2023年8月24日、タイトーが創立70周年を迎えた。タイトーは、1978年にアーケード版『スペースインベーダー』を発売し、ビデオゲームという文化を世に定着させた老舗ゲームメーカーだ。
70周年を記念して、東京・新宿で“タイトー70周年記念サマーフェスティバル”という展示会が開催された。「貴重な展示がある」ということでクラシックゲーム好きの筆者もイベント会場へ実際に足を運んでみた。「貴重な展示がある」とは事前にうかがっていたものの……「いやこれはスミソニアン博物館級だろ!」と思わず突っ込みたくなるほど、貴重な電子遊戯史の黎明期を彩った名機たちが立ち並んでいて目を剥くようなイベントだった。正直、記念日と言わず常設してほしいレベル。展示品の維持を考えたらムリか。すごいぜタイトー。
また、実際に触って遊ぶことも可能ということで、短い動画も撮影してきた。半世紀ほど前の筐体が現役で動く様子もご覧になってほしい。
『イーグレットツー ミニ アーケードメモリーズVOL.2+サイバースティックセット』をAmazon.co.jpで検索する懐かしさを通り越して「こんなすごいマシンも作っていたのか!」と驚きの連続だった
筆者は現地で展示品を目にするまでは、「定番の『スペースインベーダー』の筐体と、その後のタイトルが並んでいるくらいだろうな」と想像していたのだが、実際の展示は遥かに貴重なものばかりで驚かされた。もちろん、『スペースインベーダー』も貴重であることに変わりはないのだが。
『ダライアス』の原点!? ハーフミラーを使ったエレメカ
- スピードランナー
- 1972年
- エレメカ(※)のレースゲーム
※本稿ではゲーム画面のない遊技マシンのことをエレメカと定義する。
まずは、『スペースインベーダー』以前の作品ということで、エレメカの『スピードランナー』から。本作は筐体に仕込まれたミニカーをハンドルで動かして、ベルトコンベア式に流れてくるライバルカーを避けるレースゲームなのだが、実際に遊んでみると内容がとても凝っていることがわかった。
まず、プレイヤーが見て操作しているクルマ自体は実際にはそこになく、ハーフミラーで映し出された、いわばホログラムのようなもの。『ダライアス』や『ワイバーンF-0』などのタイトータイトルでもハーフミラーを使った技術が使われていたが、本作はまさにその原点かもしれない。本作はこの疑似ホログラムを生かし、アクセルのON/OFFでライバルカーをかわすのだが、触れてしまうとマイカーがクルクル回転するクラッシュシーンが見られる。
感覚的には、映画『ワイルド・スピード』でスロー演出とともにクルマが吹っ飛ぶシーンを連想してもらうとわかりやすいだろう(観ていない方はわかりにくくてごめんなさい)。1970年代のマシンとは思えない臨場感だ。特別に全面のパネルを外して中身が見える状態にしてプレイした動画を撮影したので見てほしい。
『スピードランナー』実機プレイ
ちなみにアーケードゲーム機というと緑色の板にCPUがたくさん載っている基板で制御されていると連想しがちだが、『スピードランナー』はなんとCPUを使わずに作られている。ではどうやって動かしているのかというと、もっと大きな電子部品の集合体で作られている。この集合体がのちのCPUの役割を担っているというわけだ。このあたりからも、コンピューターゲーム黎明期の作品であることがうかがえた。
eスポーツは1970年代には始まっていた? ギネス世界記録にも認定されたガンアクション『ウエスタンガン』(1975年)
- ウエスタンガン
- 1975年
- ふたりプレイ専用の対戦型ガンアクション
本作は西部劇をモチーフにした対戦型のアクションゲーム。ビデオゲーム黎明期の対戦ゲームというとアタリの『PONG(ポン)』(1972年)が有名だが、『ウエスタンガン』は人型のドット絵でキャラクターがしっかり描かれており、ストーリーを感じさせる見た目となっていた。
じつはこの作品、1975年1月1日に“ビデオゲームに登場する史上初の拳銃/First videogame gun”としてギネス世界記録に認定されている。現場スタッフの方と対戦プレイをしたところ、キャラクターが左右に振り向けたり銃弾が地形に当たって跳弾したりと、なかなか凝った作りになっていた。対戦自体も駆け引きが豊かで、いま遊んでもおもしろい内容だ。
1976年生まれのフライトシューティングは臨場感抜群
- インターセプター
- 1976年
- エレメカのフライトシューティング『スカイファイター』をビデオゲームとして移植
こちらはコックピット視点で戦闘機のドッグファイトを楽しめる作品。便宜上、現代の『エースコンバット』シリーズと同じ“フライトシューティング”というジャンルとして書かせてもらったが、本作もなかなかどうして迫力があって楽しい。エンジン音や爆発音も凝っていて、当時の開発陣のミリタリーに対するこだわりが感じられた。
『インターセプター』実機プレイ
なお、『ウエスタンガン』および、『インターセプター』のもとになった『スカイファイター』は、『スペースインベーダー』の産みの親である西角友宏氏が手掛けていたそうだ。エレメカからビデオゲーム、ロジック回路からCPU使用の電子回路――という技術の変遷を経て『スペースインベーダー』が生まれたことを考えると、ビデオゲームのブームは決して突発的に発生したものではなかったことがわかる。
ビデオゲームの歴史を語るうえで欠かせない『スペースインベーダー』
- スペースインベーダー
- 1978年
- 固定画面シューティング
タイトーの代表作。もはや語り尽くされた……と思いきや2020年3月26日に“最も長く続いているビデオゲームシリーズ/Longest-running videogame series”としてギネス世界記録に認定されて話題になったばかり。そして、今年の6月で45周年を迎えた。展示されていた筐体はレバーで動かすタイプ(※)で、きれいな状態のもの。半世紀近く経っても当時のままの筐体で遊べるというのは何とも感慨深い。
※当時のインベーダーハウス(ゲームセンター)には、左右の移動もボタンで行う、レバーレスなタイプも存在した。
テレビゲーム文化が根付いてからのタイトー大型筐体
- トップランディング
- 1988年
- 3Dポリゴンフライトシミュレーションゲーム
- 電車でGO!
