法の民主化が果たされた

 2013年5月20日、南青山サイバーエージェント・ベンチャーズにて“黒川塾(九)”が行われた。メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が進行ナビゲーターを務め、エンターテインメントの未来を考える会としてすっかりおなじみとなった“黒川塾”。今回のテーマはずばり““Unityによるゲームの民主化は共産化か・・・?!”。

 黒川塾でUnityをテーマとしたトークセッションが組まれるのは、2013年1月11日に行われた“黒川塾(伍)”についで二度目(⇒ファミ通.comのリポート記事はこちら)。いまや、全世界で180万人以上の開発者が利用し、スマートフォンから家庭用ゲーム機、ブラウザゲームまで幅広い開発環境をサポートしているゲームエンジンのUnity。プレイステーション4への対応も発表されており、その存在感は高まるばかり。「誰でもゲームを作れる世界を実現する」ことを目的に作られたUnityは、ゲームの民主化を果たしたが、それはゲームの平準化(均質化)をもたらすのではないか……という、刺激的なテーマが今回の“黒川塾”のお題だ。

 登壇者は、前回から引き続いての、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 日本担当ディレクター 大前広樹氏と、イレギュラーズアンドパートナーズ 代表取締役 山本一郎氏、そして今回新たに参加したユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長 兼CEO 清水亮氏だ。みなさんのプロフィールに関しては、“黒川塾(九)”の告知記事をご参照のこと(⇒記事はこちら)。

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▲黒川文雄氏。
▲ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 日本担当ディレクター 大前広樹氏。
▲ユビキタスエンターテインメント 代表取締役社長 兼CEO 清水亮氏。
▲イレギュラーズアンドパートナーズ 代表取締役 山本一郎氏。
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▲爆発的な普及を見せるUnity。

 ディスカッションでは、まずは大前氏がUnityの利便性を改めて説明。その一例として、移植の容易さがもたらすメリットを挙げてみせる。移植が簡単というのはUnityのひとつの特徴だが、「ひとつのプラットフォームで作ると、それに捕らわれてしまう。できるだけ弾数が多いほうがいい」と大前氏。作りがしっかりしているゲームであれば、コンシューマーでは受けなかったが、スマートフォン向けに移植して、もうワンチャンスを狙える。「本気で作っていれば、よりチャンスが増やせるんです」という大前氏の言葉には大いにうなづかされる。さらに、Unityによりもたらされたのが、開発の敷居が下がることにより、個人のクリエイティビティを発揮する余地が格段に増えたこと。今年のGDCアワードでインディーズ系の作品が増えたのがその象徴で(⇒ファミ通.comのリポート記事はこちら)、「ビッグタイトルよりも、個人のクリエイティビティに期待し始めました」と大前氏。昔はアプリ(ゲーム)がプラットフォームに縛られていたが、いまはプラットフォームよりもアプリ(ゲーム)が先にありきの時代になってきている。まさにUnityによるゲーム開発の民主化が果たされたというわけだ。

 それに対して反論してみせるのが清水氏。清水氏自身が最初にUnityに触ったのは、世間より相当早い2008年。当時、サンフランシスコの友人から、誘われたのがきっかけだ。「ゲーム開発そのものがゲーミフィケーションされている」ということで、大いにUnityに興味を掻き立てられた清水氏だが、翌2009年に「これはやめよう!」とあっさりと断念。その理由が「すべで3Dのものを作らないといけないのかな?」という違和感。必ずしもすべてのゲームが3Dというわけではなく、「3Dを前提にすると多くのものを取りこぼすことになるのでは?」との思いからだ。今回のディスカッションの文脈に即して説明するならば、“平準化”への危惧といったところだろうか。一例として挙げたのが、プレイステーション用ソフト『トバルNo.1』。『トバルNo.1』は、ゲームのデキはさておき、「とにかく60分の1フレームを実現するというやけくそのパワーがすごく、その時代の熱量を感じた」というのだ。それがUnityだと普遍化されてしまう……というわけだ。

