『トロピコ』シリーズなどで知られるドイツのパブリッシャー、カリプソメディアが2020年10月に日本法人を設立。今後本格的に日本市場に取り組んでいくという。

 カリプソメディアは、シモン・ヘルウィグ氏らにより2006年に設立。今年で創業15周年を迎えるドイツのゲームメーカー。シミュレーションゲームの開発を得意としており、日本でも“独裁国家運営シミュレーション”の『トロピコ』シリーズはつとにおなじみ。さらには、『ポートロイヤル3』や『グランドエイジ メディーバル』、『レイルウェイ エンパイア』なども日本でリリースされている。

 カリプソメディアの戦略や日本法人設立の経緯などを、カリプソメディアグループ グローバル マネージング ディレクターのシモン・ヘルヴィク氏とカリプソメディアジャパン 代表取締役の上田和弘氏に聞いた。

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
カリプソメディアジャパン第1弾の『トロピコ6 Nintendo Switchエディション』。品行方正に国を治めてもよし、悪事を働いてもよしの独裁国家運営ストラテジー。
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日本はゲームファンに評価してもらえる市場。ユニークなシミュレーションを届けたい

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
シモン・ヘルヴィク氏(文中はシモン)
カリプソメディアグループ
グローバル マネージング ディレクター

――まずは、カリプソメディアがどのような会社なのか教えください。

シモンカリプソメディアグループは、インタラクティブエンターテイメントソフトウェアのパブリッシング、開発、販売を行う独立系企業です。ドイツ、イギリス、日本、アメリカの9つの拠点に150人の従業員を擁しています。グループには、カリプソメディアのデジタル・ファースト・レーベルであるKasedo GamesやRealmforge Studios、Gaming Minds Studios、Claymore Game Studiosの3つの開発スタジオも含まれています。

――カリプソというネーミングが非常にユニークですね。社名の由来をお教えください。

シモンカリプソは完全なる独立系企業です。2006年当時、創業者たちは地元の銀行から「ビデオゲームには将来性がないので資金調達はできない」と言われていましたが、以降ビデオゲームの国際化への道が急速に動き出し、成長を遂げてきました。“カリプソ”という名前は、ギリシャ神話に登場する海の女神“カリュプソ”に由来します。カリュプソが船乗りたちを魅了したように、私たちも世界中のファンを魅了していきたいと考えています。

――会社はどのような社風なのですか?

シモン企業文化は、まさに人によって形成されます。社内はみんなフレンドリーな雰囲気で、競争心というよりはお互いが助け合いながら一生懸命に働いてくれています。ですから、時に大きな家族のように感じることもあります。

――カリプソメディアはシミュレーションゲームに特化しているようですが、その理由をお教えください。

シモンカリプソで働く人々はみんな、もともとストラテジーやシミュレーションゲームの大ファンです。プレイヤーのみなさんと同じように、私たちもゲームを愛しています。ストラテジーゲームに知見があったことで、ニッチではありますが、“最適な居場所”を見つけることができたのだと思います。事業戦略も【1】ストラテジーゲームを、【2】すべてのプラットフォームで、【3】可能な限り最高の品質でという3本柱で構成されています。

――カリプソメディアの他社にはないシミュレーションゲームの特徴はなんですか?

シモン私たちはつねにまだ世に出ていないユニークなシナリオや題材、そしてチャンスを探していますので、それぞれのタイトルに私たちらしさがあります。その最たる例が、フラッグシップブランドである『トロピコ』シリーズです。“独裁国家運営シミュレーション”は、いまもほかには市場に存在していません。

 同じようにユニークなのが、『レイルウェイ エンパイア』です。『Commandos』シリーズもそうです。このブランドが復活しているのは、現時点でほかに例がない、タクティカルとステルスの要素をミックスしたユニークな作品世界がファンに支持されているからです。一般的に、私たちのゲームのほとんどは家庭用ゲーム機向けにも発売されており、カリプソはすぐれたストラテジーゲームをすべてのプラットフォームに展開することでも知られています。

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
2020年にリリースされた『Commandos 2 HD Remaster』(写真)。傘下のClaymore Game Studiosが、シリーズ最新作を開発中であることがアナウンスされている。

――今回日本にオフィスを設立するにいたった経緯を教えください。

シモン新たに設立された日本オフィスのおもな業務は、カリプソの製品を日本国内で自社展開することです。日本はデジタルエンターテインメントソフトウェアにとって重要な市場のひとつですし、日本のコミュニティにもこれまで以上に貢献できるようになります。地域に最適化されたデジタルマーケティング戦略が可能になることに、私たちはとても期待しています。

――日本のゲーム市場にはどんな印象を持っていますか?

