Project Morpheus発表に、Facebookによる巨額買収――なぜ今VRがアツいのか、そしてなぜ体験すべきなのか【GDC 2014】_10
▲GDCでのOculus VRブースの様子。

 2014年3月26日、FacebookがOculus VR社を約2000億円というとてつもない額で買収したことを発表した。
 先週サンフランシスコで行われたゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)2014では、ソニー製のPS4向けVRヘッドマウントディスプレイ“Project Morpheus”が発表されたほか、Oculus VRもVRヘッドマウントディスプレイ“Oculus Rift”の開発キットの第2世代品をデモ出展し、どちらも大きな注目が集まった。

 しかし、体験したことがない大半の人にとって、「なぜ今VR(仮想現実)がこれだけ盛り上がっているのか、いったい何が新しいのか?」という疑問があったとしても仕方がない。なぜならば、これはまさに“体験したことがない人にはわからない”ようなスゴさがあるからだ。

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▲Project MorpheusとOculus Riftの第2世代開発機“Development Kit 2”がデモ出展された。

3D立体視は単なる一要素! カギは3つの没入体験の融合にあり

 VRについてはさまざまな研究が進められているが、Oculus RiftやProject MorpheusのようなVRヘッドマウントディスプレイを指す場合、それは没入感を高める以下の3つの要素が融合した体験を指していると言って差支えないと思う。

 まずは3D立体視。3D映画やニンテンドー3DSなどでお馴染みの人も多いと思うが、左右の目の距離によって生まれる物体の見え方の違い(視差)をシミュレートした映像を両目に別々に送り、物体がそこにあるかのような奥行きある立体感を感じさせるというものだ。

 そしてヘッドトラッキング。各種センサーで頭の動きを検出して(コンテンツ内の)カメラを連動して動かすことで、上を向いたり下を向いたり振り向いたり、使用者の顔が向いている方向に視界を追従させるのが、もうひとつの特徴だ。
 3D立体視ではスクリーンを境界にして、その中にキャラクターがいるような感覚があると思うが(「飛び出すような」というのはよくある間違い)、ヘッドトラッキングがつくことで、さらに自分の視界がコンテンツ内のカメラと連動する一体感が錯覚として得られる(特に一人称視点のコンテンツ)。

 最後にFOV(視野角)の大きい映像体験。Oculus Riftでは対角視野角110度(上下左右90度)、そしてProject Morpheusでは水平視野角90度を実現。従来の市販のヘッドマウントディスプレイは大きくても45度程度で、映像のフチが見えている、いわゆる「~メートル先に~インチのスクリーンがあるような」体験に留まっているが、これぐらいの視野角になってくると、映像のフチは意識して見ないかぎりあまり認識できず、視界がほぼすべて映像で覆われているような感覚を得られる。

 こうして使用者の視界を映像で覆い尽くすことで、3D立体視による立体感や、ヘッドトラッキングによる一体感がさらに加速され、自分の視界がコンテンツ内の世界に飛び込んだような、ひいては自分自身がその世界の中にいるかのような体験となるのだ。

 これまでこういった体験を個人の家庭で体験するのは難しかったが、スマートフォンの普及などにより、小型で高解像度の液晶が大量に出回るようになったことを受け、一気に現実のものとなり、いま花開こうとしているのだとご理解いただきたい。

それ別物だから! よくある誤解

なので、現行のVRコンテンツを体験せずに、以下の様なことを言ったり思っている人がいたら、それはちょっと誤解なので、認識を改めて、一度どこかで体験してみてほしい。

・3D映画は見たけど、要はああいうの?
 前述のように、3D立体視は一要素でしかない。大スクリーンを使ったフルバージョンのIMAX 3Dが、FOVを出来るだけ大きくしようとしている点でちょっとだけ近いぐらい。それでもヘッドトラッキングがついていないし、勝手にカメラを動かしたりもできないので、全然違う。

・バーチャルボーイみたいなやつだろ?
 同上。バーチャルボーイはゲーム機に立体視を取り込む当時の試みであって、先人による90年代半ばの偉大な挑戦だが、別物。

・YouTubeで見たけど、大したことなくね?
 3D立体視用の映像を裸眼で何の装置もなく見て、想像力も働かさなければ面白くないのは当たり前。

・FPSやらないしなぁ。
 確かにFPSは一人称視点を採用していてVRと親和性が高いのだが、逆に言えば視点だけ。我々が普段一人称視点で生活していてシューティングしてないように、FPSとは限らない。
 シューティング要素がない一人称視点のアドベンチャーゲームも世間にはいっぱいあるし、現にCCP GamesがVR用に開発中の『EVE: Valkyrie』はフライトシューティングゲーム。ちなみに三人称視点のVRコンテンツの研究を進めている人もいる。

・でも普通のゲームとやること一緒でしょ?
 そうでもない。確かに普通のゲームに“VRモード”をつけることは可能なのだが、それではポテンシャルを十分に発揮できないと考えている人も多い。例えばSCEワールドワイドスタジオの吉田修平氏にインタビューした際も、ただ“VRモード”をつけるよりも、同じ素材を使った別コンテンツを作る方がいいのではないかという趣旨の発言をしていた。