- 1996年
- トレインシミュレーター
このあたりになると現在アラフィフの筆者にとっては“ついこのあいだ出たゲーム”だが、それぞれ35年前、27年前の作品と考えると十分に歴史的遺物と呼べるだろう。
『トップランディング』の前には深夜の空港に離着陸する『ミッドナイトランディング』(1987年)があり、真っ黒の背景にたくさんのドットを表示することで立体的な夜の街を表現していた。そこからわずか1年でポリゴンによる立体表現を実現したことで、当時学生だった筆者は技術の進歩を肌で感じていたのを覚えている。
『電車でGO!』が出たときは、大型筐体のアーケードゲームと言えばレースゲームかガンシューティングがほとんどだった中、まさかの電車をゲームの題材にしていることで驚かされた。単に意外性を狙うのではなく、空前の“〇〇でGO!”ブームを作るほどの成功を収めたのはさすがである。
ゲーム機以外のタイトー製品たち
LPレコードを機械が選ぶ未来感が堪らない『ジュークボックス』
- ジュークボックス
- 1970年代
ここからはゲーム機以外のタイトー製品の展示について。ジュークボックスは店内などに設置される音楽プレーヤーで、オーディオ技術が発達した現在はほぼ見かけることはなくなったが、映画やドラマ、あるいはゲーム内などで目をした人は多いだろう。
1970年代のタイトーは数多くのジュークボックスを発売しており、そのうちのひとつが会場に展示されていた。ジュークボックスというと、ひとり暮らし用の冷蔵庫ほどのサイズで上部がかまぼこ状になっているものを想像しがちだが、筆者が会場で目にしたのはもっと大きく、中の構造がガラス越しに見られるものになっていた。
筐体上部のリストから曲を選ぶと筐体内のマシンが動き出し、何十枚もあるLPレコードから1枚を取り出して曲を再生するという構造。LPレコード独特の、かすかなノイズ交じりのサウンドが心地よくノスタルジーに浸らせてくれたが、それ以上に機械の内部から目が離せなかった。
レコードを縦にて回転させつつ、2ヵ所ある針のどちらか(A面用とB面用)をそっと触れる。曲が終わるとレコードをもとの場所へ戻す。再生機がレールの上をせわしなく動く様子はもはやロボット。“サイバーパンク”とか“レトロフューチャー”といった言葉が好きな人がこれを見たら、創造力を刺激されまくること間違いなし。ちなみにタイトーとは関係ないが、取材時に再生した『スタンド・バイ・ミー』(ジョン・レノンのカバー版)がすごくよくて泣けた。
筆者が中学生時代に挫折したクラシックギターをロボットが演奏。もう人類は不要なんじゃ……(そんなことはない)
- ギターロボット 弦遊
- 1987年
音楽つながりでこちらの展示もチェックしてみた。1987年当時の筆者は中学生で、クラシックギターの習いごとをしていたのだが、練習をサボってゲームセンターに入り浸っていたこともあり、数年で挫折してしまった。ときを同じくしてタイトーからこんなロボットが発売されていたことは知らなかった。
ロボットの指の先端には布が仕込まれており、この布が人間でいうところの指の腹の役割を果たしている作り。実際に演奏しているところを動画にしたので、こちらもぜひ視聴してほしい。それにしても、ギターの幻は6本あり、人間の指は5本しかないことを考えると、相当な熟練者でもない限りロボットには演奏の腕で勝てなさそうだ。
『ギターロボット 弦遊』演奏中の様子
こんにちは。僕ゆめ丸でーす
- ゆめ丸
- 1984年
1980年代中期というと、ロボットが流行。筆者もクリスマスの時期になるとおもちゃのチラシを眺めては「このロボットのおもちゃほしいな~」と思っていたのを思い出す(買ってはもらえなかった)。アイドル・マスコットロボットとして開発された『ゆめ丸』は令和の世でも健在。会場で愛嬌を振りまいていた。
タイトーのアイドル・マスコットロボット『ゆめ丸』
もっとも、現在タイトーのマスコットキャラは? と聞かれたら10人中10人がゆめ丸ではなくバブルンを挙げると思うが。そんなバブルンも会場に来ていた。彼は1986年生まれなので、ゆめ丸のほうがちょっとだけ先輩ということになる。
ほかにも70周年記念メダルを作成できる『メダルタイパー』なども設置されていた。取材中、筆者は仕事であることを忘れて昭和の空間を存分に味わわせてもらえた。テレビゲームの歴史に大きな影響を与えてきたタイトーに、今後も注目し続けていきたい。
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