豪華作家が集まった経緯
――本作に関わられた経緯から伺います。チュンソフトから我孫子先生にお話しが行き、我孫子先生がほかの先生を誘われたということですが、声をかけられた基準はありましたか?
我孫子武丸(以下、我孫子) 僕と綾辻さんが所属していた“京大ミステリー研”は“犯人当て”(※1)を新入生に挑ませるのが伝統で、創部以来30年間、6つ7つを毎年書き続けています。それもあって京大ミステリー研出身の人は犯人当てに慣れているんです。ですから、まず京大の綾辻行人さん、麻耶雄嵩君、大山誠一郎君は絶対にお願いしなくてはいけないと思って真っ先に声をかけました。ただ、それだけだとみんな筆が遅く(苦笑)、本数も少ないので、ミステリー研以外から、竹本健治さんと黒田研二さんを誘っています。そして有栖川有栖さんですが、もともとこのゲームが、綾辻さんと有栖川さんが携わられていたテレビ番組の『安楽椅子探偵』シリーズ(※2)のような推理バトルをゲームで再現したいということで始まった企画だったので、チュンソフトさんからも「綾辻さん、有栖川さんにもお願いできないか」という話があって、お声をかけています。時間的に無理で断られた方もいましたが(笑)。
竹本健治(以下、竹本) 断られた人は、何人かいたの?
我孫子 法月君。法月綸太郎君も京大ミステリー研出身なので、彼にも書いてほしいとお願いしたんですが、ほかの仕事の兼ね合いでできなかったんです。結果的には、竹本さん、麻耶君、大山君がそれぞれ2本書いてくれたのでなんとか10本分揃いました。
――おふたりはお話しがあったとき、どういう印象を受けられましたか?
綾辻行人(以下、綾辻) そもそも僕と我孫子さんは学生時代以来、本当に長い付き合いでね、我孫子さんが『かまいたちの夜』を作ったときも近くで見ていたし、彼の引き合わせでチュンソフトさんともちょっとお付き合いがあったんです。それに僕、『風来のシレン』がものすごく好きだから、その意味でもチュンソフトのファンなんですよ(笑)。そのチュンソフトの人たちが『安楽椅子探偵』を見て、「こういうゲームが作れないか」とマジメに考えていらっしゃると聞いたので、それはうれしいなと。できれば協力したいと思ったのですが、本業のほうを優先したいので、どうしても及び腰だったんです。ところが、我孫子さんがうまく監修して、僕らが参加しやすいようにセッティングしてくれたので、“書かされてしまった”という感じです(笑)。僕は有栖川さんとの合作で参加していまして、『安楽椅子探偵』では原案をふたりで考えているんですが、今回は初めて小説を合作にしました。それもおもしろかったですね。
――竹本さんはいかがでしたか?
竹本 僕は我孫子君から「こういう企画があって、人を集めてる」と聞いたので、「やらせて」と気軽に。
我孫子 お金が必要だったんですよね?
綾辻 またそんなことを(笑)。
竹本 (笑)。僕は、昔ゲームの仕事をやったことがあって、セガさんの『月花霧幻譚〜TORICO〜』というゲームに携わったんです。そのときはゲームシステムとの絡みでたいへんだったんですが、今回は犯人当ての小説を書けばいいとのことだったので、それならということで引き受けました。
綾辻 我々執筆陣はふだんと変わらず、読者への挑戦状が入る犯人当て小説を書いただけなんです。理屈は聞いているんですが、どんな風に1本のゲームになったのかもまだよくわかっていない(笑)。でもこれは、関わりかたとしては最善の方法で、小説家がいちばん得意としている部分をやらせていただいたわけです。そういう風に設計されたチュンソフトさんと我孫子さんの功績ですね。
我孫子 僕が遊んだのもテストプレイの段階で、いろいろと「ここはこうしてほしい」と希望を出しました。でも、それとは別に、なかなかほかでは見られない豪華な顔触れによる、犯人当てのアンソロジーができたわけです。これがたまたま紙ではなくPSPで発売されるという変わった状況なだけですから、ぜひゲーマーじゃないミステリ好きな人にも見逃してほしくないですね。
――完成したゲームがお手元に届いたら、実際にプレイされてみますか?
綾辻 もちろんやりたいですね。
――どの話数からも選べるとしたら、どなたの作品から遊ばれますか?
