【プロセカ3周年記念シナリオまとめ】アイドルを夢見る高校生と元・アイドルが描くモモジャンの物語を振り返る。再び飛び立つ3人のほつれた糸を結んだのはひとりの憧れ【前編】

　セガとColorful Paletteが贈るiOS/Android向けリズム＆アドベンチャーゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ！ feat. 初音ミク』（プロセカ）が、2023年9月30日をもってサービス開始から3周年を迎えようとしている。

　音楽ゲームとしても、そして練りに練られた物語を堪能するノベルゲームとしても評価が高い『プロセカ』は、この3年の間に膨大な数のシナリオを各ユニットごとに配信してきた。

　“Leo/need”、“MORE MORE JUMP！”、“Vivid BAD SQUAD”、“ワンダーランズ×ショウタイム”、“25時、ナイトコードで。”。

　個性豊かなキャラクターたちの人となりと、その歩みを掘り下げるシナリオは、メインストーリー以外にも“キーストーリー”という形で各ユニットそれぞれ20本（！）も実装。それが、3周年を目前に控えた2023年夏の提供を持ってひと区切りとなり、いよいよ10月からは各キャラが“進級”となって“キーストーリー・第二幕”が始まるのである。

　そんなタイミングだからこそ、このとてつもない量の『プロセカ』のシナリオをここで一度収束し、歴史を整理しようと思った。

　全メインストーリーと、全キーストーリーのあらすじをまとめ、それぞれについての筆者の考察と感想を交えて、ずっと『プロセカ』を追いかけてきた熱い読者にも、進級を機に改めてこのセカイに入ってこようと思っているルーキーにも刺さる永久保存版の記事をここに刻もう。

　この、“【プロセカ3周年記念特集】ユニットごとの全シナリオまとめ！”を読めば、『プロセカ』が歩んできた道筋がすべてわかる。

　Leo/need（レオニ）編に続く2回目は……MORE MORE JUMP！（前編）だ！

MORE MORE JUMP！のメインストーリー

　MORE MORE JUMP！（モモジャン）の物語は、アイドルグループ“ASRUN”の大エースだった桐谷遥 と、遥の大ファンでオーディションに落ち続けている“ふつうの子”、花里みのりが出会うことで動き始める。

　アイドルからふつうの高校生に戻りたい遥と、その逆になりたいみのりとのギャップ。しかもそこに、ともにアイドルから離れてしまった桃井愛莉と日野森雫も加わって……！

　モモジャンの4人の邂逅は、決して平穏無事なものではなかった。むしろ最初はとげとげしく、決して交わることはないのではと思わずにはいられないものであった。

　そんな、ギスギスとした4人の前に現れたのが、ほかでもない初音ミクだった。そのミクの言葉をきっかけにみのりは先輩アイドル3人に練習を見てほしいと懇願し、徐々に……本当に少しずつだが、モモジャンの運命の車輪は回り始めるのである。

　そして、みのりのスマホで輝く『Untitled』という謎の曲。この曲をカギとして、4人だけが行ける空間“ステージのセカイ”の扉が開かれるのである。

　誰も傷つけない、みのりの無垢なまでのアイドルへの想いは、少しずつ3人の心を溶かし始める。遥も、愛莉も、雫も、アイドルを辞めたくて辞めたわけではない。それぞれがのっぴきならない心の問題を抱え、ギリギリまで張っていた糸が切れてしまっていたのだ。そんな糸を紡ぐ役目がみのりであり、ステージのセカイだったのだろう。3人は少しずつ心に折り合いをつけ、ついに……！

　遥、愛莉、雫という3人の“元”スーパーアイドルと、誰よりもアイドルが好きな素人、みのりによるユニット“MORE MORE JUMP！”が誕生する。

キーストーリー：“ここからRE:START！”

あらすじ

　毎日男の子とケンカをするくらいお転婆だった愛莉が、なぜキラキラのアイドルを目指すようになったのか……？　その原点が語られるストーリー。時が経ち、実際にアイドルになれた愛莉だったが、事務所の売り出し方に疑問を感じて一時引退し、その後さまざまな苦難を乗り越えてMORE MORE JUMP！として再始動を果たす。

　そんなモモジャンの存在を広めるために、かつて世話になった大手事務所に営業を掛ける愛莉たち。しかし、ほぼ素人のみのりがいることが足かせになって所属を断られまくってしまう。それでも諦めきれない4人は別の手段として、動画配信などに活路を見出していく。

キーストーリー：“ここからRE:START！”を読んで

　もともと有名だった遥、愛莉、雫の3人に、オーディションに落ち続けていた素人・みのりが加わっているという、ある意味非常にいびつなアイドルグループであるモモジャン。有名な3人だけだったら、引く手あまたで再デビューすることは難しくなかったはず。

