4月11日から13日にかけて、アメリカのボストンで行われたゲームイベントPAX East。筋金入りのゲームファンが全米から集まるということもあって、今年も多くの最新作が出展されたほか、シヴィライゼーションシリーズの最新作が発表されたり、大ホールを埋め尽くした講演の出席者に発表したばかりのソフトのダウンロードコードが全員配布されたり、話題を呼んだ。

 しかしPAXの魅力は大手パブリッシャーの大作だけではなく、一日中テーブルトークRPGやボードゲームに興じる人すらも多い中で、それはむしろ一部に過ぎない。
 中でも現地のビデオゲームファンにとってアツいのが、インディーゲームが集まったエリア“INDIE MEGABOOTH”だ。KickStarterなどのクラウドファンディングが広まっている昨今、ここに来れば自分が支援したクリエイターに直接会うこともできるし、何より最新のインディーゲームを実際にしこたまプレイできる。

 今年のPAX Eastでは、そのINDIE MEGABOOTHに日本国内外のインディーゲームを配信するPlayismがブースを出展し、『ケロブラスター』、『La-Mulana 2』、『アスタブリード』の3タイトルがプレイアブルで展示され、各タイトルのクリエイターも日本から参戦。インディーゲームが大きなブームとなっている本場の、その勢いを凝縮したかのような場でいったい何を見たのか?
 最終日の夜、開発室Pixelの天谷大輔氏(『ケロブラスター』)、NIGOROの楢村匠氏(『La-Mulana 2』)、えーでるわいすのなる氏(『アスタブリード』)に話を聞いた。

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▲というわけでインタビューに登場して頂いたお三方。左から『ケロブラスター』の天谷大輔氏(開発室Pixel)、『アスタブリード』のえーでるわいすのなる氏、『La-Mulana 2』のNIGORO楢村匠氏。

日本のコアゲーマーとアメリカのコアゲーマー、同じところと違うところ

――まずは3日間PAX(※1)に出てみて、いかがでしたか?
天谷 ブースでは展示しているゲームの世話をしながら、その後ろでゲームの制作を続けていたのですが、(作った本人である)僕らが椅子に座っていろいろやっている目の前で、それを気にせずプレイヤーが来て次々とゲームしてくれる。僕自身が日本の東京ゲームショウ(TGS)とかコミケとかをそんなに見たことがないから比較はできないんだけど、とにかく「ゲームというジャンルに絞ってるのにこれだけの人が一杯動きまわってるんだな」というのを感じましたね。コミケとかに出ているなるさんはどうですか?
なる 僕はそれこそ比較して、同じところと違うところが両方すごいあったなと思っていて。まずは規模かな。TGSの方がもしかしたら大きいぐらい?

――人数ベースで言うとそうですね。
なる それで、こっちはなんでもサイズが大きいじゃないですか。なのに、イベントそのものは日本にもっと大きいものがある。そこは改めて驚いた部分があります。
 一番違うのはユーザーの質。イベントで言えばTGSとか……ビットサミットはまだ小さいので、あとはコミケとかですかね、そこと比較した時に、来ているユーザーの内容が割とコアで、そのコアなユーザーがこれだけの数集まるというのは日本にはないかもしれないですね。
天谷 コミケってゲームってより漫画って感じがしますよね。
なる そうですね。純粋にゲームのイベントとして見たら、コミケよりもビットサミットの方が(近い)。純度が高いので、ユーザーの質は近いです、多分。

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▲何ヶ月も前からチケット争奪戦を制し、ホテル取って、飛行機に乗ったりして、重度のゲームマニア(『Fallout3』のVault 101パーカーを着ている奴がこの写真だけで何人いるか数えてみてほしい)がこの数集まるという異常事態、それがPAX。

楢村 僕は去年GDC(※2)に行って、それなりにアメリカ感みたいなのは体感して、「あぁ違うんだ」と感動したんですけども、GDCはゲーム開発者が集まっているバカ騒ぎ。それで今回のPAXは、ゲーム関係者とゲーム好きが集まってバカ騒ぎしているっていう。そういう違いを感じましたね。というか、PAXの場合は運営までバカ騒ぎしてる。
天谷 あー、確かに。大声出して「うぉー」ってやってるもんね。時々どこかから怒号みたいな歓声が聞こえてきて、この盛り上がりなんなんだろうって思った。コミケの会場が開いた時に「うぉー」って声は上がるらしいって、なるさんに聞いたんだけど。
なる 待機列の最前列はそうですね。
楢村 やる気がみなぎってるんだ。
なる みなぎってるし、運営の方も一体感がやっぱりある。最前列は同じノリです(笑)。
楢村 PAXも待機列がすごい長いんですよね。そしたらあっちこっちでビーチボールが飛び交ってるんですよ。「あれなんだ」って聞いたら運営が「待ってる間も楽しんでくれ」って渡してるらしいんですよね。ウェーブを起こしたりして煽ってるのも運営側で。
 さらに開場の直前になると、ウチらのブースの近くでスタッフが集まってミーティングしてるんですよ。「お前やってみろ!」、「いらっしゃいませ!」、「よく出来た!」みたいなことを(笑)。それ見て「あぁこの人達、遊んでるなぁ」と。
天谷 ちょっと体育会系のノリもあるんだよね。

――2階でやってた講演の待機列でも、列が長いとスタッフが「ゲームやるから4人来て~」とか言い出して、みんなの前でだるまさんがころんだのゾンビ版をやったりしてましたね。結局、参加した人全員にゲーミングキーボードをプレゼント。
楢村 日本のイベントだと待機列ってもっと殺伐としてません? その、順番飛ばそうものなら……。
――ああ、こっちは多分友達でもなんでもない人に「調子はどう?」とか言いながらしれっと入ってきますし、割り込まれた側も割と平気で順番飛ばされてますね。
楢村 あれはもう、お国柄としか言えないですね。

――列の話だと、初日はメディア専用の待機列が別にあったんですけど、1時間早くメディア入場が始まった時にメディアも「うぉ~」とか言ってましたね。
楢村 もう働きに来てるテンションじゃない(笑)。そういうのが渾然一体となって為す変な盛り上がりは、ここに来ないと体感できないものではありましたね。

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▲両手を挙げてフィーバーしている人がいますが、この人メディア。

