ゼロから市場を作るために見せる“攻めの姿勢”
既報のとおり、ソニー・コンピュータエンタテインメントが中国でカンファレンスを開催。プレイステーション4とプレイステーション Vitaを中国市場で、2015年1月11日に発売することを明らかにした。ここでは、カンファレンス直後に行われた、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア デビュティプレジデント(アジア統括)の織田博之氏への囲み取材の模様をお届けしよう。
――まずは、カンファレンスのご感想からお聞かせください。
織田 我々もそうですが、お客様も“待ちに待った”ということで、満を持して発表していただいてほっとしています、というのが正直なところです。
――内容的には盛りだくさんでしたね。
織田 そうですね。カンファレンスの中でも何回か触れさせていただきましたが、単にプレイステーションのプラットフォームを中国に持ってくるということが目的ではなくて、中国ローカルのデベロッパーさんといっしょにマーケットを作っていきましょうというのを、我々はずっと目標にしておりまして、それで登壇の方も多かったと思うのですが、それが目標として達成できて、今日はよかったです。
――価格については、かなりがんばった感じだと思うのですが、価格設定の理由をお教えください。
織田 そうですね。プレイステーション4は、グローバルで399ドルというものが発表されています。当然中国は付加価値税が高いです。とはいえ、納得してお求めやすい価格から入っていこうと思っていました。我々もそうですし、パートナー様もそうですし、流通さんも含めていろいろと相談させていただいた結果、納得していただける価格をお出ししようと考えました。
――価格が発表されたときは、プレイステーション Vitaもプレイステーション4も、会場から歓声が湧いていましたね。
織田 じつはこちらのWeChatやWeiboとかで、いくらくらいで出るというやりとりがあってですね。たとえばプレイステーション4で言うと、「2999元は楽観的だろう、3499元くらいでは?」という話が出ていましたので、そこで2899元ということで、ちょっと驚かれた方もいらっしゃると思います。
――Xbox Oneと比較してという感じなんですかね?
織田 そうですね。それもあるのかもしれませんが、他社さんに関わらず、私たちができることをしたいなと思っていました。
――ちなみに、ソフトの価格は?
織田 今日はソフトの価格は申し上げていませんよね。2015年1月から順次許可が取れ次第発売をする予定なのですが、基本的にはグローバルスタンダードの価格体系を中国でもアプライしようと思っています。中国だけの特別な価格帯はいまのところ考えていません。
――発売日が2015年1月11日となりましたが、これにはどのような狙いが?
織田 来年は2月19日が中国旧正月の元旦になります。旧正月の直前は日本のボーナス商戦、もしくはそれ以上に消費市場が盛り上がる時期で、ちょうどお客様がお年玉をたくさんいただくということなので、この最大の時期に合わせてローンチをしようと。あまりぎりぎりになると、ほかにお年玉が使われてしまいますので(笑)。これから使おうかな……というぎりぎりのタイミングを見計らって、ギリギリの1月11日で決めさせていただきました。
――あえて数字を揃えたというわけではない?
織田 今回いちばん考慮しているのが、どれだけタイトルを揃えられるか。それからいろいろな許認可を持ってハードウェアの市場を展開しますので、許認可のタイミングとか、市場性とか、すべてのことを考えて判断させていただきました。予約は12月12日0時からスタートしたのですが、12月12日はリテールマーケット的には中国で盛り上がる日らしいです。12月12日にあまり意図はなかったのですが、「いい日です」と言われました。
――今回、幅広い流通さんと提携していますが、その理由は?
織田 初めてビジネスを展開するということで、どの層にリーチするかは、ゼロから考えないといけないと思っています。流通さんには、それぞれ得意な販路があるので、それを活かしていこうと思っています。中国で、ゲーマーさん以外にも広がる道はないのかな……ということも含めて、いろいろなチャネルで相談させていただいて、今回ローンチしております。
――ソフトウェアの流通はどうなるのですか?
織田 私たちが、セカンドパーティーのパブリッシャー的にやっていこうかなと思っています。じつはパブリッシュそのものは、我々はできないんです。100%国内企業じゃないと、パブリッシュできないんです。センサーシップ(政府の審査)を通ってパブリッシュをするところは、ちゃんと国内の出版会社にお願いして、番号をもらったものを、我々が買い取って流通する形になります。これは中国のレギュレーションなので、パブリッシュはしなくて、流通をする形になります。当然海外のタイトルも、我々がお願いしている出版会社に番号をもらって、セカンド的に流通することを考えています。すでに中国で流通しているパートナー様に関しては、そこは我々の流通を使うか、もともとお持ちのものを使うかは、これからのご相談になると思います。
――ローンチ時には何タイトルくらいを予定していますか?