　しかし、一度は挫折した3人が再び立ち上がることができたのは、誰あろう、みのりの存在があったからこそ。彼女たちはみのりの存在すらバネとして、さらに大きな“ジャンプ”を見せようとする。

　4人の絆の強固さと、みのりという存在の必要性を、モモジャンの“頭脳”とも言える愛莉のフィルターを通して見ることができる非常に贅沢なイベントストーリー。リアル世界でも、インディーズグループからのし上がって国民的なタレントにまで駆け上がるアイドルは少なからず存在するが、その可能性をモモジャンにも見出せるきっかけとなるストーリーである。

• 書き下ろし楽曲：『モア！ジャンプ！モア！』（作詞・作曲：ナユタン星人）

キーストーリー：“Color of Myself！”

あらすじ

　フリーのアイドルとしてやっていくことを決めたモモジャンの4人は、動画の生配信を皮切りに活動を始めていく。当然、フリーでの活動に疑問を呈する視聴者もいたが、｢どこにいても応援する！｣という声の多さに、気合を入れ直す4人なのだった。

　そんな中、浮かない顔をしていたのはほかでもない雫。以前のグループでは“完璧さ”を求められていた彼女だったが、それはあくまでも作られたイメージで、天然でドジというふだんの雫の姿とはかけ離れたものだった。そのギャップをどうすればいいのか？　岐路に立たされた彼女は、“モモジャンの日野森雫”として、ありのままの姿をファンに見せる。

キーストーリー：“Color of Myself！”を読んで

　その美貌ゆえに雫は、かつて所属していたグループ“Cheerful＊Days”（チアデ）では、“天然でおっちょこちょい”という等身大の自分を見せることを制限されていた。それを、モモジャンでも継続しなければいけないの？　ファンもそれを望んでいるの……？　“自分ではない何か”を演じ続けることに限界を感じてチアデを辞めた雫は、再び同じ岐路に立たされてしまう。

　イメージを崩さないために演じ続けることは、少なくないストレスがかかる。それが苦しかったからこそ雫はチアデを辞め、すべてを受け入れてくれた3人の仲間とモモジャンを結成したわけで……！

　いわゆる“キャラ変”をするのかしないのか、これはとてつもない決断なのだろう。アイドルならぬ一般人では想像もつかないほどの……。けっきょく雫は、モモジャンの仲間や巡音ルカを始めとする“ステージのセカイ”のバーチャル・シンガーたちに背中を押されて、初めて“自分”というものを解放する。モモジャンの雫として、そして“本当の雫”として。そんな、すべてをさらけ出した雫はモモジャンのムードメーカーとして、この後のキーストーリーでいい味を出してくれるのである……！

• 書き下ろし楽曲：『Color of Drops』（作詞・作曲：40mP）

キーストーリー：“届け！HOPEFUL STAGE♪”

あらすじ

　生配信が定着してきて、徐々にファン層を拡大しつつあるモモジャン。しかし、ひとり未経験のみのりは気合が空回りし、認知度も人気も上がってこない。そのせいもあり、心無いコメントはどうしても消えてくれなかった。

　そんな中、遥が古巣時代から仲良くしていたアイドル、早川ななみからコラボ配信の提案を受ける。数十万人の登録者を誇る“ななみん”はアイドルを卒業後に配信をメインで活動しており、ともに切磋琢磨したいという好意からコラボを申し出てくれたのだ。そして、多くの視聴者を前にした初めてのコラボ番組で、またしてもみのりは気合が先走ってしまう。

　ある日、みのりは街中でファンの女の子に声を掛けられる。先輩アイドルについていくために、必死になって練習するみのりの姿にいつも元気をもらっているというのだ。その言葉を受けたみのりは元気を取り戻し、初の配信ライブで躍動する。

キーストーリー：“届け！HOPEFUL STAGE♪”を読んで

　みのりという女の子はおそらく、数いるプロセカのメインキャラの中で、もっともプレイヤーとの距離が近い存在なんじゃないかと思う。アイドル然としたモモジャンの他のメンバーと違い、良くも悪くも素人臭さが抜けないし、考えることもつねにファン目線。ゆえに、“出来る”仲間を横に見れば焦るし、先走るし、空回りもしてしまう……。

　そしてそういった部分も、現実世界の自分に当てはめると非常にわかりやすい。

　｢すぐ近くの実力者と比べられたら……そりゃあ浮足立つよなあ＾＾；｣

　と、鏡に映った自分を見るような感覚で、みのりの行動から目が離せなくなってしまうのだ。

　モモジャンとして初のライブに臨み、それまでの練習の成果を発揮するみのり。画面の向こう側にいるファンにも訴えかけるような見事なパフォーマンスを見て、それまで懐疑的だった視聴者の見る目が変わっていく過程が、じつにリアルに描かれているのである。