※1 PAX 今回のお題でもある有料ゲームイベント。元々はウェブコミック“Penny Arcade”のファンイベントとして2004年にスタートした。西海岸のワシントン州で行われるPAXがオリジナルで、現在はPAX Primeと呼ばれる。PAX Eastは東海岸で行われるスピンオフ。いずれも年々来場者を増やしており、今年秋にはオーストラリア版PAX Australiaが、来年1月にはテキサス州でPAX Southが行われる。TGSやE3と同じような大規模なフロアーでの展示以外に、各種講演やパネルディスカッション、ライブなどもあり、一般参加が可能。
※2 GDC サンフランシスコで行われるゲーム開発者向けのカンファレンス“ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス”のこと。最新技術や開発秘話をお目当てにメディアが集まるということもあって、近年は新作ゲームの発表の機会としても使われる。スピンオフとしてヨーロッパのGDC Europe、新規性の高い分野を集めたGDC Next、中国開催のGDC Chinaなどがある。

ゲームを楽しむ感覚に国は関係ない

――出展者として、遊んでる人に日米で違いはありましたか?
楢村 僕は「ゲームを遊んで面白いという感覚は国に関係ない」という持論があったんですが、現地で体感したわけではなかったんです。それで今回見ていてやっぱり、悔しがるところは悔しがるし、トラップにハマると笑う人もいるし、楽しんでくれるさまは一緒でしたね。
 ただ、こっちの人の方が「なぜそんなくだらないことまで楽しんでくれるんだい?」ってぐらい(のノリの良さがある)。グッズで置いてたバッジをひとつひとつ見て「Awesome!!(スゲー)」とか「Hoooo!!」とか言ってて、「どうしたんだろう」ってぐらい(笑)。
天谷 展示していた『ケロブラスター』(※3)は、イベント用の特別なものではなく、ごく短い時間でその魅力を伝える形にはなってなかったので、会場でこれをどう盛り上げるか、PAXの前に考える余地が大いにあったと思っています。隣のブースとか、すごい盛り上がってるゲームがあったんですよ。リズムに合わせてプレイするやつ(※4)。だけどそう言うゲームを作りたいわけじゃないしな、まぁ自分は自分でやれることをやろう、と。
楢村 2日目からもう、ブースで開発してたもんね。
天谷 そんな人いないのかもしれないけど……。
楢村 いないよ(笑)。
天谷 公式に「5月11日に発売します」と言ったはいいけど、まだ制作途中だし次から次へとバグも出てる状態だった。日本に帰ったらすぐにAppleに提出しなきゃいけないし、明日もう一日ボストンにいるんですけど、部屋にこもって曲を作るんじゃないかな……。その中でも握手を求められたりとか、反応を直接見られたのはうれしいですね。ただやっぱり、遊んでくれるのはものすごくたくさん人が通る中の一部で、よそのぞろぞろ列を作っているゲームを見たりすると、不安にはなる部分もあって。でも今それを考えても仕方がないかとか。

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▲『ケロブラスター』をプレイする人を眺めるカエル(実は天谷氏)。

天谷 それと、ゲームの数が多いのはいいですね。ドット絵のゲームもまだたくさんあって、3Dのゲームも本当に個人でもクオリティが高いのがぞろぞろ出ていて。でもよそのゲーム全然できなかったのがなぁ。
楢村 それはビットサミットも一緒だからね。
天谷 次から次へとプレイしに来ているのを見ていると席離れられないから。後ろで「ちゃんと出来てるのかなぁ?」って見て。時々ゲーム自体が止まっちゃってたりもするので。
なる 天谷さんお目当てでやって来るお客さん多かったから。ゲームじゃなくて個人に来てるから離れられない。
天谷 多かったのかな? 誰もいない時間があって、その時に「やっと飯食いに行けるかな?」って思ったりもしたんだけど。
楢村 多かったよ。そもそも3つとも空く時間ほとんどないぐらいには人来てたしね。

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※3 ケロブラスター 開発室Pixelの最新作。キャット&フロッグ社に務めるサラリーマンのカエルがお仕事を頑張るアクションシューティング。インタビュー時点では開発中だが、すでにiOS版とPC版が配信中。
※4 リズムに合わせてプレイするやつ: 恐らく『Crypt of the Necrodancer』のDDRパッドでプレイするバージョンのこと(左写真)。ゲームについては過去記事参照。

プレイヤーの抱くイメージ、プレイヤーに抱くイメージ

――ブースにお伺いした時も、友達に「これはCave Story(※5)の人の新作で~」って説明している人とかいましたね。
天谷 あー。英語でバーっと言われるんですけど、何言ってるかわからないから、Cave Storyがどうとかって言ったら「あー、センキュー」って(答えるようにしている)。
 でも嬉しいんだけど……「Cave Storyみたいな」とか言われるし、インタビューとかでも「Cave Storyのどういうところを引き継いでいるんだ」と言われて、普通の人が見たらあんまり変わらないように見えるのかもしれないけど、自分の中では別の物を作っているつもりだし、あのジャンルが一番好きってだけなんで。でもまぁ他のジャンル、例えばスポーツとかがわかるわけじゃないし、ずっと(そのイメージを)引きずっていく感じなのかな。楢村さんもLa-Mulanaをずっと……。
楢村 いや、やんない(即答)。僕はね、「La-Mulana4、5まで期待しているぜ」とか言ってるヤツいたけど、丁寧に断っておきましたね。
 さっきなるさんも言ってたけど、まぁコアなところがあの人数で集中してるから、ブースに突っ込んでくるヤツが間違いなくコアだし、言うこともコア。客自体が楽しんでるから、コスプレしたまま回ってるじゃないですか。

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▲コスプレのままブース周ろうが、アトラクションに参加しようが、講演を聴講しようがすべて自由。

――はい、コスプレしたまま全部回れるというのは特徴ですね。
楢村 だからウチのブース、“『アスタブリード』(※6)を遊ぶソニックの横で『La-Mulana 2』(※7)を遊ぶマリオ”という謎の絵ができてましたよ。業界では絶対ありえない(笑)。
なる 僕が驚いたのは、カップルで来て、女の人がまずパッドを取るということが多くて。Playismのブースで出したゲームって、ガチのアクション、アクション、シューティング。(ジャンル的に)日本だとあまり女性はやらないですよね。
楢村 そうだね。
なる それ(女性が率先してプレイする)が一回や二回じゃなくて、本当に多かったのでビックリしました。
楢村 今日ひとり、開発者が後ろにいると思ってなかったんでしょうけど、『La-Mulana 2』遊んでて「Shit(クソッ)! Shit!」ってコントローラー叩いてぶん投げてる人がいましたね。で、「どこでそんな怒ってるんだ?」と思って見てみたらスタート画面。何が気に入らなかったんだろうと。
天谷 最初の両サイド閉まってるところ?
楢村 それが、そこは開いてたんだよ。ああいう感情を表に出すというのは日本だと絶対にないですね。