綾辻 すでに読んでいる作品もあるんですよ。開発中に秘密の掲示板みたいなものが設けられていて、そこにできあがった原稿がアップされていったんですね。で、早い時期にあがったものについては、自分たちが書くものとネタがかぶったら困るので、リサーチがてら読んじゃってるんです。でも、読みこぼしがあるのと、どういう風にゲームになっているのかも気になりますからね。自分たちが書いた小説を、PSPというハードの上でどのように読ませてくれるのか、遊ばせてくれるのか、そのへんの詳細は知らずにきたので、純粋にいちユーザーとしても楽しみなんですよ。
ゲームでしか読めない共作
――我孫子先生は1話と最終話を書いていらっしゃいますが、最終話はやはり難しいんでしょうか?
我孫子 難度は高いでしょうね。1話の『盗まれたフィギュア』は初級者向けのシナリオですので、トリックは考えればわかるはずなんです。ただ、トリックがわかっても犯人をどう特定するかというところに話のポイントがあります。最終話の『完全無欠のアリバイ』は、収録されたほかの人の小説も読んだうえで、毛色を変えなければと思ってネタを用意したものです。
――最終話相当の難度になっていると。
我孫子 そこまで期待されてもどうなのかなという気はしますが(笑)。大ネタと言えば、大ネタですね。トリックはある時点で見抜けると思うんですが、見抜いたあともたいへんかもしれない。
――『Yの標的』は、有栖川先生との合作ですが、小説の合作はどのように分担されたんでしょうか?
綾辻 古くはエラリー・クイーンという合作の大作家がいたわけですが、具体的な執筆方法は最後まで謎だったんですよね。合作にもいろいろなパターンがあるようで、片方が考えて片方が書くこともあれば、ふたりで考えて交互に書くといったこともあります。そして、僕と有栖川さんがやった方法に関しては……ナイショです(笑)。
我孫子 ナイショなの?(笑)
綾辻 ちょっともったいぶってみて(笑)。でも、この作品は文字通り、ふたりで力を合わせて作ったと言えるものになったと思います。最初はどうなるかなと思ったんですが、結果的に僕単独では書かないようなものになりましたね。有栖川さんも「単独でこれは書かんわ」と言っていましたし。異色だよね?
我孫子 そうだね。ちょっと有栖川さん寄りかなという気はする。
――では、おふたりの完全な共作小説が読めるのは、このゲームが初めてになると。
綾辻 初めてですし、もしかするとこれが最後かもしれない。
――竹本先生も2作品を書いていらっしゃいますが、難易度などは考えられたんでしょうか?
竹本 ほかの顔触れが京大ミステリー研中心で、本格ミステリーの方々が揃っていますよね。僕はこういう面子のアンソロジーの中では初級、中級がいいんだろうなと思って、そのレベルのつもりで書きました。難易度のデコボコってどうなの?
綾辻 誰のがいちばん難しい?
我孫子 ゲームとしての難しさと、犯人当てとしての難しさは若干違うんだけど、大山誠一郎君の作品が難しいんじゃないかな。大山誠一郎君というのは、ずっと下の後輩なんですが、彼は「犯人当てを書いて?」と言うと、「はい!」って言ってすぐに書いてくれるんです。犯人当てが得意というかなんというか。
綾辻 大山君はほんと、ずーっと変わらずに、犯人当てがすきだよね(笑)。
我孫子 彼は入学したときからずっとトリックをバリバリ仕込んだ、大作寄りの犯人当てを書いているんです。『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』では、彼は2本書いてくれていますが、どちらも歯応えのあるものになっていますね。ただ、綾辻さんが、「最初のダンジョンで詰まって抜けられないゲームじゃ、イヤになるよね」とおっしゃっていたのですが、このゲームでも小説は読みものでもあるので、ところどころ楽しんで読んで犯人当てをして、そのつぎはまたハードな犯人当てになって……というバランスになっていると思います。
――本作をきっかけにミステリを読む人が増えるのではないかと思うのですが?
綾辻 それは増えてほしいね。我孫子さんが「ふだんゲームをしないミステリ好きな人にやってほしい」とおっしゃっていましたが、それとは別に、ミステリを読んだことのないゲーム好きな人に遊んでもらって、「犯人当てっておもしろいな。本も読んでみるか」という流れを期待したいですね。
深く関わった『かまいたちの夜』への想い
――サウンドノベルのファンも遊ぶと思うのですが、サウンドノベルファンにはどのようにとらえられると思いますか?