• 書き下ろし楽曲：『天使のクローバー』（作詞・作曲：DIVELA）

キーストーリー：“頑張るあなたにBreak Time！”

あらすじ

　フリーのアイドルとして、少しずつ形になってきたモモジャン。さまざまな企画を盛り込んだ生配信も好評で、たいへんながらも4人は充実感を感じられるようになってきた。しかし、アイドルとしての経験が長く、人気も高い遥に負担がかかりすぎているのでは……と雫は心配になる。

　プライベートな時間でも声を掛けられればファンサービスをする遥を見て、｢まったく休まる時間がない｣と不安は募るばかりだった。

　そこで雫は、遥に少しでもオフの時間を作ってあげようと思い立ち、週末を利用した“息抜きの日”を演出しようとする。それでも、強固なプロ意識もあってかいつもの表情を崩さない遥。

　しかし、その日の最後に遥は、前から行ってみたかったというペンギンカフェにメンバーを誘う。そしてそこでようやく、肩の力が抜けた素の表情を見せるのだ。

キーストーリー：“頑張るあなたにBreak Time！”

　モモジャンの中でもとくにプロ意識の高い遥は、生配信の企画運営、振付の練習、自分自身のトレーニング、そしてファンサービス……と、1日のほとんどを“アイドルとして”生きている。その完璧なまでの立ち回りはまさに、みのりが憧れたASRUN時代の遥そのもの。しかし、一時も休まる時間のない遥を見て、同じアイドル経験者の雫が心配する……というストーリーだ。

　モモジャンのストーリーは全般的に、ファンが見ている“アイドルの表の顔”ではなく、ふつうの高校生であり、ふつうの人間である日常の彼女たちを浮き彫りにする方向に舵が切られていると感じる。これ、現実世界でもそうだけど、憧れの人物の素の顔を見られることってファンにとっては何にも勝るご馳走ゆえに、モモジャンのイベントストーリーは極めて人気が高いんだろうなぁ……と思わずにはいられないのだ。

　とくに遥推しの人たちにとっては、この“頑張るあなたにBreak Time！”はたまらない内容だろう。なかでも第8話“幸せの青いペンギン”で見られるバナーイラスト、

　幸せの青いペンギンを抱いて｢ほわぁぁぁぁ～～～(。◕ ∀ ◕｡)｣な表情を見せる遥は、永久保存版のはずだ。この、滅多に見られない“素の”顔に現れている通り、遥はこの経験を経て、走るばかりではなく、ときには休息も必要であることに気づくのである。

• 書き下ろし楽曲：『アイノマテリアル』（作詞・作曲：Junky）

キーストーリー：“ハッピー・ラブリー・エブリデイ！”

あらすじ

　ななみんとのコラボ配信の影響は絶大で、早くもモモジャンにイベント出演の依頼が舞い込んだ。それは、まもなく廃校になってしまう小学校からの依頼で、｢子どもたちの最後の思い出作りに協力してほしい｣というものであった。

　感激して協力を申し出たモモジャンの元には、子どもたちからつぎつぎとお礼のメッセージが届く。とくに、かつてバラエティアイドルとして活躍していた愛莉へのファンレターが多かったのだが、それは愛莉というよりも、作られたバラエティキャラ、“ハッピーエブリデイ”へのものだった。それを見て愛莉は、いまだつきまとう過去の幻影を想って複雑な心境になる。

　それでも、やはり愛莉はプロのアイドルだった。イベント当日、愛莉は子どもたちの希望に応えてハッピーエブリデイの仮面を被り、皆に笑顔を届けるのである。

キーストーリー：“ハッピー・ラブリー・エブリデイ！”を読んで

　元気ではっちゃけた表向きとは裏腹に、じつは切れ者で思慮深いという、非常に魅力的なキャラを持つ愛莉。そんな彼女が、なぜ成功の道を外れ、一時引退という憂き目を見ていたのかを浮き彫りにするストーリーが展開する。

　このイベントストーリーは確かに愛莉がメインのお話だが、じつは遥、雫という同じように成功のレールから外れてしまった“元メジャーアイドル”たちの気持ちも反映させたものである……ということに、読みながら気づかされた。

　この物語の根底にあるのは、“有名になること、目立つことだけがアイドルとしての成功ではない”という、モモジャンの成り立ちそのものに紐づけられる彼女たちの想いで、だからこそこれだけ丁寧な愛莉の心理描写がされているんだろうな……と感じた。

　巧みなアドリブや気の利いた返しができるのは、愛莉がバラエティタレントとしての才能に恵まれている証左にほかならない。しかし、それを抑えてでも表現したかったことが彼女にはあったわけで……！　かつてはどうにもできなかった“イメージと理想のギャップ”を愛莉がどう乗り越えていくのか……？　