・VR専用コンテンツって面白いの?
 面白いかどうかは個人によるが、個人的には、これまで通常の平面の映像体験としてはコンテンツとして重要視されなかった表現が、VRでは新たな生命を吹き込まれる可能性があることに魅力を感じている。
 例えば日本のOculus VR向けコンテンツのシーンでは初音ミクなどの3Dキャラクターを使ったものがよく見られるが、これはまさにVRの特徴をよく捉えていると思う。ただ3Dキャラクターが座っていたり踊ったりする様子を平面の映像体験として見ても驚きはあまりないが、VRによって自分のすぐそばにいて、自分が本当に見ているように感じられることで、体験としての性質が変わってくるからだ。

 VR体験とは異なるが、映画「ゼロ・グラビティ」が「宇宙で大事故が起こったので帰るために奮闘する」というシンプルながら新奇性があまりないテーマにもかかわらず高評価を受けたのも、3D効果を巧みに使った孤独感の演出や、一人称視点の3D立体視などを駆使して、没入感を高めた点が大きいと思う(個人的には2D、しかも小さい画面で見るとあんまり面白くない)。

 ちなみに、ゲームだけじゃない新たな映像体験としてのVRへの関心も高まっており、実際にVR向けの“映画”コンテンツの開発も進められている(カメラマンのカメラワークに依らない映像体験を“映画”と呼ぶのかわからないが)。

・一人称視点酔うし。
 酔いは確かに問題。実は“FPS酔い”があるように、VR体験ならではの“VR酔い”の問題があり、現在の研究ではいかに酔いの原因を減らしていくかが最大のテーマのひとつ。Oculus Riftの初期プロトタイプから現在まででも、かなりの改善がなされてきた。
 Oculus Riftも、Project Morpheusも、どちらもまだ開発機の段階で、一般用の市販品を発売するまで、酔いの原因を限りなくゼロに近づける戦いが続いていくだろう。ちなみにフレームレートがショボかったりすると簡単に酔う(顔が動いた時に、脳が予測するイメージと表示されているものにズレが起きると酔う)ので、低スペックPCで無理やり動かしたりするのはダメ、ゼッタイ。

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▲タイムワープ法は、イメージの処理時間中(ミリ秒単位)に起こるズレを補正するためのOculus Riftのアプローチのひとつ。CGのレンダリング中に動いた分、表示前に補正をかける。

記者泣かせな特性――我々はまだ語る言葉を持っていない

 「なんかわかったような、さっぱりわかんないような……」と思ったアナタ、正解! 正直に言ってしまうと、すでに知られている感覚描写を利用して理屈を並べることはできるのだが、VRの魅力を文字で完全に伝えるのは(少なくとも今のところ)不可能に近いと感じている。
 むしろ、映画やゲームなど、平面の映像体験を語るために発達してきた言葉では捉えきれない新しいものがあるからこそ、これだけ注目されているのだとご理解いただきたい。

 なので、去年書いたように「百聞は一Riftにしかず」、今日もくり返し書いているように要は体験してみるしかないのだが、Project Morpheusを体験できるのはまだまだ先になりそうだし、まずはゲーミングPCとOculus Riftの開発機を買ってきて……というのも酷な話。

 そこで国内のOculus Rift開発者有志が開催している体験イベント“Ocufes”などに参加してみるのをオススメしたい。直近では3月29日に大阪で開催される模様で、ニコニコ超会議3にも出展予定があるとか。前述したように、日本のシーンは体験の本質をうまく掴んだ独自の進化を遂げているので、どんなものかを把握するには最適だと思う。

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▲パーシスタンスは改善点のひとつ。残像感を減らすことで、より現実感のある体験になる。

 なお、開発キットの第2世代品“Development Kit 2”は7月以降の出荷なので、少なくともそれまで体験できるのは第1世代のキット。
 第2世代品は解像度以外にもチラツキや残像感の低減、ポジショントラッキングなど、あらゆる面でパワーアップしているので、体験したあとはその分の伸びしろを足して想像してほしい。

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▲ポジショントラッキングはOculus Riftの進化のひとつ。これにより頭の回転角度だけでなく、移動も検知できるようになった。Morpheusも同様の機能を搭載。

 ちなみに、GDCで両方を体験した範囲では、Project MorpheusもDevelopment Kit 2と基本的にほぼ同じような精度の体験ができると感じた。製品化に向けて変わってくる部分もあると思うので現状での単純な比較はできないが、どちらもそれぞれちょっとした違いや長所があるという感じ。

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▲おまけ。Morpheusの発表時に示された、ソニーの過去の実験の数々。以前から独自の研究を進めてきたことがうかがえる。

 プラットフォームの性質の違いもあり、例えばProject MorpheusはPS4とデバイスを買ってきたら一定のフレームレートで動作することが保証されているというのは、コンソール(家庭用ゲーム機)でのVRならではの優れている点。逆にOculus Riftの場合は、開発機があればライセンスなしに誰でも開発できるので、自由なコンテンツが期待できるという点も魅力的だ。
 まぁ早く東京ゲームショウとかでどっちもデモ出展されたりするといいと思うんですがね!(文・取材・写真:ミル☆吉村)