札幌のクリエイターにCEDECを知ってほしい

 2014年11月21日(金)、22日(土)の両日、TKP 札幌カンファレンスセンターにて、SAPPORO CEDEC 2014が開催される。ゲーム開発者向けのカンファレンスとして、日本最大の規模を誇るCEDEC。さらなる存在感を高めるための施策として、地方展開はここ数年の課題だったわけだが、今回開催されるSAPPORO CEDEC 2014は、その目標に向けての第1歩を記すものと言える。

 いよいよSAPPORO CEDEC 2014の開催が間近に迫った11月上旬、ファミ通.comでは、実行委員会 委員長の中村心氏(ゲームドゥ 代表取締役)と、運営委員の徳留和人氏(スマイルブーム 取締役)に取材する機会を得た。改めて聞く、SAPPORO CEDEC 2014を開催する目的とは?

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SAPPORO CEDEC 2014が開催間近 Project Morpheusの出展や遠藤雅伸氏の基調講演など、見どころもいっぱい_01
SAPPORO CEDEC 2014が開催間近 Project Morpheusの出展や遠藤雅伸氏の基調講演など、見どころもいっぱい_02
▲SAPPORO CEDEC実行委員会 委員長の中村心氏(左)と運営委員の徳留和人氏(右)。中村氏はテレビ会議での参加となった。

――今年の頭に“CEDEC メディアパートナー意見交換会”で、“地方開催”という目標を伺っていたのですが(⇒関連記事はこちら)、こんなに早く実現されるとは思いませんでした。

徳留 数年前から「地方で開催したい」というプランはあったんですね。それに合わせて、札幌を始めとするいくつかの地方都市が動き始めていたのですが、実際に日程や会場を決めたり……という動きがいちばん早かったのが、札幌だったんです。それもこれも、中村さんが先頭を切ってくれたおかげです。中村さんに実行委員長に就任してもらってからは、加速度的に物事が決まっていきました。「中村さんが立つのならば、協力するよ!」という方も多かったですね。

――札幌のゲーム産業が中村さんの元で一致団結したのですね。

中村 とんでもないです! 札幌のゲームメーカーも数多くありまして、数年前から「皆さんと協力して、業界を盛り上げていきたいですね」という話は、ちょくちょくしていたんです。その一環として、札幌に本社を構えるゲーム会社さんを集めたホームページ運営を企画したり……といったこともしました。結局、時間がとれず企画倒れになってしまいましたが(苦笑)。そんな中、スマイルブームさんがCEDEC委員会に入られて、「地方のCEDECも検討しています」というお話をうかがったんですね。だったら、「札幌でCEDECを開催したい!」ということで、具体的に動き始めることにしたんです。

徳留 中村さんは、古くから札幌在住のクリエイターが参加できるメーリングリストを作成して、コミュニティーの活性化に尽力してきたんですね。定期的に飲み会を開いて、「情報交換をしましょう」と音頭をとってくれているのも中村さんです。札幌内部での“人材交流”という点において、極めて意識が高かったんです。

中村 福岡のGFFさんなどを初期のころから見させていただいて、憧れといいますか、「札幌では、GFFのようなことができないのかな」という思いは強くありました。

徳留 福岡にはGFFがあり、大阪にはGIP Westがありと、かなり強力なコミュニティーが存在するので、「むしろ、札幌はないの?」とはよく聞かれますね。

中村 飲み会はありますけど……みたいな(笑)。

徳留 ある意味では、そういうフットワークの軽さが地方開催第1弾に結びついたという一面はあるかもしれません。とはいえ、第1回目は名誉なことで、とてもうれしいのですが、1回目なのであまり時間がない中で準備をして、ドタバタしていて抜けている部分も多いので、次回以降の地方開催では、もう少しブラッシュアップできるのではないか……と。ではないかな……と。

――地方が一致協力することで、地方開催のCEDECもより洗練されていくということですね?

徳留 そうですね。政府の政策ではないですが、実際に仕事を受けて制作している実態は地方にあったりする場合が往々にしてありますので、その地方力というかそれらが結集してくると、より切磋琢磨してより良い会が開催されていくと思います。

――具体的に話が進み始めたのはいつくらいだったのですか?

中村 今年の春先ですね。3月~4月にかけてです。

――それで11月開催とは、また急ピッチで進みましたね!