――日本だとありがちなのは、後でこっそりツイッターで書くとかそんな感じですかね。それはもちろんどこにでもあると思いますけど。良くも悪くもストレートに表現してくれるというのはやっぱりありがたい部分でもあったり?
一同 (それぞれ頷く)
なる 反応があると、やっぱり出してて楽しいですね。

※5 Cave Story 開発室Pixelの過去作である2Dアクションシューティング『洞窟物語』のこと。フリーソフトとして2004年に公開され、ファンの手によって英語化が行われたり、メーカーによって数々の移植版が作られてきた。
※6 アスタブリード えーでるわいすの制作したシューティングゲーム。ステージが進むに連れて縦横奥とスクロール方向が変化していく。2013年冬のコミックマーケットから頒布開始。Playismで日本語版と英語版の配信が行われているほか、Steamでの配信もスタートした。
※7 La-Mulana 2 NIGOROの2Dアクションアドベンチャー『La-Mulana』の続編。2014年1月末にKickStarterでのクラウドファンディングがスタートし、見事目標額の20万ドルを集めることに成功。PlayismのページでTGSデモのダウンロードや、Playismの販売システムを利用した日本円での出資が可能。ゲーム本編が手に入るのは1500円以上の出資から。発売時期は2015年12月頃ということなのだが、詳細は後述。ちなみに前作『La-Mulana』はピグミースタジオによるVita版が発表されている。

プレイした反応とイベント出展バージョン

――今回出して得た経験を開発に反映させるようなことはあるんですか?
天谷 ケロブラスターのレベルデザインは、プレイヤーがタイトル画面でコントローラーを握るところから始まって、ステージのボスに至るまで、いろいろな流れをつくっているんですが、みんなそれの通りに動いてくれてはいたので、予定通りというか。今はもう完成の手前のブラッシュアップの段階なのでそこはホッとしました。
 でも会場でプレイしてもらったのはほとんど序盤の部分だけなので、その後にあるレベルデザインでその人がどうなるかとかは……もう出してみないとわからない。楽しみですね。
なる ウチは反応としては、不安だったところもあったんですけど、出してみたら評判も良くて。ちゃんと受け入れられたのかなという感じで。ゲームプレイの反応としては結構(日本と)同じように受け入れてくれたなと。だからアメリカ向けとか海外向けに変えていくというようなのはないですね。やっぱり自分が面白いように作ればいいかな。それは持論でもあるので。
天谷 映像が綺麗だから、僕の所に並んでいる列の目が『アスタブリード』に(行く)。途中からノートパソコンで映像流してましたけど、あれを食い入るようにずーっと見ている人がいて、「めっちゃ楽しんでるわこの人」って。
なる それはあの人だけです(笑)。すごく熱心な人がひとりいたんです。でもまぁ、うれしいですね。

楢村 実際プレイしている人の動きを見て「ここをこうしよう」とか「こうしたほうがよかった」というのは、日本のイベントと同じですね。結局はなるさんがさっき言っていたように、自分の作りたいように作るというのがあるので、参考にする程度という意味では日米変わらないです。
 逆に展示していて、『ラ・ムラーナ2』こそ、『ケロブラスター』以上に最初の5分じゃ何もわからないゲームなんですよ。そんな、長く遊ばないといろいろ出てこないような物の横にサッと遊べる『アスタブリード』とか置かれていると、「まったくどうしてくれようか」と思います(笑)。
 ほかにも、インディーメガブースには2Dのゲームも多かったんですが、2Dなりに綺麗な表現にしていたりとか、ああいうの見てると「ウチ地味すぎねぇか?」とか、「もっとこうできるかな」とか、さっきも出たイベント用のバージョンを作るかとか考え始めて、でもそんな時間はないっていう。
天谷 別にそれがやりたいことじゃないし……。
楢村 そうそうそう。だとしたら、チュートリアル的なもの、あまりチュートリアルとしては面白くないですけど、前作の村から始まる、そのもう一個前、そこにたどり着くための遺跡を作って、それを展示用にしてしまうのもアリだなとか、妄想しながら周りを見てましたね。ソッチの方が今後に活かせそうです。
天谷 別のもの作るのはアリかもな。
楢村 別のものは、作ってたじゃん。
天谷 アレ展示すれば良かったのかな?
楢村 5月11日に出ますっていう宣伝用だったらいいけど、あれを『ケロブラスター』として展示したらただの詐欺だよ!
天谷 『Pink Hour』(※8)っていう短いスピンオフを作ったんですよ。あれは何が良かったって、作ってて楽しかった。かれこれ3年ぐらい『ケロブラスター』を作っているんだけど、別のキャラを動かせているだけでこんなに新鮮なものかと。

楢村 ……もう(『ケロブラスター』の開発に)飽きてたんだな?
天谷 そんなことはないんだけど。今回は方法を変えて、自分では前ほどプレイしてないし。自分でステージを作りながらそこを何度も繰り返してプレイすると、面白いのかどうか分からなくなってくるから。
楢村 わかんなくなるっていうのはありますね。インディーメガブースだけでもあれだけのインディーゲームが集まっていると、「ウチのこのラ・ムラーナとかいう奴は面白いんだろうか?」とか。「なんでこんなもの作っているんだろう」という幻覚に襲われることがある。
天谷 その部分は安心してたよ。あっちこっちで「わぁ~っ」とか「うぉ~っ」ってなっているの、(自分たちの)ゲームにその要素はないんだけど、面白いのは確かだから。
楢村 それはそうなんだけど、「ここにいていいのか」って感覚にはなるじゃない。結局は「でもそういうの作りたいわけじゃないから」ってなるんだけどね。
 だからウチの場合で言えば、すぐに罠で死ぬような特別バージョンにして、死んだらスタッフが「わーっ」って煽るぐらいやった方がPAXっぽかったのかなとか考えてましたね。

※8 Pink Hour 『ケロブラスター』の配信前に、発売の告知用(兼、動作確認用)として無料公開されたアクションシューティング(PC)。本編にも出てくるピンク色のOLさんキャラクターが主人公。きっつい難度だったがアップデートで少しやさしくなった。

