彼は何を詫び続けてほしかったのかも解説します(ネタバレあり)

 1994年9月2日にスクウェア(現スクウェア・エニックス)より発売されたRPG『ライブ・ア・ライブ』。

 人々の記憶に鮮烈な印象を残し、発売から25年経ついまもなお熱烈なファンがいる本作。25周年を記念して本作の内容を振り返りつつ、当時リアルタイムでプレイしていた編集者の思い出を交えて本作を解説していく。

 記事にはゲームのネタバレが含まれるので、この後プレイしてみようとお考えの方はご注意を!(できればネタバレなしでプレイして、本作の斬新なおもしろさや、あの衝撃をくらってほしい……)

※本記事は前後編の後編です。前編の記事もチェック!

 後編では、前編で触れられなかった

  • 現代編
  • 近未来編
  • SF編

 のシナリオに加え、7つのレギュラーシナリオをクリアーした後に登場する

  • 中世編
  • 最終編

 についても紹介。

現代編 『最強』

世界に点在する あらゆる格闘技の奥義を身につけ “最強”の座を手に入れようと 野心する若者の激闘!

知力25周年! まるで格ゲー? 敵とのバトルだけで進行 誰から倒すかは自由!

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主人公の高原日勝。バンダナをしているところに1990年代を感じる。かっこいい。

 格闘家、高原日勝を主人公に、戦闘のみで物語が進行する現代編。

 RPGに必須の要素である世界を旅するパートや、装備品を変えたりする要素はいっさいなく、オープニングイベント終了後は、ストイックな戦闘が繰り返される。

 もちろん『ライブ・ア・ライブ』らしいユニークな仕掛けが施されており、たとえば的と戦う順番はプレイヤーが自由に決められる。その選択画面が1990年代の格闘ゲーム風。戦闘に勝利すると、顔がボコボコになった敵キャラクターのイラストとフキダシでセリフが語られる。

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対戦相手選択画面。敵キャラクターは、アメリカンプロレスやムエタイの使い手など多種多様。どこか見覚えがあるようなキャラクターも……?
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勝負のあとには、格闘ゲームではおなじみ風の会話の演出が。

 ……と、RPGなのに格ゲーのような気軽さで楽しめるのが現代編だ。

 主人公の日勝は、敵から攻撃を食らうことでその技をラーニングでき、自分の技として使うことができるようになる。

 だから、単に上から順番に倒していけばいいということはなく、まずは森部生士(通称:森部のじーさん。骨法の達人)と戦って“通打”を覚えて相手のステータスを下げて戦えるようにすると戦闘が楽になるなど、シンプルなシナリオながら、戦略的な要素も持ち合わせている。

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オープニングでは、日勝が自身の部屋で激しくトレーニングをする様子が描かれる。ちなみに主人公の日勝は、どれだけレベルが上がっても知力だけは25のまま据え置き。
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ジャッキー・イヤウケア戦では“アロハリテ”のほか“鬼不動返し”、そしてちょっと特殊な状況下で使ってくる“大激怒岩バン割り”を習得できる。

現代編のラスボス オディー・O(オディ・オブライト)

 そうして技を覚えながらひとりずつ戦っていき、6人全員を倒すと、自ら“最強”を名乗るラスボスのオディ・オブライトとの戦闘になる。

 オディは日勝に対し「手ぬるい」と断じ、「倒した者の命を絶てずして、真の勝利はない!」と、これまで日勝が戦ってきた敵キャラクターを屠り去ったことを伝える。

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 日勝は「お前のやっていることは格闘技じゃない……ただの殺りくだ!」と激昂。

「ナムキャットの足技…… グレート・エイジャの飛び技…… ハンの関節技 ジャッキーの力…… モーガンのパワー。森部のじーさんの奥義が!」

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「そして…… この俺の怒りがッ! てめえをブッ潰す!」

 高いステータス、強力な必殺技を持つオディーに対し、日勝はこれまで戦ってきた強敵たちの技を駆使し立ち向かう。

 格闘マンガのような展開は、胸が熱くなること間違いなしだ。

 戦闘以外の要素がないため、スムーズにいくと30分ほどでエンディングを迎えられる短編シナリオだが、『ライブ・ア・ライブ』の独特な戦闘に慣れる意味でも、熱いセリフや演出が入っていて本作の魅力が凝縮されているという点でも、最初にプレイするシナリオとして結構オススメだ。

現代編の隠し要素 ボス戦で負けると……?

