『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』の目的は、ウィルスに侵食された電脳空間“エデン”を浄化していくこと。各ステージは“アーカイブ”と呼ばれ、プレイヤーはアーカイブを進みながらエネミーを倒し、“エデン”を浄化していく。アーカイブの終盤には、ボスが登場し、プレイヤーの前に立ちふさがることになる。
 アーカイブはいくつかのエリアに分かれており、エネミーを倒すとそのエリアの浄化率が上昇する。浄化率の上昇は、エリアの景観などに影響をもたらす。
 『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』における攻撃方法は3種類。以下、その攻撃方法を見ていこう。
カーソルを敵に合わせてロックオンし、一気に敵を倒す。最大8つまでロックオンが可能で、8ターゲットを音に合わせてタイミングよく倒すとボーナスが得られる。
ロックオン機能はないが、連射機能を備えているので重宝する。ロックオンレーザーよりも威力は落ちるが、トレーサーでないと撃ち落せないエネミーなども存在する。
画面に出現している敵を一掃できる強力な攻撃。攻撃するためには“ストック”が必要で、エネミーを攻撃することでストックは増える。ストックは最大3つまで溜められる。

――『エデン』は仕様書がないままに開発が進められたと、前回のインタビューでゲームデザイナーの小林さんにうかがったのですが、どのような感じで開発は進められたのですか?

内田 ちょうど3年くらい前になりますが、少ない人数で集まって箱根で合宿を開いたんですよ。2泊3日で。

小寺 そのときに、コンセプトアートを見て、「こんな感じかなあ」というのを話して、まずはどんなことができるか、動くものを作ってみようということになったんです。最初は好き勝手に作っていたかもしれません。

内田 始めのころは、細かいオブジェクトが弾け飛ぶシーンや、たくさんのキューブが順番通りに飛んできて、それを撃ったら弾け飛ぶというシーンをどんどん作っていました。撃ったら気持ちのいい表現というのを模索していました。本当の試作版の段階ですね。

小寺 最初に作ったステージの“マトリックス”はその延長線上にあって、コンセプトアートしかなくて、仕様書はない状態でした。あとは、話しながら決めていくという。

――それも水口さんじゃないですか(笑)。

小寺 そうなんですけど(笑)。どういうゲームかはっきり決まっていなくて、みんなで話し合いをしながら決めていくという。「こんなニュアンスで……」というのは共有していたのですが、みんな見ている方向がいっしょなら、何とかなるもんです。

――今回『エデン』のプログラムで、いちばん求められた部分は何だったのですか?

小寺 自分は、有機的というかオーガニックな動きを追求していました。

内田 『Rez』って、ソリッドなイメージがあるじゃないですか。『エデン』で求められたのは、それとはぜんぜん違うような、生き物を思わせる動きでしたね。

小寺 そういう有機的なオブジェクトをインタラクティブで動かすので、「プログラム的にどうするのか?」というところを、最初はけっこういじっていましたね。

――それはどうやって?

小寺 頭の中でイメージがあれば、あとはなんとでも。あとはそれを作るだけなので。

内田 どんなものでも作れるのは小寺さんだけです(笑)。

(取材に同席されたプロデューサーさんから、「ふたりは、具体的な仕様が出来てなくても、“こうしてほしい”という形でイメージを伝えても、それを形にしてくれる珍しいタイプかもしれないですね。ちなみに小寺さんは、企画からゲーム業界に入っていますからね」との発言あり)

――企画からプログラマーさんに? ということは、学生さんのころはプログラマーとしての勉強とかはしなかった?

小寺 してません。企画の仕事をしていて、暇なときに「自分でもやってみるか!」と思ってプログラムを組んでみたら、できたんです。

――それはすごいですねえ。プログラマーのほうが、自分の考えを形にしやすかったのかしら?

