家庭用ゲーム機向けへの気持ちが抑えられなくなった

河野一二三氏と清水崇氏に訊く! 『Project Scissors:Night Cry』がKickstarterでの出資募集を募った理由とは?_08

 ホラーゲーム往年の名作『クロックタワー』の“魂を受け継ぐ作品”として、昨年9月に発表されるや大きな注目を集めた『Project Scissors』(⇒関連記事はこちら)。発表以降、しばらく続報のなかった同作が、この度本格始動! 『Project Scissors:Night Cry(プロジェクト シザース:ナイト クライ)』(以下、『Night Cry』)とのタイトルで、クラウドファンディングサイトであるKickstarterでの出資を募ることになった。ここでは『クロックタワー』の産みの親であり、『Night Cry』のディレクターを務めるヌードメーカーの河野一二三氏と、今回のプロジェクトに参画する、『呪怨』シリーズや『魔女の宅急便』(実写版)などでおなじみの映画監督の清水崇氏に、資金調達の意図などを聞いた。

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河野一二三氏(左)
ヌードメーカー
代表取締役/ディレクター
(文中は河野)

清水崇氏(右)
映画監督/シャイカー所属
(文中は清水)

トレーラーは清水監督のクリエティビティが溢れて13分に

――まずは、『NightCry』をKickstarterで資金調達をしようと決意した経緯から教えてください。

河野 『NightCry』に関しては、当初は資金的な兼ね合いもあって、アプリで行こうと思っていたんですね。ところがいざ作り出したら、「絶対に家庭用ゲーム機向けに作りたい!」という気持ちが抑えられなくなってしまいまして。

――クリエイターとして、溢れる思いを抑えられなかったんですね。

河野 参加していただいているメンバーからすれば「大丈夫なの?」という感じだったかもしれないのですが、「Indie Streamで発表したときの各国のユーザーさんの反応を見てくださいよ」という感じで説得して、PCや家庭用ゲーム機向けも狙えるプロジェクトに展開していくことにしたんです。とはいえ、これはクリエイターとしての僕のわがままなので、Kickstarterで責任を負う形でやろうと決意したんです。

清水 勇気と覚悟ですね(笑)。好き勝手に作るからには全責任を負うというのは、同じクリエイターとしても賛同できるところです。

河野 今回のKickstarterでは、“ストレッチゴール”ということで何段階か目標を定めているのですが、できるだけ上のほうまで達成させたいと思っています。プレイステーション4やXbox Oneといった新世代機向けまで手を届かせたいです。そのためには、ぜひとも皆さんに手助けしていただきたいなと。

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▲伊藤暢達氏デザインによるクリーチャー。

――現時点では、クリーチャーデザインは伊藤暢達氏、音楽は戸田信子氏の参加が発表されていますが、Kickstarterで目標が達成されるたびに、新しいクリエイターの方々の参加が発表されるといったことは?

河野 そこは期待してください! ちなみに、今回『NightCry』のプロジェクトを初めてみてわかったのですが、ゲームクリエイターの中には、「本気のチャレンジに身を投じてみたい」というパッションをお持ちの方がとても多かったということです。『NightCry』のプロジェクトを発表するや、コンシューマーで有名なタイトルに関わられていた開発者の方が、「僕もお手伝いしたいです」ということで、けっこうお声をかけてくださったんです。僕が「あまりお金ありませんよ……」と正直に言うと、「それでもいいからやりたいです」みたいな。そういう方がけっこういらっしゃるんですね。ゲーム開発者はすばらしいなあ……と、思います。

――それは、会社のためにやるのでも、お金のためにやるのでもなく、“やりたいからやる”という趣旨に賛同した方が、それだけ多くいらっしゃるということですね?

河野 そうですね。実際のところは、僕ひとりでやっているわけではなくて、当然のこと協力してくださる企業の方もいらっしゃいます。でも、それは“クライアント”というわけではなくて、“パートナー”という立場を守ってくださっています。そういった意味では、ものすごくありがたいです。

――今回、kickstarterの開始にあわせて、清水崇監督による実写でのトレーラーも制作されましたね。

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清水 当初は、『Night Cry』の世界観に合わせて、いずれは長編映画ができるといいかもくらいの思いでした。それが今回河野さんがクラウドファンディングで出資を募るということで、僕もせっかくプロジェクトに参加しているし、「何か別のアプローチの協力がしたい!」ということで、プロモーションビデオを作ることにしたんです。それで、『NightCry』の世界観をお聞きして、実写のほうが先に形になったんですね。最初は、「2~3分くらいでいいですよ」って言われていたんですけどね。

河野 たしかに、最初はもっと短かったですよね。

清水 それが脚本を書いているうちに、なんとなくイメージが膨らんでしまい、けっきょく13分の短編映画になってしまいました。

河野 とんでもなく伸びましたよね(笑)。13分といったら、本当にショートフィルムですよ。

清水 そうなんです。本当に短編になってしまって……。さすがにネットで10分以上見るのはツライかと思ったのですが、周囲から「それで行きましょう」とアドバイスされたんです(笑)。

――清水監督のクリエイティビティが溢れて、その長さになってしまったのですね。

清水 そうなんです。

河野 最初に台本をいただいたときは、「やけに分厚いな」と思いましたもの(笑)。いずれにせよ、この実写映像はすごいです。監督が『NightCry』の世界観を完全に理解していただいたうえでお作りになっていて、ゲームとぴったりくっついているんです。

――トレーラーを制作するにあたっては、どのような形で世界観の共有をしたのですか?

