複数の作品で広がるEVEユニバース

 子どものころからいちばんの好物は最後まで取っておくタイプだった――。などといきなり書きだすと、「何のこっちゃ?」と言われそうだが、これは東京ゲームショウ2013での話。とにかく、数多くのタイトルがお披露目された東京ゲームショウ2013だが、筆者がもっとも気になったタイトルの1本がCCP GamesのPC向けシューティングゲーム『EVE: Valkyrie』。厳密に言うと、会場に出展されていたわけではなくて、近接のホテルでプレゼンが行われたのだが、「ゲームの未来はこんなふうになるのかなあ」と、いままでにないプレイ感覚に驚愕することしきり……。というわけで、いちばんの好物は最後まで取っておくタイプであるところの筆者は、“満を持して”とばかりに『EVE: Valkyrie』の取材リポートをお届けする。

 『EVE: Valkyrie』の説明をするには、少しばかり前置きが必要になるだろう。『EVE: Valkyrie』は、タイトルからもご想像がつく通り、CCP Gamesの看板タイトル『EVE Online』(PC専用)の世界観に連なるタイトル。『EVE Online』は、運営開始から10年以上を経た現在もなお世界中でユーザー人口を増やしつづけているMMORPGで、その自由度の高さに熱心なファンも多い。一方で、2013年5月からは、プレイステーション3で基本プレイ無料のFPS『DUST 514』の正式サービスもスタートしており、こちらは、『EVE Online』と同じ作品世界“EVEユニバース”を舞台に、最大16人対16人の対戦が楽しめる。なお、国内では、『EVE Online』は2012年3月からネクソンが窓口になって日本語版の配信をスタートしている。『EVE: Valkyrie』は、VR技術により実際に操縦しているような感覚を楽しめるシューテイングゲーム。今年のE3やgamescomなどでお披露目され、大きな話題を集めた1作だ。現状PC向けに開発が進められているが、将来的にどのような形で発売されることになるのが、まったくの未定だという。『EVE Online』とのつながりがどうなるのかも明らかにされていない。

 まずは、『DUST 514』と『EVE: Valkyrie』の最新動画からお届けしよう。

 『EVE Online』、『DUST 514』、『EVE: Valkyrie』と、それぞれジャンルがまったく異なるゲームだが、単純に世界観を共有するだけでなく、各タイトルでのユーザーによるプレイ内容が、EVEユニバース全体の出来事に影響するという、とにかく壮大な世界観を持っているのだ。その壮大さは、とにかく簡単には説明できない(!)ので、その片鱗だけでも触れていただこうということで、ファミ通.comで紹介した“EVE Fanfest 2013”のリポート記事を紹介しておこう。“EVE Fanfest 2013”は、年に1回CCP Gamesの本社があるアイスランドのレイキャビックで行われているファン向けのイベント。なお、こうしたファンイベントに代表されるように、とにかくファンを大事にしているのがCCP Gamesでもある。

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『EVE: Valkyrie』へとつながる道――キーパーソンに訊く『EVE Online』の尽きせぬ魅力とは?_14
▲『DUST 514』のクリエイティブ・ディレクター、アトリ・マール・スヴェインソン氏。

 さて、複数のタイトルによって、EVEユニバースの作品世界がどのように広がっていくのか? 今回取材させていただいたのは、東京ゲームショウ2013に合わせて来日した、CCP Gamesのアトリ・マール・スヴェインソン氏。スヴェインソン氏は、『DUST 514』のクリエイティブ・ディレクターで、『EVE Online』のプロモーションにも関わってきた、EVEユニバースの世界観を知り尽くしている方だ。現在はCCP Gamesの上海オフィスに在籍している。せっかくの機会なので、『EVE Online』の魅力なども含め、お話を聞いてみた。広がるEVEユニバースの可能性とは?