我孫子 どうなんでしょうね。サウンドノベルは、ただ小説を読むだけではない演出というおもしろさが付加されているのがポイントだと思うんです。あと分岐ですね。ただ『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』にはそのふたつともが入っていないので、「これだったら本を読むのといっしょじゃないか」と思われたら困るなと。でも、自分のペースで行ったり戻ったりしながら読んで、頭を絞って考えてみるのも楽しいと思うんです。サウンドノベルの楽しみかたとは違うので、ファンの方がどう受け取るのかは想像がつきませんが、いろいろな人が遊んでくれたら、いままでのサウンドノベルよりこっちの方が性に合うという方もいるかもしれません。あと今回は携帯機ですから、自分のペースでパッと読んで、休みたいときにすぐにスリープモードにして、「そういえば」と閃いたときにもう一回起動して……というようにゆったり遊べるので、PSPという携帯機に合ったゲームだと思います。
――綾辻先生はゲームがお好きですが、サウンドノベルはプレイされましたか?
綾辻 はい。『弟切草』と、『かまいたちの夜』のシリーズはやっています。『弟切草』はとにかく最初のサウンドノベルでしたから、「どれどれ」という感じで遊んでみたんでけど、『かまいたちの夜』については、我孫子さんに依頼が来た時点からいろいろと聞かされていたので、なんだか他人事ではなくてドキドキでしたね。我孫子さんって学生時代からほんとにゲーム好きでね、そんな彼が、「好き」が高じてゲームの制作に関わることになった。その様子をそばで見ているのはワクワクしました。たいへんな苦労があったことも知っていますけど、苦労した甲斐があったよね。『かまいたちの夜』といえば、いまやノベルゲームの草分け的存在として、決して語り落とせない作品だし、後続への影響も絶大なものがあるでしょう。「子供のころに『かまいたちの夜』を遊んで、ミステリにハマったのが始まりで……」という若い作家もいっぱいいますから。乙一さんも確か、最初に出会ったミステリは『かまいたちの夜』だったと言ってましたね。ゲーム業界だと、奈須きのこさんなんかもそうだったはずです。
竹本 そういう意味では現代の江戸川乱歩ですよ。
綾辻 おー、そこまで言いますか(笑)。
竹本 そうなるんじゃないの(笑)。
綾辻 いずれにせよ、その我孫子武丸がここにきてまた、こういう新しいものを手掛けるというのは大きな意味があるなあと。有栖川さんと僕は最初、スケジュールの関係で参加できないかもしれないと言っていたんですけど、結果としてこういう形で関われてよかったなと思っています。
――竹本先生は、ゲームはあまりプレイされないんでしょうか?
竹本 最近はほとんどやっていないに等しいですね。ファミコンとかスーパーファミコン、せいぜいサターンまでで、そこでストップしています。ですから、『かまいたちの夜』はやりましたよ。
――では、当時はサウンドノベルというジャンルに驚きましたか?
竹本 いえ、やはり僕も我孫子さんと付き合いがありましたからね。綾辻さんと同じような感じです(笑)。
綾辻 だよね(笑)。
竹本 たいへんな仕事をやっているなあと横で見ていました。
綾辻 当時はノベルタイプのゲームのノウハウなんてないから、どうやって書けばいいかという土台から考える必要があったんですよね。我孫子さんは、それをチュンソフトさんと作り上げたわけですから。
竹本 好きじゃなきゃ、あんな関わりかたできないと思う(笑)。
我孫子 僕はチュンソフトと仕事をすることになったとき、てっきり何かツールがあるんだろうと思ったら、何もなかったですからね(笑)。
――そうなんですね。てっきり分岐が作られるようなツールがあるんだろうと思っていました。
我孫子 そう思っていたんだけど、何もなくて(笑)。だから、僕がテキストエディタで原稿を書いて、ここは何ファイルの何番に飛ぶという指示も書いていたんです。
綾辻 そのあと、『サウンドノベルツクール』っていうソフトが出たんだよね。
我孫子 そうそう。サウンドノベルが一般になった時点で他社からツールが出たんだけど、チュンソフトはついぞ作ってくれなかった(笑)。
綾辻 じつは『かまいたちの夜』がヒットしたあと、僕にもチュンソフトから「サウンドノベルの第3弾を書きませんか」という依頼があったんです。でもあのときは、「とても我孫子さんのような関わりかたはできませんので」とご辞退申し上げました。
――そういう意味では、この『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』は小説を書き上げることに終始することになるので、やはりやりやすいと?