小寺 自分の求めるプログラマー像がそういうものだったので、そもそもそういうものだと思っていました。さきほど仕様書の話が出ましたが、ゲームはインタラクティブな分、仕様書だけではできないところも多いんですよ。そういう意味でも、ある程度イメージを持ったプログラマーが先行して作って、そこを膨らませて……というのが『エデン』には合致していたのだと思います。

――なるほど。一方で、『エデン』にはキーワードとして“気持よさ”があると思うのですが、それをプログラムで表現しようとするとたいへんなのでは?

内田 難しいですね。『エデン』の開発に取り掛かるにあたって、最初に念頭にあったのは、単純に見た目の気持よさでした。わかりやすい例で言うと、『エデン』はプレイステーション3とXbox 360向けに開発していたのですが、それまでのゲーム機であるプレイステーション2や初代Xboxと比較すると、ものすごく大量のオブジェクトを動かして、それをインタラクティブに反応させることができる。たくさんのオブジェクトを撃ったら、音楽と同期して画面の中で弾ける……というのだけでも、単純に見ていて気持ちがいいハズ。スタート地点はそこからでした。

――そのうえで、エネミーが飛び散るタイミングとかも問われるようになる?

内田 そうなんです。最終的にそこがすごく時間をかけたところですね。そこは最後の最後、マスターアップの直前までずっと調整していました。

――それは、自分の感覚を頼りに?

内田 はい。私の場合はシューティング好きなので、その感覚を頼りに。シューティングゲームって、爆発とかリアクションにこだわりがあるじゃないですか。そういうリアクションを大事にしたかったです。例えば爆発と言っても『エデン』の場合は破壊するということではなくて、浄化するという意味だから、単純に火がでて煙がでて……というわけではありません。だから、もっと別な表現はないか……ということで、自分で考えたり、企画の人やデザイナーさんと相談したりしました。

――なるほど。では、『エデン』の開発に取り組んでいて、とくにご苦労された点などあります?

内田 正直、言い出したら切りがないかも(笑)。楽なところはなかったです。

――あはは(笑)。たしかに、あまり前例のないゲームだからなあ。

内田 開発の内訳から言ったら、最初の“マトリックス”に1年かけているんです。開発全員で取り掛かって。そこから専用のツールを導入して、量産体制に入ったんですね。で、ツールを導入して楽になるかな……と思いきや、ツールで作ったステージがどうしても“マトリックス”のおもしろさまでレベルが達しなかった。“マトリックス”の段階では、まだツールができていなかったのでハードコーディングで1フレーム単位で美しく繋がるように調整しているんですが、ツールだとまだそこまで調整しきれなかったんです。

――それで、どうしたのですか?

小寺 企画の人が、微妙なタイミングとか、細かいエネセット(敵の配置)とかを何度も何度も調整してくれて、だんだんよくなっていきました。シューティングなので、こういう細かいところのバランスがすごく重要になるんですよ。結果として、残りのステージも“マトリックス”と遜色のないおもしろさに仕上がったのですが、そこは企画の人のがんばりによるものです。で、残りのステージを1年くらい自転車操業で開発して、これで終わりかな……と思ったら“ホープ”が来たという(笑)。

――ん? “ホープ”って何です?

(ふたたびプロデューサーさんの発言。「マスターアップまであと3ヵ月というときに、“もうちょっとボリュームが欲しいね”という話になったんです。そんなときにふたりが手を挙げてくれて、エキストラステージの“ホープ”を作ってくれることになったんです。“俺たちが中心になって作る”ということで、デザイナーの手はほとんど入っていなくて、プログラマーと企画の東郷とサウンド担当の一木で作っています。かなりハードコアな調整がされているステージです」)

小寺 ほかのステージのデバッグ作業などの合間に、意地で作りました。

内田 気合いで(笑)。

――男らしいですね(笑)。どういう感じで作ったのですか?