プレイヤーの数だけ遊びかたがある『EVE Online』

──初めて本作のことを知る人のために改めて伺います。『EVE Online』って、そもそもどのようなゲームなのでしょうか。

スヴェインソン シングルのサーバーで運営されている初めてのゲームです。『EVE Online』の舞台は“ニューエデン”と呼ばれているんですけど、7000の太陽系に67000の惑星が存在します。わたしたちはニューエデンの中で何かを行えるツールを提供していて、プレイヤーはそのツールを使って自由なゲームプレイを楽しめます。他のプレイヤーをやっつけたり、騙し合ったり、宇宙を探索して写真をブログに掲載したりと、プレイヤーはそれぞれ自分のプレイスタイルでEVEユニバースでの生活を楽しんでいます。また、4000人ものプレイヤーが参加する大規模な艦隊戦も行われています。

──プレイヤーが望めば、悪者にもなれるということですか?

スヴェインソン ハッキングなどの違法行為には対処しますが、ゲームプレイの内容そのものに関してはノータッチです。よくプレイヤーどうしで突発的な共同作業が発生するので、見ている側としては非常に楽しいです。

──共同作業というと?

スヴェインソン たとえばタイタン級という最大級の艦船を、大勢のプレイヤーが共同で1年~1年半かけて製造したりします(こちらはゲーム内史上初めてタイタン級の艦船を製造するためにかかった時間となります。現状では製造だけでは、リアルタイムで8週間を要します)。タイタン級の艦船を製造するには、まず資源が必要なので、他のプレイヤーが集まった共同体と交渉して、資源の流通を確保しなくてはなりません。ひとりひとりのプレイヤーは、資源を確保したり、運搬したり、兵士として支配エリアを守ったり、あるいはスパイになって敵の動きを味方に報告したりと、役割はそれぞれまったく違います。

──多くのプレイヤーをまとめるリーダーも存在するのでしょうか。

スヴェインソン コーポレーション(いわゆる“ギルド”や“クラン”に相当する会社組織)ごとにCEOやさまざまな権限を持つディレクターが存在し、複数のコーポレーションが集まって結成されるアライアンス(同盟)にもリーダーがひとりずつ存在します。

──現実と同様、簡単には神や英雄になれないですね(笑)。

スヴェインソン マーケットの専門家になったり、単純に敵を倒すことをゴールにしたりと、目的はプレイヤーによって違います。たとえば「メディアレポーターとしてトップを目指す」といった目的さえあれば、それになれる自由があります。

異なる作品でひとつの世界を共有する

──アップデートは頻繁に行われているのでしょうか。

スヴェインソン 定期的にパッチを配信しているんですけど、年に一度、エクスパンションをリリースしています。今度の冬にリリースするエクスパンション(『EVE Online: Rubicon⇒詳細はこちら)は、今後3~5年がかりで実装することが予定されているロードマップの第一歩です。また『EVE Online』のロードマップに合わせて、『DUST 514』も毎月のように更新しています。プレイヤーからのフィードバックに応えて、コンソールゲームの中では類を見ないペースで更新しています。

──『EVE Online』と『DUST 514』が互いに影響し合うということですか?

スヴェインソン まったく別のゲームがリンクしているのではなく、ひとつの世界を共有しています。チャットシステムとか、マーケットといったシステムが、同じサーバーの中で連動していると捉えていただければと思います。これはゲームズコム(ドイツで開催される欧州最大のゲーム見本市)で実際に聞いた話なんですけど、ある夫婦に「どのようなゲームをプレイしているんですか?」と聞くと、男性はをずっと『EVE Online』プレイしていて、奥さんは『DUST 514』をプレイしているとのことでした。奥さんは『DUST 514』で大きなコーポレーションを設立して、惑星をどんどん制圧しています。一方、旦那さんも『EVE Online』で中程度のコーポレーションを運営していて、いつも奥さんが『DUST 514』で惑星を制圧するたびに、旦那さんが『EVE Online』から援助しています。旦那さんが奥さんからの命令を受けているのかわからないですけど(笑)、プレイヤー同士の裏切りもあるEVEユニバースの世界で、このような美しい話が聞けるのは非常にうれしいことです。