竹本 やりやすいよねー。
綾辻 そうですね。関わりやすい形を作っていただいたな、という感じ。僕は‘98年発売の『ナイトメア・プロジェクト〈YAKATA〉』というRPGの制作に関わってたいへんにくたびれてしまって(苦笑)。ゲームについてはもう、エネルギーを使い果たしたみたいな状態が続いていたんです。ゲームを遊ぶこともあまりなくなっていたんですよ、『風来のシレン』以外は(笑)。なので今回、こういう形でゲーム制作に関わらせてくれた我孫子さんには、「ありがとう」と言わなくちゃね。
竹本 彼は長年ゲームに関わっていてわかっているからね。やりやすい形にしてもらえた。
綾辻 あとチュンソフトさんへの信頼っていうのも大きい。操作性はやっぱりいい?
我孫子 操作性はいいよ。
綾辻 そこはチュンソフトのお家芸ですよね。プレイするのが楽しみだな。
ミステリ作家からの挑戦状
――推理に挑戦するキャンペーンは、インターネットで盛り上がりそうですね。
綾辻 そうなんだけど、出題者側としてはあまり大人数で相談はしてほしくないでしょ?
我孫子 でも、キャンペーンをやるということは、人の助けにならないように自分が思いついたことは自分だけで答えを出すんじゃないかな。
竹本 そういう情報はあっという間に流れ出すよ。
我孫子 それを見たい人は見ればいい。悪質なネタバレは避けてほしいと思うけど。
――キャンペーンの盛り上がりは、実際にインターネットで見てみようと思われますか?
我孫子 そうですね。よしもとミス研の人が挑戦するというのを初めて知ったんですけど、おもしろい企画だなと思いました。僕も見てみたいですね。「ああ、まだこの人帰れないんだ」とか(笑)。
――おふたりはどうですか? ご自分の作品がキャンペーンにかかった場合、反応を見たいですか?
綾辻 基本的には、楽しみですね。
竹本 わかる範囲では見てみたいですね。
綾辻 『安楽椅子探偵』も毎回たいへんなんですよ。今回はそう簡単に解けないだろうとか、この手がかりにはまず気づかないだろうとか予想していても、大勢が見ると誰かが気づいて、それが広まっちゃうんだよね。
我孫子 でも、それで誰にも気づかれないようじゃ、困るでしょ?
綾辻 そう(笑)。毎回、「よく気づいたなあ」と感心します。あれって、出題編と解決編のあいだが1週間でしょ。その期間、いい感じで考え続けられるような問題にするのがすごく難しいのね。出題編放映から1日目、2日目と時間が進むうち、ある時点で突然、答えに気づく人が出てきて、それがわーっと広がるような感じ。
我孫子 でも、答えに気づくということは、『安楽椅子探偵』だったらそれだけ録画したものを集中しながらくり返し見ている人たちがいて、それだけ惹きつける魅力があるということだから。
綾辻 単独で推理に取り組む人もいれば、みんなでワイワイ相談して盛り上がる人たちもいる。楽しみかたは人それぞれですからね。大勢の人たちがそれだけ高密度に作品を楽しんでくれるというのは、作り手としては本当にうれしいことです。『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』でも同じようなことが起きるのかな?
我孫子 どうだろう。テレビほど気軽じゃないからね。でも、楽しんでほしいね。
――ミステリ小説の新しい形になる可能性はあるのでしょうか?
