eスポーツ大会“RAGE”の構想を聞く

 “RAGE”というeスポーツ大会がある。

 運営母体はゲーム動画配信プラットフォーム“OPENREC.tv”を展開するCyberZ。特定のジャンルやハードに固執せず、さまざまなタイトルでの大会開催を目指している。

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 Vol.1はスマホ用MOBA『Vainglory』で実施し、2016年1月23日にはオフラインの決勝大会を開催。Vol.2では『Vainglory』だけでなく格闘ゲーム『ストリートファイターV』(カプコン)も大会ラインアップに加わり、MOBAと格ゲーの2軸で展開中だ。

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▲東京・秋葉原で開催された『Vainglory』オフライン決勝大会には200人ほどの観客が来場。

 ある日、CyberZ側から「日本のeスポーツ事情に詳しい人に、Vol.2以降の構想について説明したい」と、ご指名を受けた。僕はすごく事情通なわけではないが、人より多くeスポーツやオフラインイベントを取材してきている。それに、ふだんはPCオンラインゲーム専門だ。別分野のeスポーツ事情に触れる機会は少ないので、RAGEの方向性には少なからず興味はある。話を訊きに行ってみた。

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▲Vol.2の競技種目は『Vainglory』と『ストリートファイターV』。

『ストリートファイターV』を採用した3タイプの“RAGE”

 そもそも、CyberZはスマホ系に特化した広告代理店だ。スマホ市場はゲームの広告が多く、そこに可能性を見出して“OPENREC.tv”をスタート。現在は『League of Legends』のUnsold Stuff Gaming、『Alliance of Valiant Arms』のF4E、格闘ゲーマーの大貫晋也氏のスポンサードを行うなど、eスポーツ分野を徐々に強化している。

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▲話を伺ったのは、RAGEを統括する大友真吾氏。

 Vol.2で『ストリートファイターV』と組んだのは、杉山晃一プロデューサー(カプコン)の「eスポーツ展開を視野に入れつつ、それを一般化したい」という思いとRAGEの理念がシンクロしたから。大友氏は、「従来のeスポーツはコアなゲーマーが楽しむもの」と感じているようで、ライト層も参加しやすい格闘ゲームはウェルカムだったのだろう。

 RAGEの『ストリートファイターV』部門は“オンラインリーグ”、“グランドトーナメント”、“マスターリーグ”の3種類の大会で構成されるという。

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【オンラインリーグ】
 シーズンごとに毎週大会を行い、獲得したポイントで順位を決めるのが“オンラインリーグ”。ポイント上位者には賞品や賞金、別大会への出場権などのインセンティブが与えられる予定だ。

 大友氏は“参加しやすいこと”を強調。一般的な大会は、オンラインで予選を、オフラインで決勝を行うスタイルが多い。オフライン大会は大都市圏で開催せざるを得ないため、参加を諦める地方のプレイヤーもいるかもしれない。その点、オンラインで完結するのなら、日本中どこからでも参加しやすい。FPSやMOBAと違って個人戦なのも気軽でいい。

 ちなみに、参加者は25歳以下に限定。理由を聞くと、若手発掘の意図もあるそうだ。「有名な格闘ゲーマーさんの年齢を調べてみると、ほぼ25歳より上でした。もっと若い層の参加を促したくて、ひとつの基準を25歳に設定しました」と、大友氏。

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 もうひとつのキーワードは“単発のイベントで終わらないこと”。話を聞くと、どうも大友氏は「eスポーツ大会は単発で終わるものが多い」と感じているらしい。『Vainglory』で開催したRAGE Vol.1は、大会自体は盛り上がったものの、その後に落ち着いてしまったのが反省点とのこと。

 その辺は別タイトルの大会を参考にすればいいと思う。少なくとも、僕が追いかけているPCオンラインゲーム界隈では、長期的に展開することで盛り上がりを持続させているタイトルもある。僕の提案に、大友氏は「なるほど。我々もまだまだ勉強不足ですね」と返答。

