アップルが2023年2月2日から北米で先行発売している空間コンピューター“Apple Vision Pro”を、ハワイ・アラモアナショッピングセンターにあるアップルストアへ買いに行った。

 筆者は2023年6月にアップルの開発者向け会議WWDCでApple Vision Proが発表された際も、一度、現地で体験している。その時には「現存する没入型ヘッドセットの最高峰。これを超えるデバイスはしばらく出ない」という感想を抱いた。半年以上待ち続け、50万円を超えるデバイスであるが、わざわざハワイに出かけて購入したのだ。

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iPhoneの登場以来の革新かもしれない

 17年前、iPhoneが登場したことでインターネットが激変したように、Apple Vision Proが発売されたことで、ゲームやエンタテインメント業界は一変する可能性が出てきた。

 目の前に表示される没入感のグラフィックは、これまでのヘッドマウント型端末に比べて遥かに美しい。ソニー製の片目4Kディスプレイを採用しており、写真や映像だけでなく、文字もクッキリと読むことができる。

現存最高峰ヘッドセット“Apple Vision Pro”を購入。アップルのテクノロジーで進化するゲームとエンタメの可能性を考える
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 これまでのVRやMRデバイスはどちらかというとゲームや『VRChat』などを楽しむための専用デバイスという位置づけが強かった。

 Apple Vision Proの場合、“空間コンピュータ”として、MacBook同様、さまざまなアプリを使うというのが前提だ。人によって使いかたが異なり、あらゆる人のニーズを満たしてくれる“汎用デバイス”と言えるだろう。

 実際にディズニー+で3D映画を鑑賞すると、じつに自然な映像として3Dを楽しむことができる。これまで3D表示が可能なスマホやテレビなどは販売されてきたが、3D体験としては明らかにApple Vision Proでの体験に軍配が上がる。

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3D映像のイメージ。
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発表時に紹介されたシンデレラ城のイメージ。

 また、NBAなどバスケットボール中継を観戦する際には、メインの中継映像だけでなく、各チームの成績などの画面を同時に空中に浮かして表示できる。

 個人的にはF1観戦が好きなので、F1のメイン中継画面を見つつ、その隣にオンボード映像、さらにサーキットにどのドライバーが走っているかのグラフィックなど、複数画面を同時に空中に表示して、レースを楽しみたいと思う。

 これまでもMacBookで複数の画面を立ち上げることはできたが、それぞれが小さく表示されてしまい、満足度はかなり低かった。しかし、Apple Vision Proであれば、すべての画面を大きく、同時に空中に表示できるので、欲しい情報をすべて見ながら観戦できるという楽しみが出てくるのだ。

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目と手だけで操作できてしまう。直感的すぎる操作

 ゲームに関しては『Fruit Ninja』が『Super Fruit Ninja』としてApple Vision Pro向けに配信されている。

 『Fruit Ninja』といえば、スマホやタブレットの画面をスワイプして飛んでくるフルーツを斬っていくゲームだ。これがApple Vision Pro向けとなれば、目の前の空中を飛んでくるフルーツを、左右上下に手刀を振りまくることで斬っていくというゲームに生まれ変わる。

 とにかく驚くのがグラフィックの美しさ。片目4Kディスプレイを採用していることもあり、目の前に現れるフルーツやキャラクターがとても鮮やかだ。

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 実際、部屋の中にキャラクターがいるようにも見えるし、飛んでくるフルーツも立体的で、自分にぶつかりそうな感覚に陥ってくる。

 まさに片目4Kディスプレイの解像度により、ゲームの中に入り込んでしまった錯覚さえ抱くのだ。

 スマホやタブレットなど平面だったゲームが立体になるというのはこれまでのVRデバイスでも実現していた。ただ、Apple Vision Proのゲーム体験で注目すべきは、コントローラーがなく自分の手と目だけで操作できるという点だ。

 Apple Vision Proではアプリやメニューの選択は視線で見つめて、アイコンが反応したら、右手の人差し指と親指をポンとはじくと実行されるという操作方法となっている。

 確かに空中でも直感的な操作ができるのが魅力だが、さすがに細かい操作が必要なゲームには不向きの操作体系だ。

 アップルではApple Vision Proの周辺機器として、プレイステーション5用のDualSense Wireless Controllerを販売している。本格的なゲームプレイはこちらを推奨するということだろう。

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Apple Vision Pro向けゲームの可能性と普及問題

 ここ数年、アップルはMacやiPad向けのSoCを自社で開発し“Mシリーズ”として展開している。省電力かつ高性能ということで、ゲームクリエイターに声をかけ、Mac向けのゲームを制作、配信してもらえるよう積極的な営業活動を行っている。

 Apple Vision ProにはM2チップが搭載されているため、ゲームクリエイターにとってみてもMac向けに加えて、Apple Vision Pro向けに配信プラットフォームを増やしやすい可能性が高い。これによって、Mac向けのゲームがが増えれば、Apple Vision Pro向けにも展開されるということもありえそうだ。

 ただ、一方で気になるのが、Apple Vision Proの普及度合いだ。

 なんせ50万円を超えるデバイスなだけに、そう簡単に普及はしないだろう。今回、北米で発売され今年中にヨーロッパや日本でも発売されると思われる。しかし、販売される台数が少なければ、当然、ゲームアプリを配信したところで儲かりずらい。ゲームクリエイターにとってみれば、赤字になる可能性が極めて高いリスクしかないのだ。

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VisionOSはローンチ時からiOSやiPadのアプリが利用でき。Unityベースのゲームやアプリにも対応予定。

 アップルとしては、ゲームだけでなく、さまざまなアプリがApple Vision Proに流通し、ゲームクリエイターやアプリ開発者に利益をもたらす必要がある。そのためにはデバイスの普及が重要となる。Proの名前がつかないApple Vision(仮)や、安価なApple Vision SE(仮)、軽くて装着感のいいApple Vision Air(仮)を市場に投入していく必要がありそうだ。

 もうひとつ懸念材料となりそうなのが、Apple Vision Proは使用可能な年齢が13歳以上という制限がある点だ。これも既存のVRデバイスと同様の制限だが、Apple Vision Proでは子供向けゲームはあり得ないという点は抑えておく必要がある。

 ジャーナリストの自分やメディア関係者だけでなく、VR業界関係者など多くの人が渡米し、Apple Vision Proを購入し日本に持ち帰っている。さまざまな人がApple Vision Proを体験し、SNSでは概ね好評で誰もが「未来のコンピュータである」と認識しつつある。

 Apple Vision Proは間違いなく“次のMac”ともいえるコンピューターなだけに、廉価版が登場して一般に普及すれば、ゲームやエンターテインメントの巨大プラットフォームになるのは時間の問題だろう。

※一部の画像は発表時トレーラーからの引用。

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