中国ゲームユーザーのニーズを見極めて、順次展開したい

 既報のとおり、ソニー・コンピュータエンタテインメントが中国でカンファレンスを開催。プレイステーション4とプレイステーション Vitaを中国市場で、2015年1月11日に発売することを明らかにした。ここでは、カンファレンス直後に行われた、スクウェア・エニックス・ホールディングス専務執行役員の橋本真司氏への合同取材の模様をお届けしよう。

スクウェア・エニックス橋本真司氏に聞く PS4版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発を決定した本当の理由とは?_03

――プレイステーションプラットフォームの中国での発売日が決定し、スクウェア・エニックスタイトルが発表されましたが、まずはご感想をお願いします。
橋本 台湾、韓国、香港と順番にアジア展開をしてきたのですが、中国本土に来るまでけっこう時間が経ってしまいました。やっとこの日を迎えることができて幸せですし、これから中国本土の皆さんにソフトをお届けしなければいけない……という責任感があるという状況です。

――中国市場はどのように判断されていますか?
橋本 カンファレンスでは、ユービーアイソフトの方が「2016年にはアメリカを超えて、世界ナンバーワンのゲーム市場になる」というアナリストさんの予測を引用されていました。未来の予測が全部当たるわけではないのでしょうけれど、かなりの市場規模が期待されていますし、人口の多さから言っても、応援し甲斐のある市場だと思っています。世界の皆さんと手をとって、中国の皆さんとうまく、仲よくやっていきたいです。中国は、とにかく人口が圧倒的に多いですよね。ただ、ここからは私たちの責任になるかと思うのですが、いかに中国の皆さんに支持していただけるようなタイトルを作れるかどうか……これはもう、我々次第だと思います。どこにニーズがあるか……そのへんは、各社さんも悩まれるところだと思います。

――中国市場で、スクウェア・エニックスタイトルのどのようなポイントをアピールしていきたいですか?
橋本 同じアジア圏ということで、キャラクターデザインなど、中国の皆さんのニーズとは、ものすごく親和性が高いと思っているんですよ。台北ゲームショウなどに参加しても、皆さんから「もっと早く来てほしかった」とよく言われますし……。正直、ローカライズの壁などもあるのですが、アジアの皆さんに、もっと早くお届けできるようにしていきたいです。

――中国のユーザーさんは、どういうゲームを求めているというイメージですか?
橋本 カンファレンスでお披露目されたタイトルを拝見させていただくと、割りと剣のアクションが多いという印象ですね。ああいうアクションゲームがメインストリームなのかなと思いました。私どもも、もちろん剣のゲームを作ってきましたし、他社さんにはあまりないカテゴリーだと思いますので、そこは我々なりの味を出していけばいいのかな……と。

――スクウェア・エニックスは、PCやスマートフォンなどで、中国の企業とコラボすることで成功を収めていますね。そのへんのビジネスモデルはコンシューマーでも継続する?
橋本 たしかに、『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』も、盛大遊戯(シャンダゲームズ)さんと組んで、MMORPGカテゴリーではうまくやらせていただいています。日本の企業の中では、中国市場でうまくいっているほうだと思います。コンシューマーでのビジネスモデルに関しては、タイトル・バイ・タイトルになるのではないかと。

スクウェア・エニックス橋本真司氏に聞く PS4版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発を決定した本当の理由とは?_01

――カンファレンスでは、『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』が発表されて会場も大いに湧きましたが、中国のゲームファンに、スクウェア・エニックスのタイトルが受け入れられているという手応えを感じていますか?
橋本 以前から、アジアのほかの国も含め、弊社のタイトルをお買い上げいただいて、実際に遊ばれている方もたくさんいらっしゃったんですよ。今回、簡体字版を含めたローカライズが実現したことで、ようやく皆さんがストレスなく遊んでいただける環境が整ったのかなと。

――プレイステーション4版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』も発表されましたね。
橋本 SCEさんの中国でのビジネスプランをお聞きしたところ、プレイステーション4とプレイステーション Vitaなんですよね。ご存じのように、私たちはプレイステーション3版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』をリリースさせていただいたのですが、中国ではプレイステーション3の展開はない。そうすると、私どもの『ファイナルファンタジー』シリーズという大切なコンテンツを、据え置き機でご提供できるのは、いきなり『ファイナルファンタジーXV』になってしまうんですね。『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』もPC版は展開していますが、過去の作品に関して、まったく皆さんにお届けできずに、いきなり『XIV』や『XV』というのも、シリーズのご説明もできないままになってしまう。SCEさんの戦略が決まった段階で、『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』をプレイステーション4で行くということで、急遽いろいろと動きました。

