中国のクリエイターを対象とした“Xbox One Day”が開催

 2014年7月31日(木)~8月3日(日)、中国・上海にある上海新国際博覧中心にて、中国最大規模のゲームイベントChinaJoy 2014が開催。国家機関にあたる中国新聞出版総署などが主催するChinaJoyでは、イベントと併催される形で、いくつかの開発者向けのセッションが催されている。スクウェア・エニックスの吉田直樹氏や、ヨコオタロウ氏の講演が行われたチャイナ・ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(CGDC)はそのひとつ(⇒吉田氏の講演の模様はこちら⇒ヨコオ氏の講演の模様はこちら)。そのほかにも、モバイル系のセッションを集めたWorld Mobile Game Conferenceや海外向けタイトルの開発などをテーマとしたOverseas Development & Cooperation Forumなどが開催。とにかく、開発力の底上げを果たしていこうという姿勢が見て取れる。

 8月2日(土)に行われた“Xbox One Day”もそのひとつ。こちらのセッションでは、朝から晩までXbox One関連の講演を用意。中国で9月23日に発売されるXbox Oneの詳細を、開発者にみっちりとレクチャーする内容となっている。午後に行われた講演、家庭用ゲーム機でMMOゲームを作るにあたっての課題などを明らかにするというもの。マイクロソフトと合弁会社を設立し、オンライン周りの事業を担当するBesTV提供による講演だけに、中国市場におけるXbox Oneのオンラインゲームに注力する姿勢をうかがわせるものとなった。

 まずセッションに登壇したのは、中国内で高い開発力を持つことで知られるパーフェクトワールドのグオ・イーチェン氏。イーチェン氏は“Fulfilling Player’s Needs for Console MMORPG Games(家庭用ゲーム機のMMORPGでプレイヤーのニーズを満たすには)”とのタイトルで講演を行い、PCゲームと家庭用ゲーム機を比較することで、家庭用ゲーム機の特徴をあぶりだした。イーチェン氏が指摘する、家庭用ゲーム機とPCユーザーのおもな違いは5つ

■収入
【家庭用ゲームの機ユーザー】高い
【PCゲームユーザー】低い
 ゲームクオリティーに求める要求が変わってくる。消費のレベルが違う。収入が高い人のほうがプレイ時間が少ないし、なかなかゲームにハマってくれない。ゲームを買ってつまらなかったらつぎに移ってしまうというのが家庭用ゲーム機のユーザーによく見られる動向だという。

■ゲーム素養
【家庭用ゲーム機のユーザー】高い
【PCゲームユーザー】少ない
 ユーザーがゲームに求めるクオリティーは、家庭用ゲーム機のユーザーが“ゲームに対するコントロール感”や“視覚インパクト”、“没入感”、“ゲームバランス”の4つを大切にするのに対し、PCゲームのユーザーが重視するのがゲーム内での存在感。PCゲームユーザーの場合は、課金などもPCゲーム内での己の地位を高めるものが多い。“コントロール感”や“視覚インパクト”はFPSを考えるとわかりやすい。銃の構えかたがゲームによってぜんぜん違い、打っているときの手応えが変わってくる。そこがコンシューマーゲームはゲームによって差が出てくるのに対して、PCゲームは“撃てればいい”という判断になる。そこで求められるクオリティーに違いが出てくる。

■プレイ環境
【家庭用ゲーム機のユーザー】リビングでのプレイを想定
【PCゲームユーザー】プライベートな空間を想定
 リビングでプレイするので、遊ぶ時間が絞られる。さらに、リビングで遊ぶとプレイの内容が家族に見られてしまうので、あまり過激な内容にできない。一方PCゲームは、プライベートな空間なので、比較的見られることが少ない。リビングでのゲームは短い時間でプレイヤーを魅了するストーリーを作らないといけないのに対して、プライベートな空間でプレイするゲームは、比較的簡単な内容でありつつも、プライベートな空間でほかの人とのやりとりを楽しむゲームが主流となる。

■コミュニケーション
【家庭用ゲーム機のユーザー】ホットコミュニケーション
【PCゲームユーザー】クールコミュニケーション
 自分たちが知っている人とのコミュニケーションが、ホットコミュニケーション。家庭用ゲーム機ユーザーは、知り合いのあいだのみでやり取りが行われることが多い。ある意味で排他的とも言える。一方のクールコミュニケーションは、SNSや知らない人と交流すること。