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負けなければ見られないコンティニュー画面。意外と気づかない人も多いかも?

 オディー・O戦に負けると、格闘ゲームのようなカウントダウン付きの“コンティニュー画面”になる。現代編全体が一種のパロディーになっているシナリオなのだが、それにしてもこの作り込みと遊び心には驚愕。

 ちなみに、本作でコンポーザーを務めている下村陽子氏は、『ストリートファイターII』でも作曲を担当している。あまりにも“それっぽい”というか、格ゲー風パロディーとしてクオリティーが高いものになっているのは、音楽の力もあるのだ。

近未来編 『流動』

今よりちょっとだけ未来。 超能力を持つ少年がいた。 人々の本音を見すぎケンカに あけくれる日々だったが……

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近未来編のメニュー画面などの背景は“インコ”。

熱いセリフとSF的な設定、そしてロボ戦闘が熱烈なファンを生む!

 「『ライブ・ア・ライブ』でいちばん好きなシナリオは?」という質問には、「近未来編」と答える人がひょっとしたらいちばん多いかもしれない。

 主人公のアキラは超能力の使い手で、サイコキネシスや“サイコメトリー”(他人の心が読める超能力。ゲーム中はYボタンで使用できる)の能力を持つ。アキラは幼いころに機動隊員父親をなくし、妹のカオリとともに養護施設チビッコハウスで暮らしている。

 町では連続誘拐事件が発生しており、アキラがその謎を解くことになっていく。その背後には、狂気の科学者“シンデルマン”の陰謀が隠されていた!

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筑波研究所で出会うことになる、マッドサイエンティスト・シンデルマン。このセリフが脳裏に焼き付いて離れないという人もきっといるはず。

 頼れる兄貴分の“無法松”や、マスコットキャラクター的なタロキチといった個性的なキャラクターとともに進んでいく本シナリオは、連続誘拐事件の謎、敵組織との激しい戦い、敵の真の目的である“液体人間”を使った“御出居(おでお)様”顕現など、SFにサイバーパンク、オカルトといった様々な要素が盛り込まれた内容が特徴的だ。

 練り込まれた設定と長編ストーリーが楽しめる近未来編はプレイ時間も長め。最初に選べるシナリオの中ではもっとも“RPGっぽい”シナリオかもしれない。

熱いキャラクター、熱いセリフの数々

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「通りすがりの…… たい焼き屋サンよ!」。アキラの兄貴分である無法松は、普段はたい焼きを売っており、アキラが手伝うこともある。訪れる客の様子によって値段を変動させて、うまく儲けよう。

 近未来編といえば、やっぱりつぎつぎと現れる“熱いセリフ”抜きには語れない。

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 キャラクターデザインを行った島本和彦氏のマンガにいかにも登場しそうな、熱がほとばしる名ゼリフがたくさんある。

 実際、島本氏も近未来編への思い入れは強いようで、2018年のコミックマーケットでは『超級!! 近未来編』という120ページにわたる(!)同人誌を頒布したりしていた(現在は中古市場でプレミア価格)。

 なかでもプレイヤーの胸を打ったのが、物語のクライマックスシーン。

 火を放たれたチビッコハウスに残るアキラとカオリを救うため、無法松は精神力(超能力)で動く巨大ロボブリキ大王を動かしたのだが、その代償として命を失ってしまった。

 アキラはその仇を討つため、ブリキ大王を操縦し、すべての首謀者であるシンデルマンと陸軍大佐ヤマザキのもとへ向かう。

 シンデルマンは、誘拐し、液体化した2000人ぶんの液体人間(寺の池)の前で

「すべてがひとつになり身も心も分かち合えるのですよ! 憎しみも争いもないすばらしい世界…… それを得るためには 汚らわしい肉体など捨てねばならんのだッ!」

 と、液体人間のすばらしさを説く。

 ブリキ大王のコックピットの中で、燃え尽きた無法松を背にするアキラは、強く反駁する。

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「ざけんなよ…… そんなカッコに ならなくてもな…… ひとつにはなれんだよ!」