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▲インディーゲームがいっぱい。ここに写っているのはほんの一部。

はじめての海外出展、改善点はあれど手応えはアリ

――ではゲームの部分としてはお三方とも、自分たちのやってきたことに手応えは得られた感じですかね?
天谷 今のところはそうですね。でも後は出してみないと。iPhoneでも出すんですけど、物の質はともかく、数が多すぎて気付かれずに忘れられてしまうという話はすごい聞かされていて。でもそこはどうしようもないかなとか。
楢村 どちらかと言うと、海外で出展するってこと自体がみんな初めてなので、お試し的に来たってところもあるんですよね。わからないからまず参加してみようという部分が。
天谷 Playismさんとはこれから販売とかでいろいろ一緒にやっていくということもあって、ビットサミットは間に合わなかったですけど、PAXはすごいタイミングが良かったんですよね。それで連れてきてもらったという感じ。結構目標は達成してるかな。楽しかったし。

――各ブース、どう立ち止まってもらうか手を替え品を替えいろいろやっていましたが、そういう部分は参考になりましたか?
天谷 まぁ僕もカエルスーツ着ましたから(笑)。
楢村 いろいろと考えたし、現地来ていろんなものを見て「もっとやればよかった」と思ったものもあるんですけど、海を超えてこなきゃいけないといういかんともしがたい部分もあるので。日本のブースだから畳敷けばいいかとか、言うだけならできますけど、持ってくるのは無理ですから。3日目に手描きの落書き置いて(いろんな日本のビデオゲームキャラクターが楢村氏テイストのイラストで描いてある)笑ってもらったりしましたけどね。
なる あれを見てすごくいいなと思いましたね。きっちりしたものじゃなくて、その場で適当に描いたものがどんどん増えていく、ああいうノリはすごくPAXらしいのかなと思った。
楢村 この3日間経験して、「こっちでやるんだったらこれぐらいやっていいんだ」というライン引きみたいなのはわかりましたね。

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▲文中で触れられている手描きイラスト。(写真提供:アスタリズム)

――ダメって言われたこと以外はとりあえず大体やっていいって感じですね。やってみて運営上の不都合が出ればそりゃアウトなんでしょうが。
楢村 待機列が膨らんでると係の人がちょくちょく「もうちょっと寄ってください」とか言ってましたけど、まぁその辺でしょうね。隣と通路の邪魔になるのはダメという。ビットサミットだと、机から高さは何センチ、横は何センチまではみ出していいっていう縛りになってたんですけど、こっちはおかまいなしに好きなようにやってましたね。

――机使わないで低いスツール置いたり、いろいろありましたね。
楢村 あれは「リビング作りやがった」って思いました。僕らは机を与えられて「その上にモニターを置いて……」って考えていたけども、正面は机使わないで、飾り付けもして……。
天谷 部屋になってた。
なる そこは、すでにPAXに出ている経験とかあるのかもしれないですね。全然わからなかったですもん。モニターのサイズとかも事前にわからなかったし。

いかに認知してもらうか問題

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▲出展されていた有名インディータイトルのひとつ『Hotline Miami 2: Wrong Number』。

楢村 インディーでも列をなすようなのがあったり、そこは知名度の差もありますね。あれも策を練ってもどうしようもないというか。何度でもこっちに来て繋がりを持たないといけないなというのを改めて。
 僕が去年GDCに行った時に、英語がわからないなりに、こっちのインディーと何組か仲良くなったんですね。それで2014年のGDCでされていた、何度も足を運んでインディー仲間を増やして、最後にIGFで賞も取ったっていう話(※9)を聞いて、「あぁやっぱりこういうの増やさなきゃいけないな」と。
 今回の目標の中で「インディー仲間をもっと増やす」っていうのがあったんで、実際はそこまで歩き回れなかったこともあって増やしきれてはいないですけど、GDCで会った人と再会して関係を深めたりできたのは良かったですね。

――コミュニティの強さというのはGDCやPAXに出ていると強く感じるところで、開発者の繋がりもあるし、それぞれについているファンのコミュニティも大きかったりして、「俺の友達がカッコいいゲーム出したから、ちょっと見てくれよ」なんてツイートしてファンがバーっと見に行くとか、あるいは僕も「友達が作ってるこのゲーム、多分気にいるよ」って、前に取材した開発者がメールで教えてくれるといったことがありましたね(※10)。

※9 一人称視点のアドベンチャーゲーム『Antichamber』についての講演のこと。詳細についてはリポートを参照されたし。
※10 実際、前述の『Crypt of the Necrodancer』は、『Retro City Rampage』を開発したBrian Provinciano氏から紹介された。

天谷 流れはわかるんですけど、それで閉鎖的な世界を作っちゃわないか、「なんであのゲームがそんなに評価されるかわからない」って思ってる人が外側にすごいいるんじゃないかっていうのが怖いですね。
楢村 それはそうなんだけど、ウチらがここ2、3年困っていたのが、日本にいると、とにかく海外の人に知らせる手段がないっていう問題だったから。ちょっと嫌らしいハナシ、知り合ったところにあいさつに行って肩を組んで写真を撮ってもらって、それがブログに載って、リンクでも貼ってくれれば万々歳。そういうきっかけでもゲームをやってもらって、それで面白いと思わせればいい。

――当然「あれはハイプだ(騒がれすぎ)」とかそういうことを言う人もいっぱいいるんですけど、あんまりそういう空気がこもる感じではないですね。なにしろ選択肢が多いから、合わなかったらパッと他に行っちゃうだけで。
楢村 面白いのかどうかって疑ってもらうところにすら行けないから、その機会を絶対に増やさなきゃいけない。
天谷 理想の話だけど、最初から面白ければいいのにって思うんだけどね。
楢村 それを目指さなきゃいけないけど、それだけで出来れば苦労しないからね。
天谷 とにかく「面白いって言ってもそんなもんじゃないの」って思われてしまうのが怖いんですよ。

――GDCの講演やPAXを見ていると、自分をどう出していくか、マーケティングテクに近いようなことをかなり考えてる感じはありますね。面白いものを作るのは当然のことととして、それをどう広い層に伝えていくか。そのために時には自分を変えなきゃいけないという。
楢村 今日も撤収しはじめてる時間に、他のブースから「あなたたちのゲーム好きだから、ウチのゲームのキーあげる」って来てる人とかいましたからね。つまりこれは「やってくれ」ということ。出展してないのにノートパソコンを持って「こんなの作ってるんだ」って見せてまわってたる人もいたし、名刺にダウンロードキーがついてたり。

