ウィルスに侵食された電脳空間“エデン”に希望と平和を取り戻すために、世界を浄化していくことになる『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』。各ステージは“アーカイブ”と呼ばれ、5種類用意がされている。5種類のアーカイブはビジュアルやサウンドがそれぞれ異なり、まったく違うプレイ感覚がプレイヤーにもたらされる。
音と映像が融合した“シナスタジアシューター”と銘打たれた本作。シューティングゲームである本作の大きな楽しみのひとつはスコアを獲得すること。『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』では、BGMのリズムに合わせて8ロックオン攻撃を仕掛けると“Perfect”となり、スコアが倍になる。さらに、連続で“Perfect”を成功させるとスコアボーナスチェインとして、スコアの倍率が上がることに。倍率は最大8倍まで増やすことが可能だ。

――まずは、『エデン』に関わるようになったきっかけから教えてください。

一木 もともと僕は、ゲームのサウンドデザイナーとしてのキャリアをフロム・ソフトウェアでスタートさせました。フロム・ソフトウェアには6〜7年在籍して、『叢‐MURAKUMO‐』や『O・TO・GI』シリーズ、『アーマード・コア ラストレイヴン』などのサウンドディレクターを担当しています。フロム・ソフトウェア退社後はフリーになったのですが、しばらくして、当時キュー・エンターテイメントに所属していた元先輩から、とあるプロジェクトに参加しないかという誘いを受けたんです。そのプロジェクト自体は頓挫してしまったのですが、その後「キュー・エンターテイメントでサウンドチームを作りたい」という話になりました。キュー・エンターテイメントというと、“音のコンテンツ”というイメージがあったのですが、そのころは内製のサウンドチームが存在していなかったんです。それで、フリーという立場でキュー・エンターテイメントのサウンドチームのお手伝いをすることになりました。それからほどなくして、『エデン』のプロジェクトが立ち上がったんです。

――『エデン』に関してはどんな感じで?

一木 立場的にはサウンドディレクターとして関わっています。音に関しても水口(※水口哲也氏)が明確なイメージを持っていて、できる限り彼のイメージを形にするということで注力したのですが、現場は実験、実験の連続でした。

――ちなみに、水口さんの思い描いていることとは何だったのですか?

一木 とにかく、いままでのゲーム開発におけるサウンド制作の過程とは、はっきりと異なりましたね。少なくとも、いままで僕が経験してきたプロジェクトとはまるで違いました。『エデン』では、すべての音が効果音でありながらも、BGMとして流れている楽曲を構成する一部じゃないといけない。すべての効果音がBGMと音楽的に同期して、すべてが鳴って初めてひとつの音楽になるという作りなんです。当然音楽なので、リズムとキーが合っていなければならない。そのへんの感覚を掴むのに、個人的にはちょっと時間がかかりました。

――通常のゲームだとBGMと効果音は別に作っていて、それぞれ独立して存在していても、まるで構わないものですものね。

一木 大きな会社だと、BGMと効果音で、完全にチームが分かれていたりしますね。さらに大きな会社だと、BGMを作る人や効果音を作る人は、ウェーブデータを作るだけだったりするんです。そのウェーブデータはプログラマーさんに渡されて、鳴りかたは彼らに委ねられる。

――鳴りかたがプログラマーさんに委ねられるといいますと?

一木 たとえば、剣を振る音を作ったとしましょう。大きなチームだと、サウンド担当は音のウェーブデータを作るだけなんですね。どのフレームから鳴らすかというのは、プログラマーさんの仕事になるんです。実際のところ1フレームずれるだけで、ボタンを押して連動したときの気持ちよさがまるで違う。僕なんかだと、中に入って実装してまで……という仕事が好きなんですけどね。

――ああ、一木さんにとっては、そこまでやってサウンドの仕事となるのですね。『エデン』は、通常のBGMと効果音の制作作法が適用されなかったということですね?

一木 そうなんです。『エデン』では、“アーカイブ”と呼ばれるステージがあって、基本アーカイブで流れるのは元気ロケッツの楽曲1曲なんですね。で、サウンドチームは最大時で4人いたのですが、ひとり1アーカイブを担当して、元気ロケッツの楽曲に則って、各効果音をデザインしていくことにしました。

――その、効果音を乗せる作業が、作っては壊しのくり返しだった?