 ブリキ大王起動のために超能力を振り絞り、心中で叫ぶ。

「そうだろ 松ッ!!」

 そしてボス戦BGM『メガロマニア』がインサートされ、そのままボス戦へとなだれ込んでいく。

 いやもう、この盛り上がりと言ったら! 興奮は最高潮で、手に汗握るクライマックス。

 まさに液体人間にならずともプレイヤーとアキラが一体となったかのようなドキドキと興奮とともに、ボス戦に突入するのだ。

近未来編のボス戦 隠呼大仏

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 近未来編のボス戦は、巨大な大仏とブリキ大王の最終決戦。主人公キャラクターが出てこないが、そのぶん画面を埋め尽くすほどの巨大キャラクターどうしが戦う大迫力のバトルが楽しめる。

 また、ほかのシナリオではボスの名前が“オディオ”というものや近い響きのものになっているが、近未来編ではそうなっていない(隠呼大仏のなかに御出尾様が入っている)。

近未来編の隠し要素 妙子の○○

 チビッコハウスの職員妙子。ストーリーの途中で、アキラは児童の“ワタナベ”に命令し、“妙子のパンツ”を手に入れようとするイベントがある。

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 しかし、お目当ての“妙子のパンツ”はなかなか手に入らず……

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 ことが露見して、妙子からパンチを食らう羽目に!(“妙子のパンチ”もアイテムとして入手でき、腕に装備することができる)。

 苦労の末に妙子のパンツを手に入れたあかつきには

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 ぜひ頭に装備してみよう。

SF編 『機心』

地球にむけて航行中の 貨物輸送船コギトエルゴスム。 その中で今 新たな生命が 生まれつつあった……

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主人公は、メガネを掛けたようなデザインのロボット“キューブ”。丸いけどキューブ。キャラクターデザインは『7SEEDS』の田村由美氏。

宇宙船という密室内で発生する疑心暗鬼のサスペンス……怖いよ!

 原始編から時代に沿って見てきたシナリオも、いよいよ最後のSF編。

 本シナリオの特徴は、舞台が宇宙を航行する宇宙船であることで、ミニゲームを除いて戦闘はボス戦まで発生しない。

 そういう意味では西部編に近いシナリオであるとも言えるが、トラップを仕掛け敵を減らすというゲーム要素が用意されていた西部編とは異なり、こちらはアドベンチャーゲームのようにシナリオに重点が置かれている。

 船外活動での事故から、ひとり目の犠牲者カークが命を落とすのだが、それをきっかけに船内で不審な出来事が続けざまに発生する。

 カークの恋人レイチェルに、死んだはずのカークから「エアロックにいる」とメッセージが届き、レイチェルは半狂乱のまま宇宙空間につながるエアロックに飛び出しそうになったり(ちなみにキューブもエアロックから宇宙空間に行けるのだが、行くとゲームオーバーになる)、運んでいた危険生物ベヒーモスは檻から逃げ出し船内を自由に闊歩していたりという具合だ(ちなみに船内にいるベヒーモスに触れると即死でゲームオーバーになる)。

 とにかくやたらと人が死ぬし、ゲームオーバーになるシナリオだった。

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ベヒーモスに触れたら終わり。叫び声が怖い。

 つぎつぎに起きる異常事態に、残った乗組員たちは疑心暗鬼に陥り、互いが互いを信じられなくなってしまう。そんな折り、リフレッシュルームのモニターに、自室にいる船長からの通信が入ったかと思うと

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「なに! それは本当かね! それは…… 気の毒に……」

 と、同じセリフをくり返すだけになってしまった。

 限定空間内での“パニックホラー”そのもので、プレイしているこちらもビビって手汗をかきまくり! 当時プレイしていた怖がりの小学生(筆者)にとっては、ある意味もっともプレイ難度が高かったシナリオだったかもしれない……。

SF編のオマケ要素 『キャプテンスクエア』

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 シリアスなシナリオに心が負けそうなときに遊びたいのが、リフレッシュルームにあるミニゲーム『キャプテンスクエア』。SF編をクリアーするためには(あるイベントを除いて)プレイする必要はいっさいない純粋なミニゲームだが、すべてのステージをクリアーすると、専用のエンディングが流れるなど、やはり細部まで作り込まれていた。