 さらに清水氏が挙げるのが、Unityがオープンプラットフォームではないという点。清水氏は、「一部の官僚が牛耳っている“官僚型社会主義”ではないか?」とコメントして会場を沸かせたが、Unityに依存し過ぎることに対する恐怖があるという。これは極端な例かもしれないが、たとえばどこかの企業がUnityを買収して、Unityのテクノロジーを使えないようにしてしまったらどうすればいいのか?というのだ。ちなみに、ユビキタスエンターテインメントでは、HTML5+JavaScriptベースのゲームエンジン“enchant.js(エンチャント・ジェイエス)”を提供しているが、こちらはオープンソース化されている。その理由は、「何かの事情によって自分(清水氏)が会社を退いても、“enchant.js”に触れるようにするため」なのだとか。

 清水氏の意見に関しては、山本氏も「縦軸も横軸もUnityになっていて、プランBを考えないといけないかもしれませんね」と同意を示す。

 それに対して大前氏は、「オープンソースが代替案だとは思っていませんが……」と前置きした上で、「違ったものに投資しようと思っています」とのこと。大前氏が一例として挙げたのが、開発が5ラインあったら1ラインは別系統にしようとか、1ラインだったら20%はチャレンジグな取り組みをしよう……という違った視点からの取り組みだ。

 トークディスカッションでも話題にされたように、オープンソース化が必ずしも“本当の民主化”というわけではない(オープンソース化といいながら、一部の人に主導される可能性もあるので)。とはいえ、「プログラマーがやっつけで作ったツールを使わせられることほど不幸なことはない。その悪夢を解消できるのはすばらしい」と清水氏も認めるように、Unityが使い勝手のいいゲームエンジンであるのは万人が認めるところ。Unityの“民主化”は本当の民主化なのか……に関しては、いましばらく置くとして、「Unityにより、ゲーム開発手法の民主化が果たされた」との言葉には、来場者の誰もが納得したようだ。

 さて、最後に次回の“黒川塾”の話題を……。記念すべき10回目のゲストは、何と久夛良木健氏と丸山茂雄氏。黒川氏いわく「僕にしかできないブッキング」とのことで、久夛良木氏に関しては一度メールでオファーをして断られて、自宅まで訪れて「あなたには語っていただく義務がある」と説得したという。どんな秘話が飛び出すことになるのか……。開催は2013年6月27日とのことで、詳細は追ってファミ通.comでも紹介する予定だ。

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▲さて、本筋とは少し外れてしまうが、あまりに楽しかったので、最後に清水氏がレクチャーしてくれた“プログラム”の定義について掲載しておこう(『MMR マガジンミステリー調査班』風)。清水氏いわく、ひとことでプログラムといっても、“ゲームのプログラム”以外にも“運動会のプログラム”や“結婚式の式次第”など、プログラムは身近に溢れているとのこと。そんなプログラムの語源はギリシア語で“公に書かれたもの”(プログラマーと読むらしい)。つまり、コンピュータが発明される以前から、プログラムは存在したのだ。その時代の支配者や司祭などの特権階級が民衆をコントロールするエリートこそが、プログラマーだというのだ。我々はプログラムに支配されているというわけだ。
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▲さて、話は変わるが、レイ・カーツワイル氏に“収穫加速の法則”というのがある。「半導体の集積密度は18~24ヵ月で倍増する」という有名な“ムーアの法則”があるが、それは生物・文明の進化にも適用できるとしたものだ。コンピュータの出現は、まさにこの“収穫加速の法則”を裏付けており、コンピュータは我々に“圧倒的な時間短縮”をもたらすと清水氏は言う。つまり、プログラムをしないと取り残されるのであり、より多くの人にプログラムを習熟してもらうために作ったのが、“enchant.js”なのだという。
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▲最後は、恒例となった(?)登壇者によるフォトセッション。大前氏のTシャツは偶然にも次回のゲスト久夛良木氏。