織田 えーとですね、私が知りたいです(笑)。けっこうすでにセンサーシップの審査を通過したタイトルも二桁あるのですが、まだ、どれをどのタイミングで出すかに関しては、当然審査の手順がディスク版とデジタル版で違ってきますので、直前になってから、何タイトルというのは申し上げたいと思っています。それから、Day1から、どのタイトルをどのようにお届けするかということを、続々とニュースを出すことがすごく大事だと思っていますので、これから1ヵ月間かけて、がんばらせてください。
――ソフトのリージョンロックはどうなったのでしょうか?
織田 カンファレンスで添田も説明しておりましたが、上海のフリートレードゾーンで、コンソールの輸入販売製造が市場開放されました。コンソールのハードウェアの販売許認可を持っている局があるんですね。そこに対して我々は、「プレイステーションはグローバルで統一規格の商品をだします」ということで販売認可をいただきまして、先日販売認可をいただきました、というのが今日のスタートです。ということでご理解いただければと。
――それは、水面下で努力がかなりあったのですか?
織田 これは世界中のお客様でもそうだと思うのですが、中国のお客さんは、何かマイナスであることに過敏に反応しますので、とにかく“グローバルスタンダード”というのを、私たちも推したいところなので、まずはそこから切り込んでいこうかなと考えています。これからも努力は必要だと思いますが。
――海賊版対策に関しては?
織田 これまで歴史的な経緯がありましたが、プレイステーション3、プレイステーション4、プレイステーション Vitaに関しては、まだジェイルブレイクされていないんですね。マーケットに海賊版のソフトウェアは存在していないんです。そういった意味では、ソフトメーカーさんにも安心して中国向けにもソフトをお出しいただけると思っています。
――中国に関しては、センサーシップがひとつのポイントになってくるかと思いますが、センサーシップの勘所はつかめてきた感じですか?
織田 非常にクリアーで、カンファレンスでも政府の方がおっしゃっていましたが、「健康的である」ということ。暴力表現やエロティックな表現、あと政治的な問題は出す前にわかりますので、それはセンサーシップに出す前に、どのタイトルを中国に出すかということで、ある程度判断はしています。
――今回公開されたデモでも、かなり配慮が感じられましたね。さすがに『グランド・セフト・オート』とかはきびしい?
織田 率直にいうと、きびしいかと思います。グローバルでいちばん売れているタイトルなので、中国のユーザーさんがどう判断するのか……ということはありますが、国の政策とソフトウェア産業を育てたいというモチベーションに対して、我々はプラットフォームフォルダーとして、どうやっていっしょに成長していくんだという感じなので、いきなり最初から「センサーシップを通してやる」ということでケンカをしても、市場の育成には役に立ちませんので。そこは冷静に大人の対応をしております。とはいえ、中国の方もグローバルのトリプルAタイトルを好まれる傾向がありますね。
――Xbox OneにおけるBesTVのような、映像配信のチャンネルは、プレイステーション4では用意しない感じですか?
織田 いまのところは……。今後は、OTTのようなサービスについては考えられますが、まずはいちからのスタートなので、グローバルでも発信していた「これは最高のゲームマシンです!」というわかりやすいキャッチフレーズで、キャッチーに訴求していきたいです。
――PlayStation Nowであったり、PlayStation Plusのサービスは中国では?
織田 PlayStation Nowは、まだUSでもベータ版の段階ですし、ほかの地域でもサービスを開始していませんので、これはつぎの検討課題として考えています。オンラインのサービスに関しても、じつは少し準備しておりまして、これも1月の発売日の前には、ご説明できると思います。これも規制がありますので、どういうふうにできるかは準備して考えているところです。
――グローバルに接続するわけではなくて、中国のみでの接続になる?
織田 そこも含めて、いろいろと考えています。さきほども申しました通り、グローバルスタンダードのプラットフォームを心掛けていますので。ただし、コンテンツに関しては非常にきびしい審査があるので、両方を両立させるようなオペレーションじゃないと、中国国内ではビジネスできないので、そのへんはいろんな方と相談しながら、いちばんいい形で導入したいなと考えています。
――今回の発表会では、プレイステーション Vitaが大々的にフィーチャーされていましたが、大いに期待している?
