強いこだわりをもったクリエイターほど仕事ができる

 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催。日米両国のディレクション現場で出会った“できる”クリエイターの共通点をスクウェア・エニックスの塩川洋介氏が語ったセッションの模様をお届け。

 「クリエイターたちが大切にしている、たった1つのこと ~日米両国でのディレクション経験を通じて得た、たくさんの気づき2014~」と題して行われたこのセッション。ここでいう“できる”とは、高いスキルとやる気を持ち、ハイレベルの仕事ができる人のこと。登壇者の講師の塩川洋介氏は、スクウェア・エニックス社でクリエイティブ・ディレクターとして日米両国で多くのクリエイターたちと仕事をしてきており、そこで得た体験と気付きを元に、彼らが共通して大切にしていることが語られた。

体験から海外の“できる”クリエイターが大事にしている3つのこだわりとは【CEDEC 2014】_01
▲講師として貴重な体験談を語った塩川洋介氏。2000年にスクウェアにプランナーとして入社し、2009年から約5年間を北米のSquare Enix,Inc.にクリエイティブディレクターとして出向。そこで世界各国の(ゲーム/ビジュアル)クリエイターと関わりを持った。『KINGDOM HEARTS』『KINGDOM HEARTS II』『MURDERD 魂の叫ぶ声』などに関わったほか、『「レベルアップ」のゲームデザイン』といった専門書籍の監訳も手がけている。

 塩川氏は講演の冒頭から、できるクリエイターのたったひとつの共通点は“こだわる”ことだと説明。「それだけ?」と思われるかもしれないが、大事なのは何に、どうやってこだわっているかだと続け、それは大きく3つに分けられると語る。

体験から海外の“できる”クリエイターが大事にしている3つのこだわりとは【CEDEC 2014】_02

 こだわりのひとつめは“ハイレベルゴール(High Level Goal)”。日本人には耳慣れないが、海外のクリエイターはこの単語をよく口にするという。その意味は、プロジェクトの中で優先して達成すべき上位階層=ハイレベルの目標にこだわるということ。

体験から海外の“できる”クリエイターが大事にしている3つのこだわりとは【CEDEC 2014】_03

 塩川氏はSFサバイバルホラーゲームを例とし、できるクリエイターの思考の流れを説明。最重要な目標(ピラミッドの頂点:写真参照)を“超怖いゲームを作りたい”と設定し、できるクリエイターの担当をメニューセクションと仮定して話を進めた。

超怖いゲームを作りたい

超怖いゲームにするために、メニューで時間を止めないようにしよう

時間を止めないために、3D空間で表現しよう

3D空間で表現するために、ホログラフィを使おう

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 ここで注意したいのは、すべての思考が“超怖いゲームを作りたい”という上層の目標から連なっているという点。けっして思いつきでホログラフィのメニューを採用したわけではなく、上位階層の目標を常に意識して再優先に実行することが、ハイレベルゴールであると説明し、できるクリエイターは肌でこれを感じて行っているとも語った。

 ふたつめのこだわりとして上げられたのが“資産”。これは、塩川氏とやりとりのあったカナダ人クリエイターで、責任者でものすごいバトルの知識の持ち主とのやりとりの中で「なんでそんなにバトルに詳しいの?」と聞いたところ、「ずっとやってるからだよ」と答えられたという。たしかにそのクリエイターの経歴は、会社やタイトルは変わっているけど、同じことを15年近くもやっている。そうして長い時間、同じことを突き詰めてきたことで得たノウハウこそが“資産”であると気づいたと語った。

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 資産の意味は個人だけに限られたものではなく、スタジオ単位やゲームエンジンにも及ぶと語る塩川氏。また、北米のクリエイターは、日本と比べると「ここはあの映画(ゲーム)のあのシーンにしてくれ」といった会話がよくなされていたという。これらもまた、外的な資産であるという考えだ。

 できるクリエイターが資産にこだわるのは、これまで積み上げてきたノウハウを自分、会社、業界に蓄積していきたそれを利用することで、プロジェクトの失敗率を下げることができるからだ、と塩川氏は結んだ。

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 第3のこだわりは、クオリティ(Quality)。クオリティ(完成度)にこだわるのは当然のように思えるが、できるクリエイターは尋常ではないほどそれにこだわり、どのスタッフよりも働くのだと塩川氏は説明。実例として、数カ国をまたいでのプロジェクトを進行しいてる人、昼夜お構いなしにメールやスカイプでのやりとりをする人などがいることをあかし、中には休暇中にも関わらずチェック用の機材を持ち歩いているツワモノもいたと語る。

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 また、それだけハードに仕事をこなしながら、最新の世間のトレンドや映画などのチェックもかかさず「この人たちは、いったいいつ寝ているのだろう」と思ったこともしばしばだそう。しかしそれには秘密も秘訣もなく、ただがんばっているだけだと説明。そういうひとたちほど、人一倍いい作品を作ろうと楽しんで生きているとも語り、またもうひとつの見方として、責任感の強さが彼らの推進力となっているのではないかと分析した。

 まとめとして塩川氏は、自分が日米の開発現場で強く感じたのは「できるやつはできる、できないやつはできない」であり、国や環境は関係なく、こだわりをもったクリエイターは存在すると発言。大勢の来場者に対し「今日からもっとこだわる」ことを勧め、セッションを締めくくった。

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