　ステージのセカイで鏡音レンからもらった｢バラエティアイドルの愛莉ちゃんも、ちゃんと希望を届けられてたと思うよ｣という言葉を胸に、彼女は再びハッピーエブリデイの仮面を被る。子どもたちと、画面の向こうにいるすべてのファンを笑顔にするために。

• 書き下ろし楽曲：『アイスドロップ』（作詞・作曲：aqu3ra）

キーストーリー：“MORE MORE Making Xmas♪”

あらすじ

　小学校でのイベントを成功させたモモジャンの4人は、頻繁に行われるようになったななみんとのコラボ配信の中でその思い出を語る。すると視聴者からつぎつぎと｢モモジャンのライブイベントに行きたい！｣とのコメントが届く。

　それを受けて4人は、クリスマスと絡めてモモジャンのリアルイベントを開催することを決めるが、予算、スタッフ、会場、作りモノの制作……などなど、とても4人では対処できないほど課題が山積みなことに気づかされる。

　そんなとき、イベント会社で働いているというモモジャンの女性ファンから、｢ぜひ運営を手伝いたい｣という渡りに船な申し出が。しかし遥は、｢ファンにステージ裏の姿を見せるわけにはいかない｣と難色を示すも、ファンも、スタッフも、そして自分たちも笑顔になれないと本当の希望は届けられないと気づいて、ボランティアの申し出を受けることになった。

　そして当日。集まった多くのファンを前に初めてのリアルイベントを成功させるのである。

キーストーリー：“MORE MORE Making Xmas♪”を読んで

　個人的なことだが、筆者も自身の著書が発売されるたびに300人規模の握手会とステージイベントを開催することが恒例になっていたので……このストーリーの遥の気持ちも、みのりの気持ちも痛いほどよくわかる!!!

　当時筆者は会社員だったので、いろいろな部署の手を借りてイベントを行っていたけど、それでも｢可能な限り来てくれた人に喜んでもらいたい｣ということで、全ページ書下ろしの手作りパンフを作ったり、缶バッジを1個1個（自分で）作ったりと、｢やれることは全部やろう！｣という気持ちで、担当編集と何日も徹夜して準備していたんだよなぁ……。

　このイベントストーリーを読みながら、当時のことが走馬灯のように脳裏を駆け巡ってしまった。ゆえに、モモジャンのイベントストーリーの中でも1、2を争うくらい大好きです（笑）。

　……と、本当に個人的な感想で終わってしまった。

• 書き下ろし楽曲：『ワールドワイドワンダー 』（作詞・作曲：TOKOTOKO）

キーストーリー：“Cast Spell on You”

あらすじ

　ステージ衣装にスポットを当てるという、アイドルであるモモジャンならではの非常に好感度の高い（？）物語が展開する。

　初めてのリアルイベントを成功させたモモジャンがつぎに挑むのは……新しい衣装の制作。それも、4人それぞれがデザイン案を考えてファン投票を実施し、選ばれたアイデアを有志のファンが手作りするというもの。

　4人の気合が入るのも当然の企画だった。しかし、着々とデザインを進めるみのり、遥、愛莉を後目に、ひとり雫だけが浮かない顔。案がまとまらず、ステージのセカイにいるミクたちのもとに相談に訪れる。

　バーチャル・シンガーたちの衣裳部屋に通された雫は、かつて自分が衣装から受けたポジティブな影響を思い出し、その気持ちを反映させたデザインを完成させるのである。

キーストーリー：“Cast Spell on You”を読んで

｢なんでもない私を、キラキラするようなアイドルへ変身させてくれる衣装だから……魔法使いさんなんです｣

　という、じつに雫らしい名台詞が聞けるのが、このイベントストーリーだ。その衣装をきっかけに雫は人気アイドルの階段を一気に駆け上ったので、大げさではなく、その衣装との出会いはターニングポイントのひとつだったのだろう。

　こういった“らしい”小道具をきっかけに人物描写を掘り下げていくのは、とてもモモジャンに合っていると思う。ともすればアイドルは、遠い世界の架空の人物……というくらい浮世離れした存在に思えてしまうものだが（まあ芸能人全般に言えるかもしれんけど）、“衣装”とか“動画配信”なんていう、一般的にも身近なアイテムを使って人となりが掘り起こされていくと、途端に親近感が湧いてくるものだ。

　なかでも雫は、見た目はアンタッチャブルな女神様然としているので、ここでらしさ全開の物語を見せられたのは、アイドルをモチーフにしているモモジャンにとって、ぴったりだと思った。

• 書き下ろし楽曲：『メタモリボン』（作詞：emon(Tes.)・Tudiken、作曲：emon(Tes.)）

後編では“つなぐPainful Hope”から“STEP by STEP！”までの感想をお届け

　モモジャンのキーストーリーを辿っていく後編の記事では、“つなぐPainful Hope”から“STEP by STEP！”までの感想をお届けしていく。