綾辻 どうなのかな。中身は、オーソドックスなものだからね。
我孫子 そもそも犯人当てというものがすごくたくさんあるわけではないんです。ふだんは長編のミステリを読んでいるけど、たまにはこういう謎解きのあるクイズに挑んでみようという読者と作者のお祭りのような特殊なバトルですから。『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』は、そのマイナーな遊びの、さらに特殊な形です。
竹本 でもこういう形態は、犯人当てに合っているかもしれないよね。
我孫子 そうですね。遊びとしては残っていくかもしれません。しかもネットで簡単につながって、推理を競うキャンペーンもありますし。『安楽椅子探偵』もそういう形式で、1週間のお祭りみたいなものですから。
綾辻 うん、毎回お祭りになりますね。
我孫子 インターネット掲示板でみんなで意見を交換したり、1本のドラマをくり返し見たりするのはふつうのドラマでは考えられないことですよね。それは作る方もそうですし、見る方もたいへんです。毎度毎度やるわけにいかない。犯人当ての小説もそうなんです。僕らもひとりではできないから、みんなに声をかけたのであって、10本の小説を書く物量もたいへんですが、トリックのネタが10個もそうそう出てきません。
綾辻 あと、ひとりで書くとどうしても手癖が見えてくるしね。
竹本 犯人やトリックがわかりやすくなっちゃう。
綾辻 こういう複数作家のアンソロジーだと、作家によって仕掛け方やクセが違っていておもしろいんじゃないかな。
――やはりほかの先生方のクセは、皆さんご存知なんでしょうか?
綾辻 だいたい把握しているつもりですけど。
――それをわかったうえで読むと、ふつうのプレイヤーより犯人やトリックがわかりやすいといったことは?
我孫子 どうなのかな? 僕は犯人当てを解くのは苦手なんです。だいたいわからない。
綾辻 あ、じつは僕も苦手(笑)。
我孫子 思考パターンが似ている人と似ていない人がいて、似ていない人のトリックはぜんぜんわからないね。
竹本 それは言えるね。
我孫子 「どこに手掛かりがあったんだ?」という感じで、答えを聞くと納得するんですが、自分では考えても思いつかないし、解けないんです。
――どのように遊んでほしいと思われますか?
我孫子 ヒントなんかいらない、ひとりで遊びたいという人もいれば、ワイワイみんなで遊びたいという人もいると思うので、その人なりの楽しみかたで遊んでもらえれば。ただ、悪質なネタバレを不特定多数の人が集まる掲示板などに書き込むのはやめてほしいですね。ネタバレ攻略をするのはかまいませんが、人の楽しみを奪わないようにお願いしたい。
綾辻 昔、ミス研で犯人当てをやったときの話ですが、毎回持ち回りで会員が犯人当てを書いてきて、みんなの前で問題編を朗読するんですね。そして、たとえば30分とか制限時間を決めて考えてもらって、解答を集めるわけです。そのとき、人との相談はアリかナシかというのを決めていましたね。
竹本 アリのときもあるの?
綾辻 ありましたよ。やっぱり相談の有無で正解率も変わりましたね。
我孫子 でも、みんな自分で解きたいもんね。勝負みたいなものだから。
綾辻 「おれは相談したくない」っていう人もいたね。リアルな対面状況で“挑戦”だったから、喜びも悔しさも大きい(笑)。
――『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』でも「ヒントを読みますか?」、「本当に読みますか?」とくり返し聞かれるので、読むのが悔しくなるんです(笑)。
綾辻 ああ、それはあの感じに近いですね(笑)。
――ご自身のトリックを暴かれるのは、作家として悔しいのでしょうか?
我孫子 それは「すぐわかったよ」って言われるとガッカリしますね。
綾辻 でも、「こんなの解けるはずがない!」と言われるのもまずいしね(苦笑)。
我孫子 わかったけどおもしろい場合もあるし、わからないけどつまらない場合もあるし、4パターンくらいあるんです。いちばんいいのは、トリックはわからなくて答えを聞いたら驚いておもしろかったと言ってくれる、これがベストですね。もしくは、途中で気が付いたけど、「あれはいいトリックだ」と言ってもらえるパターンもあります。けっきょく、最終的にはトリックのおもしろさが重要になるんです。でも、ゲームの場合はトリックのおもしろさだけでは量れないので、難しいですね。
綾辻 小説の場合は、答えがわからなくても先を読めるけど、ゲームは解かないと進めないわけでしょ?