――さすがに細かいところ見てますねぇ!
楢村 本当に痛感してるから。「これぐらいしないと、こっちに広げられないんだ」と思ったの。
天谷 聞いた話だけど、最近の大学生とか、ゼミで作ったものをセミナーが終わった後に企業に見せに行ってたりするらしくて、「そんなことする人いるんだ」って。僕らの学生の頃より、若い世代は貪欲なのかもしれない。僕の周りにそんなことする人いなかったから。
楢村 まぁゲーム作って、ほっといてそれが勝手に広まっていくんだったらそれが一番いいんですけどね。
天谷 うん。面白ければTwitterとかで広まっていくんじゃないかなって思ってるんですよね……。
楢村 でもここにいる3人だけでも、全員自分が最高のものを作っていると思ってるでしょ。「そこはクリアーしているはずなのに、なぜ広まらない」っていう思いがあったから、僕らはね。

――遊んでもらえばわかるし伝わっていくはず、でも遊んでもらうには伝わらなきゃいけない。難しい問題ですね。こっちはSteamとかダイレクトに販売できる環境が揃ってて、直接出せばいいはずじゃないですか。じゃあそれでみんなダイレクト販売だけでやってるかって言うと、Devolver Digitalとか、Midnight Cityとかインディー専門パブリッシャーが増えてきてたりする。それは資金的な話だけじゃないと思うんですよ。インディーを中心的に扱うPR会社(※11)もあったりして、僕の所にもそこが抱えるクライアントのプレスリリースがメールで毎日届きます。インディーがそれだけの規模で存在していて、どう広めていくかがビジネスになりつつある。

天谷 Playismさんはそういうところなんですか? イベントに参加を促したり、インタビューを繋いだり。
Playism担当者 言ってしまえばそういう側面もありますね。
楢村 なるさんはとりあえず参加してみたと言っていたけど、海外でもっと売りたいというのがあったりしないの?
なる うーん……。『アスタブリード』を出してみて、売り方とかを考えるのが大切というのは痛感してるんですけど、(プロモーションが)本当に苦手で。今回はPlayismさんがそこを肩代わりしてくれているわけで、今後も僕は正直あまりやりたくない(一同笑)。
Playism担当者 大丈夫ですよ、ふたりともガンガンついていくので。

――普通のゲーム会社だったら広報とかマーケティングとか、そのほかにも法律とか財務の人がいるわけで、専門家が必要になった時に、自分でやるか、少なくとも別にできる人や会社を探さなきゃいけないというのは大変ですよね。「自分のゲームを作ろうと思って独立したのに、実際はビジネス面に時間を取られてしまう」というのはGDCでもよく聞きます。(※13)
天谷 会社を辞めて、ゲームを仕事にしようと思って、僕も最初のうちはいろんなところに顔を出していたんですよね。だけどココ一年はそれと別の方向で、できるだけ顔を出さないで引きこもって作り続けて、やっと調子よくなってきた感じがあるんです、実は。そのおかげで今、やっと完成しそうなゲームが手元にある。(片っ端から出るかまったく出ないかではなく)ほどほどがいいんだろうなとは思いつつ……楢村さんの所は、こっちに来ている間も日本で動ける人いるんだよね?
楢村 「研究しておいて」とか「これ作っておいて」と預けておいて出てくるっていう形になるけどね。
天谷 ひとりでやっていると、自分がウロウロしているあいだ、制作が止まっちゃうんで、自分の時間の使い方は考えないといけないなって。人と会うこと自体は楽しいし、いいんですけど。

※12 BioWareや2K Gamesなどを扱うEvolve PRなども、独立系の小規模~中堅スタジオのPR案件を多く扱っている。
※13 例えば『Waking Mars』を開発したTiger Styleの事例など。

KickStarterはいろいろ大変

楢村 僕はもともと、売り方とか目立ち方を考えるのが好きだからっていうのもあるんでしょうね。でも海外で知り合った中に一人でやっている所があるんだけど、そこもKickStarter(※14)やって、Steam Greenlight(※15)やって、「作る暇ないんだよ、大変だよね」って言ってて意気投合しましたよ。
天谷 NIGOROはバイタリティがすごいなぁ……。KickStarterとか、作る以外のことをどれだけやらなきゃいけないの?
楢村 一ヶ月(それ以外)何もやらなくていいなら作る機会いっぱいあるなと思ったら、一切何も作れなかったね。
天谷 専用ページとか、あんなん作るのに俺一月じゃ無理だよ!
楢村 まぁ一月以上かかってますよ。
なる KickStarterは聞けば聞くほど無理だと思いますね。表には成功事例のいい話ばっかり出てると思うんですけど。
楢村 いつまで経っても達成率0%のプロジェクトとかありますからね。

――いろいろありますね。スクリーンショットすらないのに、ゲーム本体じゃない声優の発表とかばっかりやっちゃって案の定集まらないとか、下を見ればいくらでも。それこそ小学校か中学校のクラブかなんかが「僕達コレ作りたいんです!」ってビデオをアップして、恐らく保護者の方が数人支援してる、なんていうのもあるので。
楢村 ウチはあの時点でKickStarterに成功していないと存続も危うかったぐらいで、必死度が違ったからあれぐらいやったっていうのもあるんです。恐らくあれがなくても出来はしたけど、開発中に何度か外注仕事を受けなきゃいけなかった。ビットサミットやPAXでは前に作ったテストバージョンみたいなものの改造版をずっと使っているけど、これ終わったらほとんど破棄するぐらいのつもりで、もう一回ゼロから見直して作りなおしを始めますよ。
天谷 KickStarterを成功した後のプレッシャーってどれぐらいのものなんだろう?
楢村 そっちはあまりないね。これは性格もあるだろうけども。

※14 KickStarter 一般の人から制作資金を募るクラウドファンディングサイト。アートプロジェクトやVRヘッドマウントディスプレイOculus VRのようなガジェット、インディーゲームなど幅広い分野で資金を集めるのに使われている。前述の通りNIGOROは『La-Mulana 2』でKickStarterプロジェクトを実施し、成功した。
※15 Steam Greenlight Valveのデジタル配信プラットフォーム“Steam”で配信してほしいタイトルをファンに投票してもらう仕組み。票が集まって通過すると開発者にオファーが行く。