■課金
【家庭用ゲーム機のユーザー】ペイ・トゥ・プレイ(プレイするために課金をする)
【PCゲームユーザー】ペイ・トゥ・ウイン(勝つために課金をする)
 家庭用ゲーム機では、ダウンロードコンテンツはよく見られる。ただし、課金で強くなる要素を入れてしまうと、ゲームバランスを重要視しているために成り立たない。アイテムのコレクションやアイテムのやり取りは、“ペイ・トゥ・ウイン”の範疇となる。

ID@Xboxが可能性を開くか? 中国のインディーゲーム事情をクリエイターに直撃【ChinaJoy 2014】_03
ID@Xboxが可能性を開くか? 中国のインディーゲーム事情をクリエイターに直撃【ChinaJoy 2014】_04
ID@Xboxが可能性を開くか? 中国のインディーゲーム事情をクリエイターに直撃【ChinaJoy 2014】_05

 それに引き続き行われた“Making MMO Games for Consoles(家庭用ゲーム機でMMOゲームを作る)”では、BesTVの担当者を司会役に、先述のパーフェクトワールドのグオ・イーチェン氏やジャイアントやテンセントなど、中国の人気ゲームメーカーの担当者が登壇し、家庭用ゲーム機におけるMMOの作りかたを語った。BesTVのギルバート・チェン氏からは「今後、いろいろな企業と協力関係を築いて、Xbox Oneの中国展開に尽くしたい。すでに前例があることからもわかるとおり、この道は順調にはいかないかもしれないが、協力したい」とのコメントが聞かれた。

 ご存じの通り、中国はオンラインゲーム大国。家庭用ゲーム機開発の経験はないが、PCゲームで培ったノウハウを駆使すれば、あるいは、Xbox Oneでも有効なゲームを開発し得るのではないかと思われた。

中国市場におけるインディーゲームへの取り組みはこれから

 引き続き行われたのが、ID@Xbox関連のセッションで、中国でID@Xboxに参入するデベロッパー5人がインディーゲームの可能性についてディスカッションした。「なぜインディーゲームをやろうと思ったのか?」というきっかけを、ほとんどのクリエイターが「ゲーム開発に対する熱意と愛」と答えるなど、クリエイターの情熱はどの国でも変わらないのだなあと思わせたディスカッション。ウェスキー・バオ氏は「私は15歳のときからゲーム開発をしていたので、仕事はゲーム開発しかありえなかった」と発言。ループ・チェン氏は、フランスで放浪をするなどしていたが、娘が生まれるときに「この仕事でいいのか!?」と疑問に思い、大好きなゲーム開発に身を投じることにしたのだという。

ID@Xboxが可能性を開くか? 中国のインディーゲーム事情をクリエイターに直撃【ChinaJoy 2014】_06

 また、「インディーゲームメーカーはどうなのか?」との質問に対しては、チェン氏が「中国のインディーゲームメーカーはつねに命がけです。欧米の国は福利厚生がしっかりしているので、企業が失敗しても生きていける。でも、中国で独立企業を作るということは、イコール人生すべてを賭けないといけないということ。中国でインディーゲームメーカーを立ち上げるのは、イコール命がけです」と発言。一方、ソウルフレーム氏は「インディーと大手の差は思ったよりも大きくないと思っています。欧米では『マインクラフト』、日本では『東方プロジェクト』が大手を凌ぐほどの人気を獲得しています。それに、いま成功している大手企業も最初は何かしたらインディーズスピリッツがあったはずですし」とのこと。さらに、バオ氏からは「大手があるからインディーゲームがある。私たちは、ある種の革命者なのではないか?」と語った。

 さらに、「これからクオリティーを上げていくにあたって必要なことは?」との問いかけには、ウェイ・ホワン氏が「私たちはミスをくり返していいのではないか?そのうえで成功をすることが重要」、中国でID@Xboxのプロジェクトを展開するクリス・チャラーラ氏は「ミスを恐れないこと」とそれぞれ発言していた。一方で、「お金」と答えるクリエイターもおり、資金ぐりのたいへんさをうかがわせる一面も。さらには、ソウルフレーム氏からは「クオリティーを追求していくうえでは、市場の教育も必要です。いまは市場が幼いので、底上げをしていく必要がある。その底上げのさきに、クオリティーの追求があるのではないか?」とした。iPhoneが普及したことで、いままでモバイル向けには大雑把なゲームしかなかったのが、iTunesを通じて海外からハイクオリティーのゲームがたくさん入ってきた。「いま、目覚めつつあるが、まだ幼い。中国ユーザーは、海外のクオリティーの高いゲームを見ているので、中国の雑なゲームには満足できない。そんなユーザーを満足させるべく、クオリティーの高いものを追求していきたい」と決意を口にした。