織田 じつはですね、中国にも香港や日本に行かれてすでにプレイステーション Vitaを買った方もいらっしゃいます。学生さんは学生寮に住んでいて、プライベートスペースがあまりないので、そういうところでは携帯ゲーム機が根強い需要があることは、我々の市場調査でもわかっていまして、とくに日本のタイトルに関して、ご興味を持っていただいている方も多いようです。これはプレイステーション Vitaをやってみようかな……と思っていたんです。そうしたら、プレイステーション Vita向けに作らせてほしいと、たくさんのデベロッパーさんに手を挙げていただいて、いまのところいい予感を感じています。
――プレイステーション4やプレイステーション Vitaが出るということで、中国の開発者の空気感をお教えください。
織田 非常に期待をしていただくことの現れとして、海外も含めて70社以上のパートナー様がプレイステーションプラットフォームに参入していただけるということで、非常に積極的になっていただけていると思います。そういった意味では、“新しい何かが起きるのではないか?”という期待感がたしかにありますと。一方で、PCオンラインゲームで世界最高のマーケットを持っていますから、いま調子がよくて、「ちょっとうまくいくかどうか様子を見させてください」という中国国内のデベロッパーさん、パブリッシャーさんはいらっしゃいます。総じて空気感でいうと、非常にポジティブです。
――プレイステーションに対してポジティブ?
織田 新しいマーケットが広がるというときの興奮をですね、我々だけでなはなくて、中国国内のデベロッパーさん、パブリッシャーさんが感じていただいているのではないかなと。
――待ちに待った!という感じがある?
織田 ありますね。待ちに待っていたというのと、お手並み拝見と(笑)。両方混在しています。
――プレイステーション4は9月の段階で1350万台が普及しているのですが、来年1月に中国市場が追加されるわけですが、今期中の目標はどれくらいに?
織田 そうですね……。これは50万でも100万でも申し上げたいのですが、まず中国のコンソール市場は今日から作らないといけないので。どれくらいのお客様がコンソールゲームを買ってくださるか、どれくらいのタイトルを準備できるか。デベロッパーさんもそうですし、政府もそうですし、当地のメディアさんもそうですし、どれくらいポジティブにコンソールビジネスを捉えてくださるかで、ずいぶんと環境は変わってくると思います。1台でも多く売りたいというのが私の気持ちなのですが、単にプラットフォームを持ってきて売って……ということではなくて、いっしょに産業を育てましょう!というところなので、まずはすごく小さいケーキを大きくして、ケーキを大きくなってから切り取りましょうと。小さいケーキを切って食べてもお腹はいっぱいにならないので。へんなたとえですが、ケーキを大きくする活動を、いまから少し時間をかけてやっていきたいなと思っています。
――発売に向けて、中国国内でどのようなプロモーションを?
織田 今日、上海のソニーストアでタッチ&トライのコーナーを開設したのですが、体験コーナーをたくさん作っていくというのが、活動としてあるのかと。あとは、1月11日の発売日には、上海に来て、中国特別版の龍のデザインのコンソールをお客様に手渡ししたいですね。
――龍のデザインのコンソールは、数はどれくらい作るのですか?
織田 限定版なので、数は申し上げないようにしています。こちらのデザイナーの方に作っていただいたので、日本の方が考えるよりも、ちょっと怖めのデザインになっていますが、こちらの人に言わせると「これがいいんだ」ということで、そこはお任せしました。中国限定なので、グローバルでは売りません!
――最後に、今後の抱負をお願いします。
織田 本当にお待たせしました! 非常に中国市場を期待しています。期待していると同時に、時間がかかったり、乗り越えなければいけないハードルもあることもわかっていますので、着実に数多くのゲーマーの皆さんに、プレイステーションのサービスをお届けしたいです。これからがんばりたいです!
プレイステーションプラットフォームの普及に向けて、まさに織田氏の本気ぶりが伝わる囲み取材となった。さらに、“グローバルスタンダード”との認識のもとに、中国国内でのソフトのリージョンを設けないなど、中国市場における家庭用ゲーム機の普及に向けて、ユーザーの利便性を考えて、確固とした努力を続けている点などは、中国のゲームユーザーにも評価されるのではないだろうか。難しいと言われる中国市場で、プレイステーションプラットフォームがどのような成果を見せるのか、大いに注目したいところだ。