 それくらい知っておいてくれよという気持ちもないことはないが、前向きになってくれるならウェルカムだ。先人たちの取り組みを調べて、必要な部分はどんどん吸収するべきだと思う。

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【グランドトーナメント】
 こちらはオフラインのみで完結する大会。6月中旬までに東京と大阪で最大128人ずつのオフライン予選が行われており、それぞれの上位4名、計8が7月31日に東京・恵比寿で開催されるGRAND FINALSで激突する。賞金総額200万円の、非常にわかりやすいタイプの大会だ。

【マスターリーグ】
 企業に協賛してもらい、運営をRAGE側で行うタイプ。年に4回ほどの開催を予定していることから、大会名は四聖獣(玄武、朱雀、白虎、青龍)をモチーフにしている。王者には“初代玄武”などの称号が贈られるほか、今後開催予定の大型大会に招待する構想がある。「たとえば玄武と朱雀の称号を持ったチャンピオンが最高峰の舞台で激突する、プロレスや格闘技のような演出もいいですよね。これらが本格的に動き出すのは2017年頃になると思います」(大友氏)。

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▲第1回大会の玄武杯は、ゲーミングPCブランド“G-Tune”の冠で2016年5月28日に開催。使用タイトルはもちろんPC版『ストリートファイターV』だ。
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▲こちらは構想段階のスケジュール感。
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▲第1回 RAGEマスターリーグ玄武杯の様子。

 大友氏は「eスポーツをJリーグやプロ野球のようなところまで持って行きたいという、RAGEとしてのビジョンがあります」と語る。サッカー選手はJリーグが発足したことで職業として磨きがかかり、観戦する楽しさも大きく花開いた。そのシーンに近づくためには、eスポーツの選手が生計を立てられるシステムの構築が不可欠だという。

 何はともあれ、まずは長く、クオリティの高い大会を続けていくことが肝要だ。大会開催は別として、注目しているタイトルを聞いてみると『Shadowverse』、『オーバーウォッチ』、『クラッシュ・ロワイヤル』などが挙がった。ほかに、中国や韓国で徐々に出始めているモバイルのFPSにも興味を示していた。

選手のサポートやフォローアップ

 eスポーツを盛り上げるにあたり、いちばん大切なのは選手へのフォローアップだろう。彼らのパフォーマンスを高めていいプレイをしてもらうことが、見ている側へのアピールにつながる。

 大友氏は「CyberZとしてどこまで可能かわからないですけど」と前提したうえで、アイデアを話してくれた。極端な例としては、“アマチュア選手が大会ですばらしい結果を出した場合、プロゲーミングチームに入る権利が与えられる”、“ゲーミングハウスを運営している企業と協力して住環境を整える”など。

 実現の可能性が高い企画としては、“OPENREC.tvの番組に出演してもらってギャラを支払いつつ、ゲーム解説者としての道をサポートする”というものが挙がった。また、RAGE Vol.1の『Vainglory』大会で決勝まで進出したプレイヤーには配信用のゲーミングPCを貸し出しているという。

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 大友氏はさらに「まだ具体的な方針を話せる段階ではないのでお恥ずかしいのですが、プレイヤーの露出を広げる活動はしたいですね。OPENREC.tvを活用するのは当然として、場合によってはテレビ局と連携して番組を作ったり。プロゲーマーやプレイヤーが脚光を浴びて、彼らが子どもたちの憧れの存在になれるような、裾野を広げる手助けはしていきたいと思っています」と続けた。

 その一環として、上位選手が世間に露出する場を積極的に増やしたいようだ。人前に出る場数を踏ませ、プロとしての立ち振る舞いを身に着けてほしいのだろう。どんなにゲームがうまくても、人間的な魅力がなかったらファンはつかない。悪気の有無とは無関係に、Twitterでの失言が思わぬ事態を巻き起こす可能性だってある。RAGEやeスポーツに限らず、多くのスポーツ関係者が危惧している部分だ。