我孫子 くり返し挑戦するか、それでもわからない場合はギブアップもあるよ。
綾辻 ということは、誰でも最終的には読めるようになるわけね。
竹本 真相を読める人は真相を知っている人だ。
綾辻 ホテルの参加型推理イベントに近いかもしれない。シティーホテルに1泊して犯人当てのお芝居を見て、ホテルのあちこちに隠してある手掛かりを捜して推理して……というイベントがあるでしょ。『ミステリー・ナイト』っていう、その人気イベントをずっと企画・運営している友人がいるんですけど、話を聞いてみるとやはり、小説とはずいぶん違うみたいなんです。お金を払って参加してくれるお客さんが求めている楽しみって、自分で謎が解けたときの喜びなんですね。自分で推理して犯人にたどり着いたという達成感、それをお土産に持って帰って、イベントのリピーターになるらしいんですよ。だから、ちゃんと解けるようにできている問題じゃないといけない。かといって、あまり簡単すぎてもダメ。苦労しながらも、頑張って“捜査”をすれば解ける、解けた、という達成感を味わわせるようなものを作らなければならない。
――皆さんの作品はどれくらいの人が解けるというパーセンテージの予想はありますか?
我孫子 パーセンテージは難しいな。1週間あって、そのあいだじっくり考えて、これだという答えが出るまで応募しないのであれば、やる気がある人だったら100%解けると思います。それが解けないようなゲームではないはずなので。
綾辻 有栖川さんと僕の作品は中級の難度です。難問じゃない。
我孫子 いやー(笑)。
綾辻 『安楽椅子探偵』が難問だとしたら、中級でしょう。
竹本 『安楽椅子探偵』は何回も見ないといけない度合いがどんどん高まっていくから(笑)。
我孫子 映像は情報量が多いから、どこに何が隠れているかわからないという意味でも難度は高いよね。『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』だと、『シーズン2』に収録される大山君の2作や、綾辻さん有栖川さんの共作はやはり上級レベルの難度になっていると思います。でも何度も挑戦していけば必ず解けるようになっています。
綾辻 中級です(笑)。
我孫子 もちろんヒントも出ますし。
――今後、もし『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』の続編などが出るようであれば、また参加されたいと思いますか?
竹本 僕はいくらでも参加させていただきたい。
我孫子 個人的には、まだインターフェースの面で発展途上の面があると思うんです。そのトリックはわかっているけど先に進めないという状態がある。それをなくしたいんですよね。ゲームのルールに当てはまっていなくても、その人なりの説明方法があるわけです。答えはわかっているけど、『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』の答えかたではわからないと。そこが若干息苦しい。テーブルトークRPGと、スタンドアローンRPGの違いというか、低い岩があるところで、ジャンプすれば乗り越えられるのに、ゲーム内でジャンプができないから進めないという場面がありますよね。そこはテーブルトークRPGでゲームマスターがいたら、「ここはこうだから進めないんですよ」と説得してくれるわけです。そういう息苦しさが減るように進化すれば、またやりたい気がします。何より犯人当て自体を定期的にやりたいんです。いつもはできないからこそ、この『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』のようなお祭りが盛り上がるわけですから。もちろん紙媒体でもやると思いますが。
綾辻 評判次第というところはありますよね。安請け合いはできませんけど、もしも我孫子さんから「また手伝ってくれないか」と言われたら、古い友だちだから無下にはできないだろうなあ(笑)。
――では最後に、本作を楽しみにしている読者におひとりずつメッセージをお願いします。
我孫子 とにかくいろいろな作家がバラエティー豊かなトリックと謎解きを用意していますので、ぜひ全部のシナリオをダウンロードであれ、UMDであれ、本を1冊買うようなつもりで、気軽に楽しんでもらえればと思います。
綾辻 これをきっかけにして、それぞれの作者が書いている本に興味を持って読んでいただければ、作家としてはイチバンうれしいですね。犯人当て小説というのはとても特殊な形態なので、それも含めた本格ミステリというジャンルがあって、さらにそれを内包したミステリというジャンルがあって、ミステリはいろいろな人が楽しめるように広がっていますので、これを機にぜひその広さを知ってほしいなと思います。
■注釈
※1"犯人当て"
小説内にある情報から、トリックと犯人の答えが導き出せるように作られた小説。問題編から解答編に移る際に、読者への挑戦状が挟まれる場合が多い。
※2『安楽椅子探偵』シリーズ
綾辻行人と有栖川有栖原案によるミステリドラマ。1週目に推理編が放映され、2週目の解決編放映のまえに、視聴者が推理した答えを応募して挑戦できる。