アイスランドのレイキャビクで4月25日から27日にかけて行われた、CCP Gamesのオフラインイベント“Fanfest 2013”。
 PC用オンラインゲーム『EVE Online』が10周年、そしてプレイステーション3のFPS『DUST 514』が正式サービス間近ということで、さまざまな発表が行われ、その内容については本誌でもお伝えしてきた。

 というわけで最後にボーナストラックということで、同社CEOのヒルマル・ヴェイガル・ピェトルソン氏と、『EVE Online』エグゼクティブ・プロデューサー(5月で退任し、モバイル部門の指揮を取る予定)のジョン・ランダー氏へのインタビューの模様をお届けする。
 基調講演前の収録だったりするせいで中々核心はつけなかったのだが、プラットフォームをまたいで同じ世界を共有するふたつのゲームを運営する同社が今何を考えているのかがわかるかも?

次の挑戦はモバイル強化? 10周年を迎えた『EVE Online』のCCP Gamesトップを直撃【EVE Fanfest 2013】_02

――今年は『EVE Online』10周年ということで特に気合が入っているのでは?
ヒルマル・ヴェイガル・ピェトルソン氏(以下、ピェトルソン) その通りですね。
――ジョン・ランダーさんが『EVE Online』エグゼクティブ・プロデューサーから外れてモバイル担当になる予定ということで驚いたのですが、これからCCPとしてモバイル分野を強化していくということでしょうか。
ピェトルソン モバイルのマーケットは大きいですし、『EVE Online』や『DUST 514』にモバイルで何かできればいいのですが、今年のFanfestではまず『DUST 514』のローンチと『EVE Online』を次の10年間に進めるということをまず重要視しています。モバイル方面では、今年はまずモバイルで何をすべきかという戦略を練って、発表などは来年していくという形になると思います。
――モバイルの処理能力はどんどん上がっていますが、一方で市場は大きいものの高価なアプリというのは余りなく、F2P(基本プレイ無料)も多かったりします。『DUST 514』でF2Pに挑戦したのはいい練習になりそうでしょうか?
ピェトルソン 今の段階でどういうビジネスモデルを使うかはまだお話できませんが、『EVE Online』の定額モデルと『DUST 514』のF2Pモデルの両方から学んだことを活かして最適なモバイルのマーケティングが行えると思います。

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▲最終日に『DUST 514』の正式サービスを5月14日にスタートすることを発表。

――『DUST 514』のβ期間が長く続いていますが、現在のステータスをどう考えていますか?
ピェトルソン なぜ早い時期からβテストをやっているかというと、ふたつのゲームが繋がっているという複雑な問題を抱えている中で、どういう風に解決していくか、プレイヤーコミュニティとともにじっくり取り組む必要があると考えているからです。今度のUprisingから正式サービスまでの間もフィードバックを見て行きたいですし、それで納得出来ればタイミング次第でパッと切り替えられると思います。
――この10年はマルチプレイのゲームが伸びた時期だと思います。『EVE Online』もその流れに沿って成長してきたわけですが、次の10年で何が起こると思いますか?
ピェトルソン ゲーム業界で何が起こるかというのは余り気にしていないんです。『EVE Online』はゲームでもあるし、MMOでも、ソーシャル的なサービスでもあって、色んな物が複雑に組み合わさっています。その中で、つねに技術の最先端を追求しつつ、こうしてFanfestなどでユーザーの皆さんと交流し、フィードバックをもらいながら、EVEユニバースを成長させていきたいと思います。

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▲『EVE Online』を題材にしたTVシリーズの制作や、10周年記念パッケージなども発表に。
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――エグゼクティブ・プロデューサーから退任することが発表されましたが、経緯を教えて下さい。
ジョン・ランダー氏(以下、ランダー) 2011年から2年間かけて、次の10年間を目指した組織と開発能力の強化を行って来たが、この2年間でチームは(自分がいなくても)ちゃんといいものを提供できるものになったし、現状のEVEは自分として以前より満足できるものになってきていると感じている。
 以前からモバイルによっていつでも繋がる世界に以前から興味があったのだが、自分としてもCCPとしても、そしてプレイヤーの皆さんのためにも、次の10年間でよりEVEの世界を大きくするために、今がモバイルへ挑戦するいい機会だと考えているよ。

――EVEの世界にいつでも関われるようなアプリを作っていくのでしょうか?
ランダー 現在はまだ『EVE Online』のエグゼクティブ・プロデューサーなので、直近のエクスパンションであるOdysseyを直視している。なのでまだ具体的なプランはないんだが、2003年に『EVE Online』をサービス開始した時に考えていたような、みんながいつでもアクセスできるようなことは何か実現したいね。