徳留 そうなんですよ。じつのところ、SAPPORO CEDECの準備と前後して、中村さんが本体のCEDEC 2014の講演者の公募にエントリーされていたんですね。で、もし公募でセッションが受かったら、「講演の最後に札幌でCEDECを開催することを発表しよう」というのを、目標にしていたんですね。

中村 どちらかというと、SAPPORO CEDECよりも、CEDEC 2014のセッションの準備のほうがたいへんだったかもしれません(笑)。SAPPORO CEDECは、徳留さんを始めとする優秀な運営チームの皆さんが、テキパキとこなしてくれました。

徳留 講演者に関しても、春先くらいから「札幌でCEDECやります!」と告知をしたら、皆さんふたつ返事で引き受けてくださいましたね。いちばんたいへんなのは、会場探しでしたね。予約がいっぱいだったり、いろいろな制約があったり……と、確定するまでに3~4ヵ月かかりましたね。9月のCEDECの中村さんのセッションで予定している発表までに決めないといけない、ということで最後のほうは相当ドキドキしました。

――そういえば、今回は参加費も相当リーズナブルな設定になっていますよね。

徳留 まずは、第1回目だからですね。もちろん最初から高く設定することも可能だったのですが、とりあえず値段を安く設定することで、若い人に多く参加してもらって、「CEDECがどういうものなのか?」というのを、知って欲しかったんです。学生さんでも払えるような設定にしています。

――さすがに、札幌のクリエイターさんは、いままでそんなにCEDECに参加した経験はない?

中村 そうですね。なかなか参加する機会はないんじゃないかな……と。

徳留 そういった意味では、札幌のほとんどのクリエイターにとっては、今回がいちばん最初のCEDECになる可能性が高いですね。

――講演者をお願いするにあたっての方向性みたいなものはあったのですか?

徳留 とくに意識はしていなかったのですが、一部の講演には少し縛りをかけています。SAPPORO CEDECでは、ツール&ミドルウェアのスポンサーセッションがあるのですが、各社の製品を使用されているメーカーさんにも登壇してもらうようにしているんです。ツール&ミドルウェアのメーカーさんの講演は、どうしても自社製品のアピール的な色合いが濃くなります。それはそれでいいのですが、何となく事例的ではないんです。“提供者”の講演であって、“使用者の意見ではない。だったら、利用者の声を入れましょうということで、今回のツール&ミドルウェアのスポンサーセッションでは、各社さんすべて、自分のところのツールを使っているメーカーさんとの講演という形になります。

中村 そのへんは、GTMF(Game Tools & Middleware Forum)に設立当初から参画している、徳留さんらしいこだわりと言えるかもしれません(笑)。

徳留 あと、講演にあたっては、“札幌で話してほしいこと”ということでお願いしています。要は、首都圏でやっているCEDECの内容をそのまま持ってきても合わないので、“札幌のクリエイターに向けて特化した内容にしてもらいたいな……と。

――では、今回のSAPPORO CEDECの見どころを……。

徳留 たくさんあります。が、まずは、先日発表させてもらったのですが(⇒関連記事はこちら)、Project Morpheusの北海道初上陸ですね。ソニー・コンピューターエンタテインメントさんのご厚意により、今回SAPPORO CEDECで体験できることになりました。今年話題のVRを、札幌のクリエイターさんにも触っていただける絶好の機会になると思っています。

中村 先ほどのお話にもあったのですが、札幌のクリエイターは中々最先端のテクノロジーに触れる機会がないんですね。そういった中で、貴重な試遊の機会があるのは、プログラマーやデザイナーの勉強になるのではないかと、期待しています。

徳留 あとは基調講演です。今回は変則的に、基調講演は開催2日目の11月22日(土)最後のコマになるのですが、東京工芸大学芸術学部教授 遠藤雅伸さんにお願いしています。

中村 遠藤さんと言えば、“ゲームの神様”として、知名度も抜群で、札幌のクリエイターも大いに刺激を受けると思います。

徳留 遠藤さんにお願いした経緯としては、これは札幌のゲームクリエイターだけに留まらないと思うのですが、「人を楽しませるものを作っている」という感覚が薄くなっているような感覚が昨今の作り手にはあるので、遠藤さんの口から、「僕たちが提供していくものは、人を喜ばせるものだ」というのを、熱く語っていただきたいです。クリエイターの皆さんに、「もう一度原点に立ち戻ってもらいたい」という、かなりメッセージ性の強い講演になるのではないかと。

――それは、札幌のクリエイターにとっても、大いに楽しみですね。

中村 はい。札幌で、これだけゲームの技術的な内容に特化したセッションが行われるのは初めてだと思います。ぜひとも札幌中のクリエイターさんに参加してもらって、ゲーム業界の第一線で活躍している方々の考えかたを吸収していただければと思います。札幌のゲームクリエイターは、なかなか外に出ていきづらい状況にあるので、可能ならばびっしり2日間聴講していただきたいです。地方開催“第1回目”ということもあり、実験的な取り組みもしているのですが、2回目、3回目……と、さらなる地方開催につなげていけられるようにがんばります。

徳留 私は、SAPPORO CEDECを聴講して、将来的にはCEDEC本体で講演してみたいというクリエイターが現れてくれることを期待しています。札幌のクリエイターにも、どんどんCEDECに公募してほしい。「ああ、こういう話をすればCEDECで話せるんだ」というきっかけになってくれたら、うれしいですね。