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キャプテンスクエアの素顔。意外とつぶらな瞳をしている。

中世編 『魔王』

 7つのシナリオをすべてクリアーすると、隠しシナリオの“中世編”が遊べるようになる。

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オルステッド(中央左)と、親友ストレイボウ(中央右)。優勝すれば姫と結婚できるという武術大会に挑む。オルステッドが優勝し、姫と婚約することに。

作中いちばんの問題作!? 見た目は王道なのだけど……

 主人公は、金髪で赤い鎧を着込んだ、オルステッドという青年。(あ、そう、お気づきですね。あの世で俺に詫び続けることを強要されている彼です)。

 オルステッドはたくみに剣を扱い、いかにもRPGの主人公という雰囲気を漂わせている。

 ドットで描かれた町並みも王道のファンタジーRPGという感じで、ストーリーも、“魔物に連れ去られた婚約者を救うために、古の賢者、古の勇者を仲間にして魔王の山へと向かう”という、ザ・王道RPGな筋書き。

 

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婚約者の姫を助けるために魔王の山へと向かう勇者オルステッドを、称賛の声で見送る街の人々。城の外では、親友の魔法使いストレイボウが待っており、ともに冒険の旅に出ることに。

 これまでプレイしてきた、あらゆる面で異彩を放つ7編のシナリオとは裏腹に、王道中の王道を行くようなストーリーに、プレイヤーは困惑するやらワクワクするやら。システム的にもとくに変わった点はなく、ストーリーもスムーズに進められるはず。登場する敵も中世ファンタジー風で、まったく健全なRPGというムード。

 しかし、そうは問屋が下ろさないのが『ライブ・ア・ライブ』というゲームで、プレイヤーの記憶(とネットミーム)に、このゲームのワンシーンが深く刻みつけられる要因なのである。

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ストレイボウとともに姫を救う旅路へ。ものすごくRPGっぽい。

 仲間とともに魔王を倒したオルステッドだったが、肝心のアリシア姫の姿が見えない。探し続けていたが落盤が発生し、巻き込まれたストレイボウを残して、オルステッドは城へ戻ることにした。

 その夜、城で休んでいるとなぜかそこに、魔王城で落盤に巻き込まれたはずのストレイボウの姿が。追いかけていくと、玉座の間に魔王がいるではないか!

 再び魔王を倒すオルステッドだったが、倒したその魔王は、みるみるうちに、ルクレチア王へと姿を変えた。オルステッドは誤って王を斬り捨ててしまったのだ。

 魔王を倒したはずの勇者が一転、王殺しの犯人に。

 オルステッドが王を殺した。ということは「魔王は、勇者のふりをしたオルステッドだったのではないか」と疑われ、オルステッドは町の人からも追いやられてしまう。

 最初は「勇者様がんばれー!」と応援してくれていた子どもも、怯えきった様子で見てくるようになるこのくだりは、プレイヤーも非常に悲しい思いになる。

 このあと、王国の兵士たちが敵としてフィールド上に登場するようになり、兵士を倒さなければ進めない……。

 オルステッドはあのとき何が起きたのか確かめるため、再び魔王の山へと向かう。

そこにいたのは……そう、おわかりですね。

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「俺がここにいることが不思議そうだな」

 親友・ストレイボウ!

 魔王を倒した後、隠し通路を見つけたストレイボウは、自らの魔法で落盤を発生させ、どさくさにまぎれてアリシア姫を独占し、オルステッドを出し抜こうと考えたのだった。

 なぜそんなことをしたのか。

「昔からそうだ! 俺がどんなに努力しても! てめえはいつもそのひとつ上をいっちまうッ!!」

 ストレイボウは、つねに「自分はオルステッドの引き立て役」だったと、オルステッドに対して激しいコンプレックスを感じていたと暴露する。武術大会で敗北したこともストレイボウの強い劣等感に拍車をかけ、凶行に走らせたのだ。

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 こうして嫉妬の塊となったストレイボウは、禍々しいオーラをまとい、あの名ゼリフを吐き出しつつ、オルステッドに戦いを挑む。