小寺 勝手に作ったというのが正しいですね。開発を2年以上続けてきて、表現的にも技術的にも『エデン』の何たるかを理解しかけてきたところだったので、自分たちの咀嚼した『エデン』を作ろうと。

内田 でも、作っているときはいちばん楽しかったかもしれない。前のステージまでは、誰でもが遊べるように……ということで、難易度は若干低めだったと思うんですね。でも、このステージは思いっきりハードにして、簡単にはクリアーできないようにしよう……というのは最初から決めていました。かつ、『エデン』ではタイミングに合わせて撃つとボーナスが溜まっていくのですが、スコアを狙っても楽しくしようという感じで。

――ビジュアル的にはコンセプトアートを参考に?

小寺 “ホープ”だけは違うんです。全部キューブとパーティクルで構成されていますね。それまでのステージとは、まったく違う感じになっています。さらに、それまでのステージは元気ロケッツの楽曲が使われているのですが、最後の“ホープ”には、サウンド担当の一木が作曲した楽曲が入っています。とても素敵な音楽に仕上がっていますよ。

――それだと、開発の最後の3ヵ月は不眠不休だったのでは?

内田 まあ、『エデン』の開発期間中はずっと不眠不休みたいなものだったのですが……(笑)。

――すごいなあ、プログラマーの意地みたいなものですかね。

小寺 根性だと思いますね。プログラマーは根性がないと無理です。最後の砦的な感じなので、最後にプログラマーが完璧に仕上げないといけないんです。

――プログラマーの意識次第で、仕上がりがぜんぜん違ってくる?

内田 それはぜんぜん違いますね。

――『エデン』で、とくに注目してほしいポイントはどこになります?

内田 うーん。やっぱり最初に作った“マトリックス”がいちばん思い入れはありますね。最初は、なかなかおもしろくならなくて、どうなることかと……。

――「大丈夫かな」と心配になったり?

内田 心配がなかったと言えば、嘘になりますね(笑)。

――どのへんから手応えを感じ始めたのですか?

内田 やっぱり、2010年のE3で初めて発表したときですね。水口さんがユービーアイソフトさんのカンファレンスでプレイアブルバージョンをお披露目したのですが、そこで「評判がよかった」という話を聞いて、「いけるかな?」と思いました。正直、作っているとわからなくなってくるんですよね。

――作っていると、いいか悪いかわからなくなってくるということですね。それはわかります。

内田 はい。作っているときは正直わからなかったですね。『エデン』は比較的難易度は低めですからね。『エデン』のビジュアルは斬新ですが、見た目だけだと最初の数回しか驚いてはもらえない。かつ、一般の人にとっては、何時間も遊ばせるゲームではなくて、たまに遊んだら楽しいゲームだと思うんです。そういう人に毎回どうやって満足してもらえるか……というのをつねに考えながら開発をしていました。

――最終的に、それはどのようなアプローチで?

内田 何回でも楽しめるための仕掛けとして、スコアアタックだったり、プレイに応じて先の展開が微妙に変化したり……というのがあります。あと、サウンドとの同期。みんなでめちゃくちゃがんばってつけたのですが、いろんなところに同期が入っています。そういうのを探しながらプレイすると、「あ、こんなところも音と合わせて動いている」という発見が、プレイごとにあると思うんです。そういうところに目を配ってもらうと、毎回楽しめると思います。

――小寺さん的に注目してほしいポイントは?

小寺 基本全部のコードは見ていますね。3D立体視に関しては、ソニーのライブラリーが充実していたので、技術的にはそんなに難しくはなかったです。手を入れたのは細かい調整ですね。3D立体視の作りかたはすごく難しくて、スケール感がすごく大事なんですね。リアルな3D空間を計算しないといけなくて、嘘を付くことができない。「ちょっとリアルな3Dとは違うけど、デフォルメして意図的に手前に飛び出るように見せよう」とすると、いざ3D立体視になったときに、すごく違和感を抱いてしまうんです。

――より現実に近い整合性が求められるということですか?