清水 もともとは、河野さんの中にある世界観をお借りしている形なので、もっと河野さんの意見をうかがいたいと尋ねたのですが、「根っこの部分さえ押さえておけば、トレーラーとゲームとは少しくらい違いが生まれてもいいのでは?」っておっしゃっていただいたんですね。それならば……ということで、あとは自分のほうで抱えて作ってみることにしました。

河野 僕としては、単純に清水監督という、ホラーの分野で才能を持つすばらしい方と組むのに、「僕の予想の範囲内では嫌だな」と思ったんです。せっかくだから、びっくりさせていただきたいというのがあって、そういう意味では、僕のイメージの押し付けでがんじがらめにして、その通りのものを作っていただくなんていう、もったいないお願いをしてはダメなんですよ。それだったら誰にでもできる。監督とお話をすると、監督のホラー論と合致するところが多くて安心感がありますね。

主人公キャラクターが複数存在する“群像劇”を目指している

――清水監督は、これまでどちらかと言うと精神的にじわじわ来る恐怖を描かれていると思うのですが、『NightCry』では、物理的な怖さを描く形になりますよね。これまでにない取り組みになるのではないかと……。

清水 そうなんですよ。僕はホラー映画をたくさん撮っているので勘違いされがちなのですが、じつは自分がちょっと怪我をしただけでもフラッとなるくらい血が苦手なんです。痛そうな描写が苦手で、物理的な怖さを避けてきたんですね。本作では、そんな“物理的な怖さ”の象徴としてハサミがモチーフとなるわけですが、ハサミ自体が“怨念を抱えている謎を秘めた存在”だと河野さんに伺ったんですね。そういうことであれば、単純な物理的な怖さではないし、僕でも何か手助けができるかもしれない。むしろ大きなハサミはいままでチャレンジしたことがないので、おもしろいアイデアが思い浮かぶかもしれない……ということで、お誘いを受けすることにしたんです。

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――なるほど! “物理的な怖さ”であるがゆえのおもしろさがあるということですね。

清水 アメリカ人なんかだと、幽霊はぼんやりしていて攻撃してこないとあまり怖くないといいますよね。一方日本人は見えただけで怖がるじゃないですか。

河野 むしろ攻撃されると「意外と俗っぽいな」とか思ったりしますね(笑)。

清水 それで、『リング』でも『呪怨』でも、幽霊が現れてゆっくりと近づいてきて、「ぎゃーっ!」を叫んで終わりじゃないですか。どう殺されたのかは見せないという。そのへんは、巨大なハサミを持っているだけで「こいつはヤバイ!」という感じがしますよね。そういう非現実的な感じを持たせることができるので、そういうところはおもしろいなと思います。

――巨大なハサミは、日本人的な恐怖の感性にマッチしているということですね。

清水 今回のショートトレーラーは責任重大でもあるんですよね。僕の作ったトレーラーを見て、「なんだこれ!?」とがっかりされたら、逆効果になってしまう。

河野 その心配はまったくしてないです(笑)。

――Indie Streamのときも、「ゲームが成功した暁には映画化を実現したい」とおっしゃっていたのですが、今回の映像を見て、さらに期待するファンも多そうですね。

清水 そうですね。もっともっと期待してほしいです。

河野 それが後押しになりますので。

清水 ゲームは好きだけど映画はそんなに観ないという方とか、映画は好きだけどゲームはあんまり遊ばないという方が融合して、両方とも楽しみにしてくださるとうれしいですね。

――今回、初めて『NightCry』の画面写真が公開されましたが、まさかあんなにフォトリアルなものが出てくるとは思わなかったので、とてもびっくりしました。

河野 スマートフォンメインという最初の発表で、皆さんが想像されたものとはぜんぜん違っていたとは思うのですが、いい方向に驚いていただけたのではないかなあ。昨年9月の発表のあとで、一気に作り込んでいきました。僕自身でテクスチャベイクもリアルタイムもライティングしているのですが、皆さんが受け入れてくださるとうれしいですね。

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――画作りにあたって心掛けたことなどはありますか? 画面からは、ホラーだから暗い場所とか、ホラーだから狭い場所というわけではなくて、ある程度の明るさがある中で、“非現実的な部分”をうまく表現できているなと感じました。