シモンヨーロッパやアメリカとは市場がまったく異なる部分があります。たとえば、Xboxの普及状況などです。それでも、素晴らしいゲームがあれば、文化やアイデンティティーに関係なく、ゲーマーの皆さんに評価していただける市場だと思います。

――日本展開の戦略を教えください。

シモンおもに注力するのは日本でのビジネスのローカライズになります。これまで日本語で発売されていなかったタイトルも今後は日本語で発売される予定です。日本市場は私たちにとっても非常に重要であることから、グローバルでのリリースタイミングに合わせて、日本でもソフトを発売できるようになることを、できるだけ早く実現することも目的としています。

――4月22日に日本オフィス設立後初となるNintendo Switch版『トロピコ6』をリリースしましたが、日本のゲームファンに向けて、同作の魅力をお教えください。

シモン『トロピコ6』のユーモアは、すでに日本で受け入れられ、愛されていると感じています。日本のゲームファンの皆さんは、シミュレーションゲームの奥深さやメカニズム、可能性の広さ、そして何よりも風刺的なウィットを高く評価してくれているのだろうと思います。とてもありがたいです。

――最後に、日本のゲームファンに向けてのメッセージをお願いします。

シモン日本市場は私たちにとって大きな意味を持っています。そこに現地法人を設立できたことをたいへん光栄に思いますし、これから発売していくタイトルによって日本の皆さんを盛り上げていけることも楽しみです。近い将来には、実際に日本を訪れてみたいです。東京ゲームショウに参加したことのあるスタッフは、日本のプレイヤーの皆さんの熱意や興味を目の当たりにして驚いたと言っていましたし、海外のNintendo Direct miniで『トロピコ6 Nintendo Switch エディション』の発売が初めて取り上げられたときにも、日本のユーザーからの素晴らしい反響やフィードバックを目の当たりにしました。

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
毎年ドイツ・ケルンで開催されるヨーロッパ最大規模のイベントgamescom 2019の模様から。同イベントでもドイツのパブリッシャーとして、カリプソメディアは大きな存在感を放っている。

2021年は7タイトルをリリース予定。丁寧なローカライズで良作をお届けしたい

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
上田和弘氏(文中は上田)
カリプソメディアジャパン
代表取締役 マネージングディレクタージャパン

――上田さんが、カリプソメディアに関わることになった経緯を教えてください。

上田私はもともとユービーアイソフトで古くから海外ゲームのライセンス担当だったこともあり、創業者のシモンとは10年来の知り合いなんですね。『グランドエイジ メディーバル』や『レイルウェイ エンパイア』でお付き合いがありました。

 2020年の春くらいにシモンから、「日本でビジネスをやりたい」という話があったんです。その段階ではいっしょにやるというのではなく、ビジネスプランの作成にあたって相談に乗ったりしていました。で、なんとなくメドがたったときに、シモンから「やらない?」と誘われたという流れです。それで、自分がビジネスプランを作った手前もあり、楽しそうだし、ということで、受けることにしました。

――カリプソメディアのタイトルは日本でもイケるという手応えもあったのですね?

