プロトタイプでありながら、すでに結構イケてます!

PS4用VRヘッドマウントディスプレイ“Morpheus”を体験! 吉田修平氏らがこだわったのは“使いやすさ”【GDC 2014】_01

 アメリカのサンフランシスコで開催中のゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)。
 昨日カンファレンスで発表されたソニー製のVRヘッドマウントディスプレイ“Project Morpheus”は、本日からブースでのデモも開始され、朝からデモのためのチケットの争奪戦となるなど、開発者向けのプロトタイプでありながら大きな注目を集めている。

 ……というわけで、本誌でもデモを体験してきました! 記者がプレイしたのは、CCP Gamesの『EVE: Valkyrie』と、SCEロンドンスタジオによる技術デモ『THE DEEP』。

 装着してみてまず気がつくのが、着けやすさや軽さといった部分。ヘッドバンドをゆるめてかぶり、後頭部から支えるバンドを締めながら調節できるのだが、バンドでうまく重量が前後に分散されて、実際の重量(そんなでもない)に比して装着感が軽いという辺りは好感。

 さて、肝心のVR体験の部分だが、記者は『EVE: Valkyrie』は都合3回目の体験。アイスランドで初お目見えのタイミングでOculus Riftの第1世代の開発キットでプレイし、今年1月にCESでRiftの高解像度になった通称“HD版”でプレイ。そして今回Morpheusでのプレイとなる。なので、勝手知ったるこちらを中心に書いていこう。

 『EVE: Valkyrie』は宇宙空間でドッグファイトするフライトシューティングゲームで、ゲームが始まると、すぐに自分がコックピットにいるのに気がつく。
 基本的に、現行のVRヘッドマウントディスプレイは3D立体視と、頭の動きに視界を追従させるヘッドトラッキングによって成り立っており、頭を動かしてプレイキャラクターの手元を見ればその通りに視界が動き、後ろを振り向けばコックピットの後ろが見える。
 戦闘が始まると、宇宙を自在に飛びながら、機銃やロックオンミサイルで敵機を落としていく。ロックオン動作は機首方向ではなく、注視している方向に対して行えるので、敵機の方に顔を動かし、“前方に飛びながら、上方を横切っていこうとしている敵機をロックオン”といったことも行える。うまく撃墜できると気持ちいい。

 この、自分の視界がゲーム世界の中に飛び込んだような一体感(ヘッドトラッキング)と、3D立体視による物体の実体感が合わさることで、新たなレベルの没入感が味わえるのがVRの仕組みだ。

PS4用VRヘッドマウントディスプレイ“Morpheus”を体験! 吉田修平氏らがこだわったのは“使いやすさ”【GDC 2014】_03
PS4用VRヘッドマウントディスプレイ“Morpheus”を体験! 吉田修平氏らがこだわったのは“使いやすさ”【GDC 2014】_02
▲360度対応ということで、後ろに振り向けば視界も後ろに。プレイヤーがどんな視界で遊んでいるかはTVに出力されているので、周囲の人もその様子を見て楽しめる。

 だからこそ、VR体験では、その実体感を阻害する要素をできるだけ排除していくことが求められる。例えばヘッドトラッキングの精度はできるだけ実際の頭の動きに対してスムーズであるべきだし、表示の遅延や、残像によって起こる“VR酔い”などに対する研究も、VRデバイスを開発する各企業によって進められてきた。

 では“Project Morpheus”でのプレイはどうなのかと言うと、ヘッドトラッキングなどはスムーズで、違和感もあまり感じなかった。確かに注視すると僅かにディスプレイのピクセルを認識できたり、大きく頭を動かした際に少しブラーがかかっているように感じたシーンはあったものの、どんなVRデバイスでも多かれ少なかれある部分だ。
 むしろ、まだ開発用のプロトタイプでしかないにもかかわらず、総合的に言ってかなりの体験がすでにできていると思う。もちろん、製品化に向けての性能向上にも期待したい。