河野 僕は、『サイレントヒル』の絵作りってすばらしいと思うんですね。画面いっぱいに霧を出して、サイドの光量を落として、雰囲気を出すという。しかも、この画作りは、データの容量を削減できたりと、何かと都合もいいんです。ホラーゲームのターニングポイントになったと思うのですが、それだけに同じような方向性の絵作りはしたくない。僕たちは僕たちなりの画作りでアプローチすべきだろうという判断があって、試行錯誤を重ねました。『NightCry』の画作りでは、じつは監督がプロデュースされた『キョンシー』(2014年)が大いに参考になっているんですよ。

清水 『NightCry』の参考になるかな……と思って、河野さんに見てもらったんですよ。俳優兼モデルで監督もやりたいという、ジュノ・マックから依頼されて、僕がプロデュースしたんですね。一切笑いのないキョンシー映画なんだけど、ひょっとしたらこの中に出てくるゴーストやクリーチャーが何かしら参考になるかもしれないと思って、試写にお誘いしたんです。

河野 僕は単純に、「シリアスなキョンシーって斬新だな」という思いだけで見に行ったのですが、とてもおもしろくて。試写が終わった後に監督のところにあいさつに行ったら、「河野さんの画作りの参考になるかもしれないからお呼びしたんですよ」って言っていただいて。『NightCry』のことを考えてくださっているんだなあ……としみじみしてしまいました。

清水 とにかく画がきれいな映画で、参考になっていただけるといいなあと。

河野 いやあ、本当に参考になりました! まだ、参考になった部分を出せるほどの余力はないのですが、いま詰め込んでいる最中です。

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――ちなみに、主人公は今回画面写真が公開された女性に?

河野 本作は、主人公キャラクターが複数存在する“群像劇”を目指しているんです。各主人公の思惑が絡み合って、別のキャラクターの行動に影響を与えるという。現時点では資金的な兼ね合いから1本道でやるのが精一杯なところですが、何とかそこも膨らませたいなと。

――『NightCry』は、“追われる女性”といったイメージがあったのですが、女性以外が追われる可能性もあるのですか?

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河野 そうですね……。とはいえ、男の主人公についてはそんなに長いエピソードにはしないつもりです。監督ともお話したことがあるのですが、「おっさんの悲鳴なんか聞いても誰も喜ばない」と(笑)。

清水 そうなんですよ。『呪怨』でもあったのですが、プロデューサーから「おっさんだと、死んでもいいって思っちゃうんだよね」って言われて。僕も「たしかに、それはそうだ」と思いました(笑)。男が見ても女が見ても、おっさんがピンチになっても、「いいよ、死んでも」となってしまう(笑)。

河野 まあ、しょうがないといえばしょうがない。何気にひどいことを言っていますが(笑)。

清水 しかたないですけどね。おっさんの自分でもそう思いますから。だから映画でも“スクリームヒロイン”というのが現れるのであって、見ている方もそのほうが危機感を感じるんだろうなと。

河野 それで僕も、安心しておっさんのエピソードは短くしています(笑)。

――見ている側からしても、女性の妖艶さのほうが、ホラーにマッチするように思いますね。

清水 恐怖感を煽るためには、女性の視点に立って、男性が自分の目の前でやられてしまって「自分の力ではかなわない。相手から逃げなければならない」という心理にもっていきやすいし、直接的な力がない女性のほうが、恐怖感が増すんですよね。

河野 ただ、今回のヒロインに関しては、いままで僕が作った『クロックタワー』シリーズのヒロインとはだいぶ違う、新しいヒロイン像になっています。「この子のシナリオを早く書きたい」と思うことができる、すごくおもしろい設定になっていますので、楽しみにしていただきたいです。

清水 ゲームの世界観に共有参加できるのは、凄く楽しいです。

――kickstarterの出資募集期間の締切まであとわずかとなりましたが、改めての意気込みをお願いします。

河野 今回Kickstarterに出資していただくのは、単なる“出資者”ではなくて、ゲーム開発のための“パートナー”だと思うんです。そんなパートナーの方がたくさん現れてくれれば、私たちもより力強いプロジェクトとして展開していけるので、ぜひパートナーになってください。

清水 皆さんのご意見も伺いたいですものね。

河野 その通りです。出資者には、死にかたのアイデアも出せるという特典もあります。よければ、本当に採用しますよ。

清水 それはいろいろなアイデアが出てきそうですね。僕も中学生や高校生のころは、ホラー映画を見ながらいろいろな死にかたを考えました(笑)。

河野 斬新なアイデアをお待ちしています。

清水 『キン肉マン』の超人募集みたいな(笑)。同じような気持ちを持った方が、たくさん集まってきていただけたらうれしいですね。

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