過去と向き合い、清算するために“タワー”へ向かえ。

 Throw the warped code outのアドベンチャーゲーム『Back in 1995』を紹介する。本作のプラットフォームはPCで、本日よりSteamで配信中。価格は1198円で、初週のみ発売記念セールで20%オフの958円となっている。

 本作は初代プレイステーションやセガサターン時代の頃を思わせる粗いローポリゴンな3Dグラフィックが印象的なアドベンチャーゲーム。ゲームは、主人公ケントが荒れたビル群の屋上に佇んでいるところから始まる。状況の手掛かりとなるのは、闇の先に見える“タワー”に行き、過去を清算しなければならないという彼の強い思い。果たしてそこには何があるのか? ビルからビルへ、タワーを目指して進んでいく……。

歪むポリゴンとTVノイズの隙間に忘れ去られた何かが潜む

 ゲームとしては、『アローン・イン・ザ・ダーク』や初代『バイオハザード』辺りの、90年代中盤の3Dポリゴンのアドベンチャーゲーム。襲いかかる異形のクリーチャーを退けながらビルを探索し、カギとなるアイテムなどを入手して、先に進む道を切り開いていくというのが基本的な流れ。

 グラフィックだけでなく、キャラクター操作も当時のスタイルへのオマージュを捧げており、方向キーの前後でキャラが向いている方向に対して歩行/後退し、左右キーで回転する、いわゆる「ラジコン操作」と呼ばれる方法(海外ではTank Controlとして知られる)を採用している。これはアナログスティックで直感的にキャラを移動できる現在のゲームに慣れた人は面食らうかもしれないが、そういうものなのだと理解されたし(もちろんカメラ操作なんてない。固定カメラである)。

新たなレトロか、それとも20年前の記憶が見せる幻影か? PS1/SS時代を思い起こさせる3Dアドベンチャー『Back in 1995』が配信開始_01
▲回転→進むという手順を踏まないと綺麗に進めないので、慣れるまではクリーチャーから逃げるのにも一苦労。「なんで不便なやり方を今更」と思う人もいるかもしれないが、実はこうなっている意味はちゃんとあり、最後までプレイすることでその意図が見えてくる。

 なおクリーチャーが出てくることや、戦闘要素があることから『バイオハザード』的なホラーアドベンチャーを連想するかもしれないが、バトルやサバイバルホラー的な不安もエッセンスのひとつではあるものの、探索や(あえてゲーム的な強引な作りの)謎解きを通じて世界観を徐々に把握していくという側面の方が大きい。

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▲「逆にわかりにくい割にセキュリティになってないよ!」とツッコミたくなる、いかにもゲーム的な仕掛け。もちろんスーツケースを見つけて開けるのが謎解きのひとつになっている。

 ちなみにゲーム画面もワイド以前のテレビに合わせた4対3の画角で、デフォルト設定ではブラウン管の走査線を再現したフィルターがかかっている。90年代当時、家族のお下がりの旧型のテレビでゲームを遊んでいた層や、暗く怪しい雰囲気を好む人はこのままプレイするといいだろう(開発者推奨はフィルターアリでのプレイ)。さらにノイズのアリ/ナシも選択可能だ。
 一方でそこまでの表現は求めない人や、ストリーミング配信やプレイ動画作成のためにフィルターの影響で絵の細かい部分が潰れてしまうのを嫌う人は、オプションでフィルター効果を外すこともできる。

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▲TVフィルター(CRTフィルター)オフの状態。全体的に明るくなる。ポリゴンのエッジがガビガビなのはそういうものなので受け入れよう。

20年前のゲーム・キッズに

 本作がオマージュを捧げる、当時なりに“リアル”を目指したはずの1995年スタイルの3Dグラフィックは、キャラが動くたびにポリゴンが歪み続け、エッジはアンチエイリアスを笑い飛ばすようにガビガビのままで、今見るとそれが本来意図したものとはまったく別の、魔術的な力を発しているのがわかる。
 そしてそこに重なってくる、不便さが緊張感に繋がってしまう操作系統、チープでも思わせぶりにカマす演出、なのに「ゲームっぽさ」が抜けきれない非現実的な仕掛けと、どこかぎくしゃくとしてぎこちない会話……それが不思議と気持ちいい。暗い部屋で夜にこっそり脇目もふらずにゲームに熱中していた頃に感じた、妙な熱量と引力がある。

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▲序盤でおつかいを頼んでくる謎の医者。すべてがまがい物に見えるが、それでいい。

 万事がそんな具合に作られている本作は、現在30代のクリエイターによる当時のゲームへのラブレターであり、同じようなゲームを遊んでいた同世代への個人的な招待状でもある。この物語の終点にたどり着いた時、プレイヤーは「1995年頃のように(Back in 1995)」というタイトルの先で作者が何を言いたかったのかを理解するだろう。
 もちろんオリジナルを知らない世代も、そんなことを気にせずに新しいユニークな表現として受け止めることはできる。本誌でもいくつか紹介してきたが、ローポリパズルゲームやローポリFPSなど、ローポリゴンのアートスタイル自体は、いまインディーゲームで静かなトレンドとなっているので、その流れのひとつとして捉えるのもアリなんじゃないだろうか。

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 なおクリアーまでは、程よく迷っても2時間から3時間程度(ただし終盤トリッキーなギミックが仕込まれているので注意)。Throw the warped code outでは、今後Mac/Linux版の対応と、アップデートでのボイスの追加を予定しているとのこと。