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「あの世で 俺にわび続けろ オルステッドーーーーッ!」

 ストレイボウは何を詫びてほしかったのか。それは、オルステッドの存在そのものだ。

 つねに自身の上を行く存在であり、目の上のたんこぶだったオルステッドが、武術大会で自分に勝利しアリシアと結婚する権利を奪った……。

 とにかく、オルステッドがいることが許せない。オルステッドの存在そのものが許せなかった。

 オルステッドの何かひとつの“行為”でなく、オルステッドという“存在”そのものに対しての憎しみだった。行為は一過性だが存在は持続する。その代償として、だから「詫びろ」ではなく「詫び続けろ」なのだ。

 その憎しみの深さは、どれほどのものか……。

中世編のボス ストレイボウ

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 親友に裏切られた上、その親友を自身の手に掛けたオルステッドの悲劇はさらに続く。

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誤解なのか、すべて知っているのか……。オルステッドの婚約者だったアリシア姫は、ストレイボウの後を追う。

 婚約者だったアリシアに「あなたには 負けるものの悲しみなど わからないのよッッ!」と罵られ、アリシアは自らの喉に白刃を突き立て、ストレイボウの後を追ってしまう。

私は今より オルステッドなどではない……

 こうして人間に絶望したオルステッドは、自分勝手な人間たちに復讐を決意する。自分自身が、魔王となることによって。

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「我が名は…… 魔王…… オディオ……!」

 それは、プレイヤーがこれまで倒してきたボスたちの名前だ。

 ここに来て、最初の7編で倒してきたラスボス“オディオ”の正体が、中世編の主人公オルステッドの時間と空間を超えた姿であり、じつはすべての物語が、魔王と化したオルステッドという人間の復讐心で紐付けられている構造だったのだと示唆されるのだ。

 そうして魔王オディオと、オディオの最初の被害者ふたりを背景にして、エンドロールが流れ出す。

 えっ……これがエンディングなの!? マジで!?

最終編

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『ライブ・ア・ライブ』クライマックスにして本編! 自分の好きなキャラクターで、これまでの主人公たちとパーティーを組む

 口を半開きにしたまま驚愕の中世編エンディングを眺めていると、余韻に浸る間もなく、続けて最終編のキャラクター選択画面になる。

 最終編ではこれまでプレイしてきたシナリオから好きなキャラクターを主人公として選び、“魔王”と化したオルステッド、いや、オディオを倒す物語が始まるのだ。

 舞台は、中世編と同じルクレチア王国だが、ときが経ちオディオに滅ぼされてしまったのか、町の住民や城の兵士などモブキャラクターたちは誰もいなくなってしまっている。(一部はとあるダンジョンで姿を見ることもできるのだが……)

まずは仲間を集めよう

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 王国のどこかには、各編の主人公たちが存在し、それぞれの条件を満たすことで仲間にすることができる。条件は道具を渡したり、話し掛けるだけでもいいキャラクターもいるが、戦闘で倒すと仲間になることが多い。この時点で「うわあ、主人公と主人公が戦ってる!」という驚きと感動がある。

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サンダウンVSおぼろ丸の夢の対決。これまでの主人公がクロスオーバーする最終編はいわば『ライブ・ア・ライブ』オールスター。『大甲子園』であり『ドカベン スーパースター編』(たとえが水島新司作品しか思い浮かばない)。功夫編からは老師ではなく、選んだ弟子が“心山拳師範”となって参加する。弟子がレイ以外の場合、全員が男のパーティーになってしまい、ややむさくるしいの感がある。

 ちなみに、最終編では、それまで戦闘がなくレベルアップできなかったキャラクターもレベルアップする。功夫編のボス戦では一度しか使えなかった“旋牙連山拳”も、レベルアップして覚えれば何度も使えるように。老師の技が受け継がれ、世界を救うために弟子がその技を使い奮闘する。思わず胸が熱くなる。

 ここに来て、“中世ヨーロッパ風の世界で、仲間を集めてレベルを上げて魔王を倒す”という、一周回ってRPGの王道をプレイすることになるのだ。

 王道になったとはいえ、もちろんそこは『ライブ・ア・ライブ』。様々な隠し要素やユニークなシステムが満載されている。以下にそれらをいくつか紹介しよう。

アイテムの罠

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中世編。
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最終編。中世編で宝箱を温存しておくと、最終編の同じ場所でよりよいアイテムが手に入れられる。

 最終編の舞台は、中世編のその後の時代。なので、中世編と同じ場所に宝箱やアイテムがある。しかし、中世編でそれらのアイテムを取り尽くしてしまっていると、アイテムがなくなっていて困ることに。