 質疑応答では、「大手とどうやって戦うのか?」といった質問も飛び出した。それに対しては、ループ・チェン氏が「“戦う”という言葉は当てはまらない。フェアにやるだけ」と発言すれば、ソウルフレーム氏も「僕たちはすでにゲームを出しています。戦う、戦わない以前にすでに勝っている気分です」とコメント。一方のウェイ・ホワン氏からは「大切なのはインディーゲームの市場を作っていくこと。戦う戦わないは大事なことじゃない」といった意見が聞かれた。

 さらに質疑応答では、「今後インディーゲームメーカーのイベントや団体を立ち上げる予定はあるのか?」との質問も。ウェイ・ホワン氏は「それはいまもっとも関心のあることだし、組合やイベントは作っていきたいです」と興味深い発言をした。

 ディスカッションを聞く限りでは、中国市場におけるインディーゲームは、まだまだこれから……といった印象。セッションのあとで、登壇者のひとりであるソウルフレーム氏に直撃取材を敢行してみた。

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▲ソウルフレーム氏。

 お話によると、ソウルフレームさんは、大学時代に友人とゲーム開発を始めて、そのまま起業した模様。最初の作品は、PC向けに無料でゲームを配信して。2、3作目はとあるメーカーからパッケージソフトという形でリリースしたらしい。ただし、それも商業ベースというよりも、「人間的な付き合いによって」出したものらしい。「海外と中国とでは、インディーゲームに対する捉えかたが違います。たとえ、ビジネス的な流通をしていても、インディーゲームはインディーゲームです」とソウルフレーム氏。中国におけるインディーゲームの開発者の数をきいてみたところ、「インディーゲームの基準が難しいので、統計的なものは存在しないが、僕は把握している限りでは、20~30くらいです」とのこと。これまで、「市場的な価値を見出してもらえずに、たいへんだった」という中国市場におけるインディーゲーム。Xbox Oneの発売によるID@Xboxでの展開は大歓迎のようで、「インディーゲームメーカーは、お腹が満たされることのない状態で開発に取り組むなど、苦労した時期もありました。今回マイクロソフトさんがID@Xboxにより、大きな門戸を開いてくれたのはうれしいです。今後、作り手たちの収入が上がるのはもちろん、中国におけるインディーゲームのクオリティーもどんどん上がっていくのではないでしょうか」とソウルフレーム氏。最後に、「今後、中国でインディーゲームはひろがっていきますか?」と質問したところ、「発展はしていくと思います。とはいえ、その発展のしかたは僕たちの想像するようなものではないかもしれません。大企業が部門を設けて実験的にインディーゲームをリリースする可能性もあるし、大手から独立してインディーゲームを出す流れも出てくるかもしれません。ただし、急激に発展することはないでしょうね」と、慎重な見かたを示した。ID@Xboxにより、ある程度発表の場が広がるにしても、中国におけるインディーゲームの取り組みは、一筋縄ではいかない……といったところだろうか。とはいえ、ID@Xboxは、中国のクリエイターに門戸を開くという意味で、非常に有意義な取り組みと言えるだろう。

 なお、ソウルフレーム氏が代表を務めるS-GamesによるID@Xbox対応タイトル『MIRAGE』は、2D横スクロールアクション。中国独自の武将の文化とスティームパンクの世界観を融合し、水墨画をビジュアルのモチーフにしているのだとか。『デビルメイクライ』や『NINJA GAIDEN(ニンジャガイデン)』、『ベヨネッタ』などの日本のアクションゲームの影響を受けており、それらの作品をいかに2Dで表現するかに注力したらしい。リリース時期を聞いたところ、「政府の審査を経ないといけないので、何とも言えません。ただ、日本でもリリースしたいです」(ソウルフレーム氏)とのこと。いろいろな制約はあるのかもしれないが、中国にインディーゲームが根付くことを期待したい。

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▲ChinaJoy会場で出展されていた『MIRAGE』。日本でもぜひとも遊んでみたい。
ID@Xboxが可能性を開くか? 中国のインディーゲーム事情をクリエイターに直撃【ChinaJoy 2014】_01
▲こちらは、ループ・チェン氏のONIPUNKSが手掛ける『C-WARS』。16ビットに情熱のすべてを傾けたとのこと。会場では、チェン氏みずからが来場者に熱心に説明している姿が印象的だった。

(取材・文 編集部/F)