――Odysseyで重要と考えているポイントは何でしょう。
ランダー 詳細な内容は金曜日の基調講演で発表することになりますが、2003年当時は「この世界には何があるんだろう」と思いながら宇宙に飛び出したものが、今ではGoogleで検索して詳細にわかってしまう。SFであること、宇宙船のゲームであること。何があるかわからない世界への探検や発見のワクワク感。ゲームをしなくても、そういった想像をもう一回取り戻したいと思っているんだ。
 一方で、10年間も継続した分だけコンテンツがあって、遊びきれないほど様々な層が積もっている。宇宙に飛び出した時に何があるか簡単にアクセスできるように機能を追加していくのも重要だね。それと、Retributionから続いている艦船の再バランスもやっていくし、資源についても流動化が進むように変更を加えて行きたいと思う。

――『FTL』とか、クリス・ロバーツの『Star Citizen』とか、また宇宙船のゲームが来ている感じがしますが、ああいった新しく出てきたゲームに刺激を受けることはありますか?
ランダー もちろんあるね。SFの世界に入りたいというのは誰しもが思うことで、現実世界のゲームを作ったとしても、何をしなければいけないのがはっきりしている一方で、現実世界のような制限も受けてしまう。
 SFだと無限の広がりがあるのがいい。CCPではこの宇宙を10年間もかけて拡大してきた。新しいSFのゲームにはどの方向に拡大していけばいいかわからない難しさがあるが、『FTL』などはシンプルだし、そういった所から徐々に広げていくのもいい。そこにSFゲームを作る魅力があるんじゃないかな。クリス・ロバーツがまたSFゲームを作ったり、新しいゲームが出てくるのは嬉しいよ。個人的にも遊びたいからね(笑)。

――『DUST 514』との繋がりがまだちょっと弱いと思うのですが、『DUST 514』を待っている側面もあると思います。『EVE Online』の側で『DUST 514』への準備はできていますか?
ランダー もちろん。その先の話し合いもしていて、2週間ほど前に両方のトップで4時間ぐらい打ち合わせをしたんだ。次の3年間で我々が何をできるか議論したんだが、本当に早く遊んでみたい、思わず唖然とするだろう要素などもあったよ。そして、そういった先の話ができるのは、両者を繋ぐ基本的な部分の開発がちゃんと進んでいるからだよ。

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▲インタビュー実施後の基調講演で、『DUST 514』プレイヤーの戦闘が本格的に『EVE Online』の領土獲得と連動する惑星支配の要素が、最新アップデート“Uprising”から導入されることが発表された。(うーん、タイミングが悪い……)

というわけで……。

 まぁ予告通りちょっとふわっとした内容になってしまったが、各種基調講演の内容などと合わせて考えると、今後の方向性がいろいろ予測できるのではないだろうか。

 『EVE Online』については、基調講演の内容からも察せられるように、昨年のFanfestで提示した「本作は宇宙船のゲームである」という指針を軸に各コンテンツの整理を進めつつ、流動性の向上と活性化(採掘関連の調整がいい例)をまず目標としている模様。その上で長期的戦略として画期的なゲームプレイ要素の追加などを探っていくのだろう。
 インタビューではジョン・ランダー指揮下での『EVE Online』の立て直しに一定の手応えを感じている様子だった。同氏の退任は今後の方向性に目処がついたからだと考えられる。

 『DUST 514』についても、まずは本作の売りでありながら遅れていた『EVE Online』との連動性を、惑星支配をめぐる攻防で着地させ、正式サービスの開始も決定。
 フィードバックを元に一部有料コンテンツの撤廃(詳細はこちら)などの処置も行いつつ、順次コンテンツの拡充(協力プレイの対コンピューター戦やアリーナモードなど)を行なっていくようだ。

 モバイル方面での展開については、独自コンテンツになるのか、本編に近い操作ができるものなのか、あるいはデータアクセスなどを行うアプリなどになるのか、有料・無料も含めてまだ不明の部分が多いが、こうした流れを踏まえつつ、両タイトルで共有するEVEユニバース(宇宙)に何らかのアクセスを行うものであるのは疑いない。

 仮に無料のアプリ/サービスだとしても、プレイヤーが常にこの世界と繋がっている感覚を提供することで、プレイヤーの忠誠心や没入感を高めるものであるはずだ。というのも、この宇宙は、プレイヤーが何をするかこそがもっとも魅力的なコンテンツとなっているからだ。ひょんなことから3000隻弱もの艦船が突如戦闘に突入とか、たったひとりの企みで巨大グループがあっという間に消滅といった『EVE Online』ならではの事件・逸話を聞いたことがある非プレイヤーもいるだろう。

 そういった部分では、プレイヤーから集めたエピソードを題材にしたTVシリーズ制作を発表したのも、ゲームとTVドラマを並行で走らせるTrion Worldsの『Defiance』のマーケティング戦略のEVEらしい応用だと言える。今後両タイトルがどのように発展していくのか、興味深いところだ。