――ということは、プレイステーション4版決定には、中国市場の影響が大きい?
橋本 欧米における、プレイステーション4の急速な普及も挙げられますね。日本の市場では、プレイステーション3はまだまだ堅調ですが、先週もアメリカの売り場をいろいろと回ってみたのですが、急速にプレイステーション4にシフトしているんですよ。そうすると、海外でもプレイステーション3版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』は好調なのですが、ハードの市場がなくなってしまうと、作ったものが遊んでいただけなくなってしまう。そういう意味では、先週“PlayStation Experience”で発表させていただいたファイナルファンタジーVII』もそうなんですね。遊んでいただける環境が変わった以上は、同じバージョンでもそこにご用意をしないといけない。お買い上げいただいた方が遊びたくても“ない”という状況だけは避けたいと思っています。SCEさんのクラウドサービスなどでサポートできるタイトルも多々ありますが、やはりハードにダイレクトに合うように、ディテールを調整したものをご用意するのが、私どもコンテンツを扱う者の立場と思っています。ですので、そこはちゃんとしたバージョンを作っていきたいと考えています。本来であれば、イチから全部揃えるのが筋なのかもしれませんが、開発環境であるとか、いきなり全部を作ることはできませんので、早めにお届けできるものから、順次ラインアップを揃えていきたいです。PlayStation Nowを含めたクラウドビジネスにシフトされることは理解しているのですが、時間的な問題もありますし、最適化を考えると、それなりに我々のほうで企業努力をしていったほうがいいのかな……ということで、順番に展開しているところではあります。

スクウェア・エニックス橋本真司氏に聞く PS4版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の開発を決定した本当の理由とは?_02

――ちなみに、プレイステーション Vita版『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』の中国での発売時期は?
橋本 いまのところ未定です。ただ、今日発表させていただいたということは、すでに(中国政府からの)承認をいただいているということですので、そこは幸せです。世界のたくさんのソフトの中で、早めにご承認いただいたのは非常にありがたいです。

――今回の発表では、プレイステーション Vitaも大々的にフィーチャーされていましたが、橋本さん的には中国市場でプレイステーション4とプレイステーション Vitaのどちらのほうが期待できるとお考えですか?
橋本 じつはアジア圏では、プレイステーション Vitaがものすごく伸びているんですよ。おそらく、欧米よりも市場シェアとして非常に高いんです。その点は、我々としても非常に難しいところではあります。欧米のハード市場と、日本を含めたアジア全体のハードの市場を考えたときに、ひとつのハードがたくさん売れるのがいちばんいいのですが、やはりそこの市場に合わせて我々も動いていかないといけない。ちなみに言うと、プレイステーション Vitaのラインアップは、ちゃんと揃えて行かないといけないと思っています。アジア圏にお客さんはたくさんいますので。

――カンファレンスでは、タイトル発表だけではなくて、ゲームエンジンやクラウドファンディングなど、トータルで中国ビジネスを考えているという印象がありましたが、そのへんはいかがですか?
橋本 SCEさんが着々と準備されてきた、プレイステーションにおけるビジネススキームですよね。いわゆる、私たちのような海外の企業も含めて、「いろいろな企業が、中国市場におけるたくさんのチャンスがありますよ」という、ご提案かなとは思っています。中国では、もともとコンシューマーに関してはやや遅れてのスタートとなります。オンラインのネットワークビジネスが、けっこう先行している中で、あえてコンシューマーに打って出るためには、ビジネスのいろいろなモデルをご用意しているのだなという実感があります。我々は、それをどう使えば有効なのかな、というのは感じました。

――スクウェア・エニックスとしては、今後も中国市場で順次タイトルを投入していく予定ですか?
橋本 はい。ちゃんとご承認いただけるのであれば、随時リリースしていきたいです。ただ、どうしてもローカライズの作業はちゃんとしていかないといけないので、中国市場に向いているソフトをちゃんと考えながら、しっかりとローカライズしていきたいです。

――中国市場に力を入れて、行く行くは中国も含めて世界同時発売という展開もプランに?
橋本 我々も可能な限りそこは目指さないといけないと思います。ただ、他社さんのスポーツゲームやシューターに比べると、RPGってテキスト量が多いんですよ。同じ翻訳と言っても、作業時間がかかってしまう。ユーザーの方からは、「スクウェア・エニックスの作品は、日本語版が出てからアメリカ、ヨーロッパ、アジアへとリリースされるのに時間がかかる」とよく言われますが、ご存じのように、RPGは遊ぼうと思ったら50時間から100時間は遊べるので、それに合わせて言語も全部翻訳しないといけない。それを考えるとものすごい作業量になるんですよ。だから、他社さんに比べるとどうしても、ローカライズ作業に時間がかかってしまうんです。

――それは、RPGの宿命というか……。
橋本 はい。ただ、皆さんの心にそのタイトルが住み着くといいますか、心に刻まれると10年経っても20年経っても、「遊びたい」と言っていただけるのが、RPGのよさかなと。今日、『ファイナルファンタジーX/X-2 HDリマスター』を発表させていただいたときも、大きな歓声をいただきましたし。

――となると、中国で、過去の名作をローカライズするといったプロジェクトも出てくるかもしれない?
橋本 可能性はゼロではないですが、我々もスタッフも含めてリソースに限りがありますので、まずは着手できるところから取り組んでいきます。いまでも、クリエイターがパンク気味ですので……。

――最後に、中国展開にあたっての意気込みをお願いします。
橋本 たいへんお待たせしてしまいましたが、中国の皆さんに簡体字版を届けできることをたいへん幸せに思っています。これから中国本土もそうですが、アジアの皆さんにスクウェア・エニックスのタイトルをお届けしていきたいです。

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