上田そうですね。私自身ストラテジーゲームは好きなのですが、カリプソメディアは本当にしっかりとしていてユニークなストラテジーゲームを作るいい会社というイメージはありました。ご存じの通りストラテジーゲームは何百万本も売れる爆発的にヒットを飛ばすようなジャンルではありません。どちらかと言えば、ニッチと言えるかもしれません。でも、一定数の需要はあるので、十分にやっていけるという目算はありました。

――日本でも、『トロピコ』シリーズは人気ですしね。

上田そうですね。カリプソメディアとしては、『トロピコ』がいちばん大きなブランドではあります。過去にパートナーさんに展開していただいたタイトルでは、もっとも成功しています。ただ、『トロピコ』が売れているから日本法人を設立した、というわけではありません。シモンとしては、全体的に自社タイトルを自分たちでハンドリングして、パブリッシングしたほうがいいタイミングが来たと判断したのだと思います。実際のところ、単品で言うと日本でいちばん売れているSteamのタイトルは『レイルウェイ エンパイア』だったりします。きっちり日本語にローカライズして、日本市場に適したマーケティングをしていけば、日本のユーザーに支持していただけるという感触はあったかと思います。

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
『レールウエイ エンパイア』は、1830年代から約100年にわたる開拓時代のアメリカを舞台に、鉄道会社の経営者として、都市と都市のあいだに線路を敷いて交通網を作り上げていくシミュレーション。

――それは取りも直さず、日本市場に向けての戦略でもあるということですね?

上田その通りです。実際のところ海外タイトルでは、「これは誰が翻訳したんだろう?」という微妙な日本語のゲームが多いのも事実です。けっきょくのところ、日本でしっかりとチェックされていないのでしょう。カリプソメディアではローカライズはしっかりと日本で行います。これは基本中の基本になってしまうのですが、ユーザーの皆さんに安心して遊んでいただけるような、きっちりとしたローカライズをご提供するつもりでいます。

 ビジネス的にもそうです。パッケージソフトを出すには日本に法人があったほうがいいですし、マーケティングに関しても、海外と同じ展開をそのまま焼き直しししても、日本で受けるかというと、微妙なので、総合的に判断していきたいです。

――では、今後日本市場に向けて、どんなタイトルを予定していますか?

上田昨年以降海外でリリースされているタイトルは、基本的には日本でも出していこうと思っています。具体的な発表はまた別のタイミングに譲りますが、最近カリプソメディアが発売しているタイトルは、日本展開するとご期待いただければと。基本は、パッケージも考えています。

――年内何本くらいを予定していますか?

上田7本です。4月22日に発売された『トロピコ6 Nintendo Switch エディション』を含めて。プラットフォーム別だともっと多くなりますね。PCも含めて23になるかと。

――それはいきなり全速力ですね。日本法人としては初となる『トロピコ6 Nintendo Switch エディション』の魅力は?

さきほど申し上げました通り、『トロピコ』は当社のいちばん大きなブランドです。プレジデンテが主人公で、独裁国家を運営するというちょっと独特なストラテジーで、品行方正に国家を運営してもいいですし、逆に悪事を働いても、ユーザーさんの自由という、幅広い楽しみかたができるのが魅力となっています。世界のランドマークであるスフィンクスや自由の女神などを強奪して、自分の国に置くというハチャメチャなことができたりします。ヘリコプターで自由の女神を奪ってきて、自国に放り投げるみたいなことができるんです(笑)。日本の彦根城も入っていますよ。

 そんなおもしろいことができる独裁国家運営シミュレーションなので、ぜひ皆さんで独自のおもしろい国家を作って楽しんでいただければと思います。

――では最後に、日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

上田カリプソメディアジャパンは、ストラテジーやシミュレーションというちょっとニッチな分野に特化したゲーム会社ですが、お好きな方にはきっとかなり気に入っていただけると思うので、弊社タイトルを楽しんでプレイしていただければありがたいです。今後ともよろしくお願いします!

『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
『Spacebase Startopia』は、海外では3月に発売された経営と国家建設の要素を併せ持ったシミュレーション。最大4人のマルチプレイも可能。日本での展開が期待される。
『トロピコ』シリーズのカリプソメディアが日本に進出した理由をキーパーソンに聞く。「良質のシミュレーションを日本のゲームファンに届けたい」
『Port Royale 4』は、17世紀の大航海時代を舞台にした海洋交易シミュレーションの最新作。海外では2020年9月に発売された。日本での展開も楽しみ。