――プレッシャーで病みかける人もいるみたいですね。作り込む前の段階でおおよそのリリース時期を言っちゃうわけなので、遅らせることもできるけど、無言で延々出さないというわけにはいかなくて。それは炎上してしまうので、ファンド成功してしばらくしてから「これだけ集まったので、ゲームをより大きくするためにここまで遅らせます」と発表するテクはよく見かけます。
楢村 そうなる時は正直に早めに言ってしまった方がいいですね。僕らはKickStarterの研究期間をだいぶ長く取って、そういうところが問題になるんじゃないかとか、考えていたんですよ。ただ、いろいろ聞いてみると、それが絶対の約束になるというわけじゃなくて。だってそもそも、お金集めて面白くないものができて、それで詐欺ってなる性質のものではないし。

――まぁ多少燃えたりはするでしょうけど、実際いろいろお互いの信頼で成立してるだけで、ビジネスの契約よりは「ここまではいいか」っていうラインが緩いですね。
楢村 そういうのを知っていたので、僕らは「2015年冬ぐらいに出せるといいなと思ってます」ぐらいのことしか言ってないですね。僕は尊敬する人物がムスカと利根川なので、「出すとは言った。だが面白いとは言ってない」みたいな。それぐらいの気持ちでいるので、プレッシャーはないです。だってそんなことで潰れるぐらいなら、机でがっーっと作っているところを見せればいいんじゃないかとか。

――今日僕が出た講演で、アーリーアクセスのいいところ悪いところという、似たような話を話してましたね。未完成品でお金を取れるんですけども、一方でβ以前とわかってても「全然仕上がってねぇじゃねぇ~か!」と思われることもあったりして。僕もKickStarterでお金払った中で、βを出す時期が遅れて、ようやくアーリーアクセスとして出すっていうんで、プレイしてみたら恐ろしく出来上がってないので頭抱えたことがありましたね。氷のステージで、恐らく氷なり雪の表現を乗せるところがむき出しで、製作用の格子模様が見えちゃってて。「これは約束した締め切りに追われて出してしまったんだろうなぁ」と。
楢村 僕の経験上、それはすごい遅れていますね(笑)。
天谷 作る人にしてみれば大体出来てても、普通の人にしてみるとビジュアルが追いついてなかったらもう……。
――出資者向けのTシャツを着たまま「そこは雪かぶせておいてよ!」って文句言いますよ(笑)。(※16)

※16 ここではタイトル名を明かさないが実話。その後バージョンが上がって雪がついたし完成度も上がってきた。

出展する価値とは?

――楢村さんが期間中にやられた配信番組のタイトルで「お前らみんな来た方がいい」って書かれていましたけども。
楢村 タイトルは僕が決めたんじゃないので。僕は経験主義者で、経験したものからでないと導き出せないという考えなので、来た方がいいのは間違いではないんですけど、だからと言って来れない人に無理強いすることもできない。これを帰って口で伝えたところで伝わらないだろうし、だからって借金して来いって言ってもそれだけのものがあるか保証はできないので。経験して損はないとは言えると思います。

――天谷さんはどうですか?
天谷 作品がなければ来て何するんだってことになるので、作品があればいろんなところに出して、自分のターゲットにリーチする努力はしなければいけないなと思いますけど。
 例えば、かわいいものにしても、日本のかわいいとこっちのかわいいってかけ離れてて、自分がフィーリングでいいと思っていても、どれだけ受け入れられるかわからない。僕はそれこそドット絵が好きでああいうゲームを出しているけど、ほとんどの人が素通りする。でも全員がターゲットではなくて、そういうのが好きな人をターゲットにしているから、そこで「このゲームサイコー!」って言ってくれる人に会った瞬間、この国のそういう人にもリーチできたなって(実感できる)。
 対費用効果とかも考えなければいけないのかもしれないけど、もしタダで行けるなら、あっちこっちのこういう人にリーチしたいですね。自分で行くってなったらそれこそ言葉の壁もあるし、交通の問題もあるので、こうしてPlayismさんみたいな所の人にくっついてきて出来るなら助かるなと。
楢村 うーん、言葉の壁は、なんとかしようと思わなくなる。展示している時も、ふと気が付くと英語喋れる人が一切いなくなってるっていう状況あったじゃない。でもちゃんと喋れなくても、最初で詰まってる人に「そこスイッチですよ」ぐらいは言えるし。やりとりはなんとかできるんですよ。それで遊んでる人の顔を見られるっていう方が大きいなと僕は思いますね。「外人もここで笑うんだ」とか、あれを体感できるのは他にないなと。Playismで働いている人達は中身日本人なんで。「反応がネイティブとは違うんじゃないか」って疑ってしまうところがある(笑)。
なる 今回話していて、完全に大阪人だなって思いますね。僕も地元が大阪なんですけど、(Playism諸氏は)考え方が完全に大阪なんですよ。ネイティブの欧米人ってより、元ネイティブ。

――まぁPAXとかにわざわざ来る人も、超濃いので、むしろ日本のゲームが好きな人が普通より多く含まれていたりはするんですよね。
楢村 それはあるね。
――そこで典型的なアメリカ人ゲーマーの比率と違うから参考にならないかと言うと、パーセンテージで見るとそれは『コール オブ デューティ』とかが大きいんですけど、セールスとかを考えるなら実数が大事なんであって、「これだけ好きな人が来たからいいんだ」って考えてもいいんじゃないかってことをたまに考えます。
天谷 コスプレとか、日本のゲームのが多かったもんね。

『ケロブラスター』、『La-Mulana 2』、『アスタブリード』3人の日本のインディーゲーム開発者に、海外出展の感想、新作への思いなどいろいろ聞いた_05

――関係無いですけど、スネークのゲームが出たらやっぱり去年とは段違いにスネークが増えてましたねぇ。
楢村 「進撃の巨人」も多かったですよ。

――多かったし、女型巨人のボディスーツを別のコスプレに利用している人なんかもいましたね。アーマーの隙間から筋肉が見えているみたいな効果を出すために、進撃の巨人のスーツの上からアーマーを着込んでるんですけど。人気が出てパーツが出まわるとこういうことも起こるのかと。
Playism担当者 こっちでも「Attack on Titan」っていうタイトルでCrunchyroll(※17)で簡単に見られますからね。
天谷 (話を戻して)そうか、日本のゲームが好きな人が多いかもしれないのか。
楢村 それか、分母が大きいから、数がでっかくなるっていうのもあるんじゃないですか。ビットサミットも同じ(濃い)層を狙っているはずなんだけど、本当に来るんだろうかっていう次元で悩んでましたからね。一片にあれだけの数を集められるっていうのは刺激が倍以上違うと思いますね。