──プレイヤー間の連携が重要なんですね。

スヴェインソン たとえば以前、(『EVE Online』で)あるアライアンスが惑星の制圧権をすべて確保して、一人勝ちしているような状態がありました。その後、他のアライアンスが手を結び、何千ものプレイヤーが訓練を行ったり、プロパガンダを展開して大規模な戦闘が行われた結果、勢力図が大きく塗り変えられました。

──ゲームとは思えないスケールの話ですね。

スヴェインソン たまにわたしたちもそう思います(笑)。プレイヤーのフィードバックから、バトルをもっと長くしたり、より大規模にしてほしいという要望もありますので、今後のアップデートに向けて検討しています。

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▲プレイステーション3用で基本プレイ料金無料で提供されているFPSの『DUST 514』。

開発中の『EVE: Valkyrie』はどうなる?

──現在開発中の『EVE: Valkyrie』は、どのようなゲームになりますか?

スヴェインソン 現段階で『EVE: Valkyrie』の詳細をお伝えしたくないのではなくて、単純にどうなるかわからない部分がおおいにあります(笑)。公式にアナウンスしたのも、E3(アメリカで開催される世界最大のゲーム見本市)やgamescom(ドイツ・ケルンで開催されるヨーロッパ最大級のゲームイベント)での盛り上がりを受けて決まりました。現在は『ミラーズエッジ』を手がけたオーウェン・オブライアン氏を招いて、『EVE: Valkyrie』をどのようなゲームにするのか、どのようなビジネスモデルにするのか検討している段階です。

──『EVE: Valkyrie』の技術デモが公開されましたが、他にも新しい技術の研究は進められていますか?

スヴェインソン たぶん(笑)。開発者たちは一定の期間の中で、最先端技術を使いながら開発を進めています。たとえば、レンダリングのアルゴリズムだったり、技術デモだったり。『DUST 514』の開発もいっしょで、つぎのアイディアとして何が必要なのか、ずっと考えられたうえで出来上がったものです。どのような結果につながるかわからない技術であっても、新しいことに取り組んでいく姿勢はつねにあります。

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▲技術検証からスタートしたという『EVE: Valkyrie』は、極めてCCP Gamesらしいアプローチからスタートしたプロジェクトと言える。今後の展開が気になるところだ。

VR技術を使った『EVE: Valkyrie』を体験

 取材の最後に、『EVE: Valkyrie』のデモを実際にプレイすることができた。『EVE: Valkyrie』は宇宙船に搭乗してドッグファイトをくり広げるシューティングゲームで、VR技術により実際に操縦しているような感覚を楽しめるのが特徴。視線を見たい方向へ向けると、ゲーム画面も頭の動きに連動して変化する。コントローラーによる操作方法そのものは、従来型の主観視点のシューターと同じ感覚だが、視線を巡らせて対戦相手の位置を把握し、攻撃や回避を行なう臨場感はかなり新鮮だった。アーケードの体感型ゲームが、そのまま自宅で遊べるという印象だ。

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▲ヘッドマウントディスプレイとヘッドフォンを装着して、『EVE: Valkyrie』をプレイ。一見、電脳世界に飛び込んでいるみたい。従来とはまるで異なるゲーム感覚を味わえる。

 『EVE Online』は、10周年を記念したスペシャルパッケージ『EVE: The Second Decade Collector’s Edition』が10月24日に発売予定。『EVE Online』や『DUST 514』の特典ゲームアイテム、記念本、艦船型のUSBハブ、カードゲームなどがセットになっており、公式ストアから日本への配送も受け付けている(⇒詳しくはこちら)。『DUST 514』は、プレイステーション3、またはプレイステーションネットワークでプレイできる。基本プレイは無料なので、ハードとネットワーク回線があればすぐに体験可能だ。

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▲10周年を記念したスペシャルパッケージ『EVE: The Second Decade Collector’s Edition』は、まさにファン必携のアイテムと言える。
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▲『EVE: The Second Decade Collector’s Edition』と撮影。

(取材・文:ライター/ムライサトシ)