友達とスゲぇ~ゲームを作りたい! でもビジネス面に時間がかかっちゃったら意味が無い!

『Waking Mars』の開発者が考える、フリーランス集団の健康的な利益分配法【GDC2013】_14

 米時間の3月25日から29日まで行われた。GDC 2013(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス 2013)。Tiger Style Gamesのランディー・スミス氏が講演したのは、同スタジオの運営方法について。

 Tiger Style Gamesは、スマートフォンゲーム『Spider: The Secret of Bryce Manor』や、スマートフォン/タブレットやPC向けに発売されているアクションアドベンチャーゲーム『Waking Mars』などをリリースしているメーカー。操作そのものはスマートフォンタイトルらしいシンプルさでありながら、裏に深いゲームメカニズムやディープなストーリー&世界観が練り込まれているミドルコアゲームで高い評価を受けている。

 ランディー・スミス氏は2008年、エレクトロニック・アーツをレイオフされ、当時新興市場として出てきたiPhoneでサバイバルすることを目指して、独立を決意する。
 しかし、投資家やビジネスパートナーを探して、オフィスを確保して、人材採用を行なって……といった会社の立ち上げには時間も手間もかかる。でも、同氏の頭にあったのは「友達と集まってスゲぇ~ゲームを作りたい」ということであって、会社らしい枠組みを整える作業は本質的ではない。
 そこでさまざまな人々のアドバイスを聞きながら、ノーオフィス、メンバーは自分の住んでいるところから作業を行い、とりあえず第1作を作って利益はみんなで分配する……という形でTiger Styleがスタートする。

 ちなみにオフィスを設けずオンラインでのやり取りで済ませるというスタイルは、オフィスの維持費用が必要ないだけでなく、勤務地の問題を抜きで仕事を依頼したい有能な人にオファーできるという点で(普通は引越しとかを検討してもらわなければならないし短期の仕事は頼めない)、クリエイティブ面にも貢献しているとのこと。

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▲オフィスはなしで、各パートを担当するメンバーはアメリカ中。打ち合わせはビデオ会議で行う。一方で一応社員一人の有限責任会社を設立。
▲第1作『Spider: The Secret of Bryce Manor』はスマッシュヒット。25万ドルを3ヶ月で稼ぎだす。

 結果として『Spider: The Secret of Bryce Manor』も、第2作『Waking Mars』もスマッシュヒット。しかしPC/Mac/Linux/Androidと移植し、さまざまなデジタルプラットフォームで配信した『Waking Mars』では、管理しなければいけないバージョン数で数えるとすごい複雑になったにも関わらず、それだけ利益が上がったかというと微妙……という結果に。増大する複雑さにどこまで対応するかというのは、小規模デベロッパーにとっては重要な問題だ。

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▲iOS版の開発は8ヶ月(1.3 人年)、iPad版の開発は3ヶ月(2人月)。両方合わせて 74万ドルを稼ぎだす。
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▲『Waking Mars』は開発2年(3.5人年)。利益は39万ドルで、『Spider』と合わせて2作で113万ドルの利益。
▲その後PC版なども作り、さまざまなプラットフォームで発売するも……複雑になった割には利益は全部合わせても14万ドルで、iOS の37%だった

 また、関係者への利益分配にあたっては、第1作での問題を踏まえて、第2作では計算方法を変えるなど、いろいろ試行錯誤している様子。
 しかし、それでもレベニューシェア(利益分配)というスタイルを行うのは、ビジネスをCo-op(協力プレイ)のような形で、設立者もアーティストも等しく、リスクも報酬も共有し、全員が働き全員が稼ぐという理想を追い求めているからだ。
 現状では、誰もが売上を上げることに注力して仕事をし(もちろんクリエイティブな欲求でも仕事しているが、このモデルでは売上の上昇が自分への収入に繋がる)、やる気のある人が継続して仕事を行い、そうじゃない人は去っていくという“健全な文化”を築けているそう。

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▲リベニュー・シェアのバージョン1。作業時間ベースで分けていったが、同時間で2個仕上げた人と6個仕上げた人が同額になってしまうとか、発売までの作業量で計算していたので発売後の作業の計算量が微妙になってしまうとか……一切合切を分配したので柔軟性も少ない。
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▲リベニュー・シェアのバージョン2。『Walking Mars』では 40 時間働いたら “1シェア”という単位で支払うことに。また、発売後の作業も含めて、プロジェクト終了までを計算することに。そして売上を全部分割するのではなく、シェアプール(分配のもと)、ボーナスプール(優れた仕事に対して追加ボーナスを出す分)、事業プール(会社の資金としておく)の3種類に分類する。

 一方で、どうにも細かい部分は対応しきれない権利処理などを担当する弁護士、財務のプロ、グッズ関連業務やPRなどを担当する人などは、ゲームのクリエイティブ面での分配とは別に、雇うべきプロフェッショナルとして契約を行なっているとのこと。
 ただし、雇うのは物事(法務、財務、PR&マーケティングなど)が複雑になりすぎている場合にすべきで、それ以外はシンプルかつフレキシブルな組織であることを維持するというのがTiger Styleのスタイル。

 ちなみに現在は数ヶ月をかけて、個人会社だった旧Tiger Styleからビジネスパートナーと共同設立した形の新しいTiger Styleにしたそうで、面倒なことを後回しにして得た実績を活かしつつ、法人として法人口座を持ったり、税金処理などがシンプルに行えるようになったという。

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▲弁護士や財務のプロ、PRやマーケティングの担当などは、利益分配ではなく、専門職として契約する。高くつくがそれだけの見返りがあるというのがスミス氏の考え。

 ただ、そうやってプロはプロに任せる選択を取っているにも関わらず、自身の時間の中でビジネス面にかかる部分がかなり増えてしまったそうで、今後としては会社として1日1000ドルを稼ぐことを目安に方針決定を行なっていくとのこと。
 まとめの部分では、とにかく物事をシンプルに行い、間接費の増大や資金減少速度は最小限に抑え、ビジネスの拡大も必要な時だけ、しかも構造的な変化に限定しながら、高品質なタイトルを生み出すことを維持していきたいとの展望を語っていた。

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▲自分のゲームを作ろうと思って始めたのに、実際はかなりビジネス面に時間が取られてしまう。理想は10%ぐらいに留めたいが……ということで、今後は1日1000ドル稼げるかどうかを基軸に考えていくとのこと。1000ドル稼げないようなものはビジネス面の仕事が増えるだけなので諦めるというアプローチ。