※17 Crunchyroll 日本などのアニメやドラマを配信するサイト。きちんと契約を行っていて、日本での放映されたばかりの最新話を英語字幕付きで見られる(これでいわゆるファン翻訳の違法配信が減った)。ちなみに無料会員と有料会員があるが、古い番組を低解像度の広告付きで見るだけなら会員にならなくてもいい。最近は漫画の配信もある。

作ってる人はみんな一緒

――日本のシーンについて聞いてみたいのですが、ビットサミットとか出来る以前とは状況が変わって来ている感じでしょうか?
楢村 それ以前は、そういう反応が体感できるのは、ネットでしょっちゅう意見くれる人ぐらいでしたね。案外、仮想の客相手にやってたんですね。むしろコミケで売っていたりすると生で見れてたんじゃないの?
なる 遊んでいるところは見られないですね。コミケはどちらかと言うと、開場前に開発者同士がコミュニケーションを取る時間が多いんですけど、その感じがPAXも同じでしたね。今日も朝始まる前に開発者の人が来てくれて話したりしたんですけど。話す内容も一緒で、「これはどういう言語で出来てるんだ」とか「どんなエンジンで作ってるんだ」とか。
楢村 「Unity(※18)じゃないのか、なんてクレイジーなんだ」とかね(笑)。
なる 内容は日本と全く同じだったんで、すごく感激したというか、そこから、日本の開発者がすごい損をしているなと思いましたね。こっちのフォーラムとかってものすごい活発なので、そこに参加できていないというのが。日本の技術力が負けてきている部分がどうしてもあるのはそこの差がデカいのかなっていう。

※18 Unity 商用3Dゲームエンジン。“ゲーム開発の民主化”を目指しており、ビジュアルエディター付きの高度なエンジンが比較的安価に使えるということもあって、インディー開発者が開発環境に採用することが多い。Unityの爆発的な広がりを受けて、Unreal Engine4も月額19ドル+ロイヤリティで利用可能になったほか、CryEngineも月額10ドル以下のサブスクリプションプランを発表し、Steamで配信中。そのほかインディー界隈では、『Hotline Miami』や『Gunpoint』、『nidhogg』などで使われているGameMaker: Studioなども多い。

楢村 ただこれはこっちのマイナス面ですけど、僕らも開場前に遊びに行ったりしたいし、トラブルがあってもいけないしということで1時間以上前に入ったんですけど、そんな几帳面なのは日本人しかいないんですよ。つまり、周りがガラッガラで、せっかく早く来たのに遊べない(笑)。ビットサミットの時も外人勢は遅かったもんね。
なる ビットサミットでも2日目とかみんな滅茶苦茶遅くなかったですか? 初日はそれなりに早く来るんですけど。
天谷 夜遅くまで飲んでるんだよ。

――それはありますね。メディアも几帳面にカンファレンス取材の記事を作らないで、おいしい所だけ短い記事を書いて、もうビール開けてたりしますからね。
なる そこ(開発者の入り時間)はコミケだと大分早めに入っておかないと閉められちゃうので。シャッター閉まっちゃうので必然的に早いです。
天谷 僕自身がお客さんとしてもあんまりイベントに行かないからわからないことが多いなぁ。
楢村 僕らも同人界隈は又聞きでしかないですけどね。ヘタしたら「アメリカで出展してみないか」より「コミケに出展してみないか」の方がハードル高く感じる。
なる 簡単ですよ。だって日本語通じますよ?(一同笑)

――まぁ、同人のシーンがあって、インディーのシーンがあって、フリーゲームのシーンがあって、皆さん通ってきた環境がちょっと違うというのは面白いですよね。外から見ていて、何となくそれぞれのシーンを区切る壁のようなものを感じないこともありませんでしたし。
楢村 今は大分垣根みたいなのは意外とないのかなというのはわかりますけどね。
なる 隔たりはやっぱりあるんですけど、今回もそうだし、ビットサミットでも会って話をすると、やっぱりみんな一緒なんですよね。
楢村 うん、作ってる方はそうだよね。
なる TGSの後のトークイベントの打ち上げでちょっと話したじゃないですか。その時に「めっちゃ同じだな」って。
楢村 それはZUNさん(※19)と話していても一緒で、作り始めた根っことか、幼いころのゲーム経験とかがほとんど一緒で、ただ出発した界隈が違うというだけ。それはもう十分わかったんですけどね。ただこっちは行ったことがないから、萌え絵のかばんを持った人が押し寄せてくるというイメージしかなくって。
なる 大丈夫です(即答で断言)。同人ゲームの界隈は変わっていて、そうでもないですよ。萌えのモの字もないゲームもいっぱいあるし、来る人もおっさん多いし。
天谷 ジャンルは分かれてるの? オリジナルと二次創作で。
なる そうですね。ブースの配置担当をしている人が結構ちゃんと分けてるので、固まって配置されていて、参加者層も場所によって分かれていますよ。
楢村 まぁ、近いうちに見に行くところから始めてみたいですね。

※19 ZUNさん 東方Projectシリーズなどで知られる同人サークル上海アリス幻樂団を主催するZUN氏のこと。

イベント会場で開発伝説

――コミュニティの交流が起こるといいなって最近ずっと思っているんです。ただでさえゲーマー全体の母数がこっちと全然違って、さらにインディーという濃い部分で、その中でまた日本だけ区切っていたら、こっちのインディーの勢いみたいなものが出るわけもなくって。
楢村 そうですね。でもPAXでみんな勢い良く好き勝手やってるなって中で、天谷くんが2日目からブースで開発やり始めたのを見て、「これも好き勝手やってるよな」と。

――アメリカナイズですね、間違いない(笑)。
楢村 そう。アメリカ人のブース見て、「あんな風にやらなきゃ」って日本人ができるのかって問題もあるけど、これこそ日本人の好き勝手だなと。それでコアなファンが集まって「怖っ」って空気になったらそれはそれで面白いか、と思って見てました。
天谷 それ考えたらすっごいことをしていた気が! 客観的に見れてなかったわ……。あそこにいて何していいかわかんないし、そもそも締め切りに追われているのもあるから。
楢村 それはあるけど、普通は10時に入ってきて開発しようってならないよ?
なる イベント会場で作曲出来る人を初めて見ました。
天谷 それも隣の音がガンガン鳴り始めるまでだったわ。全然音聞こえなかったもん。
――そういう問題じゃないような気もしますけど(笑)。
楢村 普通はその悩みに達しないからね。