小寺 そうですね。3D映画でもキツイなあと思うのもあれば、自然に観られるのもあるのですが、その違いは、細かい調整の差なんです。それで『エデン』では大まかな調整は僕のほうでして、細かい調整は企画の人にお願いしたのですが、これがやってみたら意外と一発で決まった。『エデン』に3D立体視は合うなあという感じでした。まあ、3Dも取り掛かったのはマスターアップの3ヵ月前くらいなんですけどね(笑)。

――これも、急遽入れることになったのですか?

小寺 プロデューサーさんから「絶対に入れてください!」と強行に言われて……。「できないよ」と思ったのですが、「スケジュール的にきびしいですよ」と何度言っても、「行けます!」と(笑)。結果として、とてもいい感じになったのですが、だいぶこき使われた感じです(笑)。

――Kinect対応はどうでした?

内田 それはたいへんでした! 時間がかかりましたね。

小寺 いろいろな人が関わっているのですが、最初は自然な感じでカーソルを動かすことができなかったんです。結果として、いろいろなところに原因があったのですが、米マイクロソフト本社のデビットいう、Kinectのルーチンを作っている人に来てもらって、いっしょに調整しました。

――あら、わざわざ?

内田 まだ、Kinect本体自体の出ていない段階から開発を開始したので、やはりそう簡単にはいかなかったですね。

小寺 気持よくカメラが動いてカーソルも動くというのは微妙な感覚の問題なので、「こう動かすためには、どうプログラムを組めばいいんだ?」というところから、最初は試行錯誤しました。Kinectには、いちばん正しいデータを取得するには「こういう作りかたが必要」というノウハウやテクニックがいっぱいあって、それをデビットに教えてもらった感じです。たとえば、カーソルが画面端で止まったら気持ちよくないとか。そんなときは、カーソルが1回振り切れたときは一旦画面の外に出してやるといいんだとか……。細かいところなのですが、印象がぜんぜん変わるんです。

――ちょっとしたところが快適さにつながる?

小寺 まさにそうなんです! その積み重ねです。細かいところを積み重ねて気持よい操作性を作り上げるというのは、『エデン』全体に言えることですね。まあ、実際の数字と感覚的なものも違うんですよね。実際に動かしてみると、数値を見るよりも、自分の感覚を信じるほうが正しいこともあるし。

――そのへんの気持ちよさを決めるのは、やはり最終的にはプログラマーのセンスなんですかねえ……。最終的には、Kinectもコントローラーに負けず劣らず快適な操作感覚になった?

小寺 なりましたね。

――最後に、ファミ通.comの読者にメッセージをお願いします。

小寺 買って、ぜひプレイしてください。

――プログラムの真髄が詰まっている?

小寺 そこまでは言えませんが(笑)。

内田 『エデン』は、ほかでは見たことのないゲームになったと思います。Kinectや3D立体視などが楽しめる環境が整えられる余裕があったら、ぜひ試してみてください。新しいことに取り組んでいるので、いままでにない体験ができると思います。1度手に取って遊んでみてほしいです。

■キューエンタテインメント歴
8年

■これまでに手がけたおもな作品
『Rez』
『ルミネス』 発案/制作
『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』

■座右の銘
素心深考

■特技
目押し

■趣味
ギャンブルw

■好きなゲーム
ドルアーガの塔
ドラクエ
MTG

■水口さんにひと言!
「長かったですね。
また機会があれば一緒にやりましょう。」

■キューエンタテインメント歴
5年

■これまでに手がけたおもな作品
『Child of Eden(チャイルド オブ エデン)』
『メテオスウォーズ』
『メテオスオンライン』

■座右の銘
命を懸けて心を込めて作る

■特技
卓球

■趣味
映画鑑賞、ランニング

■好きなゲーム
斑鳩
レイストーム
シルフィード(メガCD版)
DEPTH

■水口さんにひと言!
「本当に幸せなプロジェクトでした。
またシューティング作りましょう!(笑)」