 あらためて感じたのだが、やっぱり、行ったことのない世界に入っていけるというのは楽しい。宇宙のドッグファイトの『EVE: Valkyrie』に対して、『THE DEEP』はケージに入って深海を降りていくという静かな雰囲気のデモなのだが、こちらも、人間を意に介さず泳いでいる魚たちを気ままに眺めたり、暗い海の底からサメがヌッと現れてくる瞬間にギョッとしたり、世界が本当にそこにあるかのような雰囲気をともなって体感できる。
 これはいくら言葉を尽くしても、VR体験のインパクトには及ばないので、もしいずれ一般の人が体験できる機会がやってきたら、あなたもぜひやってみてほしい。

PS4用VRヘッドマウントディスプレイ“Morpheus”を体験! 吉田修平氏らがこだわったのは“使いやすさ”【GDC 2014】_04

 ちなみに“Project Morpheus”は、メガネをしていても簡単に被れるように設計されている。家庭用ゲーム機の周辺機器として、こういった使いやすさの点でさまざまな配慮がなされているのは嬉しいところだ。

 SCEワールドワイドスタジオのプレジデント、吉田修平氏に話を聞いた際も、誰でも使えるVRデバイスを目指すべく、使いやすさの向上をかなり意識しているとのことだった。
 吉田氏はPS4のSHAREボタンによるストリーミングの簡単さを例に挙げ、すでに詳しい人なら実現可能なことでも、ハードルを下げて幅広い人に向けて提供することの重要性について触れていた。
 個人的に、PS4以上にゲームのストリーミング配信が簡単な環境はそうそうないと思うのだが、“Project Morpheus”が同じように、誰でも楽しめるVR環境を提供することになるのであれば、非常に素晴らしいことだと思う。

 なお、Morpheus向けの開発はPS4のライセンスで行うことができ、インディー開発者の参加にも期待しているという。
 これは、体験としての比重が大きいVRゲームでは、単に既存ゲームをそのままVR化しても魅力を十分に発揮できないので、せめてVRへの最適化を行うか、さもなくばVR専用タイトルとしての開発をやった方が早いという考えがベース。
 それを踏まえた上で、インディー開発者の場合、大手のタイトルと比較すると予算や人的資源が限られている関係上、逆に思い切ってどんな世界を見せたいかに注力できるので、体験としての比重が大きいVRにとくに向いているのではと語っていた。

 PS4の開発ライセンスを持たない一般の人がUGC的にVRコンテンツを作れるかどうか聞いてみたところ、PS Mobileのような幅広い人が開発できる仕組みが、PS4そのものに拡大されるようなことがあれば可能ではあるものの、「現状ではちょっとそこまで行っていないですね」との回答。基本的にはPS4の開発ライセンス次第ということのようだ。

 一方で、VR用に作っているわけではない一般タイトルのVR対応は必ずしもナシというわけではなく、単に何十時間もMorpheusでプレイするようなものよりも、元のゲームの素材などを活かした形でおまけ的なVRモードをつけるとか、DLCで追加するといった形で提供する方がいいだろうとの考えだった。

 既報の通り、Morpheusの位置を検出するトラッキングは、Morpheus内蔵のセンサー(加速度、ジャイロ)とPSカメラの組み合わせで行っている。実はPSカメラは、ストリーミングなどで行う映像の撮影だけでなく、Morpheusの位置検出で活用することも意図していたそうで、このプロジェクトが周到に用意されてきたことがうかがえる。
 PSカメラでの検出の仕組みは、PS MoveやDual Shock4などと同様に、機器から発せられた光をもとに行っている。Morpheusの後頭部部分にも検出用のライトが仕込まれているので、後ろを振り向いても検出可能というわけだ。
 また方式が同じであるため、過去にPS MoveやDual Shock4の検出を行ったことがある開発者なら、簡単に対応することができるという。
 
 水平視野角が90度である点について、よくOculus Riftの110度と比較した質問をされるそうだが、同じディスプレイパネルで考えた場合、視野を覆う範囲を増やそうとしすぎると、端っこの部分の絵がレンズで歪みすぎるといったデメリットもあるため、無理に増やさずに視界が覆われる没入感とのバランスを取ったのが今の数字とのこと。

 最後にあらためて、「家庭用ゲーム機でのVRに一番期待するものは」と聞いて返ってきたのは、やはり「誰でも扱える」ということ。どんな人でも魔法のようなゲーム世界に視界ごと飛び込める日が、やって来ようとしている。(文・取材:ミル☆吉村)