一木 そうです。楽曲の選定は水口が行っていて、リミックスは、元気ロケッツのプロジェクトにも加わっているDJの方が担当しています。で、完成されたものがトラック別に送られてくるので、そのトラックのどのへんを効果音として使うかとか、このトラックはBGMに混ぜるとちょっとうるさそうなので省こうとか……いろいろと調整するんです。

――トラックといいますと?

一木 たとえば、あるバンドの曲があったとすると、ドラムのパート、ギターのパート、ベースのパートといったふうに、それぞれのパートが別々に録音されていて、それをトラックと言います。それらを個別に編集できる状態のまま、ひとつに纏めたセッションファイルとして受け取るんですね。最初のうちは、「ここはBGMファイルとして実装するのはドラムだけにしよう」とか、「最初はドラムだけにして、音程感のある楽器を省くことで、むしろ音程感のある楽器を効果音としてデザインしよう」と調整してみたり。一方で、5パートなら5パート揃った段階で、BGMを流しながら新しく音をデザインして加えることもあります。

――相当複雑っぽい感じですね(笑)。

一木 うーん。言葉にするとそうかもしれませんね。実作業としてはそれほど複雑でもないのですが、とにかく実際に触ってみて、映像にあててみないとわからないというのはありますね。

――なるほど。ゲームプレイと密接に関わるのですね?

一木 そうですね。オーダーされたいちばん重要なことは、“とにかく気持よく”ということなので、音そのものが気持ちいいことは必須でした。その上で、自分のアクションによって絵とマッチして最高に気持ちよくなる。一音一音気持ちよさにこだわっていました。

――『エデン』は“音と映像の融合”と言われますが、そういった意味では音が果たす役割は極めて大きいですよね。とくに気持ちよさを喚起させるために注力したポイントは?

一木 そうですねえ……。カテゴリによっては、割と早くコツはつかめましたね。たとえば、エネミーを撃って当たったときのリアクションの音なんかは、比較的アタック感が強く感じられる音が望ましいとか。あと、どのアーカイブのボスでも、“コア”と呼ばれる中心部分を持っているのですが、「ルミの声を加工して作ったヒット音をあててみたらどうか?」というアイデアが出て、それは盛り込んだりしました。

――なぜ、ルミの声を?

一木 基本的には、ルミが各アーカイブのボスの“コア”に閉じ込められているようなイメージになるんですね。水口はよく、敵を倒すのではなく“浄化する”という表現を使っていましたが、システムのバグを修正して、ルミを解放するというのがゲームの最終目的なんです。それを表現するためにルミの声を加工してヒット音に当て込んだのですが、思いのほか、うまくマッチしたのではないかと思います。

――各アーカイブはそれぞれコンセプトが異なるのですが、サウンド的にはどうですか?

一木 もちろん基本前提としてアーカイブごとに楽曲は異なるのですが、サウンド的にもアーカイブのテーマに沿うようにしています。たとえば、“エボリューション”では、生物の進化の過程が描かれているのですが、冒頭はシューティングゲームらしからぬ、静かなアンビエント(環境音楽)から始まり……といった具合です。もちろん、それに適した効果音を作っています。それがステージ終盤に向けて徐々に盛り上がっていくのですが、たとえば“パッション”なんかと比較すると、“エボリューション”はそこまで熱くなりすぎないようにしている。とにかく美しい、神秘的な盛り上がりかたですね。

――全体のバランスを見て、抑えているのですね。

一木 そのほか、“パッション”では、最初から“コア”がふたつあるのですが、それがぶつかるたびに大量の弾を撃ってくるんです。その弾への攻撃時の効果音にすごく苦労しました。とにかく敵がいっぱい撃ってくるので、最初は“パッション”のイメージで、少し金属的で、インダストリアルノイズのような効果音を“ただ”つけていたのですが、それだと弾が多いから、遊んでいても苦痛しか感じないんです(笑)。それを、最初は16分音符刻みでクォンタイズする(リズムが合う)ように設定していたものを、8分音符にして、1波形の中で16分間隔で“タターン”と鳴る音を混ぜた上でそれをランダムに鳴らしたんですね。“パッション”の弾の音を作っている過程で気がついたものなのですが、そうすることで、リズム的な演奏感が出てきて、弾を撃つのが楽しくなってくるんです。スタッフのあいだからも「音が変わったことでゲームがおもしろくなった」という評価をいただきました。

――よく発想しますね。やはり試行錯誤の過程で生み出されたものですか?