 じつは、中世編ではあまりアイテムを取りすぎないことが、最終編を攻略するカギになっていた。

戦闘から逃げすぎると……

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 最終編では、ザコ敵との戦闘は基本的に必ず逃げられる。

 しかも敵の設定がかなり強く、思わず“逃げる”を多用したくなる。しかし、通算で100回逃げると、強敵“デスプロフェット”との強制戦闘が発生する。

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『ライブ・ア・ライブ』発売25周年! 7つ(+α)の物語が彩る“記憶に残るRPG”を大紹介 後編(ネタバレ注意!)_45

 この敵からは絶対に逃げられず、勝つか負けるかしない限り戦闘は終わらない。それまでに仲間を集めたりキャラクターを成長させていないと勝つのは相当難しい。

 なので、キャラクターを成長させないまま99回くらい逃げた状態でうっかりセーブしてしまうと、雑魚にも勝てないから逃げる、しかしデスプロフェットにも負けるからゲームオーバーになる……という詰み状態になりかねない。気をつけよう。

最終編で明かされる『ライブ・ア・ライブ』のテーマ

 仲間を集めたりダンジョンをクリアーしたりして、最後に待ち受けているのはオディオと化したオルステッドである。

 各編のボスの彫像のある部屋で、オルステッドは独白する。

「私を倒しても 私は生き続ける」

「それは人間が存在する限り、永遠に続く感情なのだ。その感情の名を “憎しみ” あるいは…… “オディオ”というッ!!」

 そのときプレイヤーは、主人公たちが戦って来たものの正体を知る。オディオとは憎しみの感情だった。

 パイプオルガンが重たく響く、ボスとの対峙シーンで流れる曲『魔王オディオ』のように、“憎しみ”が全シナリオを通して通奏低音のように鳴り響いていた。

 『ライブ・ア・ライブ』とは、憎しみと戦う者の物語だった。憎しみに打ち克つ者たちの物語だったのだ。

 オディオとの戦闘から独白、そしてエンディング(いわゆるトゥルーエンドに至るにはいくつか条件があるものの)への流れは非常に盛り上がるので、ぜひ体感してほしい。

最終編の主人公をオルステッドにすると

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 ここまで紹介したように、最終編は基本的には“魔王オディオ(オルステッド)を倒す”という物語になる。

 しかし、主人公の選択でオルステッドを選ぶと、“魔王オディオとして、各時代の主人公たちを倒す”という、通常とは真逆の物語になる。

 各シナリオのボス(オディオ)となり変わって、おぼろ丸や、サンダウンや、ボコや、日勝や、キューブや、みんなを倒していく“逆ボスラッシュ”……“主人公ラッシュ”が始まるのだ。

 中世編のエンディングを引きずったままでオルステッドを選んでこの展開になると、プレイヤーの胸の痛みはすごいことになる。えっ、俺が彼らを倒すの? なんで? 魔王だから!

 悲しいやらかわいそうやら切ないやら、とにかく負の感情で満たされる。主人公たちを全部を倒し切ると“SAD END”と表示されて終了となる。本当に悲しいエンドだよ!(筆者の体験談)

それでも 人は生きる……

 というわけで、前後編に分けて25年前に発売された“オムニバスRPG”の傑作『ライブ・ア・ライブ』を振り返ってきた。

※前編の記事はこちら。

 記事に書いたことは、ゲームに詰め込まれた要素の一部に過ぎず、本当は紹介したいネタがもっとあったのだけど(ワタナベとか、ハルマゲドンとか)、あれもこれもと書いていると、詰め込まれたネタの量が膨大過ぎて、いつまで経っても終わらないので、今回はこのあたりで筆を置く。

 あと特筆すべきこととして、下村陽子氏による音楽が本当にすばらしい。記事中で触れた『メガロマニア』や『魔王オディオ』はもちろんのこと、各シナリオの通常BGMや戦闘BGMがそれぞれ個性が際立っていて、プレイすればお気に入りの1曲がきっと見つかるはずだ。

 ネタと感情と名ゼリフとユニークさと熱い展開と悲しい物語と壮大なテーマ性がぎっちり詰め込まれた本作、もし興味を持ったらぜひ一度プレイしてみてほしい!