さまざまなクリエイブ・プロジェクトに応用できるノウハウを紹介

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催される、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2015。今回は、クリエイティブディレクターとして北米に出向したスクウェア・エニックスの塩川洋介氏が、世界各国のクリエイターとの約5年間におよぶ開発経験から得たノウハウを、体験談として共有するショートセッションをリポート。

ばらせばゲーム開発はうまくいく! スクウェア・エニックス塩川洋介氏ショートセッションリポート【CEDEC 2015】_01
▲スクウェア・エニックスの塩川洋介氏。プランナーとして2000年にスクウェアに入社し、『キングダム ハーツ』『ディシディア ファイナルファンタジー』など数々のタイトルを手がけてきた塩川氏。2009年から2014年にかけて、北米Square Enix,Inc.に出向した経験を持つ。

 CEDEC 2010CEDEC 2014と、自身の海外での開発経験をもとにしたセッションを行ってきた塩川氏。その“完結編”と銘打って行われた今回のセッションは、帰任後、日本国内向けコンテンツの開発時に実践した、海外流の役立つ開発ノウハウを、「ばらせ!」というキーワードで、3つのケースごとに紹介した。

ノウハウ(1)“リーダー”を、ばらせ!
 クリエイティブの現場出身者が出世してプロジェクトのリーダーとなり、コンテンツのクリエイティブ面(クオリティコントロール)とマネジメント面(チーム、リソース管理)を同時にこなすケースが多い日本の状況を、塩川氏は“不健全”と表現。その対策として、日本国内の業界でいうところのプロジェクトマネージャー(PM)にあたる人物をマネジメント面のリーダーに据え、一任することで、海外では一般的な“リーダー業務の分業化”を実現したという。クリエイティブ面に専念することで最良のパフォーマンスを発揮するリーダーにたいし、PMの人数がまだまだ足りていないとする塩川氏は、「PM適正の高い人材を積極的に見出し、彼らが輝く場を提供することが大事」と語った。

ノウハウ(2)“クリエイティブ”を、ばらせ!
 塩川氏はまず、クリエイティブの進行工程を“コンセプション(ゲーム全体の基盤の定義)”“プロダクション(実際に作り、量産する工程)”“オペレーション(コンテンツのバランス調整など)”の3段階にわけ、それぞれがまったく異なる能力を要することを強調。その上で、各スタッフの得意分野を見つけてそれを特化する(任せる)こと、不得意分野を見つけて、やらない(任せない)ことが、結果として全体のクオリティアップにつながることを訴えた。

ばらせばゲーム開発はうまくいく! スクウェア・エニックス塩川洋介氏ショートセッションリポート【CEDEC 2015】_02

 もし、スタッフに適正と思われる業務と、スタッフ本人が希望する業務が異なる場合はどうするのか? という記者の質問にたいして、塩川氏は「海外の場合、スタッフがそのまま会社を辞める場合がほとんどです」と答えた。

ノウハウ(3)“デリバラブル”で、ばらせ!
 デリバラブル(Deliverable)という、国内では聞き慣れないが、海外の開発現場ではごく当たり前に使われているという単語を、塩川氏は“成果物”と説明。そして、開発プロセスをデリバラブルから逆算して工程分割することの重要性を訴えた。たとえば、「私は今月、×××をやります」という作業内容ベースの目標を設定した場合、進行状況が芳しくなくても、ある種の言い訳――サボっていたわけじゃない、結果として形になっていないだけetc.――が立つ。しかし、「私は今月、×××を実装します」という成果物ベースの目標の場合、達成できたか否かの結果がはっきり出るため、クリエイターは、自身が立てた目標に、責任を持たざるを得なくなる。こうした心理を、塩川氏は“万国共通の悲しい真実”と前置きしつつ、「クリエイターは、締め切りに追われないと動きません!」と断言。そして、自分で自分のデリバラブルを設定することの必要性を訴えた。「成果物至上主義は、“作業の過程が問われない”ということ。そこに、自身のやりがいや自由度をセットにすることもできます」(塩川氏)

 業務の細分化によって、個々の力を最大限に引き出ことを重視する、海外の開発スタイル。その根底にあるのは、「人は、どんな立場・役職にあったとしても万能ではない」という、シビアではあるが、至極当然の考えかたである。最後に塩川氏は、「ゲームはエンターテインメントで水商売のようなもの。成功を完全にコントロールはできないけれど、失敗の確率を下げることは確実にできる」とした上で、「皆さんも“ばらす”ということを意識して、日頃の創作活動に挑んでみてください」と受講者に呼びかけて、セッションを締めくくった。