一木 そうですね。ぽっと出てくるものじゃないです。何回も何回も試行錯誤して生み出されたものです。

――複数プレイに耐えられるようなゲームデザインにしてあるかと思うのですが、音楽サイドからの複数プレイに対するアプローチは?

一木 いろいろと遊びかたを変えることで、聴こえかたも随分と違ってくると思います。たとえば、8ロックオンのマッチングでパーフェクトを狙ってプレイするよりも、とくに何も考えずにだーっと撃つほうが音楽的に聴こえたりもします。とにかく、いろいろなプレイスタイルを試してみてほしいですね。

――そのほか、ここは“聴きどころ”みたいなところは?

一木 最初の“エボリューション”も手掛けた石田という者が最後のステージの“ジャーニー”も担当してくれたのですが、ずっと2年間『エデン』をやってきた中で、だいぶ掴んだというか、いい仕事をしてくれました。“ジャーニー”でルミが最後に『Heavenly Star』を歌い上げる直前に、ボスとの攻防があるのですが、水口のオーダー通りでもあるし、荘厳な雰囲気で個人的にはちょっと怖さも感じ……と、ラストを飾るにふさわしい感じに仕上がっています。まさに、大団円という感じですね。

――そういえば、エクストラステージの“ホープ”は、一木さんが相当尽力されたと聞いたのですか。

一木 “ホープ”は、時間がないなか、少数精鋭のメンバーで作りました。当然、元気ロケッツの楽曲はなかったので、まず曲を用意しないといけないということで、書かせてもらいました。プログラム作業と同時進行だったので、「ここからレベルを上げるよ」、「こういう敵を出すよ」ということを聞いて、曲を制作していった感じですね。

――自由度が高い分、好き勝手にできた感じですか? それとも苦労が多かった?

一木 やっぱり、両方ありますね。まずは、本編ではやっていないことをやろうということで、4曲構成にしたんですよ。それをつなげてひとつのステージにしたのですが、2曲目にあたる曲なんかは、4分の5拍子にしたりしています。本編では8ロックしてジャストのタイミングで撃つとボーナスポイントが加算されるのですが、5拍子にするとそれがわかりづらいんじゃないかな……ということで混ぜてみました。

――ああ、“ホープ”は難易度が高いという話でしたが、音楽面からも難易度を上げたのですね?

一木 そうです。あまり簡単にはクリアーできないステージにしようということで。ふつうの曲って1小節の中に4拍あるのですが、基本的に数えていれば合わせやすいんです。それが「1、2、3、4、5」という進行になるので、1拍多い分慣れていないうちは戸惑うんです。音楽的にやりたいことがそのまま即仕様になる……というケースも多かったです。実験的な要素も多かったりして、そういった意味ではとても楽しかったです。

――最後に『エデン』を楽しみにしているユーザーの方へのメッセージをお願いします。

一木 末永く遊んでいただければ、これに勝る幸せはありません。実際のところ、終わってみて、僕自身これほど新しい経験をいっぱいしたプロジェクトはありませんでした。サウンドデザインに対する新しい価値観が発見できたプロジェクトでした。いろいろなタイプのゲーム開発に応用していければ……と思っています。

■キューエンタテインメント歴
3年ほど

■これまでに手がけたおもな作品
『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』
『Lumines Touch Fusion』
『O.TO.GI』シリーズ
『【eM】 -eNCHANT arM-(エム 〜エンチャント・アーム〜)』
『アーマード・コア ラストレイヴン』

■座右の銘
終わんない仕事なんて無い(はず)

■特技
耳を動かせられます。
本業はヴァイオリニストです。売れないけど。

■趣味
映画よく観ます。格闘技よく観ます。
深夜よく歩きます。

■好きなゲーム
『UFO』
『Solitare XL』

■水口さんにひと言!
今地球のどのへんっすか?