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▲記者発表会に招待して発言の機会を持たせる。今後はマナーやルールの講習会を開くなどの活動も検討しているようだ。

次回のRAGE GRAND FINALSにはフェスのような演出も取り入れたい

 RAGEの運営面で何か参考にしているものはあるのだろうか。世界では多くのeスポーツ大会が開かれているし、日本にもショーアップされた大会はある。ゲーム以外の、いわゆるフィジカルスポーツの見せかただって参考になるだろう。運営姿勢を学ぶという意味では、アマチュアスポーツや武道の大会の関係者に話を聞くのもおもしろいと思う。

「いろいろなものを参考にしています。RAGE Vol.1ではプロ格闘技の試合風を意識しました。世界のeスポーツの大会ってすごく演出がかっこいいものが多いですよね。最近だと“Red Bull Kumite 2016”も演出が凝っていましたし。先日、初めて台湾のGarenaさんが運営するeスポーツ大会に足を運んだんですけど、やはりすごく演出がしっかりされていて」(大友氏)

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▲対戦構造を意識したVol.1の演出。

 海外の大会を見て、大友氏は「フェスやショーのような側面がある」と感じたとのこと。対戦ブースの間にドラムセットが設置してあり、インターバルで観客のテンションを下げないように楽曲の演奏が始まる。また、照明・光を使って視覚的に盛り上げる。その一体感と非日常感を“フェス”と表現した様子。

 なるほど。選手と観客の一体感やグルーヴ感、試合観戦の没入感を高めるにあたり、ひとつの目標を“フェス”と定めるのはおもしろいかもしれない。

取材を終えて

 さて。最後に「RAGEの今後に注目だ」なんて締めるのは簡単なのだけど、せっかくなので話を聞いた感想などを書く。

 端的に言うと「もっと興味を持って、いろいろ調べてほしい」。このひと言に尽きる。後発の大会なのだから、日本や世界におけるeスポーツの歴史や土壌を研究したうえでシステムを構築したほうがいいのは当然だろう。本気でeスポーツを広めたいなら、その辺は誰から言われることなく自然に勉強しているはずだと思う。

 文中にあるように、勉強不足は大友氏本人も認めていて、見識を深めたいと意欲を見せている。これまでに、日本でも先人たちがさまざまな大会を開催してきた。成功面だけでなく失敗面もきちんと研究すればミスも減るはずなので、大会のクオリティーはどんどん上がっていくに違いない。

 ちなみに、今回の取材で僕がいちばん聞きたかったのは、「CyberZは何をして“スポーツ的”と見なすのか」。2016年2月に公開された別メディアのインタビューで、CyberZ社長の山内隆裕氏が「ゲームのオフラインイベントで、スポーツのような大会はなかった」と発言していたからである。大友氏からは明確な回答はなかったので、“RAGE”で答えを出してくれることに期待しようと思う(少し意地悪な質問だったという自覚はある)。

 正直に言おう。僕はゲームを知らない人や興味を持っていない人、愛のない人にゲーム好きたちのコミュニティーをかき回されるのが嫌なのだ。この感情はゲーム好きに限ったものではないだろう。eスポーツを利用しようとする大人たちの思惑に翻弄されてプレイヤーが不利益を被ったら、いい試合を見られなくなるかもしれない。それは困る。

 だから、CyberZの愛や覚悟を確かめるために、取材時には答えに詰まるであろう厳しい質問もたくさんした。大友氏からは「本気でやっていきます」という言質をもらったので、ひとまずそれで満足することにする。

 RAGEは今後もタイトルを追加・変更しながら開催を重ねていく予定だという。広告業務を営むCyberZだから広く伝えることにも長けているはずだし、これまでの常識にとらわれない大会に育つ可能性もある。RAGEの今後に注目したい。