今後に向けての展望など

――生でプレイしている横で、実は生で開発しているというライブスタイルが見られたということで。では最後に月並みですが、ファンの皆さんも読むと思うので、今後の意気込みなどを。
天谷 アップしてある絵とか動画とかを見て「ああこういうの好きかも」って人には期待に沿えるものになっていると思うので、ぜひ遊んでみてください。

――iOS版さっき触らせて頂いて、思った以上にやりやすかったですね。
天谷 やりやすかったでしょ? ああいう仮想パッドのゲームがたくさん出ている中でも、かなりやりやすい部類に入ると自負しています。
楢村 試行錯誤してたもんね。

――実は、仮想ゲームパッドでやるって発表された時点で「えー」って思ってたんですよ。で、先ほどプレイした際に、アクションゲームでありがちな「ボスがジャンプしてくるのをくぐり抜けて後ろに振り返って撃つ」っていうシーンで「これ仮想パッドで出来るのか?」って思ったら、ちゃんとやってみたら普通に出来たんでびっくりしました。
天谷 まだ不安な点も多いんですけど、それはよかったです。

『ケロブラスター』、『La-Mulana 2』、『アスタブリード』3人の日本のインディーゲーム開発者に、海外出展の感想、新作への思いなどいろいろ聞いた_11
▲iOS版はいわゆる仮想ゲームパッドでのプレイなんですが、これがびっくりするほどやりやすい。

楢村 僕はこれから作る側で、リリースがない2014年をどうやって乗り越えるかという所が大きかったりするので、日米問わず出来る限りこういうイベントに露出を増やしていきたいですね。
 それと、この前ビットサミットのラウンドテーブルでも少し触れましたけど、『Mighty No.9』の稲船さん(※20)とか、『Million Onion Hotel』の木村さん(※20)とか、五十嵐さん(※20)も独立するという話があったりして、海外の人間はそれだけでフィーバーになるわけで、海外から見て日本のインディーとはあの人達を指すことになりかねない。そこにぶつからなきゃいけないので、2014年と2015年の動きはすごい重要だと考えています。「あれが日本のインディーだろ」と言われる中に入るつもりでやっていますね。
天谷 盛り上がった所に『LA-Mulana 2』が完成するんじゃないですか。
楢村 それも狙っているところで、その盛り上がりが来た時に自分たちも出せないと絶対にまずいと思ってるんで。

――「日本のインディー」として知られている数が限られている中で、知名度だけで言えばそこらの海外のインディーに負けないどころではない、VIP待遇の人が予約席にやってくる感じはありますね。そうすると相対的にそちらが中心に見えてしまうんじゃないかというのはわかります。
楢村 後から先輩が出来るみたいな、そういうのを嫌がる人もいるかもしれないですけど、目立ってくれる人が増えるならいいかと、僕は前向きに考えていますね。2014年に日本の今やっている人たちがどれだけ上を目指してやっているか、しっかり見ていて欲しいですね。それが次の年の動きに直接繋がってくると思うので。

※20 稲船さん/木村さん/五十嵐さん それぞれcomceptの稲船敬二氏、Onion Gamesの木村祥朗氏、元KONAMIの五十嵐孝司氏のこと。いずれもコンソール(家庭用ゲーム機)で世界的にファンの多いヒット作を持つクリエイター。


『ケロブラスター』、『La-Mulana 2』、『アスタブリード』3人の日本のインディーゲーム開発者に、海外出展の感想、新作への思いなどいろいろ聞いた_12
▲その後、5月30日より発売中(PLAYISMで購入した場合もSteamキーが付属する)。また、6月6日までは20%オフのセール。ちなみに英語版トレイラーが使われているが、ゲーム自体は日本語もちゃんと含まれている。

なる うちは『アスタブリード』が出たばかりですけど、近いうちにSteam版が出ます。他の展開もできたらいいですね。
 次回作の企画とかもがっつり進んでいるんですけど、作り始めるうちに仲間内で話していたことで、最初に作ったのが『ETHER VAPOR』で、次に『花咲か妖精フリージア』っていうのを出して、それから『アスタブリード』をやって、『ETHER VAPOR』と『アスタブリード』は近いんですけど、『花咲か妖精フリージア』とはユーザー層が結構違うゲームになっているんで、「そういうのはよくない、継続していって膨らんでいくような作りにしなければいけない」という話をして、今全然違うものを作っているんですけど。

――今の前置きはなんだったんですか(笑)。
なる いやぁ、僕らもびっくりするぐらい、「全然ちゃうやん」っていう。
楢村 まぁそれが作りたいんだったらしょうがないよね。
なる 企画の時点ではかなり面白くなりそうなので、僕もよくわかってないんですけど、自分がおもしろいという形になるまで出さないので、多分面白いです。
天谷 普通に楽しみですね。この3日間、なるさんと一緒にいたのも面白かったです。どういう人か知らなかったので。

楢村 こういう、同じ経験をした日本の仲間が出来るのも大きいんですよね。慣れ合いみたいなのはよくないんですけど、磨き合うぐらいの。最終日とか、出てる3つの間ででもどう目立つかやりあってましたからね。(なるさんが)ノートパソコンでビデオ流し始めた時に「ついにやりおった、モニター一枚増えとるやんけ」と。
なる ずっとやろうと思ってて……他より目立とうとか他意はなかったんですけど。最終日はずっと他のブースの写真を撮って回ってたんですね。それで、デカいモニターの使い方は最低でしたね、僕らは(笑)。
Playism担当者 まぁウチはよそより出展したタイトルが多かったので。(割り当てられた大きいモニターで)流していたビデオで出展していないタイトルに興味を持ってくれた人もいましたし。
楢村 誰かモニターぶら下げて歩きまわるぐらいのことしても良かったかもね。チラシ配りまくって運営が来たら逃げるとか。
なる あ、でもそれいましたよ。
天谷 トイレに同じチラシがどさっと置いてあったりしたね。
楢村 やっぱり、やる人はやるんだよね。
――話がループしてきたので、要約すると「楽しかった」ということで、今日は遅くまでありがとうございました!

(文・取材・写真・編集:ミル☆吉村)